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悪魔の恋は『なにいろ』ですか? 作者:柳シンム

エネゼウル

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二度目の調整


「お待たせいたしました、マナ様。鬼味は済ませておりますので、どうぞ、冷めないうちにお召しあがりください」

「うむ。サイ、主は少し待つのじゃぞ」

「わかっている、マナ。お先にどうぞ」

 マナに返事をしたサイは浴衣からエネゼウル色の、サイなりの戦装束に着替えていて、雰囲気は張りつめている。

 昼間のことがあるのでわかる対応だ。元々用心深いところがあるのだろうし当たり前である。

 マナの食事中に外部からの悪意がないか心配しているサイは瞑目し、宿の周辺に注意を払っている。そのことを確認し、ツチイエはサイの食事にそっと薬を混ぜた。

 サイが食べる頃には溶け切ってわからなくなるようになっている薬は初日の調整時よりも少ない。サイの様子からして今日の調整はそんなに手間がかからないだろうと思われた為だった。

「うむ、馳走であった。だいぶ、エネゼウルの食事に近づいてきた。故郷はやはり恋しいのう」

「マナ?」

「ふふ、気にするでない。さあ、順番じゃ。食事をするのじゃ、サイ。それから調整をしよう」

「ちょうせい?」

 調整という言葉はわかるが意味がわからないサイは首を傾げる。しかし、マナは気にするなとばかり首を振ってサイに食膳をすすめた。促されるままサイが食べる。

 そして食べ終わったあと、ツチイエが特殊反応する薬をたっぷり溶かした茶を淹れてサイに渡したが、サイは受け取らなかった。これにマナが反応する。

「どうした、サイ。ツチイエの茶は飲めぬのか?」

「い、や……そうじゃない、そうじゃなくて……怖い」

「怖い?」

「なぜか知れぬ、だが……忘れ、てしま、う……?」

 頭を押さえてサイが呟いたことにマナは神妙そうに瞳を細めた。サイは気づかない。頭が痛かった。脳が内側から頭をガンガン殴っているような……? 頭痛が辛い。

 サイは、なにかを忘れている気がしていた。なにか、大切なことを忘れているような気がするサイは必死に思いだそうとして目を閉じかけたが、不意に顎に温かい大きな指がかけられた。

「ツチイエ……?」

 見上げたサイの鋼の瞳にツチイエがうつる。サイが見上げるとツチイエは湯飲みの茶を自分の口に含んでサイに口づけた。ツチイエの突然の行動にサイは驚いて目を見開いたが、流れ込んできた茶をおとなしく飲み込んだ。ツチイエが離れたあとにはもうサイは朦朧としていた。

 茶と食事の薬が混ざって女の中に毒のようにまわる。それを確認してツチイエはさらにサイに茶を飲ませ、薬の効果を完全に引きださせるように動く。

 サイは抵抗しなかった。茶の味もわかっていない。ぼんやりして心ここに在らずだった。

「よし、ツチイエ、今日はこの丸薬じゃ」

「はっ」

 サイに茶を一滴残らず飲ませたツチイエは女の体を畳の床に安置してマナから調整の、サイの記憶を書き変えて調整する為の薬を受け取る。

 それは、サイが眠っていた四日の間にマナが調合したものだった。サイの為の特殊な調合薬。

 それは初日に飲ませたのと同じようにサイの法力を使ってサイの脳に作用するようになっている。ただ、初日のものほど強力には作用しない。昔を忘れる程度だった。

 それはウッペですごしていた時期のことだけに焦点を絞って忘れさせるように量を調整しておいたものであった。

「サイ、噛み砕いて飲むのだ」

「……ぅ、ん」

 朦朧としながらも頷いたサイが唇に押しつけられた丸薬を口に含み、噛み砕く。ほろ苦い味が口に広がったのでサイは苦しそうな顔をしたがすぐに飲み込む。

 ドクン、と心臓が跳ねた。薬がサイの呪抵抗力を無視して心臓に侵入し、サイの法力を引っ張りだす。そのまま力の源流を脳に導く。頭を砕くような痛みが走ってサイが悲鳴をあげかけたが一瞬早くツチイエの唇が女の唇を塞ぐ。どろりとしたなにかがサイの口内に流し込まれる。

 どろりとして非常に濃厚な苦みのそれが舌に絡まりサイはえずきかけたがツチイエが丁寧にサイの舌に自分の舌を絡めて追加の薬をサイの喉の奥に押し込む。

 長い口づけにサイは噎せたが、ツチイエはさらに追加で薬を口に含んでサイに覆いかぶさる。
 サイの両手がツチイエの逞しい胸板に当てられ、必死で押そうとする。口づけの技で力が抜けているがそれはたしかな抵抗。なので、マナは笑みを浮かべたまま命じた。

「サイ、抵抗してはならぬ。ツチイエは主の為を思ってしておるのじゃ。抵抗をやめ、受け入れてその可愛い舌を絡めてやれぃ。さすればことさらに痺れるような口づけをしてくれるぞ?」

「あ、ム……んっ、はふ、あ、ん。……はぁ」

 マナの命令に素直に従ってツチイエの胸板から手をどけたサイは抵抗せず、ツチイエの舌に絡められるまま舌を絡めた。サイのおねだりと無抵抗にツチイエも微笑む。

「いいコだ、サイ。もう少しで苦いのは終いだ」

「ん、むぅぐ……ちゅ、ン、あ、あぁ、う」

 サイの呼吸がいろいろな意味で乱れていく。

 薬の強烈な作用とツチイエの舌技でサイの体は熱っぽくなっていっていた。ツチイエはマナに従順で在ったが、サイのあまりの色香にはつい喉が鳴った。

 深く、暗く、果てのない漆黒の闇を抱えている女はそのクセ一点の穢れもない。そのいい女を組み敷いているのはかなりの優越感だった。このまま抱けたら最高だ。

「ツチイエ、欲情したか?」

 だが、見透かしたようにマナがツチイエの背に言葉を投げる。男は苦笑して女に振り向いた。

 ツチイエの唇のまわりには薬と唾液が混じったものが塗られていたが、男は振り向くついでにそれを親指の腹で拭ってサイの口に押し込んだ。サイがそれをしゃぶる。

 命じられるまでもなくしゃぶったサイは可愛くて美しい。男の欲をそそる最高級の女だった。

「これほどのいい女に欲情しない男は不全です」

「ふむ、主は健全というわけじゃ。だが、抱くなよ」

「承知しております。それにこのような宿では無粋でしょう。こんないい女、きちんと整った場所で抱きたいです」

「……ふむ、それもありかもしれぬ。主らふたりの子ならさぞや素晴らしい闇が実るじゃろう?」

「期待しても、マナ様?」

「うむ。先に存分に期待するといい、ツチイエ。ただ、今宵の調整を早く終えてしまおうぞ」

 マナが新しくツチイエに丸薬を渡し、ツチイエがサイの唇に近づける。サイは言われる前にそれを自分から起きあがってぱくりと含み、噛み砕いた。

 薬効が現れてきたのか、サイが胸を押さえてツチイエに縋る。苦しそうに息を吐くサイはだが、だいぶ落ち着きを戻しているように見えた。

 薬が馴染んだ証だった。

 ぼんやりしているサイにツチイエが新しくマナが調合した薬を与える。口移しにもすでに慣れてきたのか、サイは抵抗せず、ツチイエの舌にされるがままだった。
 そうして服薬させられてしばらく。サイの呼吸が落ち着くのを見計らってマナが問いかける。

「サイ、主が敬愛する主人は誰じゃ?」

 マナの問いにサイはぼんやりしていたのを振り払ってしっかりした口調で答えた。

「マナだ」

「では、主の敵は誰じゃ?」

「てき……、敵、敵……?」

 サイは一度では理解できなかった。マナの言葉を復唱していく。マナは焦らずに待った。そしてサイの答に満足した。いっそ二重に丸をつけてやってもいいくらいの素晴らしい答だった。

「私の敵はマナを脅かすすべて」

 サイの瞳に宿る曇りのない決意にマナは大満足だった。何度も頷き、サイを褒める。

「素晴らしい、サイ。よしよし、では、本日はこれまでじゃ。ゆるりと休むとしようかのう?」

「お布団は用意させてあります。マナ様、どうぞお休みください。サイ、お前も休め」

「わかった」

 ツチイエの命令に素直に従ったサイの心は完全にマナのモノとなっていた。ウッペのことはなにも覚えていない。サイの中にはマナとの楽しい思い出だけが詰まった。
 記憶を改変されてもそれに気づかないサイは明日のことだけ思って眠りについたのだった。

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