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警告
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
苦手な方はご注意ください。
作者:山羊ノ宮
傘が降って来た。
それは紛れもなく傘で、黄色の子供用の傘がその羽根を広げて、すとんと私の前に落ちてきた。
それが何処から来たのか、それは顔を上げればすぐに分かった。
目の前では乗用車が壁に突っ込んで、その頭がひしゃげている。
そして、壁と車の間から子供の足だけが見えていた。
救急車を呼ばなくてはならない、警察を呼ばなくてはならない、そんな思考は頭の隅から抜け出し、真っ白となっていた。
私が呆然と立ち尽くしたままでいると、車の中から運転手の男が下りてきた。
頭を振り、まるで生気の無い眼で事故現場を確かめようとしていた。
足取りはたどたどしい。
事故で足を怪我したのだろうか、それとも・・・
近くによれば、もしかしたら酒気がするのではないか、そんなことが頭によぎった。
男と目があった。
責められるべきはその男であり、私には何の罪はない。
ただその場を通りがかっただけなのだ。
けれど、そのうつろな眼を見ていると、まるで私の心を読んでいるように思えてならなかった。
逆に私の事を責めているような気分になる。
見たな、そう言いたげであった。
そして、私は恐ろしくなってその場から逃げだした。
男が追ってくる様子はなかった。
結局、私の被害妄想だけだったのかもしれない。
その場から逃げた。
それだけが事実だった。

数日が経った。
あの事故の詳細を私は知らない。
私はあの場から逃げ出したのだから当然である。
そんな私に出来る事はあの場所に花を供えるぐらいだった。
私がその場所に来た時にはもう既に多くの花が供えられていた。
学友のだろうか、絵が置いてあった。
きっとこの絵に描かれているのが、あの足の子だったのだろう。
あの状況であの子が助かる可能性は皆無だったのかもしれない。
私が何をしても無意味だったのかもしれない。
けれど、どんなに言い聞かせてみても私の中の後ろめたさは消える事はなかった。
そして、私は花を供え、手を合わせ、彼女の冥福を祈った。
ぽたりと冷たい感触が合わせた手の背を震わせた。
雨か。
私はカバンの中から折りたたみの青い傘を取り出し、差す。
そう言えばあの日も雨だった。
『傘』
ぞくりと背筋を這う。
声がした、そんな気がして振り返るも誰もいなかった。
精神がやられているのだろう。
あんなものを見たのだ。
当然と言えば・・・
『私の傘』
確かに声がした。
戦慄に体が硬直する。
ついで耳がおかしくなる。
聞こえるはずの近くの電車の音、車の音が聞こえない。
人の声も、まるで私の周りだけを世界から隔離したようだった。
(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、逃げ出してごめんなさい、許して、許してお願い、ごめんなさい)
祈るように許しを請う。
かすかに唇は動くが言葉になってはいない。
見えはしないが、何かが私の体を掴みよじ登っていく感覚があった。
何かでは無い。
きっと彼女。
持っている傘が揺れた。
何かを確認するように縦横無尽に傘を触られる感触が続いた。
『違う』
声が私の耳元でささやく。
『私の傘じゃない』
そして、私はやっと金縛りから解放され、崩れ落ちた。
恐ろしくて泣きじゃくり、やっと細い声が出た。
「・・・ごめんなさい・・・」

後日、私は今度は黄色の傘と花をもう一度そこに供えた。
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