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悪魔の恋は『なにいろ』ですか? 作者:柳シンム

オルボウル

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ふたりの失策


「さ、散々な目にあった……」

「これくらいは普通にいつもの通りでは?」

「セツキと一緒にするな」

「アレは私ではなく、ココリエ様のせいでは?」

 国は違えど女とは美しいものに弱い、ということなのだろう。セツキはココリエを見つめて慰めの息を吐く。

 ――いや、アレは絶対にセツキのせいだ。

 ココリエは心中しんちゅうでそっと呟いて突っ込んでおいた。

 美形に騒ぐならココリエ以上にセツキが絶世の美人だ。

 戦国の美人を代表する三国がある。
 ウッペ、オルボウル、エネゼウル。

 その中、ウッペ国で一番の美貌がセツキ。ウッペは恵まれた山の幸が美をつくりあげていると云われている。

 オルボウルはウッペ以上に北の寒さと日照時間の少なさで美肌の美人が多い。

 エネゼウルの美人は南国の異国的な美人が多くあり、中でも飛び抜けて美しいのは戦国唯一の女王と言われる。女王は滅多に国をでないが、それ故に噂や憶測が飛び交う。

 戦国の美人大国のひとつ、ウッペ一の美を備えている。なのに、当人であるセツキは自分の顔に興味がないのか、自覚がないのか、いつも自分は無関係のていでいる。

 男として美しく、ただの人間としても美しい。

 肉体、顔共に美しいセツキのこの態度に肉体の才能で完全に、顔も僅差で負けているココリエは悔しくてならず、関係ありませんの態度については腹が立つ。

「引っかかりませんね」

「ああ、あの花魁以外に手がかりがないものかと探れども、証言はみな似たり寄ったり」

「ですが、ジグスエント様が民の信を厚くいただいている理由はわかりましたね」

「うむ。医師であったとは意外だ」

「王が医療に従事しているからこそオルボウルは他国の標的になりにくい。戦国に常に不足している薬品を提供することで民の安寧を守り、御自ら進んで民を診察し、健康を守り、国を盤石にまわす基礎を築いてらっしゃる」

「……敵対するには厄介、と言いたいのか?」

「そのように聞こえたなら、謝罪しましょう」

 わかっている。セツキがなにを言いたいのか。これで、少なくとも民から情報をたどることの難しさがわかった。

 ジグスエントは秘密主義、というほどでもなかったが民は尊敬し、信頼する王の秘密に繫がる情報を守る。

 あきらかにオルボウル国にない格好と顔のココリエとセツキに明かしてくれる情報は表層にあるものだけ。

 深く踏み入った情報には触れられない。

 ジグスエントが異能を持っていてもそれを民は知らず、また知っていても正確には教えてくれない。

 情報の少なさにがっかりしながらふたりは泊まっている旅籠屋はたごやに戻ってきた。汚れた着物の女子衆おなごしが出迎え、セツキの美貌に見惚れつつ、話しかけてきた。

「おかえりなさいまし、お客人。先ほど変な娘っ子が来ましたが、アレはお二方の追っかけで?」

「は?」

「両手に枷はめた黒髪に変な色の隻眼娘が来まして、おふたりがここに泊まっているか不躾に訊いてきましてね、刺客ではなさそうですが適当にはぐらかして追い返し」

 変な隻眼の娘を追い返した、と言った女にココリエは頬を張られたような気分になってセツキを振り向いたが、男もココリエ同様、しまったという表情でいた。

 セツキが女を問い詰める。

「隻眼の色は正確にどのような色でした?」

「え、あ? えぇと、月、のような色でしたかね。左目にはいかつい眼帯なんてしてましたがそう、お月さんの色」

「来たのはいつです?」

「え、はあ? つい先ほど、ほんのちょっとばかり前に、お二方とは入れ違い程度で本当にちょっと前……」

 ココリエは最後まで聞かなかった。セツキの詰問に首を傾げている女を放って、ココリエはおもてに飛びだした。

 サイがこの宿に来た。

 報せにココリエは嬉しくなったが、女子衆おなごしたち、宿を切り盛りしている者に宿泊の目的と、この国に来た理由を教えていなかったことが裏目にでて、サイは追い返された。

 完全に失敗した。

「サイー!」

 ココリエが通りに戻ってサイを呼ぶ。道ゆく人々が何事かと驚く。ココリエは構わず声をあげ続けた。

 しかし、答える声はない。

 通りを歩く人間にココリエは片っ端から訪ねてまわった。黒髪に銀色隻眼の娘を知らないか、見なかったか。

 だが、通りを歩く人間は知らないと言った。

 もしくは、急に消えるようにいなくなっていたと証言した。ココリエは己の迂闊さに唇を噛んだ。

 サイが逃げてくるかもしれない。

 希望的な願いではなく、現実に起こりうることだとして真剣に受け止めていればこうはならなかった。

 サイは追い返されず、宿の中で安全にココリエを待っていられたのに、サイはココリエの迂闊さのせいで追い返され、危険な町中に戻された為に追手に捕まった。

 身柄を押さえられたとみて間違いない。

 ならば、今できることはひとつだけ。ココリエは宿の女子衆おなごしからさらに詳細にサイの情報を聞きだしていたセツキを連れてオルボウル城に急いだ。

 消えたなら、身柄を押さえられたなら、連れ戻された線が濃厚。今なら、まだ隠せない筈。それは、可能性の話。

 可能性に賭ける青年は次こそはと必死になって旅路の途中にある集落で借りたイークスを駆った。

 ――間にあってくれ。

 どうか、間にあって。その一心だった。

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