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悪魔の恋は『なにいろ』ですか? 作者:柳シンム

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起床。ここから先のこと


「……」

 目覚めたサイは不思議な心地だった。

 長い夢を見ていたような、一瞬で消えてしまう、儚いなにかを見ていたような気がしていた。

 ただ、ひとつわかることはあった。
 それはもう取り戻せないということ。

 サイの頭はすっきりしていた。昨日あった雑音が嘘のようにすっきりした頭で考えてみる。

 なにを夢に見ていたのか。夢の中でなにかを考えていたような気がしていたがもはや思いだせない。サイの頭にあったのはマナとツチイエとの思い出だけだった。

 かけがえのない、それでいて唯一のもの。サイが縋っていなければならないものだった。それらは眩しいほどに輝くのにどこか褪せている気がしてならない。

「サイ」

 褪せているのに輝かしい思い出たちはサイの中、記憶に留まろうとしているがサイはなぜかそれを飾りたくなかった。それがなぜなのか、サイは自分自身にすら『どうして』が問えない。

 そうしているうちに隣に寝ていたマナが起きてサイを呼んだ。すると、途端に記憶の蓋が開き、サイが追い払おうとしていた記憶たちを迎え入れた。

 戸惑いはあったがそれをサイは受け入れ、深く息をついてマナに体を向けた。

「どうした、サイ?」

「ううん。マナ、なんでもない」

「ふむ? ならばいいが……今日は帝の顔を見ることになる。主はおそらく帝都と繫がる門の前で待たされるだろうからいいコにしているのじゃぞ?」

「わかった」

 マナの言葉にいいコの返事を返したサイはマナの向こうに見える男を見てマナを見た。マナはすぐに察してくれて微笑んでサイを見た。美しい海色の双眸には茶目っ気。

「ツチイエ、起きておろう?」

「おはようございます」

「うむ。サイは門前で待たせる。ひょんなことで絡まれた時の為にわしの着物では小さいので」

「心得ました、マナ様。サイ、私の着物を羽織っておけ。本物の衣は説得力があるし、正式だ」

「ん。了解」

 ツチイエの命令にも素直に返事をしたサイは自分の髪の毛を手で梳いて整え、黒い髪ゴムで簡単に結いあげる。

 サイは自分の身支度を簡単に整えたあと、すぐマナの支度に取りかかった。マナの髪の毛を丁寧に櫛で梳き、ツチイエに渡された簪で結いあげ、まとめる。

 マナが着替えをしている間にツチイエも身支度を整えて、朝餉を準備しに、というかもらいに動いていった。サイは自分の《戦武装デュカルナ》で服を着たがいつもより軽装だ。

 このあと、ツチイエの寄越す着物を羽織るのならば、あまり厚く着るのは暑くて死ぬと思う。
 そうした思考から運動する時の軽装を想像し、創造して着込んでいるサイにマナは優しい顔。

 きちんと言うことを聞くいいコを見る目だった。

 マナの視線にサイはきょとんとしているが、女王の優しい眼差しを受け、瞳に笑みを揺らす。
 サイの心にはなんの疑問もない。昨晩の丁寧な調整で女戦士はまたすべてを忘れてマナの為にだけ尽くすように記憶に細工をされた。それは咎められることもない。

 サイは知らないだけで心からそれを望み、マナもまた、サイに必要だと思って行使している。
 そこにあるのは思いやりの心だけである。

「お食事です」

「うむ。食べたら早速目通り願おうぞ」

「起きていらっしゃればよいのですが」

「なに、起こさせればよいだけのことじゃ。ネフ・リコにも朝のうちにゆくと言うておるでの」

「そうした意味で、帝が美女に弱くて助かります」

「ほほう? 持ちあげるのう、ツチイエ。そんなにサイの味が好ましく、欲しいのか?」

 マナの言葉にツチイエは苦笑して首を縦とも横ともつかない方向に振った。サイはたしかに極上の娘だが、サイはマナのモノ。それにツチイエが命令以外で触れることはサイが許さない。

 サイはツチイエに仕方なく触れさせているのだから。

 勝手をしてしまえばサイに殺されるかもしれないし、マナにも叱られるだろう。それに例えサイがツチイエ好みでも、サイの味にとろけたいからとマナに胡麻をするような真似はしない。

 サイがマナに仕える心に似ているがツチイエは本物の忠義からマナに忠誠を誓っているのだ。
 サイ欲しさに忠義を投げるような真似はしない。マナもそれを重々承知の上で言っている。まあ、軽い戯れであり至極簡単な冗談のひとつだった。

「帝……」

「この島国を統括しておる男じゃ。色にだらしがないのが難点じゃが話す分にはまま楽しめる」

「いろ?」

「……色事を知らぬのか、サイ? 可愛いのう。まあ、将来の為に多少は知識として身につけておいた方がよいぞ」

「? なにをすることか?」

「朝からする話ではない。サイ、茶を淹れてくれ」

「はい」

 ツチイエの頼みにサイは食膳の前から立ちあがる。色事を知らないというサイの現状にツチイエはひとつ息を吐いた。道理で、と思ったのだった。

 昨晩の調整でもたしかに経験なさそうだったと思いつつ、ツチイエは朝餉を食べ終わり、サイの淹れた茶をすすった。マナも満足そうに茶をすすっている。サイはそれだけで満足だった。

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