動かない星
幼いころ学校から帰ると、よく母と病院へ通っていた。学校が午前放課なら弁当持参で、ほぼ毎日のように闘病している祖母を見舞っていたのだ。祖母は入退院を繰り返していて、父を残して母・兄弟と共に引っ越してからの二年間、ずっとその生活は続いた。
病院から家に帰るのはいつも日が沈んでからだった。
店や住宅が立ち並んでいた引っ越し前とは全く異なり、車から見える風景は闇に沈んだ山や田ばかり。行き交う車も少ない。時々ぽつぽつとまばらにある家屋や電柱の明かりが、寂しく遠く広がる田の向こうに見えた。
空はいつも満天の星を輝かせる。
そんななか、星よりも一段と強く光り輝く星があった。低く、手をのばせば届きそうな動かない星。幼かった私はその不思議なホシに魅了され、いつも見えなくなるまで窓にへばりつき目で追っていた。
祖母が他界すると、ホシを見ることはなくなった。夜に車で出掛けることもほとんどなく、進学も別の土地だった。
それでも今思えば、昼間に幾度かホシの前を通ることはあった。夜とは違い光が目立たなかったのもある。だが何より私は、いつの間にかあのホシの存在を忘れていたのだろう。
その正体が何だったのか、わからないままに……。
気がつくと祖母がこの世を去って十年は経っていた。
テレビで連日流れる画面のむこうに、よく知る見覚えのあるものを見つけた。
一定のリズムで永遠と光り続けているもの。
それはまさしく、幼いころ私が心魅かれた、あのホシだった。
(あのホシは、原発の電波塔の明かりだったんだ……)
もっと、遠いと思っていた。
通い慣れていた道から見えるほどに、近くにあるとは思っていなかった。
――きれいだな
遠い記憶のなかの私は、ホシに釘付けになりながら思っていた。
けれど今は、少しもそう思えない。
人も店も減り、日々荒廃が進んでいくこの土地。一体あのホシは、いつまでそんなこの土地に居座り続けるのだろう。
どんなに離れようときっとここには、離れていったたくさんの人の思いも残り続けていく。それは生きていても、いなくても。
もちろん、私の祖母の思いも……。
美しい古里が失われないように、ただただあのホシが離れていくのを願うばかりだ。