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悪魔の恋は『なにいろ』ですか? 作者:柳シンム

クィレビエ・ネンテ

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無人島ならでは


 ネフ・リコの無情な宣告にココリエがなにかを言おうとしたが、言葉は小さな悲鳴になった。

 重傷を負った足の痛みが耐え難く、激痛となって神経を刺し貫きながらココリエの正気を襲ってきた。

 シュッと、軽い音がしてネフ・リコたち、襲撃者たちが消えた。追いかけようとしたココリエだったが、足の痛みの為にうまく走れず、こけてしまった。

 砂浜に膝をつき、青年は悔しさと激痛で瞳に涙を浮かべる。だがもう、ネフ・リコたちの姿はどこにもなく、また、そこにはココリエとサイ、ふたりだけが残った。

「クソっ」

 思わずでた罵りの言。ココリエは自分の足を恨むように見つめる。足から、出血はなかったが、代わりの激痛に青年は喉の奥で唸った。痛みで多量の冷や汗が噴く。

「座れ、ココリエ」

「サイ」

「手当てが必要だ。あの口振り、またいつ襲撃されるともわからぬ。癒せる時に癒せるだけ癒すのが賢い」

「サイ、そなたの、怪我は……」

「うん? 私は肩が外れただけだ。入れれば治る」

 こうやって、とか言いつつサイは外れたらしき右肩に左手を添えて、無理矢理押し込んだ。

 ごぎ、ピキッと、いかにも痛そうな音がして、サイの外れていた肩が元の位置に戻った。

 女戦士は顔色ひとつ変えず、治した肩の調子を確かめるように、腕をまわしている。

 見ているだけで痛い治療である。サイの男らしい荒々しい乱暴治療にココリエは少しだけ不安になった。

 肉の代わりになにか詰めておけばそのうち同化する、とか言われて傷口に砂でも詰められたら堪らない。

 そんな失敬な思考が青年の瞳に揺れたのか、サイは心配無用と断るように首を横に振った。

「お前の治療はこうはいかぬ。私など雑でよいが、お前にそれをするとセツキがキレ、説教で私の脳がくたばる」

 雑なことをすればセツキが黙っていないだろうと言うサイは、ここにいろ、とココリエに指示するように砂浜を指差すだけして、森の中に入っていった。いったいなにをしにいったのか、気になったが、今は思考するのも辛い。

 というか、思考がすべて痛みで上塗りされ、上書きされてなにも考えられなくなる。と、言う方が正しい。

 なので、ココリエは無心でひとり耐えることにした。

「うっ、つ~~……っ」

 サイが森に入っていって、待っていろと言われてしまったココリエはひとつ試しに肩を少し動かしてみた。

 だが、すぐに痛みで悶えることになった。浅い傷だったのだが、それはもう、ひどい傷であった。

 足の怪我を見てみると、そこはかなりひどく焼け爛れていた。そのことから、ココリエは推測する。

 ネフ・リコは火と光の使い手。その火力は雷にこそ劣れども、高純度となれば火力はセツキに余裕で並ぶ。

 彼は、戦国の世でもかなり熟達した火と光の使い手。火属性の火力を光の抱擁で強化しているのだ。

 ならば、これは、セツキがセツキ以上の者が敵にいる、とでも思わねばならない。

 相手は歴戦の武士もののふで、対するこちらは腕は立つものの無手の傭兵と温室育ちの王子がひとり。

 さらに、両方共に《戦武装デュカルナ》で武器創造ができないという不利な状況にある。

 相手は、自在に武器を創造でき、兵装を整えることができるが、ココリエたちはこの時代には間抜けなことに素手か、木の枝での武装がせいぜいなのだ。

 イキバほど体格に恵まれ、膂力を鍛えあげていれば素手でも立派に凶悪な凶器なのだが、ココリエの体格は並の男以下。ヒラシゲに言われたように細っこい。

 サイとでも、たいして変わらないかもしれない。むしろ、サイの方が肉体の才能においては秀でていてココリエ以上に腕自慢であり、力自慢な部分がある。

 ネフ・リコとイキバ。とんでもない強者たちを抱えているリィエンの相手は骨が折れるどころではない。

 かなりの難敵で、難題。それにネフ・リコの雰囲気からして、これ以上の叛逆は本当に殺されてしまいそうだが、サイを抱くなどありえない。一刻も早く諦めてくれ。

 ココリエが祈っていると、サイが帰ってきた。

 腕に葉っぱと木の実、水の入った容器のようなものとなぜか、本当になぜかは知れないが大きなよく肥ったカエルを両手に持って抱えているのはなーぜ?

「待たせた」

「おかえり。なにをしていたのだ?」

「薬草がないかと思った。あとは傷口を洗うのに海水は拷問だ。真水が要るだろう? それとおまけだ」

「……すまぬ」

「なぜ謝る?」

「余が不甲斐ないばかりにサイを辛い目に」

「くだらぬ。この程度は障害にすらなりえぬ」

 サイは、本当に心からそう思っているのか、言葉には迷いというものが一切ない。

 迷いないままにサイは、葉っぱを砂浜に落として、カエルを片手にしっかりと握ったまま、水を汲んできた容器を傾けて、ココリエの負傷にゆっくり水をかけた。

 水が滴って傷口を叩くたびに悲鳴がでそうになるが、サイの手前、なんとか堪え切ったココリエはげっそり。

「焼けて塞がっているから、洗っておけばいい。あとは、薬の代わりに草の汁を垂らしておけ」

「い、いたた……、あ、ありがとう」

「うむ」

「……時に、サイ」

「ん? コレか?」

 コレ、と言ってサイがココリエに差しだしたのは、カエルだった。心の底から謎すぎる。なぜにカエル?

「サイ?」

「食え。失血にはやはり肉を食わねば」

 カエルの存在を疑問視し、謎に思っていたココリエにサイは衝撃の一言で以てココリエの脳に打撃を与えた。

 とっても理解し難い言葉で殴られたココリエは真剣に彼女の正気というものの現在地を疑った。

 いや、それよりもなにと言った? 食え? なにを? まさかのもしかしたらでカエルを、か?

 そんなバカな。悪い冗談だ。ココリエが引きつり笑いを浮かべ、ぬめぬめの粘液にまみれているカエルを見たら、カエルも彼を見た。その目はどこか命乞いの雰囲気。

「サイ、森の中でなにかあったのか?」

「なぜか」

「いや、突拍子もないことを言いだすから」

「なにを言っている?」

 サイはココリエの引きつった笑顔を疑問に思いつつ、手に持っていたカエルをいまだに燃えている、イキバとの戦闘でも奇跡的に無事だった焚き火に放り込んだ。

 そして、新しく折ってきたのだろう木の枝で上から押さえつけた。あがる憐れな悲鳴。しかし、サイは気にしたようにない。カエルを焚き火で調理していく。

 見ている、聞いているココリエは吐き気をもよおし、顔面蒼白になった。カエルの火炙り処刑などそう拝めるものではない。……生涯拝みたくなかった。

 なんという惨いことを平然と行っているのだろうか。そう思い、見なかったことにしようと思っているココリエはちょっとだけ考えて、さらに真っ青になった。

 サイは不吉なことを言わなかっただろうか?

 食え、と言った。カエルを食って血を増やせと言った。……それはなんという悪夢。

「うむ、弾力が」

「実況するな! いや、サイ? 正気か、そなた」

「いつになくイミフである、ココリエ」

「余はまともだ。カエル、カエルは食い物では」

「? 食われる以外の道があるのか、カエル」

「あの、人間の食い物ではないという意味で……」

「食用に肥育されているものも海外では普通である。味は野生風味だが文句は食ったあとで受けつけてみよう」

 無情に言い捨てたサイは焚き火の中のカエルを木の枝で突き刺して拾い、ココリエの目の前に突きだした。

 当然の反応として、ココリエは身を引く。

 サイはココリエの反応に不思議を見た顔でいる。

 が、ココリエはいやな汗がダラダラ噴きでて、汗かいて背中がびっしょり濡れて冷えて凍える心地だった。

「焼き立てをすすめる」

「いや、余は、遠慮……」

「お前の為に川をさらった。食え」

 食えと、またもや無情に言い放った女戦士はココリエに突きつけている木の枝を引き、カエルを外した。

 死骸がブランと揺れる。

 ココリエがうえっというような顔をしているのに気づかない、気づいても気にしないサイはそのままカエルの胴体から足を一本もぎ、ココリエに放った。

 思わず受け取ってしまったココリエだったが、食う勇気は正直、というかまったくこれっぽっちもない。

 放って寄越したサイを窺い見たココリエは彼女の瞳に感想希望の四文字を見つけて複雑な気分になった。

 ココリエは状況に絶望した。こんな状況でなければ、食材がまともならば、サイの手料理など大歓迎だった。

 なのに、これは罰か? これは、いやだ。

「やはり、貧血か? 顔が青い」

「いや、これはそうではないっ」

「なにか、いきなり。心配は要らぬ。ちゃんと食えそうなのを厳選した。なんなら、先に齧ろうか?」

 言うが早いか、サイの唇が開かれて、前歯がカエルの足に食いついた。そのまま肉を食い千切る。

 ふっくら焼けて白くなっているカエルの肉がだらりとこんがりした皮の間からぶらさがる。その光景にココリエはうげっと言うが、サイは気にしない。

 カエルの足を咀嚼して飲み込んだ。

 カエルの足を、そんなものをサイみたいな美女が食っているのを見て、ココリエは唾を飲み込んだ。

 美味しそう、とかではなく、覚悟を決める為だった。これを食わずに済む道は今すぐサイを押し倒すことだが、とても頭がまともではない、それこそ不可能なこと。

 非常に苦しそうな、痛々しいものを見るような目でカエルの死骸の一部たる足を見つめていたココリエだったが、やがて覚悟を決めて噛みついた。

 しばらく咀嚼して気づく。

 あれ、ちょっとイケる? そう滅多なことでは手に入らないが、鶏の肉というのが似たような風味だ。

 近年はイークスを集落が飼っていることもあって鶏肉の食事は控えられているので、懐かしい味だった。

 よく見れば、肉の色は似ている気がする。しかし、どうやって見ても鶏肉とは違う。なんというか、独特のにおいがして、現物を思い浮かべてしまう味がした。

 複雑な気分でいるココリエにサイは要るか? と、自分の食べかけたカエルを目線の高さまであげてくれた。

 サイの食べかけというのは魅惑的だが、それでもそれはどこまでいってもカエルの生臭ぇ肉だ。

「いや、あの、いい……」

 丁重に丁寧に固くお断りし、遠慮したココリエにサイはちょっとだけ首を傾げたが、流して、自分の食いかけを頬張って、噛み、飲み込んだのだった。

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