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悪魔の恋は『なにいろ』ですか? 作者:柳シンム

エネゼウル

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プチ絶望と謎の木簡書


「サイ、嘘だ。これは嘘で夢だ」

「現実である。諦めろ」

「そんな、殺生だ、サイ……っ」

 サイの無情な発言にココリエは両手足を床について沈み込む。全身で絶望を表現してくれた。

 見物しているサイは久しぶりに青年と口を利いた気がしていた。それが原因なのか、なぜか異様にココリエの反応ひとつが面白い気がして微笑んだ。

 それは少々アレだったがまさに変な生物扱いであり、笑えてならないものだった。
 一方でサイから、もっと正確なことを言えばファバルから送られてきた仕事の量に絶望するココリエは女の笑みに気づかない。ひたすらに落ち込んだ。

 ちょっとだけ、舐めていた感があった。いくらなんでも加減してくれるだろうと。元々は自分の仕事。それを息子にそこまでの量を押しつけないだろうと。だから、絶望はより深かった。

「そろそろ現実逃避はやめにしてはじめよう」

「サイ、だが、だがっ」

「今日全部ではない筈だ。期日が迫ったものから終わらせてあとは後日にまわす。とりあえず夕暮れの、夕餉の時刻までやる気をだしてくれるとよいのだが……」

 なんならサイは憐れなココリエに代わって仕事をしてもよかったがそうすると字の雰囲気が違うのでセツキが怒るかもしれない。どうでもいいことは、雑事はサイがやっても別にいい。

 だが、国を左右するような決定項はやはりココリエに判断してもらい、仕事をしてもらわねばならない。そうするとやはりココリエにも仕事をしてもらわねば。でも、無理は言いにくい。

 しかし、サイがどうしたものかと思っているとココリエがのろのろと起きあがった。ようやく精神に響く打撃から復活できたらしい。机まで歩いて、仕事をはじめる。

「……」

 サイは懐に入れているものについて悩んでいる。仕事をしなければならないし、ココリエの仕事をこんなことで邪魔するのも憚られた。だが、他の人間には話しにくく、言うべきでない。

「ココリエ」

「ん~、どうした、サイ?」

「ちょっとだけ変なことを訊いてもよいか」

 ココリエに変なことだと断ったサイは懐からファバルにもらった木簡を取りだした。
 これを見てココリエは露骨にいやそうな顔をした。ファバルがまた面倒事をたっぷり書き起こして寄越したと思ったようだった。木簡を臭いものを見る目で一瞥。

「読めと言われて読んだはいいが理解に苦しむ内容でな。よかったら説明してほしい」

「? 父上に訊けばよかったのではないのか」

「うむ。ファバルは私には説明するのがいやらしい」

 サイの言葉にココリエは驚いた。

 ファバルが解説を拒否したというのはなぜなのかわからない。簡単なことの筈だ。サイに理解させるのはたしかに面倒かもしれないが、それでも困っているのに助けてやらないのは変だ。

 それにサイに説明するのはいやだ、というのはなんだかそれだけで引っかかる。
 それは穿てばココリエが質問に来れば答えるということにも取れる。意味不明だった。

 不審に思ったココリエはサイから木簡を受け取って父親が寄越した仕事の山を脇に避けた。
 解かれたままの封を外して木簡を開く。軽やかな音がして木簡が開き、ココリエは目を通しはじめた。

 読みはじめて一行目には季節の挨拶が書かれていたのだが、次の行には驚きの単語があった。
 思わず、口にだしてしまうくらいには衝撃だった。

「い、生け贄を捧げよ……?」

「うむ、どうだ? イミフであろう?」

 サイお得意の変な単語だったがココリエは勝手に脳内で『意味不明』と訳して続きを読んだ。

 短い手紙だったがかなり衝撃的なことを言っている。
 続きには次のようにあった。

「貴国の闇を差しだせ。なれば貴国に永久とこしえの繁栄を約束しよう。謝礼は別に、相応に用意し、我が望みし闇には特別の待遇を与え、大切に愛すると約束しよう」

「意味がわかるようでまったくわからぬ。ウッペの抱える闇とはなにか、後ろ暗い秘密を愛するのか?」

「サイ、これはそうじゃないぞ」

 ココリエはまずサイの勘違いを解きにかかる。

 たしかに衝撃的な言葉で脳に打撃を与える書だがそれでも落ち着いてひとつずつ解読すれば言っていることはそんなに難しいことじゃない。むしろ簡単な方だ。

 だが、サイには少々内容が不可解なものだろう、とは思ったし、ココリエは書に不吉さを感じた。サイに説明しながらそれをより一層感じた。

「これは国の暗い秘密が知りたいのではなく、国が抱えている闇の者を人身御供の如く寄越せ、と言っているのだ」

「ひとみごくう?」

「うーん、本来は神に捧げる、供え物になる人間に使うのだが。……そうだな、生け贄、犠牲とでも言えばいいのだろうか? まあ、要するにウッペ国に住まう闇の人間を贄に寄越せ、だ」

「ふむ、それはつまり私、ということか?」

「……ぇ?」

「いや、闇だから。私の知る限りこの国の闇属性は私ひとりではないか? つまり、ファバルは私に贄になれと?」

 ココリエはサイの言葉に衝撃を受けた。王子は思考回路が一瞬だけこんがらがった。

 サイが、好きな娘が、惚れ込んで、半分以上溺れかけている大切な命が……生け贄になる?

 ココリエはもう一度手紙を読み直してみた。
 内容は変わりない。

 だが、先ほどはつい見落としていた差出人の名前に目が留まった。それは優雅な字体で名を綴っていた。
 エネゼウル国、国王マシーズ・エナ。

 エネゼウルといえば最南端に浮く離島の国。半分くらい桜蕾おうらいじまとは異国の扱いを受けている国。書はウッペと遠く離れている南国の王から届けられたものだった。

 それは相も変わらず言っている。生け贄を寄越せ、ウッペ国の抱えし闇の者を寄越せ……と。

 サイの理解と言葉にココリエは硬直してしまった。
 受け入れ難くて固まった。

 大切な者が余所の国にいってしまう。

 それも生け贄として去ってしまう。そんなもの、受け入れられるわけがなかった。
 サイの確認に答を返さなくてはと思うココリエだったが、どうしても声がでない。

 なのに、サイは自身のことで不安にさらされているだろうにココリエの青い顔を見て、今は訊くべきではないと思ってくれたのかココリエの机から自分にできる仕事をさらっていった。

 最後はココリエの確認の判がいるが、まとめることはできる。ココリエが謎の書と向きあえる時間をつくるのにサイはサイのできることをしてくれるようだ。

 本当に恐ろしく気遣いができる娘だ。

「すまん、サイ。少し外す」

「了解した」

「わからないところがあったら」

「セツキに訊く。承知している。ゆくといい。私に話すことができれば教えてくれると嬉しい」

「わかった」

 サイにひとつ返事をしたココリエは木簡書を抱えて自分の執務室をでていった。この時刻だ、昼寝をしている者もいるので極力足音を立てすぎないようにして走る。

 二階の奥から廊下をずっといき、回廊にでて一番の近道で最上階にあるファバルの部屋を目指す。

 途中で仕事を終えたケンゴクに出会って再挑戦にサイと組みたいがどこにいるか知っているかと尋ねられたが、ココリエは彼女、サイは今、急な仕事中だからと断って急ぎ足で先へ進む。

 階段をあがり、渡り廊下を通ってその部屋が見えてきてココリエは緊張した。

 第一に考えたのは書が冗談であることだった。

 第二に考えたのは書の言っている闇がサイでない可能性だった。ウッペで新しく生まれた命もある。それが闇である可能性を考えたのだった。

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