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悪魔の恋は『なにいろ』ですか? 作者:柳シンム

シレンピ・ポウ

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プレ尋問


「あなたはカシウアザンカの間諜ですか?」

「……いきなりイミフ。頭が沸いたか?」

 チェレイレ王妃のファバル暗殺計画がサイの体を張った妨害で失策に終わり一日と半が経過。

 午前の陽が午後に差しかからん時刻になり、ファバルを庇って重傷を負っていたサイがやっと目を覚ました。

 そこまではよかった。目を覚ますまでは普通だ。だが、回復が早すぎた上に冗談にもならない事態だった。

 トウジロウの刺突を受けてサイは重傷を負った。

 息絶えてもおかしくはない大きな傷で大変な出血であった。なのに、目覚めたサイの腹に傷はなかった。

 肌色は少々青かったが、元々が色白な彼女の基準で言えば充分に健康的な肌色、血色である。

 最初は城の薬師くすしが、ハチが診たのかと思った。なのに、見舞いの者に女は変なことを言った。

「夢かもしれぬが、誰かが治してくれた」

「寝言は寝て言いなさい」

「夢かもしれぬ、と言っている」

「現実に傷が治っているのになにが夢ですか。へたなのですから誤魔化さず正直に本当のことを言いなさい、サイ」

「うるさい、セツキ。朦朧とした夢の中で、顔も見えないままでは夢かもしれずと思ってなにが悪い」

 サイとセツキが口論する。

 いつものことだったが、いつも以上に白熱していた。サイはいきなりセツキに間諜を疑われて機嫌が悪くなり、セツキは焦りと緊張から激しく問い詰めたい。

 そんなふたりでは喧嘩腰になるのも必然であった。

 ふたりのそばに座っているココリエは苦笑以外にすることがない。サイの主張を信じてやりたいが突拍子がなさすぎるので庇えない。場合で飛び火する危険がある。

「だいたいなにか。カシューナッツ? 私はおつまみに浣腸されるのか? 血まみれになるだろうが、バカ」

「サイ、かんちょう違いだ、それは」

 とりあえず、ココリエは女のちょっとばかし下品な勘違いに突っ込んでおいた。

 かしーなっつ、というのがなにか、ココリエにはわからなかったが、サイはおつまみと言った。

 なので、肴の一種なのか。海外には変わった名前の肴があるのだな、と思った青年にセツキが突っ込む。

「ココリエ様、サイのボケに付き合いめさるな」

「いや、そういうつもりがあったのでは」

「サイ、カシウアザンカです。バカでもこれは知っているでしょう? 観念して吐きなさい」

「意味不明じゃ、ボケ」

 セツキの詰問にサイは暴言で返した。

 すっぱりとセツキの問いを切り捨てたサイは血まみれたままのショーツに若干気持ち悪そうにしたが、ここで下着を脱ぐなどお変態様なのでどうしようもない。

 布団から起きあがっている女は座ったまま、ぐぐっと伸びをした。口からは欠伸がでる。一日半ずっと眠りこけていた筈。欠伸がでるのは謎。でも、サイは欠伸を噛んだ。

 欠伸を噛み殺した女戦士は自らの腹を撫でて心底不思議そうに首を傾げた。瞳には疑問と記憶をたどる色。

「アレは、女だと思う」

「なにの妄言ですか?」

「知らない女の指が腹に触れて、そこから急に温かくなって、痛みが完全に引いていったのだ。癒しのなにかだ」

「妄想もそれくらいになさい。そのうち幻覚作用がすぎ、花畑にて愉快に蝶を追うようになりますよ」

「お前、失敬すぎる。セツキ」

 言いながら、サイは自分の腹を撫でる。

 寝間着の上からでもわかる。

 深かったあの刺傷が完全に癒え、すっかり消えていた。なのに、夢に誰かが癒しに来たというのは無理がある。

 これがサイの特殊な能力かなにかで自己治癒能力が極度に高いなどならば、セツキもここまで言わない。

 そもそもは見舞いに来ているのだ。尋問しに来たのではない。ああ、でもそれなのに、サイの阿呆な発言でセツキは要らない疑念を燃やされたご様子であった。

 プレ尋問と化しているそれにサイは首を傾げまくった。

 まず、第一に『カシウアザンカ』という国名すらもサイは聞き覚えがなく、知らなかった。

「この国の医療を支えるお国でしょうが」

「でしょうが、と言われても知れぬ」

「もしや、最新式の記憶操作による密偵呪? 都合の悪い記憶だけを封じておくような……」

「なにをぶつぶつと。セツキ、不気味である」

 サイの突っ込みにセツキは反応しない。華麗にスルーしてみせた。サイの理解力がないので、セツキは仕方なくカシウアザンカについて説明してみることにした。

 医療大国、カシウアザンカ。ここに戦の火種を持ち込むのは相当に頭が悪い。戦国の医療を支えている。すなわち戦国乱世を陰で支えている国。重要な国だ。

 この国には多くの国から要人が集っている。そのほとんどが療養目的か、健康診断に赴いている。

 なので、カシウアザンカに喧嘩を売る、とはカシウアザンカに集っているすべての国を敵にまわすに等しい。戦国のほとんど全国が敵になるだなどと愉快すぎる。

「その医術、あなたはカシウアザンカの間諜なのですよね? でなければ説明が」

「己の脳は腐っているのか? 私は気づけばウッペの樹海に捨てられていたのだ。思いだせ、アホ」

「その言い訳にいい加減飽きるべきですね、サイ。聖上もおっしゃっておいでだったでしょう。そのような妄言を鵜のように飲んでくれる者はいない、と」

「……ぬ」

 ある意味で正しいファバルの言葉の前ではサイも口を閉じるしかない。たしかに主張しているサイにしても妄言というかくだらなすぎて笑えもしない。

 ――……ま、笑ったやつからしばくが。

 サイが内心で物騒なことを考えているとセツキが続けるように治癒の呪を簡単で利便性に優れた呪と勘違いしていないか? と、サイに目で問いかけた。

「私たちも治癒呪に関してはカシウアザンカにて、俸禄の一年分を支払って手頭から教えていただきました」

「……お前の俸禄がいくらか知れぬが、高っ、ぼったくりか詐欺か陰謀だろう、以上」

「その高価な治癒呪を、それも専門性に優れた特殊な呪詛式での呪をなぜあなたが? と、訊いているのです」

「知るか、と言っているだろうが。頭悪いぞ、セツキ。きっと腐っているのだ、捨てるか死ね。セツキの説教撲滅に賛成意見を一票投じる。な、ココリエ」

「へ? 余、余も?」

 セツキ滅しろ、と負の祈りを捧げるサイに誘われるココリエがちょっと引く。サイには前々から暗い部分がある気はしていたが、暗黒すぎる。それに、その呪いに参加するだけで説教されるとわかっているのだろうか? 自爆か?

 だが、サイは内心で呆れるココリエなど意に介さず、セツキと睨みあって真正面から真剣に呪詛を送っている。

 ……怖っ。

 取り成そう、サイは病みあがりだから、と言って双方共に宥めようとしたココリエだが、この様子では叶いそうもない、叶わない願いなのだろうなー、と思われた。
 サイは完全にる気でいるし。セツキもサイに鷹の目を向けて威嚇している。悪魔と猛禽の勝負などこんな機会でもなければ拝めない……って、違う!

「ふたり共待て。こんなところでそんな気をだすな。万が一にもルィルが気づいたらどうする?」

「それは」

「……今、想像してみたが、いろいろな意味で惨状になりそうな気がする。アレはダメだ」

 真顔で、いつもの無表情をほんのかすかに歪めたサイは普通にルィルシエをアレ呼ばわりした。

 一国の姫である筈なのに。その上さらにダメ扱い。

 セツキの緒が違う要因で切れたのか、男の額に青筋が浮かんだ。……ココリエは間違った会話の振りをしていない筈だ。なのに、なぜ、結局喧嘩方向へ直進する?

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