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「ロットロット」と悲しい正月

作者: まつだ

ロットロットには悲しみが詰まっている。


小6の正月。じいちゃん家に帰省したら、先に帰省したYにいちゃんがファミコンで遊んでいた。

どんな話の流れになったのかわからないのだが、私が「ロットロット」を持っている、ということになった。しかし私は持っていなかった。つまりウソをついた。Yにいちゃんが面白いといったこと、持ってないといったこと。それがウソをつかせた。すこしでもYにいちゃんの興味を引きたかったのだ。

子供心に、これをどうにかしなければ、と青い顔になったのを覚えている。また、その時までロットロットなんてゲームを知らなかった。調べてみるとファミマガに記事はあり、発売しているのはそのファミマガを作っている徳間書店ではないか。これはもしかすると面白いゲームなのではないだろうか。そんな風に自分を説得したりした。そのとき、すでにうすうすは悲劇の始まりを予感していたのだと思う。


結局は妹に相談して、お年玉を貸してもらい「ロットロット」を買った。まったく興味がなかったゲームなのだけれど、ひょんなことから買わざるを得なくなったのが悲しかった。5500円と高い部類だったのも悲しかった。

ゲームを遊ぶともっと悲しい気分になった。ボールが落ちてくるのをひたすら右に運ぶと50点になるだけだった。ぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろと弾む音をたてて転がってくるボールをひたすら入れ替えて、右に落とす。ときどき右側の壁がなくなってすごい勢いでボールが落ちていくこともある。


それだけだった。


1画面固定、しょぼいスコア、静かな音楽、動くのはボールだけ、とにかくさみしいゲームだった。カニがでてきてアウトゾーンにボールがおとされるとミスとなる。意味がわからない。

ウソをついた自分を殴り飛ばしたくなった。


しばらくすると、そのロットロットを遊びたいからうちにこないか、とYにいちゃんに誘われた。持っていくよ、と自分から言ったのかもしれない。子供のころの私は言ってそうだからだ。

とにかくYにいちゃん家に行くことになった。あのゲームがいっぱいあるYにいちゃんの家にだ。楽しみで仕方がなかった。友達のY君にその話をしたら一緒に行くことになった。これも経緯は覚えていない。ちなみにY君とは因縁浅からぬ仲である。田舎だったので友達の選択ができなかっただけの関係だったと今は思う。悲しみが増えた。

約束の日。正月明けの寒い中、2人して自転車をとばしてYにいちゃんの家に向かった。日曜日のことだった。なぜ覚えているかというと、到着したときYにいちゃんは「スーパージョッキー」をつまらなさそうに見ていたからだ。私たち2人はそれが終わるのを見ながら待った。スーパージョッキーはまったく面白くなかった。

じゃあロットロットを遊ぶか、となった。満を持してロットロットを手渡す。赤いカセットだった。


Yにいちゃんは2回遊んでやめた。私は悲しい気持ちになった。面白くないのは知っていたけど、Yにいちゃんならこれのどこが面白いのか教えてくれるのではないか、と期待していたのだけれど、それも裏切られた。不思議とYにいちゃんに怒りはわかなかった。ただただウソをついた自分が恨めしかった。


こうして悲しい正月がやっと終わった。

結局、そのロットロットはYにいちゃんが借りていき、半年くらい帰ってこなかった。その半年の間にすこしづつ妹に返金した。

ロットロットには悲しみが詰まっている。

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