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悪魔の恋は『なにいろ』ですか? 作者:柳シンム

トェービエ

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愛するが故の脅迫


 しかし、音は立てられることなかった。上座にのんびりと座しているセネミスの胸倉が掴まれ、持ちあげられる。怒りで赤くゆだったウッペ王子がトェービエ王女に掴みかかっていた。

「ココリエ様!」

 とんでもない無礼だった。同盟でなく、しかし明確に敵国でもないと表明しているトェービエの王族に掴みかかるなどと無謀もすぎる行為である。

 ココリエの暴挙にセツキが恐れを孕んだ声をだしたがココリエは構わず、気に留めなかった。
 サイを想う一心で王女に掴みかかったココリエには相手の立場も持ちあわせている特殊な才能もなにもかも関係なかった。それは行動を制限する障害ではない。ほんの少々のことで瑣末。

 セネミスの呪う力を瑣末として処理したココリエはある意味正常でない。そこには狂おしいほどの想いのみ存在していた。サイというたかだか傭兵の娘を想う気持ちだけ、そこに在った。

 掴みかかられているセネミスはココリエのあまりの形相にぽかんとした様子だったがすぐにお手あげとした。

「参ったね、ココリエ。はいはい、わっちの負けだ」

「だからどうした!」

「そう荒ぶるんじゃねえよ。おめえ、見た目に似合わず暑苦しいところがあるみてえだな」

 呆れ返った様子のセネミスがココリエを振りほどこうとするが青年は放さない。王女の着物を絞るように握りしめて首をほとんど絞めかかっている。

「ちょ、待っ、放せ、会わせてやるから放しやがれ」

「生きているサイに会わせろ。さもなくば、殺す」

「ぐッ、この、参ったっつってんだろ。いいから放しな。でねえと永遠に会えやしねえだろっ」

 主張するセネミスの声は正しいことを言っている。

 だが、ココリエは納得せずセネミスをさらに締めあげていく。これにはさすがのセネミスも焦った。このままでは絞め殺される、と。命の危機を感じた。

 セネミスの美貌にだんだんと血の赤が顔色として現れてくる。それでもココリエは例え戦士でない女でもサイを害しているこの一点でセネミスに遠慮を持たなかった。

 遠慮一切なく女を宙吊りにして首を絞めて脅す。

 その姿はセネミスが城下町で見た青年とはかけ離れている。物腰柔らかで軟弱そうなココリエなのに、サイのことで、サイの安否を気にして我を忘れている。

 セネミスを実力行使で脅す青年は噂に聞いただけだがイハナサの獄卒並みに凶暴だった。ただ、それはそれだけサイのことを大切に、大事に思っている証。

「ぁ、く、わかった。会わせる、会わせ、るから」

「……絶対だな?」

「ぐぅ、あ、ああ、う、解呪、方法も、教え、る……から。だから、は、放し……息がっ」

 いよいよ呼吸が妨げられて窒息死する。セネミスが暗くなっていく視界で必死にココリエに訴える。セネミスの訴えに、命に救いをこいねがう声にココリエはしばらく黙ったままだったが、やがて手を開いて女を放した。王女の体が床に落下し、衝突の前にセツキが助ける。

 ウッペの武将頭、本来なら慣れあわない筈の男に助けられてセネミスは咳き込む。それくらいココリエの力には遠慮も加減もなかった。いまだにセネミスを冷たく睨む。

 ココリエに睨まれてセネミスは美貌をひきつらせたが、セツキの手を借りて立ちあがった。
 立ったセネミスをココリエはやはり冷たく見つめる。

「サイはどこだ」

「……サイはミスミミソギ湖、ボショの森にある湖の底に沈めてある。かろうじて生きている」

「かろうじて、だと?」

「わっちにはわっちの方でいろいろと事情があるんだ。カリカリすんじゃねえよ、畜生めが」

 ココリエの険しい顔にセネミスは悪態をついた。

 だが、女は青年に再び絞められないようにセツキを盾にするように男の陰に隠れた。盾にされた男は憤り、激怒しているココリエを刺激しないように宥めの言を吐いた。

「ココリエ様、セネミス王女を締めあげ、えられるものはありません。セネミス様、その湖まで案内していただけますね? それと、解呪方法を教えていただきたい」

「ふん、さすがに大人だな、セツキ」

「ただし」

 セツキの態度に感心していたセネミスにセツキは念の為とばかりにそれを言っておいた。
 冷静なつらの男は静かに、さらには冷酷に言った。

「かろうじて生きているサイがもし死んだ場合、あなたに彼女のお供をしていただきます。嘘は吐きめさるな」

「こ、この鬼畜共がっ! おめえらそれでも玉ついてんのか!? 女脅して楽しいか!?」

 セネミス王女の口から王族とは思えない乱暴な言葉が飛びでる。玉、などと普通の王女ならば聞くことも耐え難いだろうに緊張と焦り、恐れから女は下品にも口にした。

 だが、セネミスの蔑みの声に男ふたりはなにも思うことがない。ふたりの心はただひとりに囚われ、そのひとりの為にのみ在った。その為だけにここへ来たココリエたちには余裕がない。

 サイを案じすぎるあまり凶暴で凶悪になっていた。いやな者が訪ねてきたものだとセネミスは冷や汗をかいたが、これ以上ここでぐずぐずしていては本当に殺される。

「けっ、ついてきな」

 吐き捨ててセネミスはウッペの男たちを案内するのに煙管を袖口にしまった。と、そこで王女も先に言っておこうと思い、それを口にする。一種のそれは保険だった。

「解呪方法は一歩手前までしか教えられねえから、使ってねえ脳味噌も絞る気でついてきな」

「どういうことですか?」

「術の悪作用さ。解呪のすべを全部吐いちまうと呪詛が永続化しちまう。それくらい強力な呪を依頼された、と思いな。言ったな? わっちにも事情があるんだ」

 言うだけ言って、セネミスは部屋をでていく。ウッペのふたりは黙ってそれについていった。

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