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悪魔の恋は『なにいろ』ですか? 作者:柳シンム

エネゼウル

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最初の生け贄


「父上、ココリエです。入っても?」

「遅かったな。ああ、入れ」

「失礼します」

 不安な気持ちに潰されないようにしながらココリエは中に声をかけ、許しをえて戸を開けた。

 襖を開けるとファバルが着々と仕事を片づけていた。速度は乗りに乗っている。やる気満々といった様子だった。

 仕事をココリエに振って自分が楽になったからと仕事に精をだすのはなにかが激しく間違っている気がしてならないココリエだったが今の重要はそこではない。

「この書はなんなのです、父上?」

 ココリエから単刀直入に問いが投げられてファバルが顔をあげる。仕事から視線をあげた王は冷たく熱い瞳。
 氷のようで炎のような瞳。父親の瞳の圧に気圧されているココリエはそれでも問いを放ったまま撤回しない。

「中へ。それとそこを閉めろ」

「……はい」

 ファバルの短い言葉にココリエは特に反抗することもなく従った。襖を閉めて父親が仕事をしている机の前に腰をおろして待った。言葉と回答を待った。

 ファバルはしばらく仕事の木簡になにか書き込みをしていたが、やがて顔をあげ、ココリエの問いに答えた。

「読んだまま、エネゼウル国王からの手紙だ」

「闇を生け贄に、というのはどういうことなのでしょうか? 簡潔にものを言っていますが理解に苦しみます」

「それもそのままの意味だ。闇属性の者をエネゼウルに寄越せ、その謝礼は相応にだすと……」

「愛すると書いてありますが、サイにとっては害することになるのではないでしょうか。生け贄だなどと、不吉な」

 ココリエはファバルの言を聞いているようで聞いていないのか、ひたすらに自分の不安を述べている。こんなにも不安そうなココリエをファバルは見たことがなかった。

 息子は今落ち着きに欠けている。それを理解してファバルはしばらくココリエが不安を吐きだすのを待っていた。やがて吐き切ったのを見て取り、口を開いた。

「エネゼウルは闇に魅せられた国で有名だ」

「魅せられた、というと惹かれたのですか?」

「そうだ。闇にこだわり、闇に固執し、あの国には闇属性以外の者はいないと云われている」

 話しはじめたファバルにココリエはなんとかついていく。ファバルがまず語ったのはエネゼウルという国の特徴について。闇に惹かれ、闇を愛している異国。
 続けてファバルが触れたのはココリエが聞きたかった、握っている書のことについてだった。

「この国が書を寄越したのはこれで三度目だ」

 それは昔々のこと。まだファバルが少年だった頃のことだそうだ。ファバルの父、ココリエにとっての祖父であるフィニアザにエネゼウルの当時王だった男が書をしたためて寄越した。

 その書には自分の後継者である娘がどうしてもということでウッペより闇をいただきたいと記されていたそうだ。

 フィニアザ王は二重に驚いたらしい。

 この戦国に娘を、女を後継者にすると他国に公言するということはちょっとした衝撃だった。
 だが、他国が誰を後継者に任じようと構わない。才覚さえあれば女は強かであるからだ。フィニアザが驚いたのはエネゼウル王女の予言にも似た言葉だった。

 書の到着より五日後にウッペに生まれる闇を宿した子が欲しい。寄越せばウッペ国のさらなる繁栄を約束すると、そのように言ってきたのだそうだ。

「父はエネゼウルの要望に薄気味悪さを感じた」

「なぜ、ですか?」

「まだこの世に命を受けていない者の持つ属性を欲したことも、それをエネゼウルに寄越せばウッペが栄える、と言ったこともすべてが不気味だったのだろうよ」

 そしてなによりも不気味だったのがエネゼウル王女の予言が当たったことにあった。城に仕える兵士の家に子が生まれた。四番目の子で他のきょうだいは光だったのにそのコは闇だった。

 それから、さらにエネゼウル王女は書を送ってきた。代筆したのは父王だったが、男の子の生誕を祝い、寄越せ、という文だった。追伸でエネゼウル王女自らが迎えにゆくと書かれていた。

 ファバルの父であり当時の王だったフィニアザはなぜか鳥肌が立ってならなかったという。

 マシーズ・エナ王女の予言、生まれた子、ウッペの繁栄。諸々を鑑みてその当時のウッペ王は恥を忍んで兵士に子を渡してくれと頭をさげた。

 当時は兵役であったその男と農家出身の妻は王のただならぬ様子に、雰囲気に負けて愛し子をエネゼウル王女に渡すと言ってくれたそうだ。

 そして、それすらも予知したようにそれは来た。
 エネゼウル王女。のちに女王となる綺麗な女の子がウッペを訪れた。そのコは本当に四つか五つかで、当時のファバルより歳は下。なのに、喋り方などは老人のものにそっくりであった。

「豪奢、というよりは暗黒を想像したような車でやってきたそのコはその赤子を一目見て気に入ったとだけ言って父に一枚、山の地図を渡してくれた」

「地図?」

「そうだ。ウッペ国内のなんでもない山だった。だから、すぐには意味がわからなかった」

 なぜそんなものを渡すのか意味不明だった。だが、数日後、その山に踏み入った鉱夫が金脈を見つけて仰天した。結果、ひとの子ひとりを贄にした代価には恐ろしい大金の山ができた。

 ウッペはその時、金策で困っていたので恵みの雨のようであったが、同時にフィニアザは不安がこみあげてならなかった。渡さないと言っていたら、その山は顧みられることもなかった。

 そのままなんの変哲もない山で終わっていたし、ウッペは破滅への秒読みをせねばならなくなっていたかもわからない。それを思うと不安でならなかった。

 あの娘は、マシーズ・エナはウッペの一瞬を、刹那的弱点をついてきたような気がしたのだ。

 だから、もしかしたらあったかもしれない逆の可能性を考えて恐ろしくなった。

 だが、それでも考えていてもどうにもならないからと、フィニアザは多少の不安を残しつつも十年後、ファバルの兄、長男のフォノフに王位を譲った。

 もう今生で不気味なあの手紙を再び見ることもないだろうから、と楽観視して、少しだけ安堵してフィニアザはフォノフに王位を渡して隠居した。

 隠居してしばらくはアザミとファバルがもうけたココリエを甘やかすのに楽しくすごした。

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