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修行編 第22話 地方に放浪 その6(49)


健一が表情変えずに聞いている横で、中堀は話を続ける。「で、社長からの指示でバンコク以外にも事務所を作る事になってな、結局“チェンマイ”という北の町に作る事になったんやけど、その前にタイの各地をいっぺん回ってみることにしたんや。
南の“ハート・ヤイ”やカンボジア国境、あと“ウボン”いう東の方にも行ったり、あっそうそうミャンマー国境も行ったなあ。
それで最後がこのラオス国境のノンカーイや。明後日までここにおってそのままチェンマイに行く予定や」

健一は少しうらやましそうに、「部長いいですね!僕はバンコクとこのノンカーイしか行った事がないので、少しうらやましいです」
すると中堀はちょっとムッとした表情になり「だから仕事やいうてるやろ!それよりも、大畑君はずーとここにおるつもりかいな?」この先の事を何も考えていなかった健一は、少し慌てながら、「ええ、とりあえずはいるのですが、いずれは日本でタイ料理レストランを始めようと言う“夢 ”があるので、今は修行中です。
すると中堀は「どうせやったらチェンマイにこいや。わいもほとんど1人で事務所立ち上げるのはちょっと不安やから大畑君なんかがいると助かるんや」
中堀の提案に健一は首を横に振りながら、「それは、青木貿易に入れと言う事ですか?それはできません。日本で、青木社長にタイ料理店を開く事を約束しましたので」

しかし、中堀は真顔のまま「別に入社してくれというてるわけででは無くて、ちょっとだけ手伝ってくれるだけでええんや。
それにここで鍋屋の手伝いしても進歩せんで。
それにこんな仕事してるの表にでたら、おおごとやねんで。
嘘や思ったら一回あんたの持ってるビザ見たらええわ。
タイ人でもできる仕事のビザなんか出ないから、バレタらこの国から追放されるで」
中堀の過激な言動に、一瞬心臓の鼓動が高まる健一であった。
「それにチェンマイに行った方が、タイ料理の修行にはええのんとちゃいますやろうか?」

中堀の説得に、健一はしばらく何も言えなかったが、しばらくして「でも、チェンマイの町には行った事もないし、僕のような日本人がバンコクの時のように相手にされるかどうかも…。」
心配する健一に、少し笑顔を見せた中堀が「いやそれは心配ないんや。実はな、今度のチェンマイ事務所作る理由やけど、タイの食材を日本に送るんやなくて、チェンマイの日本食レストランに、日本の食材を送るために作るんや。

今までとは逆の発想や。これからはバンコクだけや無くて、タイ各地に日本食レストランが増えるのは間違いないと思っとるんや、実際チェンマイなんかは日本料理店が、少しずつ増えてきてんねや。
で今回、現地の日本人会の人達とも手を組んでいろいろやろうと思ってるんや。
そこでな、健一君が堂々と夢をかなえることが出来るように、この中堀が絶対、大畑君の仕事探したる」一瞬、健一にはここで中堀とであること自体、“運命”だと思った。
「部長、良く分かりました。ただ数日待って下さい。このお店の人やここでお世話になっている方にも話をしないと」

中堀もうなずき「それはそうやな、まあゆっくり考えたらええ、わいは先にチェンマイで待ってるからな、これを持って来たらええ」と1枚の名刺を健一に渡した。

中堀の名刺にはチェンマイ事務所の住所が英語で記されていた。健一は名刺を受け取ると頭を下げ、「ありがとうございます。部長とここで出会えたのが、何かの縁だと思います」

この日の営業終了後、健一は自分のビザを確認すると“通訳”となっていた。
「これでは、バレルと大変なことになっていた。よく今までばれずに済んだもんだなあ」
その時、健一はなぜ店の人が、営業中タイ語を使うように言うのか理解できた。
「そうか、僕が日本人だとわかるとややこしくなるからだったんだ」
だが健一は、この後頭を抱えながら悩み始めた。「ここでの生活は楽しいし、離れたくない。
でもビザの問題があるし、あんなタイミングで中堀部長と会えるなんて普通はありえないし、チェンマイの町も一度覗いて見たい。
でも、田中さんや、日本人とわかってて、良くして下さっている店の人にはどう言えばいいのだろう。教えてくれ千恵子!」

健一は、仕事が終わった後、深夜のメコン川を見つめながら、千恵子が夢に出てきて、結論を出してもらえる事を期待するのだった。


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