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修行編 第17話 地方に放浪 その1(44)


早朝、本松親子から元気を貰い、いつも以上に足取り軽くサイアムプラスに出勤した大畑健一であったが、待っているのはやはり、ゴミの収集作業であった。

慣れているので、しばらくは黙々と作業を続けていたが、お昼前に隣の部屋で、新人たちの
小さな会話が聞こえたのが気になり、健一は耳を立てて聞くのだった。

「あの日本人しぶといねえ。マネージャが、『辞めてくれない』といって嘆いていたよ」

「本当だね。あいついい年こいて、いつまであんな事やってんだろう。あの国の連中は、皆金持ちなんだろ。何を思ったのか?変なやつだね」
「マネージャーの話では、あいつ本気で料理人を目指しているらしいと聞いたけど、本当にバカだよね。
ここがシーダマン大師一門プロデュースの店だという事も知らずに」

「そうだよな、そこらの屋台ならともかく、ここはタイ料理界の神様の息の掛かった正統なタイ料理店。
それなのに本気で外国人なんかに料理を任せるとでも思っているんだろうか?」

「いや、これもマネージャーからの話だけど、店長が日本の東京にいるウドムさんから『雑用でも何でもいいからとにかくしばらく使ってくれ』と言われて、店長が昔ウドムさんにお世話になったから、仕方なしに適当に使っているだけに過ぎないんだと。

でもまさか一年も居座るとは思っていなかったらしく、店長も時たまマネージャーに愚痴をこぼすらしいよ」

健一は、新人2人の会話を聞くと、怒りを通り越し、思わず我が耳を疑った。
「ウドム・・・.あの下松ウドムのことか!」この時健一は、はじめて下松ファミリーにめられた事に気づくのだった。
「あっ!和伸だ。あの男自分が遊んでばかりいるのに、相手にされないと思うと権力を使って僕を追い出したんだ・・・。まあ、あそこは下松ファミリーの個人会社だからなあ」

健一はなんともいえない脱力感を感じた。
「それにしても、シーダマン大師系の店は外国人を使わないとまで言ってたな。
まさか!サパトラ先生まで!
日本人なら金取れると思って僕を騙したんだ! クソ!この一年間何をやっていたんだ俺は!」心の中で叫びまくる健一。
「もう嫌だ!こんなところにいても仕方がない。すぐに辞めてしまおう」
そう決めたらいつものごとく健一の動きは早い。

そのまま職場を勝手に抜け出したかと思うと、急ぎ寮に戻り、一人コツコツタイ語で何かを書き記したかと思うと、荷物を全てまとめ、再びサイアムプラスへ。

堂々と入口から店内に入ると、健一の姿を見た、マネージャーが「お前、今までどこで遊んでたんだ!それからここには入るなと言っただろ、あっちへ行け!」と怒鳴り散らした。
しかし、健一は、無視すると、一枚のメモと寮の鍵を手渡し、
「これは日本的な辞め方です。ではさようなら」と冷静な口調ながらも、常にマネージャーを睨みつけながらタイ語で書いた辞表を渡すとそのまま店を出て行った。

健一のあんな強引な態度を、初めて見たマネージャーはしばらく呆然としたが、後ろで成り行きを見ていた新人を見つけると、「お前ら何してんだ!あの日本人いなくなった代わりにお前たちがゴミの収集もしろ!」と2人を怒鳴り散らすのだった。

健一はそのままとりあえず歩き始めた。「ちょっとやりすぎたかな。それよりこの後どうしよう。
昨日まで励ましてもらった、源さん達には顔向けできないし、このまま日本に帰るのも手だが、あの下松ファミリーに文句を言っても多分無駄だろうし・・・。
そうだ!せっかくだから旅に出よう!夢に出ていたあの川のほとりを目指す旅に!」


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