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修行編 第12話 逆境への挑戦むなしく その2(39)


「こんばんは、あっ大畑君!」「天田さん。僕の料理を食べていただき
ありがとうございます」健一は席を立って、深々と天田に頭を下げるのだった。

天田は、やや気まずそうに、左手を頭の上に置きながら、
「いや、あ!先日は失礼な事を言ってしまった様で申し訳なかったですね。
ちょうど私もバンコクに来て半年余り、日本で仕事をするのとは違って、
タイ人部下の働き方が日本とは勝手が違いすぎて、ストレスがずいぶん溜まっていた
時でした。
最初に君を見た時、てっきり日本から逃げてきたフラフラした若者と思い、
その時少し不快に感じていました。

先日、ここで内臓料理を頂いた時に、源さんから君の事を詳しく聞き、私の勘違いに気づき、お恥ずかしい限りです。

それから毎週君の作ってくれるタイ料理が楽しみで、実のところ会社の昼食は、
いつもタイ料理なのですが、余り美味しくなかったので、出来るだけ日本の料理をと、
ここに頻繁に来ているわけだったんです。
ですが、君の作った料理は本当に美味しく、タイ料理のイメージが変わりました。
その事に気づかせてくれた事にも礼を言います」
天田が静かに頭を下げると、今度は健一のほうが、気恥ずかしさの余り、ハンカチで額の汗をぬぐうそぶりをすると、
「いえいえ、僕のほうこそ、しばらくはここで愚痴ばかりこぼして何一つ前向きな行動を取らなかった事を恥ずかしく思っています。
あの時は荒れていましたので、天田さんに絡んでしまいました。申し訳ございませんでした」

「それじゃ、大畑君、仲直りと言う事で、ビールを1本私が奢るよ」というと直ぐにコップが2つ用意され、ビールが注がれた。
「では天田さん、いただきます。あっタバコの火つけさせてください」
健一が慌てて天田のタバコに火をつける」
天田は、嬉しそうにタバコを一吹かしすると、「今後ともお互い前向きに頑張れるようカンパーイ」
「いや、良かった2人が仲良くなって俺も2人のためにビール1本奢るよ」
そういいながら、源次郎も自分のコップを取り出すのだった。

この日以降、和解した健一と天田は、立場は違えど、同じバンコク在住の
居酒屋源次常連仲間として、店で顔を合わせると、
いろいろな事を語り合える仲になっていくのだった。
ちなみに天田弘久は、健一より年が10歳上で、日系企業の電気系の技術者で、
技師長として、この年の1月からバンコク駐在となっていた。

雨期もようやく終わった11月。この日も休日を利用して、健一は深夜からクロントゥーイの市場の中にある、スワンディの内臓料理屋台の仕込みを手伝っていた。
その仕込みが一息つき、後はお客さんを待つだけとなった時、スワンディが健一に声をかけてきた。
「大畑、料理教室で外国人も可能なところを見つけたよ」「本当ですか?スワンディさん!」
「私の屋台を良く使ってくださるお客さんから教えてもらったの。“サパーンクッキングスクール”という所で、タイの政府公認なので、ここで資格を取れば、必ずいいところが見つかるわよ」
「コープンクラップ(ありがとうございます)。で?場所はどこですか」
「パフラットの近くよ。これが住所」と言ってスワンディはネームカードを健一に渡した。
「あっ大畑、そこに行くことになってからでも、もし大変じゃなければこのまま手伝ってね。
やっぱり一人でも多くの人に仕込みを手伝ってもらえると楽だし、少しだけど今度はちゃんとお金払うからね」

この日の手伝いが終わった後、健一は早速“サパーンクッキングスクール”に向かった。
場所は、“パフラット”というインド人街の近くで、王宮エリアへも健一の好きなチャイナタウンへにも近い場所であった。
「サワディクラップ(こんにちは)」と言って建物の中に入った。
「お話は、伺っています。あなたが大畑さんですね」
と英語で出迎えてくれたのは、このクッキングスクールの料理のメイン講師サパトラ。
40歳代で、髪を方まで降ろしていて、ヘアバンドとエプロンがおそろいのきれいな身なりと上品なたたずまいをしていているところから、明らかな庶民階級のスワンディとは全く違う、中流以上の階級の出身者のようであった。


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