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悪魔の恋は『なにいろ』ですか? 作者:柳シンム

エネゼウル

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残酷な言の葉


「ココリエには冷たくしているようで感心だが、まだまだぬるいし、甘いぞ、サイ」

「以上などどうしていいかわからぬ上に心が反発する。無意味な悪意はかなり傷つくものだぞ」

 いつも無意味な悪意を向けられ、突きつけられてきたサイにとってそれを自分がするのは苦痛だった。したくないことをしなければならないのはひどく悲しい。

 ココリエに罪はない。わかっていて、知っていてサイは冷たくすることが苦しくてならない。

「ココリエが、ということか?」

「他に誰がいる」

「いや、傷つける側がより傷つくことも場合であるものだからな。まあ、そなたが傷つこうとどうでもいいのだが」

「同感だ、ファバル。で、何用だ?」

 何用かと訊いたサイは緊張していた。ファバルの背中は微妙なところだったがかすかに殺気立っている。部屋でココリエに押しつける仕事を振りわけながら王はため息。

 王はすぐには答えない。しばらく無言で仕事を割り振っていく。サイの視線を背中に感じつつ、ファバルは仕事を整理していたがやがて口を開いた。声にはたしかな棘。

「カヌーはなぜそなたの死を望む?」

「知るか。私にいかれ頭の考えなど解せぬ」

「私にもわからぬが、そなたは当事者だろう。片鱗くらいは捕まえているのではないか?」

 ファバルの言葉はサイの心に棘を打ち込んだ。死を望まれている。それがどれほど心に負荷をかけるかファバルは知っていて言った。残酷に言い切った。

 そしてさらにファバルはサイを追い討った。サイはサイ自身が死ななければならない理由に心当たりがあるのではないのか、と。惨いことをそうと思わず口にしたファバルの声は冷たい。
 北国の水のような冷たさ。それも冬場の冷え込みで冷え切っているファバルの声はサイに新鮮な痛みをつくった。

 ひとりで凍土にいるような錯覚。サイはひどく傷つきつつも平静を装った。他人に弱さを見せられない弱さでサイはひたすらファバルの声の圧に耐えた。

 カヌーの存在がすべてを壊した。カヌーの出現と言葉、さらにはまわりを巻き込む非情さがファバルに要らない疑念を抱かせてしまったようだった。

「サイ、そなたは死ぬべきか?」

「知りえぬ」

「そなたが死ぬと私たちに得はあるのだろうか?」

「処分したいのならばそう言えばいい」

 ファバルの質問にサイは投げやりに答える。サイが生きることに疑問を持った時点でファバルはサイの敵だが、雇い主なのでサイもおもてにそれをださない。

 それにそう、死ねと言われたことは変わらない。

 惨死を望まれてしまったことは覆しようがない。カヌーが何者か、実際のところは知れない。
 カヌーはサイにとってただただひたすらにサイの死を願っている死神でしかなかった。

 死を望まれた。それを受け入れて進むよりほかの道はない。自殺することはもはや高望みなのだから。そんな楽な死に方はもうサイに許されないとカヌーは言っていた。

 だからサイは歩き続けるしかない。歩く以外の道がわからない。それは悲しい無知だった。

 ただ、救いでもあった。なにも考えずに歩くことで気が紛れる。それだけが今のサイにある幸福で救い。それだけを握っている。サイは他を握ることを諦めている。

 まわりに転がっている幸福を見ないフリで命を守る。

 ファバルはため息をひとつ。サイに机の上の木簡を投げた。受け取ったサイはココリエへの手紙と判断して懐におさめようとしたが、ファバルが言葉で女の行動を止めた。

「読め」

 たったの一言だった。だが、そこにファバルの嫌悪と侮蔑があった。蔑みの音だった。

 サイはそのことに突っ込まない。ファバルに自覚がなさそうなのでわざに突っ込まなかった。
 突っ込みを控えたサイは言われた通り木簡を開いた。そこにはなにか難しげな言いまわしで言葉が綴られていた。

 読み進めていくサイは途中からわけがわからなくなってしまった。書かれていることはまあ、ファバルが寄越したにしては簡潔だったが、それでも思わず目を疑う。

「ファバル、これはどういう」

「そら、仕事だ。終わったらいつも通りセツキに」

「それよりこれはなにか」

「そのことに関しては私であっても口だしできない。来ると言ったら必ず来るやつだからな」

「顔見知り、なのか」

「そなたには関係ない。気になるならココリエに渡せ。ココリエにならば話してもいい」

 サイには関係ないし、話して聞かせてやるつもりは一切ない。ファバルの断固とした言葉。

 サイは一瞬だけ悲しむように瞳を揺らしたがすぐにファバルから大量の仕事をもらって部屋を辞した。

 しばらくサイがでていった出入口を見ていたファバルはすぐ机に向かった。
 自分の仕事が半分以下になったのでやる気がでたようである。息子に仕事を押しつけてやる気をだすというのもかなりどうかと思われるが突っ込み役は不在。

 筆を手に取ったファバルは筆の毛先から零れる墨を見てふう、とため息を吐く。

「今や戦国の柱。なるべく渡したくはないが」

 独り言を呟くファバルは仕事を進めるでもなく、墨の滴りを見つめている。声には残念さ。

「これも、あの娘の抱えた運命さだめ……か」

 ぽつりと零された音。ファバルの声は憐れみと残酷さが同居していて凍える冷たさだった。

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