ねぇ、もっとゆっくり歩いてよ……PDFで表示縦書き表示RDF


素直じゃない男と付き合うことになった女の子の話です。
ねぇ、もっとゆっくり歩いてよ……
作:May



ねぇ、もっとゆっくり歩いてよ……

今私の前を歩いているのは、恋人の跡部彊(あとべつよし)君。
たまにしかしないデートなのに、彼はいつものように私の前を歩く。
ねぇ、もっとゆっくり歩いてよ……


彊君と付き合いだしたのは、一ヶ月前。
同じクラスで、でも恐い見た目に、危ない噂とか流れてて、誰もが近寄り難い人物だった。
私も、例外ではなかった。
彼が恐くて、私も近づかなかった。
話したことも、視線が合ったことすらなかったのに、何で私? と、今更ながら思う。
あの日、所属していたバスケ部の練習時間が延びて、帰り道が同じ方向の人がいなかった私は、暗闇の中、一人で帰るのは恐かったけど、仕方なく、急いで帰ろうとしていた。
校門に差し掛かったところで、その近くの野球のボールが飛んでいくのを防ぐためのフェンスによっ掛かっていた彊君を見つけた時は、心臓が止まるかと思った。
誰かと待ち合わせ?
一瞬そう思ったけど、彊君に友達がいるなんて話、聞いたことがなかった。
……ひょっとして、誰かを待ち伏せ?
噂では、喧嘩してるとか、薬をやってるとか言われてるけど…… さすがに私なんかじゃないだろうと、恐る恐る学校を出ようとした、その時、
「おい」
と、彊君に呼び止められた。
硬直してしまった私の横に、彼がやってきた。
「な、何でしょうか?」
私は恐る恐る、尋ねた。
「一人かよ?」
何でそんなことを訊いてきたかはわからなかったけど、一応、答えておいた。
「そうだけど……」
「ふーん」
、と彊君は言って、さらに私に接近してきた。
「送ってやろうか?」
「へ?」
驚きのあまり、情けない声を上げてしまった。
「だから、危ないから送ってやって、言ってんだよ」
これには、少しの間、思考が停止した。
「おい」
彼に声をかけられて、やっとことの重大さに気付いた。
「け、結構です!」
彼は親切のつもりで言ってくれたのかも知れないけど、はっきり言います。
恐いです。 あなたが恐いです。
だから、ごめんなさい。
気がつくと、家の前にいた。
無我夢中で、ここまで逃げてきたらしい。
彊君には悪いけど、できるだけ、彼とは関わりたくない。

その夜、知らないアドレスからメールがきた。 『何で今日、逃げたんだよ。』
最後の方に、跡部彊と書いてあった。
何で、彊君が私のアドレスを知ってるの?
困惑していると、友達から電話がきた。
《ごめん! 跡部に脅されて、あんたのメルアド、教えちゃった! 本当にごめん!》
彼が、何でそんなことを訊くの?
《と、とにかく気をつけて!》
メール来たら、無視しなよ!? と、友達は電話越しに叫んだ。
でも、もう来ちゃってますよ。 でも、恐くはないんだけどな。
とりあえず、今日来たメールは、無視することにした。
どういうつもりかは知らないけど、厄介ごとには巻き込まれたくない。


次の日、部活の朝練に参加するため、早くに家を出た。
校門に差し掛かったところで、再び見つけてしまった。
跡部彊を。
彼は私を見つけると、私に接近してきた。
私は、硬直して動けなかった。
「おい」
私はビクリと、身体を震わせた。
「昨日、メール無視しただろ?」
恐いよ。
「どうして俺を避ける? 俺はお前に、何かしたか?」
何もしてないけど……けど……
「避けるなよ。 理由もなく避けられるのは、嫌なんだよ」 彊君は、寂しそうな表情を(かお)した。
「お前……」
一体、何なの?
「――…俺と、付き合えよ!」
放心した。
彼からそんなことを言われるなんて、信じられなかった。
「何だよっ! 俺だって、一目惚れとか、するっつーのっ!」
一目惚れなんだ……
「とにかく、俺と、」
美夏(みか)っ!」
彼の告白をぶった切ったのは、昨日電話してきた友達の(ゆい)だった。
「跡部っ! やっぱり美夏に手ェ、出そうとしてたのね!」
由は私と彊君の間に押し入ると、彊君の腹に、いきなり蹴りを入れた。
「美夏に何かしたら、許さないんだからねっ! あんたを信用して、美夏のアドレス、教えたのが間違いだった!」
……昨日、脅されて教えたって、言ってなかったけ?
そんなことはどうでもいいらしく、由は私を引っ張って、校内に連れて行った。
その時、気にしなくてもいいのに、彊君の顔を見てしまった。
とてもとても、寂しそうな顔をしていた。
もしかして、本当に私のことが好きなの?
その日、彼のそんな顔が、私の脳裏から離れることはなかった。

放課後、また部活が長引き、夜道を一人、帰ることになった。
そして、校門にもまた、彼がいた。
「送る」
「……いい」
無視して帰ろうとすると、彊君に腕を掴まれた。
「送る!」
「いいってばっ!」
振り払おうとしても、彼は腕を放さない。
「どうして避けるんだよ!? 俺が恐いからか! 変な噂が流れてるからか!?」
違う、違うの!
「ただ……あなたのこと、よく知らないから!」
…………
しばらくの間、沈黙が続いた。
「……じゃあ、俺のことを知ってくれたら、考えてくれても、いいんだな?」
どうしよう。 私……本当は、どう思ってるの?
「……いいよ」
そう言うしか、なかった。
「ただし、お試し期間は、一週間。 その間に好きになれなかったら……諦めて」
「わかった」
手始めに、彊君が、私を家まで送ってくれるらしい。
でもそれって、彊君に家を知られるってことだよね? 大丈夫かなぁ……
不安に思いながらも、結局送ってもらった。
「……ありがとう」
「おう……」
気まずい雰囲気になって、彊君はすぐに、帰ってしまった。 あと残りの悪い別れだった。
彼は、私に複雑な思いを残して、帰って行った――


結論として、私は彼と付き合うことにした。
知ってみると、彼のいいところは沢山あった。
照れやなこと、運動が得意なこと。
意外と甘い卵焼きが好きなこと、悪い噂は全て、周りの人たちが勘違いして流していたこと。
一度知ってしまうと、どんどん好きになった。
彼には、いいところが沢山ある。
本当は、すごく優しい。
彊君が私を好きになったのは、高校の入学式の日らしい。
しかも、本当に一目惚れらしい。
それから二年間片思いして、三年のクラス換えで、私と同じクラスになって、顔には出さなかったが、相当浮かれていたらしい。
そして、それからさらに半年の歳月を経て、告白を決意したらしい。


そして、今は五度目のデート中。
恥ずかしがり屋な彼は、なかなかデートに行こうとしない。
二ヶ月でデート五回って、少ないよね?
しかも、彼はデートの時はいつも、はや歩きで私の前を歩く。
ねぇ、もっとゆっくり歩いてよ……
そう言うと、彊君は突然立ち止まった。
止まるのが間に合わず、彊君の身体に激突した。
「もうっ!」
私が怒ったように言うと、彊君は唐突に、私の手を掴んだ。
そして、手を繋ぐ。
少しずつ、指が絡まっていく。
所謂、カップル繋ぎになった。
驚いて彼のことを見ると、彊君は顔を真っ赤にしていた。
そうだったね。
彊君はすごく、照れ屋だったんだね。
本当は、照れ臭くて、デートに誘うだけで、いっぱいいっぱいだったんだね。
それで今、勇気を出して、手を繋いでくれたんだね。
ありがとう。
私のために頑張って、自分から手を繋いでくれて。 わかってるよ。
心配しなくても、あなたのこと、よくわかってるよ。
お互い、恥ずかしくても、少しずつ、距離を縮めていこうね。

けど、一緒に歩く時は、ねぇ、もっとゆっくり歩いてよ……


Fin


どうも、Mayです。『ねぇ、もっとゆっくり歩いてよ……』はいかがでしたか?楽しんでもらえると嬉しいです。私は足が遅いので、男の人と歩くと特に、ゆっくり歩いてくれないかぁと、思います。では、長くなりました。 最後までお付き合いさせていただき、ありがとうございました。そして、感想と評価をぜひぜひ下さい!多少の辛口は受け入れます!では、ありがとうございました! May。













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