使い手の思い
遊森謡子さんの春のファンタジー短編企画(武器っちょ企画)も参加作品です。
●短編であること
●ジャンルは『ファンタジー』
●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』
自信がないですが参加させていただきます!
「―――貴女の願い聞き届けた」
「その剣、呪いしてかけておこう」
「辛いのよ?耐えることができる?」
と一組の鷲は壊れかけた祭壇から魔方陣のうつ伏せに倒れていた少女に投げかけた。
少女は、ツーハンデッドソードを抱え込みながら答えた。
「もちろんです」
「また、戦が始まれば貴女は体が蝕まれるのよ。それでも・・・」
「構いませんッ!!」
少女は声を張り上げた。でも、声が震えていた。目尻からは透明な水が溢れた。でも、すぐさま顔を振り立ち上がった。顔は、少し腫れていたが目には揺らぎのない炎が立っていた。
「殿下には、この国をしょって立つ義務がありますっ。死なれては困りますッ!」
「・・・」
「・・・」
「私は、遠くから見ていれば良いの・・・。自分の想いが届かなくて殿下無事であれば良いの」
「貴女の決意、受け取った」
「吾等は、ソナタに協力しよう――――――――では、代償を頂こう」
「うん・・・ありがとう・・・」
少女は、顔を伏せた。ポロポロ、とまた涙がこぼれていた。新たな魔方陣が描かれる。
ぎゅっとツーハンデッドソードを握った。自分の体から何かが抜けていくのが分かる。声が、重さが―――――。
―――――同時刻、ある屋敷
裸の少女は、膝に顔を埋めていた。
「うんっ・・・―――――どうかしたのか?」
と一緒のベットに寝ていた裸の男が聞いた。
「夢で見たの」
十八くらいの少女がガタガタ震え始めた。男は、そっと後ろから抱きしめた。
「どんな夢なんだ」
「アルシオンが、『魔剣できた、魔剣できた。なんと悲しいことだ』って言ってた・・・。でね、その時の光景見たの。グレリオス様と髪が同じ色だった・・・。その子が心の中で『戦争はやめて欲しい』って。とても大切な人が死んでしまう、そのために作ったみたい・・・」
ぎゅっ、まわっていた腕に自分の手を添えた。そして、その男もその手に乗せた。まるで、安心させるように。
「わかった。今すぐに戦争を終わらせる。多分、兄貴や義姉上も気付いてるはずだ」
と言いベットの横にある小さいテーブルの上から呼び鈴を取り鳴らした。
するとバタバタと屋敷が騒がしくなった。
「頼みがある。俺の“鞘”なってくれるか?」
「もちろんです・・・グレリオス様」
と二人は唇を重ねた。
~***~
「殿下、どうかご無事で・・・」
「わたくしたちも無事を祈っています・・・」
女達は涙を浮かべた。だが、彼にはわかる。これ全部嘘。媚びを売って自分に貴方のことをいかにも心配していますよ。彼は、吐き気がしていた。
「・・・・・私は、これで」
女達の間をする抜けて洗濯場に向かった。
「ツキシナかい?今日は来てないみたいだけど・・・」
「そうですか・・・ありがとうございます」
彼は、洗濯場の監督にお礼を言いその場を後にした。
「あの野郎、俺がせっかく・・・」
「『せっかく・・・』、何がだってアリクス殿下?」
背後からの声にツーハンデッドソードを背中から抜いた。丁度その時、それと一緒に麻袋も落ちて小さい木箱が出てきた。
「はっはっあーん、あれだな。愛しのツキシナちゃんに贈りもしようとしては訳だ。これ、一年前に職人さんに作ってもらったやつじゃん」
ピキィ
「いやはや、殿下もまだまだで・・・」
バッキィ(←地面が割れる音)
「何、額に青筋立ててるんですか?」
「お」
「お?」
「お、お前のせいだろうがあああああ」
アリスクは、額に青筋を立ててツーハンデッドソードをもう一度振り上げて彼をおかけ始めた。彼をからかっている青年はツーハンデッドソードの攻撃を見事に避けていた。城の人達は、その様子を微笑ましく見ていた。これが、いつもの名物である。とある少女に恋心をいだきながら本当のこと言えない殿下をからかう幼なじみの侍従長のロクサ。これが、いつもの構図である。
「アリスク殿下」
「・・・?ッ、ツキシナ!?」
「ツキシナちゃん、どうしたのその格好」
アリクスは、いきなり現れたツキシナに動揺しワタワタし始めた。だが、ロクサの方は目を疑った。これでは、まるで遠出をするように格好である。そして、もう一つ目に入った物は黒と白の丸い毛玉。
「ツキシナちゃん、その毛玉はいった・・・」
「子どもの頃から飼って鳥です」
「「と、とりぃぃぃぃぃぃぃ!!」」
二人は、唖然となった。色々ツッコミがどころが満載でかなり困る。ボール状のそれが鳥?ありえない。それよりもツキシナが抱え込んでいる物が気になった。その目線に、気付いたのかフード被ってわからないがほほえんだような気がした。
「実は、これを殿下に使っていただきたくて持ってきた次第でございます」
「・・・間に合ってる」
「それでも予備として持っていって欲しいんです」
「・・・・どうしてもか?」
「できれば」
「・・・・わかった。ロクサ、それを受け取っておけ」
「ええ」
ロクサは、『お前が受け取れよ・・・』とつぶやき渋々受け取った。
「では、私は失礼いたします。ご自愛くださいませ」
ツキシナは、二匹のとり(?)を連れてそそくさと帰って行ってしまった。
「あーあー、どうするんですか?これ?」
受け取った物を見ながら言った。その剣は、がよく使っている剣だった。
「貸せ」
アリクスは、ぶっきらぼうな態度をとり剣を無理矢理奪い取った。そして、剣を鞘から抜いた。
「これ飾りの剣じゃないらしいね」
「確かにな・・・それに、美しい」
鞘から引き抜いた剣は太陽が反射して美しく輝いていた。
カーン、カーン
「もう出発か・・・」
「結局、求婚は出来ませんでしたけど、この戦に勝って褒美にツキシナちゃん貰いましょうよ」
「・・・だな」
二人は、軍舎に向かった。
~***~
そのあと、平原に向かい隣のリアト国と互角の戦いを繰り広げたらしい。もちろん、ツキシナが渡した剣は大活躍した。深い傷は浅く、魔術を防いだ。最初は、この効果に驚いたが、彼女の贈り物だからと気にしなかった。だが、アリスクは知らない。剣を使うと言うことは必ずしも代償を伴うことが。
ここで、戦況はいっぺんとした。
~***~
「おい!あれ・・・なんだ」
戦場では、そんな声が飛び交っていた。アリスクは、呆然とするしまない。空が、黒く染まっていた。
「ギリガドル帝国、竜騎士部隊・・・」
そう誰かが、呟いた。鎧を着た翼竜の背から旗が、挙がっていた。
ヴェルバリオンと言われる翼が生えた獣と、中央には鈴蘭の花によく似た花が飾られていた。
ギリガドル帝国。大陸最強の軍事力持つ国。十一年前の大陸戦争に勝ち、広大な大地を独占した。そのあと、平民に重い税かす国や奴隷制度がある国を侵略していった。それに、数ヶ月前には神界国を滅ぼしたばかりだ。その理由は、皇帝の花嫁を誘拐した罪で滅ぼされたらしい。
ここに、ギリガドル帝国の一部隊がいるということはもうすでに王都が陥落しているかも知れない。
(ツキシナ、無事でいてくれ)
ツーハンデッドソードの柄を握りしめた。すると、今度は1体の翼竜がアリスクの前に降り立った。降りてきたのは青紫の髪と瞳を持つ灰色のコートを着た青年と青年にエスコートされて降りてきたピンクの髪に茶色い瞳の少女。
「オルカノ、あの男か?」
「はい、グレリオス様」
「グレリオス?あのグレリオス・フォロン・リラルド」
側近の一人が呟いた。
グレリオス・フォロン・リラルド。ギリガドル帝国帝国軍統括総司令官兼魔術師団【暁】の師団長。『電雷の魔導師』と呼ばれている。冷静沈着、たまに冷徹。その反面部下思いで戦場には自ら行き一緒に戦っているという。最近、結婚したらしいが奥方が不思議な体質があるらしく魔物討伐によく同行をしているらしい。つまり、一緒にいるがオルカノと呼ばれている奥方のようだ。
グレリオスの目がアリクスに留まった。何か心をのぞかれているような感覚だ。そして、奥方の腰に左腕を回してこっちにやってきた。目の前で止まった。遠くから見ていてわからなかっただ。自分より二歳年上らしいが凄く貫禄がある。
「貴方が、エウロ王国の第一王子のアリクス・リド・エウロ殿下ですね」
「ああ、そうだが・・・」
「私は、グレリオス・フォロン・リラルド。こちらが、妻のオルカノ・リン・リラルドです」
ぺこり、と会釈する。どこかのご令嬢かと思ったが顔を立ちは町娘そのものだ。
じーっ、としたアリクスの目線に気付いたらしくグレリオスは不機嫌になりオルカノの顔を胸元に寄せて周りから見えないようにした。
「見るな」
ドスの聞いた声がした。さっきの穏やかな雰囲気とは違いまるで今にで殺さんような勢いだ。彼女の顔を見せないようにした。一気に、口調も変わった。
「ここで、本題に入ろうか」
「なんだ」
「その剣を渡してもら思うか」
「剣?」
アリクスは意味もわからず首をかしげる。それを見て苛つき頭をガシガシとかいた。溜息をつきたそうな顔になった。
「お前が、持っている剣だ」
「・・・・・・何故、これが欲しい?」
柄をギュッと握りしめた。
「何故って・・・・・それが聖剣になりかけた剣だから」
「聖剣なってあるわけないはずです。あれは、お伽話でしかないはずですよ」
横から口を入れたロクサだった。
「たしか、所詮はお伽話。だが、お伽話にも本物が存在する」
話を切ると腕の中にいるオルカノの耳元に何かを呟く。すると体から光が漏れだし、グレリオスはゆっくり放した。すると魔法陣がりフワリと
「これは・・・・契約式魔法陣!?」
「違う、契りだ」
誰かが呟いた言葉にグレリオスは、不敵に笑って答えた。すると胸から光が漏れ出した。グレリオスは手を胸の中に突っ込む。
「あ、ああっ」
オルカノは喘ぎ声を出して少しもがく。そして、思いっきり引き抜いた。
「なんだあの大剣・・・」
グレリオスの持つ剣から強大な魔力が放たれていた。周りの魔術師達や魔導師達は鳥肌がたった。
「ざっとこんなもんだろう」
いつのまにか自分の妻を片手で抱え、もう片方にはあの大剣もあった。奥方は、奥方で眠りにつくように目を開けようとはしていなかった。
「おっ、義姉上の登場か。以外に、早いご到着だこと」
と言って、空を見上げた。なんとそこには、プラチナのように輝く竜がこちらに降りてきたではないか。
「ぐ~り~お~、なんかいわなかった」
「いや、ただよく兄貴が許したな、と思ってなあ」
「それがね、出る前に一悶着合ったんだよね〜・・・・じゃなくて契約者を見つけたけど、もう手遅れみたい」
龍から降りて言った。その容姿は、この世界には珍しく黒髪に紅い目。緑の軍服を着ている。と、いつの間には背後にキラキラと金色に輝く髪を持つ男が立っていた。その腕の中にはよく見た人物が横抱きにされて眠っていた。
「ツキシナ!?」
「グリオとリランが言ってよね。この国は“夫婦鷲”が契約して聖剣になりかけた剣にしたって。で、これがその媒体なんだって、リランが言ってた」
「だが、聖剣になりかけた剣を回収せずに済みそうだぞ」
リランと言われている男は、眠っているツキシナを見た。
「いったい何の話をしてるんだ・・・・・・」
アリクスは、彼らの話についていくことが出来ない。その様子を見た黒髪の少女は苦笑した。
「えーっと、一応私も魔法とか魔術とか理解できないから安心して」
「いや、そちらの方が安心できないだろう・・・・」
見た目が十代に見える黒髪の少女に慰められてショックが大きいアリクスだった。
「義姉上、こちらの方針が決まった」
「と言うわけでその剣渡して貰おうか。坊主、そんなに睨むな。我は言ったはずだ。回収しなくて済むそうだ、と。我が、その剣に少しばかりまじないを施すだけだ」
だが、未だに信用ないのか渡そうとはしない。その様子を見て、髪を乱すようにかき一息ついて言った。
「では、この娘を坊主に渡す。だから、この剣を少しの間我に貸せ」
「貸してくださいでしょ、リラン」
黒髪の少女は溜息をつきながら言った。
「面倒だ・・・」
「もお~」
黒髪の少女は、アリクスに寄って握った剣を奪い取った。
「!?」
「ごめんんさい、でも時間がないから」
りらんー、と引きずりながらリランの元まで行き交換にツキシナを連れてきた。アリクスは、無意識に黒髪の少女から受け取った。待ち焦がれたツキシナが腕の中にいることに感極まった。
「あ、起きそうだね」
「あ・・・、でも・・・」
「好きなら好きって言いなよ?」
「えッ!?なんでそれを!」
「目を見ればわかるんだよ」
片眼でウィンクしてグレリオスの方に向かった。それと入れ違うようにリランが剣を持ってやってきた。
「坊主、剣はお前に返す。時場合に寄って使い分けろ」
「本当に、いいのか?」
「そこの媒体がよくやってくれた。こんな“想い”の剣は初めてだ。俗に言う、恋する乙女がなせる技、というところか」
「ここここここ」
「最後に、この剣と再契約するに当たってこの条件を・・・・」
リランは、アリクスの耳にその内容を言った瞬間、アリクスの顔が真っ赤になった。
「りらーん、帰るよ」
「わかった。じゃあまた。精々、がんばることだな」
とそんな捨て台詞を残して竜の姿に戻った。
グレリオスの方は、もう竜の一団に戻って行ってしまったようで残るはその少女だけだった。近寄ってきたリランに跨がり、手綱を握って空高く舞いやがった。その竜が一団に加わると東に向けて出発した。両軍は、それを見送るのだった。
~***~
「ねぇ、グリオ。あの剣、本当に“魔剣”なんでしょ?どうして聖剣で折れなかったの?私たち、間に合わない、と思ってたんだよ?」
雪は、並んで飛んでいるグレリオスに疑問を投げかけた。
今現在、竜騎士部隊は帝都に向かって帰投中。グレリオスは、腕の中で寝ているオルカノを見ながら言った。
「契約者と繋がりがあったからヤラなかっただけだ」
「それに、それは聖剣になり得る存在になったかも知れないからな」
「え゛、いいの。そんなの置いてきて」
「それより、義姉上。そんな剣のことを考えてないで自分の身でも心配したらどうだ」
とグレリオスは、独占欲が強く彼女の溺愛してる夫である血の繋がらない兄のこと思い出す。
その言葉を聞いた雪は顔が青ざめ始めた。
「あっちに―――――」
「ああ、それと“穴”は逃げ込めないから」
と釘を刺したグレリオスだった。つまり、あの皇帝(義理の兄)から逃げることは出来ないよ、と目で言うのだった。
彼のことをよくして言っている古株達は、どっと笑い。若い衆は哀れみの目を向けるのであった。
今日も帝国軍は平和であった。
~***~
シーツの肌触りが違う、とツキシナは思った。まるで王族のベットで寝ているような感覚だった。
と、何かが前髪に触るような気がした。目を開けてみるとそこには思い焦がれたアリクスの顔があった。ぎっくりして飛び起きたがすぐさまアリクスの腕に捕まった。そのまま、顔を胸へと押しつけた。
「聞いてくれ、ツキシナ」
静かに言った。こくりっ、とツキシナは頷いた。何せ、声が奪われて出ないのだから。
「お前から貰った剣なかなかだった。だが、喜べない部分もある」
王子の部屋に涼しい風が入ってきた。次に、出てきた言葉に体を硬くしてしまった。
「帝国からあの剣ついて報告が来てお前に失望したよツキシナ。報告によると体重、声が契約の代償で中区なったと聞いた。それもその交換として自分に俺のケガの半分を体に移す仕組みになっていたことがわかった。」
「・・・・」
こわい。彼が本音を言うことが怖い。
「お前は、バカだ。俺が生きて帰ってくると思わなかったのか?これでも、あちらの将軍よりは強いぞ。だから、誓わせてくれ。金輪際、あの剣は使わない。これは、絶対事項だ」
ぱっ、と顔を上げると辛そうなそれでいて悲しそうなアリクスの顔があった。ポロポロ、とツキシナの目から大粒の涙が流れた。何のために、夫婦鷲に契約したかわからない。また、俯くのを見てか真剣な顔つきになった。
「だから、ツキシナ。俺の妻になってくれ」
驚きの言葉に、顔を息を勢いよく上げた。嘘だ、と思った。だって、彼に好きな人が居たはずだ。そんなことを思って居るのわかったのか、ほほえみながら手で涙を拭った。
「やっぱり、お前は口より目で語るな・・・。この気持ちは本当だ・・・。って、口で言っても分からないか」
と言うと視界にまつげがドアップで自分の目に映った。その次に、唇に柔らかい物が押しつけられた。だが、すぐに離れたがツキシナの思考はつきてこれずボーッとしてしまった。
「俺は、お前に会った時に一目惚れして一途に思い続けた。お前以外、俺の妻になる人間は居ない。好きだツキシナ。愛してる」
その言葉を聞いた瞬間、自惚れでないかと思ってしまった。本当に私で良いのか、と思った。
「自惚れないでくれ、本当だ」
「あーあーあーッ」
「声が出なくても大丈夫だ。何があっても守るから」
「あッあああ゛あ゛」
「本当だ。好きだ」
目線と目線と混じり合い自然と顔が近づいた。
二人は混じり解け合った。二人の腕に金と銀の腕輪が着いていた。
フッ、と目線を部屋の端に向けてみればあのツーハンデッドソードがあった。
剣身に月の光が照らさせて文字が浮かび上がった。
『月花は咲き、野を埋め尽くす この思い永久に続く 永久に、守り続ける剣とならん』
これがこの剣の思いでツーハンデッドソードの使い手の誓いである。