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悪魔の恋は『なにいろ』ですか? 作者:柳シンム

トェービエ

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露営地の緊張


 トェービエ。シラヌイの山麓に激しい爆発音と怒号、金属の悲鳴が響き渡っている。

「へたに動くな! あの爆裂に巻き込まれちゃ洒落にならねえ! 足下に注意を払え!」

「応っ!」

 この国に見慣れない人間たちがシラヌイ山の麓で何者かから襲撃を受けていた。

 爆発音がして地面が破裂し、爆裂で散った鉄片が襲撃されている人間たちが着た若葉色の、あるいは鉛色に白い鎧に突き立っていく。鉛色と白の鎧は特別に頑丈なのか、鉄片はほとんど刺さらず弾き返された。それでも誰もがみなへたに動けないでいる。

「セツキの大将、ご無事で!?」

「私のことよりも一大事はココリエ様です」

「ですが、今はサイに任せるよりほかありやせんぜっ? ったく、いつの間に誰が仕掛けやがったんだか」

「わかりません。拠点をつくった時、そして昨晩に限ってサイにずっと寝ずの番をしてもらっていました。仕掛けることは不可能なのです。……唯一の、可能性を除いて」

 セツキ。ウッペの鷹がいかにも苦そうな表情をして煙の向こうを睨んだ。黒鉄くろがねの瞳は最悪を思案する。

 最悪と、悪を考えるセツキだが、悪の可能性は限りなく低く、底についてしまいそうなくらいに低い可能性。
 それに比べて最悪の方の可能性は限りなく高く、頂点を突き破ってしまいそうなほど高い可能性である。

「セツキの大将、なにをお考えです?」

「ケンゴク、あなたはどうです?」

「……言いたかぁないですが、サイの意見が正しかった、ってところなんでしょうかねえ」

「やはり、そう帰結しますね」

 サイの意見が正しかった。それはそう、この拠点にやって来た時にサイが言っていたこと。女戦士の危惧。

 彼女の憶測が正しかった。慎重に物事を推し量って考えるサイの意見にもう少し耳を貸しておくべきだった。

「トェービエの連中が地中に爆薬を仕込んでやがった、ってことで結論づけていいっすかね、これ」

「他に考えようがありません。数日も埋めておかなければサイの犬並みの鼻が爆薬のにおいを察知しますから。事前の準備がなければ難しい、いえ、まず無理です」

 ウッペ国の武士もののふたるふたり、鷹と虎が考えついたのはたったひとつの結論でおそらくは正解。

 サイが持っていた疑念。トェービエの騙し討ち。

 トェービエはウッペの演習に便乗して、ウッペの王子を誘拐することを企てた。

 だが、それはいったいなんの為に? そんなことをしてもトェービエにはなんの得もないばかりか、騙し討ちをしたことで各国に緊張が走ることになる。

 正々堂々とりあう国ばかりではないが、それでもたいがいの場合において、この戦国に、この島国の戦士たちに騙し討ちのような真似をする輩はいない。

 そんな真似をすれば、境を接する国との関係にすら影響する。影響が悪であるならば負債となる。

 そんな率の悪い賭けをするアホはそうそういない。

 なにか、目的がなければおかしい。演習にやって来たウッペ国を襲って王子を誘拐することになにがあり、どのような目的が隠されているのだろうか。

 到底、わかりえない。

「どうやら、起爆は手動のようですね」

「へ?」

「重さを、人間の体重などを感知、とも思いましたが、それならばここに来た時点で発動しています」

 セツキの言葉が現状をより正確に把握していく。爆発が何者かの任意ならばそれを行っている誰かを見つけるか、地雷が仕掛けられた域から逃れるか、すればいい。

 誰が起爆のきっかけを握っているかわからない以上、簡単なのは爆域から逃れてしまうこと。

 ならば、誘爆も起こっていたようなので今までに一度でも爆発を起こした場所を抜ければあるいは……。

「ケンゴク、全方位の盾を。一点を抜きます」

「へい!」

 セツキの指示でケンゴクは盾を生成。それは圧巻のものだった。まるで甲殻類の鎧であるかのようなその盾は盾というよりはひとつの要塞であるかの如く現れた。

 ずしりと重たい盾を身に纏ったケンゴクの足が雨を吸ったまま乾いていない地面に深く食い込む。

 なのに、大男は重量を感じさせない機敏な動きでココリエがいた場所、サイが追って姿を消した一点を通過した。

 巻き起こる爆発。

 一発あがったのを合図にしてあちらこちらで誘爆が起きていく。再び砂塵が視界を潰した。

 しばらく経って爆発がおさまる。連続の爆撃が終わったのを確認してセツキが顔の前に掲げていた手をおろす。

 これ以上の爆薬はない筈。あるとしたら手管のひとつにしても陰湿にすぎる。

 セツキはそれでもしばらく追加の爆薬が破裂しないか警戒していたが、辺りはしんと静まり返っている。セツキはケンゴクの背に続いて、サイが消えた方へ進んだ。

 ケンゴクも盾を解除して、セツキに続こうとするがセツキの手が止める。鷹の目には厳しさ。

「まだです。あなたはここに残って負傷者の手当てと警戒を。私はココリエ様とサイを追います。無事だといいのですが。ココリエ様は特に、様子がおかしかったので」

「セツキの大将、おひとりでいかれるので?」

「私の心配は無用です。ここを頼めますか?」

「それは構いませんが、けど、大将? 敵国ですぜ」

「なので、一刻も早くココリエ様の無事を確認しなければなりません。まあ、サイがついているので滅多なことにはならないでしょうが……」

 滅多なことにはと零したセツキは露営地のあとをケンゴクに任せて自分が集落で借りて乗ってきたイークスを駆って消えたふたりを追跡に動いていった。

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