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第十二話 セフィラ達
「で・・君は頭部を破壊された上に、ダアト追跡を諦めて逃げ帰ってきたワケだ」

暗い部屋の中、ひんやりとした声で傅く首なしゲブラーにゼーレは言った。

装飾の凝った肘掛け椅子に深々と座り、中性的な声で喋っている。

顔にはセフィロトの樹の図が彫られている白い仮面を被っているため、素顔は分からないが体つき、声、伸長から判断するとまだ少年か少女である。

感情を持っている者なら、ゼーレの口調にはハッキリと失望を感じただろうがゲブラーは(というか人工頭脳は)感情を持ち合わせていないため、ゲブラーは空気を読まずに言い返した。

「この状態でダアト追跡を行っても、目立ち、逃げられると判断しまシタ」

「言い訳は聞きたく無いね。それより・・・生命エネルギー採取のほうはもちろん成果があったのだろうね?ゲブラー?」

「もちろんデス」

ゲブラーは腕から、中程度の装置を取り出す。ヒートのエネルギーを吸収した赤い球体がついていた場所から出てきたその装置をゼーレはゲブラーに近寄って受け取る。

ゼーレがその装置を空けると、中には液体が入っていた。

赤く透明な生命の水。

「なるほどかなり大量に接種してきたね。じゃ今回の失敗も水に流して上げるよ」

「有難うゴザイマス」

「そうだ。せっかく君が帰ってきたんだ。予定を変更してセフィラ達を集めて会議を開こうかな。他のセフィラ達に伝えておいてね」

ゼーレはそう言うと今の部屋とは違う大きな部屋に入っていった。

その部屋の床には生命(セフィロト)の樹の図が描かれており、テーブルと椅子がが各セフィラの絵に対応するように置かれていた。

しばらくゼーレは上座に座っていると、ポケモン達が続々と部屋に入って来た。

いや正確に言うとポケモンの姿をした者達が、と言った方がいいだろう。

皆が座っていくのを見て、ゼーレがぼやく。

「あれ、マルクトがいないね」

「マルクトは今用事でいないです。ボク達のメッセージも無視しているです。ゼーレは怒っているのです?」

語尾にやたら「です」をつけているのは、ブイゼル、の姿をしている者だった。

「大丈夫だよ、イェソド」
 
イェソドと呼ばれたブイゼル型端末は椅子にチョコンと座った。

「マルクトは我々セフィラの中で数少ない本物のポケモンですわ。彼がいないと会議にならないのではないのですか?」

「ティファレト、大丈夫。会議の内容はこっちから伝えておくからね」

ティファレトという名らしいサーナイトはゼーレの答えに軽く頷くと、椅子に座る。

「ゼーレ様、コクマーただいま参りました」

堅苦しく挨拶をして部屋に入ってきたのは、コクマーと名乗ったヨルノズクだった。

「ゼーレ様、(わたくし)の担当していたポケモン達の生命エネルギーを採取して参りました」

コクマーの腹から、小さな容器がせせり出てくる。

ゼーレが命の水の入った容器を受け取ったのを見てコクマーが椅子に座る(と、いうか椅子の背もたれに止まる)

「ビナー、遅れちゃったぁ」

幼い子供の声を真似た合成音でしゃべるのはメタモンである。

どうやらビナーという名らしい。

「ホド、ただいま参りましたぞ。我が(あるじ)。ネツァクも居ります」

自らホドと名乗ったエルレイドは、後ろにいるクチートを指差す。

「ネツァク・・・ゼーレのために・・・働く。指示を・・・」

「ネツァク、支持は後で出すよ」

ゼーレの言葉にホドとネツァクが椅子に座る。

そして扉を開け入って来たのは、一人の少年だった。薄茶色の髪、黒い眼。

どこにでもいるちょっとハンサムな少年だったが・・・一つだけ普通では無い点があった。

彼は一回も瞬きをしないのだ。

「ケセド、来たね。さあ、座って」

ゼーレの言葉に、ケセドと呼ばれた少年が無言で椅子に座る。

「さてと・・・後来ていないのはケテルか」

「ゼーレ、待たせたな。すまん、生命エネルギー採取に手間取っていた」

扉を入ってきたのは・・・なんとミュウツーだった。

どうやらポケモン型端末では無いらしく、普通の生きたポケモンのようだ。

ミュウツーのケテルは赤い命の水が入ったビンをゼーレの前の机に置くと、自分の席についた。

「さて・・・これで会議に来れないマルクトを除いてセフィラメンバーが全員集まったワケだ」

ゼーレがリモコンを取り出し、ボタンを押す。

すると、巨大なスクリーンがゼーレの背後に現れた。

「今後、僕達【ガーデン・オブ・エデン】の今後の展開だけど、ダアト追跡は一旦中止にしてポケモン達の生命エネルギーを集めることに集中しようと思う」

「その意味は」

ケセドが人間味がまったく無い表情で質問を投げかける。

「データによればダアトことI―20を凍結から開放したのは赤いバンダナを巻いたピカチュウとゼニガメだ。彼らの発言を記録した音声データによれば、彼らは・・特にあのピカチュウは正義感が非常に強い。各地でポケモンが同じ手口で襲われているという事件が頻発すれば必ず首を突っ込んでくる」

「私たちが生命エネルギーの大量確保をしているだけで彼らのほうからダアトを連れて私達の方に向かって来てくれるというワケか」

ケテルが腕を組んで、ゼーレを見る。

「そういうこと。あ、彼らを見かけたら必ず接触してね」

「何故・・・彼らが・・・ダアトを開放出来た・・・のに・・ゼーレは・・・凍結を・・・解除できなかった?」

ネツァクの問いにゼーレは急に真剣な顔になって答える。

「僕を・・【ガーデン・オブ・エデン】を裏切った人がいてね。この計画のシステムの根幹を握るダアトを持ち去って逃亡したんだ。その後行方不明になっていたんだけど、やっとあの研究所にダアトを凍結したことを知って向かったら・・・ダアトが凍結を解除された後だったんだ。一足先に何も知らない彼らがダアトを持ち去ってしまったんだ」

「奇妙な点がある。ダアトが凍結を解除された後一週間の間あの研究所に止まっていた理由が見当たらない。ダアトはいつでもインターネットに逃亡できたはず」

ケセドが無表情に言う。

「これは推測だけど、ダアトの記憶領域は強固にロックされていた。だからダアトは【ガーデン・オブ・エデン】の目的も思い出せないし、自分が何故開発されたのかも分かっていない。だから、あのポケモン達と接触し続けた。彼らと一緒に旅にも出たのは単なるダアト自身の興味だろうね。もし自身の正体を思い出していれば、彼らとの接触は止めにしていたはずだ。彼らにも被害が及ぶからね」

「了解した」

ケセドの言葉にゼーレが頷く。

「ではこれで会議終了。さて・・・頼むよ、セフィラメンバー」

ゼーレは辺りを見回す。

「第一のセフィラ、ミュウツーのケテル(王冠)

第二のセフィラ、ヨルノズク型端末のコクマー(知恵)

第三のセフィラ、メタモン型端末のビナー(理解)

第四のセフィラ、人間型端末のケセド(慈悲)

第五のセフィラ、ストライク型端末のゲブラー(峻厳)

第六のセフィラ、サーナイト型端末のティファレト(美)

第七のセフィラ、クチート型端末のネツァク(勝利)

第八のセフィラ、エルレイド型端末のホド(栄光)

第九のセフィラ、ブイゼル型端末のイェソド(基礎)

そして今はいないマルクト(王国)と隠された(エクストラ)セフィラ、ダアト(知識)・・・さあ、【ガーデン・オブ・エデン】のために、理想の実現と永遠の栄光を!」

ゼーレが赤い命の水が入ったグラスを掲げる。

グラスの赤い水は、光を受け怪しい輝きを放っていた―





















セフィロトの樹の図形が分からない方は、ウィキペディアをご覧ください。

またケテル(Kether、王冠の意)

  コクマー(Cochma、知恵の意)

  ビナー(Binah、理解の意)

  ケセド(Chesed、慈悲の意)

  ゲブラー(Geburah、峻厳の意)
  
  ティファレト(Tiphereth、美の意)
  
  ネツァク(Netzach、勝利の意)
  
  ホド(Hod、栄光の意)

  イェソド(Iesod、基礎の意)

  マルクト(Malchut、王国の意)

  ダアト(Daath、知識の意)

はセフィロトの樹を形成するセフィラ(神性が反映したもの)です。

ダアトだけは他のセフィラとは次元が異なり、隠されたセフィラです。

【ガーデン・オブ・エデン】はお分かりかと思いますが、旧約聖書からアイデアをもらいました。


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