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悪魔の恋は『なにいろ』ですか? 作者:柳シンム

トェービエ

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黒巫女王女と闇


「ふむ、なかなかに野宿を堪能しているね」

 トェービエ国奥地。シラヌイ山を先に進むとネンシの樹海が広がっている。カエレヌの崖の先へ広がる樹海を遠くに臨むことができる場所にそれは建っていた。

 トェービエ城。城はまま開放的であってもどことなく昏くて陰鬱な雰囲気がただよっていた。

 陰鬱な城内でもその奥はさらに陰鬱な雰囲気である。特にそう、第二王女セネミスが使う特別な儀式部屋は奇妙な刺激のある香が焚かれ、様々な儀式の道具が置かれ、異質な空気がある。

「しかし、呪いを発動させて、こんな短期間に三回たぁやるじゃないか。渋ったわりに想いは純粋らしいね」

「……」

「そうは思わねえか? ええ、クズ野郎」

 王女にあるまじき言葉が飛びでる。特殊な儀式、呪いの部屋中央にもうけられた儀式台の前にセネミスはいたが、彼女はひとりではなかった。

 部屋の中央で呪いの儀式を執り行っているセネミスは道具類から目を離さずに暗い部屋の闇に意識をやった。

 そこに招いていない、勝手に侵入してきた者がいた。

 トェービエ城どころかセネミスの、特殊な結界が張ってあり家族であっても入れないこの第二の自室に無断で入られたことに女は不満でいたくご立腹だった。

「ぬるくはないか、セネミス王女?」

「バカをお言いでないよ、これ以上強力な呪詛は他にはないさ。だいたい、黙って見ているだけのクセに口だしするなんざ、どういう不躾だ?」

「不躾? 俺の要望は叶えるべきだ」

「クソのように傲慢だな、おめえ。サイはまだ可愛げがあるが、おめえは本物のゴミ臭ぇ。わっちはそういうのが大嫌いだ。が、こっちの利の為に堪えてやるよ」

 セネミスの言い分に闇の中で誰かがうっすらとだが、声をあげて笑った。そこには歓喜と嘲弄がある。

 闇にひそんだそれは男の声で、金属が軋むような声だったがどこか深みがあった。セネミスは忌々しそうに声を耳から追いだし、無視するように努めた。

 無視して儀式を続行する。

 女が扱っているのは呪術の中でも特に扱いが難しいもので、条件を以て最初に呪った者の体内で呪を増幅させ、それを解呪者に移していく呪い。

 この方法で呪った場合、通常の呪い以上に解呪に携わった者、最終的な標的で獲物は先に呪われた者、呪いの宿主以上に苦しみ、やがて弱っていく。

 弱り切って動かなくなったら、最後の転送が終わったならあとは仕上げをしてしまえばそれで呪は完成される。これを解ける者はいない。いなかった。

「面倒臭ぇなぁ」

 セネミス王女がこの呪詛を使った事例は片手で数えるほどしかない。難度もそうだが衝動だ。

 この呪詛を使って徹底的に苦しめてやりたいと思わなければセネミスはこの呪を行使しない。

 今までの事例を見ても、セネミスか、彼女の現在唯一の肉親である父が愚弄された時に使った程度だった。

 ネビテア王を宿主にして彼の妻、セネミスの記憶がたしかなら三番目の側室を呪ってやったことがあった。

 女は甲斐甲斐しく夫である男の世話をし、自身に呪詛が移ったと気づいた時にはもう手遅れだった。

 ただ、セネミスは呪詛を完成させず、そのまま苦しめ、苦しめて苦しめて極め続けた。

 そして、女が発狂して自殺したのを高笑った。ネビテア王はこの時になってようやくセネミスの呪詛力を侮ったことを後悔し、彼女の父を愚弄したことを詫びた。

 その一件以降、ネビテアは消極的になった。隣のトェービエ国にいる黒巫女に怯え、北国最大の都と国を有するオルボウル国王に怯えた。八方塞がりの国を思考から消し、セネミスが背後の闇に不毛と思っても問いを投げた。

「無駄だと思うが訊いとくぜ。なぜそうまでして、こんなズタズタに引き裂いてまでしてサイを呪いたがる?」

「……」

「ありゃあ、もうすでに呪われてやんよ。それも人間には不可能で不可解なほど強力にな。そこにさらに呪詛を重ねるのはわっちも難しい。だからこそ手間を取った」

「……」

「あの娘、素直でいいコだと思うが、どこでどうしたからそんなにおめえの琴線に触れてんだい?」

 セネミスの問いに闇の中にいる声は沈黙。なにも答えない。これにセネミスはなにを言うでもなくため息。

 セネミス王女は理由などなにも知らなくてもいい。そう言わんばかりの闇に王女はため息をもうひとつ。セネミスはサイが憐れだった。一目見てわかった。

 ――あのは、もう助からねえ。

 長年、二十年近く呪詛を取り扱ってきた。

 父親の話ではセネミスは歴代のどの黒巫女よりも早くに呪を使いだしたと言っていた。

 それこそ赤子の頃からぐずって呪を使った。

 そのセネミスがどんなに見立てても結果は同じ。

 サイが元々持っている呪いは強烈すぎる。呪われているサイ自身、そしてまわりにも不幸と不吉を散らしている。

 あの呪いはそう遠くない未来に必ずサイの体と言わず心を破壊し、殺す。傷は魂にまで及ぶかもしれない。それなのに、今そのサイには別の呪いが構築されつつある。

 憐れでならない。

「恨むんじゃねえぞ、サイ。わっちも守らなけりゃなんねえもんがあるんだ、おめえのように」

 独り言を呟いたセネミスは新しい指示式をつくって、段階にあわせた呪詛の儀式を重ねていった。

 重ねて織られる呪詛はもはや知識のある者にすら不可解なほどに膨れている。セネミスですらひとつひとつ思いだしながら、ひとつずつ呼吸を置きながらやっている。

 セネミス王女はサイを憐れに思ったが自分の守るべきものの為に高度で強力な呪詛を難解にしていく。

 解呪者に移ったが最後、最期となるように仕向けていく王女の背後で闇が口角が吊りあげて邪悪に嗤った。

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