修行編 第67話 スコータイへ その4(93)
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「俺が、この国にいる間に・・・・日本ではそんなものが始まっていたなんて!」
健一はひとりで唸る横で、李の話は続く。
「私と、小初さんは昨年始めて出場しまして、私は4位、小初さんは5位でした。5位以内はシード権が与えられていて翌年は予選なしで出る事が出来るのです」
健一は感心しきった表情で、「お2人とも凄いじゃないですか!上位5位以内に入れるなんて。私ももし日本に帰る事になったら一度出てみようかな。でも御二人に負けてしまうような・・・。では、今年は優勝を狙われますね」
健一の何気ない質問に李は一瞬言葉を詰まらせた。
「代わりに私が説明しましょう。3位より上は、ある女性のグループが占めているのですよ」髪を手で後ろに直しながら、小初がさらりと言った。「女性グループ?」「そうなんです。女性グループは、自分たちのテーマカラーがあるらしく、その色の服を着て登場。グリーンとかオレンジの服を着て現れるんです。
その親分格はピンクの奴で、いつも高笑いをしながらマイクで好き勝手放題。でもきっちり優勝するんですよ」
「小初さんの言うとおり!私は一度連中らの一角に食込みたいんですよ。一応プロで料理人をやっているので」途中から李は、太い眉を寄せて険しい表情になるのだった。
「そうなんですね。いろいろなひとがいるんだなあ。で、小初さんはどこの国の料理を作られるのですか?李さんは中国料理と言うのはわかるのですが」
小初は、聞こえるか聞こえないかわからないような小声で「ククククッ」と笑いながら、
「料理に国境があるとでも?愚かな。
僕はそんな人類が勝手に作ったボーダーなど興味ない。その時その瞬間に頭にひらめいたもの心に感じたものを作るだけ。それがアーティストだ。もちろん、アジア地域というのは意識するがね」
低い声で、ゆっくりと語る小初の独特の世界観に、健一は、自分の理解の範囲を大きく超えている事に気づくことにそれほど時間を要することはなかった。
「ああっいや、そうですか。私はこの国で働いているので応援は出来ませんけど、お二方とも頑張ってください」と言うのにとどめるのだった。
帰り際、李実男たちが出場するという、アジア料理コンテストの事が気になった。
「そういえば、和本さんが昔そんな事を言っていたような気がするなあ。アジア食文化協会(AFCA)の主催かも。
野崎たちのタイ料理研究会(TFRA)は、関わっているのだろうか?彼らとは連絡を取っていないけど、今頃どうしているんだろうかなあ。しかし、女性グループはどんな料理を出すんだろう。タイ料理かな?そうだったらTFRAのメンバー?いやひょっとするとシーダマン一門??」
健一は一人で勝手な想像を膨らませるのだった。
やがて、タイの正月の時期が近づいてきた。タイ人スタッフや生徒さんたちの多くは里帰りをするので、この間料理学校は1週間休校。健一は、昼間は博物館や図書館で、趣味の研究に没頭し、夜は居酒屋源次に通う日々が続いていた。
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