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修行編 第30話 本格修行開始 その2(57)


「いや、たとえ話ですが、日本では明治の始めにSLが走りましたが、当初はイギリスなどの
外国製ばかりで、全て外国人が運転しながら保守をして、決して日本人にはそれらの技術を教えなかったそうです。
しかし、どうしてもその技術を知りたかった日本人は、こっそり見ながら覚えたらしい。
ああ、もちろん私は書物を見ての話ですから、自分で見たわけではありませんので、
真実かどうかはわかりませんが?」

大林が自分で言いいながら、途中から本当に正しかったのか?
不安になっているのとは反対に、健一にとっては、ヒントを与えるものになった。
「横で見て盗むか・・・気づかなかった!」健一は、何かを思いついた表情で、
「大林さん。そのアイデア貰いました!」大声で叫ぶと、いきなり握手をするのだった。

「いえいえ、そんな私そんなやめてください」怖がりながら必死で手を振りほどく大林。
健一はそんな事を気にせず、「ありがとうございます。早速やってみます。
あっそうだ!バンコクに行かれたら、居酒屋源次に行ってきてください。
大畑の紹介と言えば、わかると思います。良い店なので!」

「あっありがとうございます。それは、ぜひ行かして貰います」
と言いながら何度も頭を下げ続ける大林であった。

「サイアムプラスでもやればよかったんだ...
 こんな簡単なことに気づかないなんて...」
過去のミスを悔いながらも、大林からの提案を健一は、早速実践に入った。
この日以降、チェンマイで気になる食堂に入ると、
出来るだけ厨房が見える席に座り、ひそかに料理人の手つきなどをチェックし始めた。

ノンカーイの鍋屋やディナの屋台では、どうしても同じことの繰り返しになりがちだけに、
今まで、食堂ではほとんど意識しなかったことを少しだけ意識するだけでも、
ずいぶんと勉強になるのだった。
その上、いつも料理を作っているだけに、あたかも自分がそこで作業をしているような
シュミレーションも頭の中で行う事が出来たので、
根拠が無いものの、新鮮味と希望を感じるのだった。

大林と再会してから2週間が経過した9月。
業務の関係で、一旦バンコクに戻る事になった中堀幸治は、
健一との約束を果たすため、居酒屋源次に立ち寄った。

店内には、城山源次郎をはじめ、オーケン土山、天田弘久、国沢紀晶に加えて、
ちょうど日本帰国前に健一の写真を預けに来ていた吉野一也の姿もあった。
「一人です。どうもすんまへん。青木さんやのうて」
「ああ!珍しいや一人で来られるとは。オーケンと同じ匂いの中堀さん」
「何で僕と?」源次郎の指摘に不思議がるオーケン。

「いや、実はあんたに伝えたい事があってな、健一君おるやろ。
 彼、今チェンマイにいてるで」
「何!健一君チェンマイにいるの?」店内にいた一同が驚きの声を上げる。
「そうや、実はノンカーイに行った時に、鍋屋で働いてる彼と偶然にあってな。
話をしてチェンマイに誘ったんや」

「あっ私もノンカーイで彼と会いました。
悩んでおられましたが、あの後チェンマイに言ったんですね」吉野が話しに入ってくる。
「バンコク程や無いけどな、ノンカーイで鍋屋手伝うよりもチェンマイのほうが、
それなりのレストランがある思ってな。
とりあえず取引のある日本料理のお店に入ってもらったんや。
国は違うけど、彼の修行にはええやろうと思って」

「いや、中堀さん。話はわかりましたが、バンコクで彼が受けた仕打ちの事は
ご存知ですよね」天田も口を挟んできた。
「ああ、当然や。あれほんまひどかったようやなあ。あんなんわいもやられたら、
よう一年我慢できませんわ。
もちろん、今度はチェンマイの日本人会も動いとるし、健一君には、
ビザの問題もあるから今日本料理の研修をしてもらってるんや。
そのあたりが理解できる店を見つけて、彼に紹介する前に、
わいがこの目でチェックするさかいな」

「プハー。良かった。これで安心ですわ。健一君ほんま『凄い!』子や」
ビールを飲み干しながらご機嫌なオーケン。
「いや、でも料理学校どうなんでしょうね」隙を突いて細々としゃべる国沢。
「料理学校?それ聞いて無いけど、なんの話や?」
「い、いやああ、確か資格を取るとか言ってたんですけど」
中堀のバリバリの関西弁での高圧的に感じる質問に萎縮し、さらに小声になる国沢。
「ああ、そうだ思い出したよ。ここから旅立つ時に一切その話しなかったから、
ひょっとするとそこで何かあったんじゃないかな」
腕を組みながら考え込む源次郎。

あの〜すみません。先ほどから話題になっている健一君と言うのは、
大畑健一さんの事でしょうか?」
突然の声に、全員が一斉に、カウンターの一番右奥に視線を送った。


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