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「――――さあ、占いを始めるよ」

深緑の眼が、私を見つめる――――


NOZOMI
作:蓮千里


キャラ紹介

大塚 おおつか ゆう♂:16 占い師 羊ヶ丘学園高等部 1−2 愛用カードの名は希望

五十嵐 いがらし ゆう♂:16 勇のルームメート 羊ヶ丘学園高等部 1−2

畑 希望はたけ のぞみ ♀:10(死亡)勇と優の幼馴染だった 趣味はタロットカード占いだったが……







       






「じゃ、この中の1枚引いてみなよ。それが君の運命だから」

漆黒の長髪を右の方で編んだ少女が、トランプより少し大きめのカードを扇状に開いて言った。

「えっ……えっと」

相手の少女は右手を左右に動かす。

かなり迷っているようだ。

自分の好きなものを目の前にして、どれにしようか迷っている……そんな感じに。



ここは羊ヶ丘学園高等部・1−2。

現在時刻はPM4:35。

普通なら下校しているか、部活しているかの時間だ。

なのに、教室には少女2人が残っていた。どうやら占いをしているらしい。

扇状にカードを持った少女が、静かに発言する。

「迷ってるとNOZOMIが怒るから、ピンと来たのにしな」

少女の深緑の眼差しに吸い寄せられるように、相手はカードに手を伸ばす。

そして、ゆっくりと1枚をひく。

目の前の少女と同じ、深緑のカードを。

「絵柄、見てみなよ」

少女の言うとおりに、相手はカードをひっくり返す。

同時に、小さく息を漏らしカードを持つ手が震えてしまう。

「し、死神―――」

カードに書かれた絵柄は、誰が何と言おうと死神そのものだった。

不気味な残骨が鎌を持つ絵柄。『DEATH』(死神)の文字。

死神の他に何に見えるというのか。

「よく見てみなって。『DEATH』の文字、逆さでしょ?それは、逆位置の死神のカード」

少女は、他のカードをひとつにまとめて、深緑の巾着にカードを入れると、

「死神がでたから、何が何でも悪いってわけじゃない」

そう言いつつ、死神のカードを自分で持った。

「確かに死神は、その名の通り『死』の暗示。他にも、凶兆や別離って意味がある。
でもそれは、『正位置』で出た場合」

相手の少女に絵柄を見せながら、解釈リーディングは続く。

「『逆位置』での死神が意味する言葉は、『破壊からの再生』が総合的。

確か君は、『元カレと寄りを戻したい』って言ってたよね。

NOZOMIは、『新しい出会いを探した方がいい』という結論を出した。それが、最善策だと」

少女は死神のカードを先ほどの巾着に入れながら、相手を見て最終結論を出す。

「元カレのことは忘れて、新しい人見つけなよ。NOZOMIの助言は信じて大丈夫だから」

深緑の眼が柔和に笑う。

「男なんて、この世に沢山いるんだ。ひとりにこだわってたら、君は幸せになれない。それとも、幸せになりたくないの?」

少女の笑顔を見、言葉を聞いてしまうと、肩の荷が下されたように感じられる。

そして、納得できてしまうから不思議だ。



「――NOZOMIは間違わない……少なくとも俺はそう信じてる」

深緑の眼に見つめられると、とても暖かい。自然と笑えるし、前向きに考えられる。

「あ、ありがとうございました!」

元気よく相手が笑顔を返す。

そんな少女に右手を差し出して

「じゃ、幸運を瀬名サン」

2人は握手をした。

少女――――瀬名泉が顔を赤らめたことに、『少年』は気付いたのだろうか。

 

「ゆーうーちゃーん?なに、軽々しく女の子の手を握ってるの?」

「あのな。俺は瀬名サンに念を送る為に握手したんだよっ!大体なんで、お前がここにいるんだ?優」

とてつもなくウザッタそうに睨みつける勇ちゃん。ではなく、大塚勇おおつか ゆう

れっきとした男であり、少女―――瀬名泉の占いをしていた張本人。

そんな彼の背後から元気に登場してくれたのは、腐れ縁であり幼馴染の五十嵐優いがらし ゆう

黒髪に茶色い眼をしていて、鈴つきのゴムで長めの髪をひとつに縛っている。

この彼が、羊ヶ丘学園高等部の生徒会長であるのだから、世の中は不思議である。



「それが生徒会の仕事を早く終わらせてきてあげた、頼りがいのある幼馴染に対して言う台詞?」

にやっとしながら、優が勇に近づいていく。

その度にチリンチリン……と音が鳴る鈴つきゴム。勇の表情が一気に険しくなった。

近づかれれば、勇は後退。

食いつかず、確実に後退していく。しんとした教室に響く鈴の音……

いつも通り、勇の黒い眼が怯え始める。

まるで猛獣を前にした子供のように、震え始め、目の焦点も合わなくなっていく。

叫びたい衝動を押さえ込むかのように、勇は必死で後退する。

両手が小刻みに動く。

どうやら、手を耳に持っていきたいらしい。

鈴の音を、耳に入れないために。

 





アノトキノ

ジョウケイヲ

メノマエニ

 





ウツサナイタメニ――――

 

 




勇が必死にもがいている状態を見ている優。

彼は勇の耳元に顔を近づけ――――

「ここにアイツは、いないよ?勇」

小さく呟き、勇から離れると

「自分が瀬名さんの彼氏になろうとしてたくせに」

笑いながら勇に言った。さっきの様子と180度違う。

優の態度に、しばし放心していた勇だが、彼につられるように笑い、小さく軽い舌打ちをする。

もう、先ほどの勇ではない。

完全に大塚勇に戻っていた。占い師でもない、大塚勇という普通の学生に……。

そんななか、2人の様子をいつ部始終見ていた瀬名は、ゆでだこのように赤くなっていた。

「か、彼氏?!おっ大塚せんぱっ……彼氏になってくれるんですか?!」

眼をぐるぐる回しながら意気込むと

「いや、冗談」

「コイツは俺のだし」

勇と優は同時に言い返す。

遊ばれたというのに瀬名は怒らない。

それを見た2人は『さよなら』といって1−2を後にする。

今の彼女の頭の中は、話せた!という幸福感でいっぱいなのだ。

何も聞こえはしない。



2人が帰ってから10分後。

「―――――あれ?そういえば、大塚先輩の眼……さっき、緑色、だった……??」


****

「――――で?ホントの目的は?優」

「ん?お前が辛そうに見えたから」

部屋に入るなり、勇が問い、それに対して答える優。

沈黙が部屋の中に漂った。



羊ヶ丘学園は、名門校で全寮制。

初等部から、大学部まである大きな学園。

普通は学年が上がったり、初等部から中等部に上がったりすると、

ルームメートは変わるものなんだが……わけあってこの2人は初等部4年からかわらない。

だから冗談とか平気で言える仲なのだが……今の勇にとって優の行為は怒らせる要因。

「―――――余計なお世話だ」

絞りだすように勇は言う。



チリン……



「どうだか。さっきの娘にでたタロットカードは『死神』だろ?」

それを平然と受け止めて、紺色のブレザーを脱ぎ捨てる優。



チリン……チリン……



優が動く度に鳴る鈴の音。

今の勇にとっては、心地よい鈴の音は雑音としかとれない、とることができない。

「タロットカードじゃない、『NOZOMI』だ……『希望のぞみ』だよ!!」

叫ぶように言わないと、勇は自分自身を保つことが出来なかった。

一筋の涙が、頬を伝う。

夕日が涙を照らすと、まるで血が流れているように見えた。



チリン……



優が、泣いている勇を抱きしめる。

かすかに、痙攣しているのが優には伝わる。いやでも伝わってくる。

 

 

 

『恐怖』

 

 

 

勇は完全に恐怖に飲み込まれていた。優には、それを抱きしめてやることしか出来ない。


「ごめん……悪乗り、しすぎたな」

言いながら、優はルームメートを強く抱く。

知っていたのだ。ただ、確かめたかっただけ。

まだ、勇もトラウマから解かれていないことを、自分の眼で再度確かめたかったのだ。



勇の黒い眼から涙が落ちていく。

『―――やっぱり、占いの時だけなんだな、希望……』

勇を抱く彼もまた、トラウマから解かれたわけではない。

勇の持つ、深緑のカードと彼が占っている時の眼は……苦手だった。





―――思い出してしまうから……



鮮血の中で動かない、少女の姿を――――



いやでも、思い出してしまう……





畑希望はたけ のぞみの最期の姿を―――

 

 

 








「――――占い、始めようか」

あまりにも突然のことだった。優は、びくっとすると恐る恐る勇の眼を見る。

聞いた事のある口癖。

もう、聴けるはずのない少女の口癖が、聞こえた。

幻聴ではなく。

大塚勇の眼の色は、やはり黒から深緑と変わっていた。

「の、ぞみ……?希望?NOZOMI?!」

連呼する優の声に反応した眼の色は……紛れもなく、畑希望の眼の色―――

「相変わらずだね、優。私と勇が入れ替わるのは、もう何度も見ているのに」

「こんなのに、慣れるはず……ねえだろっ」

笑う勇……というより、勇の姿をした希望の言葉に、吠える優。

彼の頬に手が触れる。

「………泣くほど、辛いの?優」

希望の言葉に無言で返す優。

これは、YESに当たることを希望は知っていた。

 

****

優の腕の中から離れ、自分の名前のついた深緑のカードを手にして床に置く。

「―――さっきは省いたけど、やったほうが、やっぱり落ち着くかな」

カードを時計回りに何度か回すと手を止め、ひとつのデッキを作る。

それを三つに分け、またひとつに戻す。この作業を優にもやらせた。

「占いたいこと、念じながらだよ?」

言われなくとも分かっている。彼は、何度かやっているのだから……

優は無言で、希望の隣に移動する。昔のことなのに、身体は覚えていた。何をすればいいのかを。

「左手を置いて……占いたいことを強く念じて――――」

2人の手が重なること、数十秒。

希望は手を離し、カードを勢いよくスライドさせ

「―――さあ、運命のカードを引きあてな」

深緑の眼が、優を促してカードをひかせた――――



チリン……



小さく、鈴を鳴らしながら……


****

「……で?優。何のカードがでたんだ?てか、占い内容はなんだよ」

今までもそうだったが、どうやら勇が希望と魂が入れ替わった時の記憶はないようだ。

だから、俺だけが希望に会い、話していることになる。

「秘密」

日もとっくに落ちて、学食から帰ってきた俺達が部屋に入ったのは10時。

学食ついでに、風呂も入ってきたから遅くなったんだ。

「はあ?」

この時の勇の間抜け顔を見たら、女子学生だけでなく男子生徒もひくだろう、と俺は確信した。

「秘密だ、秘密。いちいち教えてやんねーよ」

意地悪く舌をだして、さっさと布団に入る俺。

「おい優ってば!」

「『ゆう』はお前もだろ?おやすみ」

そう言って、俺は本当に眠りに落ちていく。



****

―――――誰が教えてやるもんか。あの時の、結果を……





「『STRENGTH』(ストロングス)力の正位置」



―――――希望は笑いかけながら俺に言った。



「大体何を占ったか、わかるってもんだね。このカードは『勇気』の象徴。どんな困難でも立ち向かっていける証拠」



―――――カードを手に持ち、しまいながら希望は続ける。

「きっと、2人とも解放される日が来るよ。

このカードの絵柄にある女性は、肉体的な力でライオンを制してはいない。
精神的な力で制しているの。

力『STRENGTH』のカードは、不屈の精神による障害を『克服』とか『忍耐』によって得る『勝利』を表してる。

どんなことにもひるまず、立ち向かえる信念、自信……それらを持ち合わせているとカードは言ってるわ。

信じる心が奇跡を呼ぶの」



深緑の眼で希望が俺を見つめる。

「大丈夫……カードを、私を……貴方自身を信じて。

カードの女性の頭上に浮かぶ『∞』は、信じる者のところに降りてくるから――――」







―――――俺が占ったことは、『俺と優がトラウマから解放されるか』ということ。

気休めかもしれない。

希望がわざわざ出してくれたのかもしれない。

あいつなら、そんなこと造作もないことだから。





でも



あいつは、希望のぞみという占い師。



そして俺達にとって、大切な『希望』(きぼう)だ……



不確定な、希望きぼう



だから、勇にいえるときは、不確定が確定と変わった時。





それまで、俺は言わない。





チリン……





鈴の音が静かな部屋に響き渡る。

でも、俺も勇も聞こえない……








END


こんにちは。
占い好きなRueがお送りするNOZOMI(短編版)はいかがでしょうか。
本来、連載ものなんですが、こんな形で皆様にお届けしてみました。
占い方やリーディングにも種類が多く、私の説明じゃ納得いかない方もいるでしょうが、ご了承ください。


では、またお会いできるのを祈りつつ……

                     Rue













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