挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
悪魔の恋は『なにいろ』ですか? 作者:柳シンム

オルボウル

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

107/384

ミツハの由来と毒卵


 その昔。ジグスエントはひとりの妻を娶った。

 北に位置しているこの国からは遠く南にあるシレンピ・ポウからジグスエントに嫁いできた女の名をミツハといった。ミツハはよくできた嫁であり、妻としてジグスエントの父とジグスエントに迎えられた。

「本当にできた女でした。いろんな意味で、ね?」

 ミツハを称したジグスエントだったが、その瞳は妖しく冷たい色を宿している。女にはたったひとつの、最悪の欠点があった。と、ジグスエントは笑った。

 それは、ジグスエントに敵意と殺意を持っていた、ということ。それが知れたきっかけというのが今、サイを縛っているものにある。

 ミツハが嫁いできた翌日、ジグスエントは趣味のひとつ、収集していた爬虫類の新入りとして今いる、サイを縛って仕置きしている大蛇を迎えた。

 海外から、秘密裏に輸入して手に入れた珍種である蛇はジグスエントに、人間でいうところの一目惚れをした。

 そして、ジグスエントに敵意と殺意を持っていたジグスエントの妻ミツハを目の前で喰い殺した。

「あとになってわかったことですが、ミツハはシレンピ・ポウがわたくしを暗殺する為に送って寄越した女だったのです。……ふふ、綺麗でしたよ。あの女を頭から噛み砕き、喰っていく様は。ですので、その情景を忘れないよう、わたくしはこのコに『ミツハ』と名づけたのです」

 サイの体を締めつけながらジグスエントに頭を向けて甘えるミツハを撫で、ジグスエントはサイを見据えた。美しい男は自分と等しく美しい女を見つめる。

「それ以降、ミツハはわたくしにべったりでしてね。他のコを構っていると、それを喰ってしまうので、今ではミツハ一筋となっております。それまでここは化け物屋敷とかなんとか言われていましたが、ああ、今もあまり変わりなく来客は少ないですね」

 他の爬虫類を処分したのか、ミツハに残らず喰われたのか知れないが、ジグスエントに惜しむ様子は見えない。

 サイはジグスエントの歪んだ思考に吐き気をもよおしたが、それを感じ取ったのかミツハがまたサイを万力で締めつける。見ていたジグスエントはサイを緩く叱った。

「いけませんよ、サイ。わたくしへの反抗心は消さねばなりません。あなたはもうわたくしのモノ。逃しません」

 堂々と宣言するジグスエントにサイは首を振った。

 明確な拒否の反応だった。こんな無理矢理にモノの扱いにあう。そんなことは、屈辱はサイの矜持が許さない。

 それに、それ以前の問題としてなにより、ジグスエントの感覚にサイはついていけない。

 自分の妻となった女を喰って殺した蛇にその女の名前をつける歪んだ美意識ははっきり言って理解不能。

 しかし、唯一最大の困難は現在の状況。

 どう頑張っても逃れようがない。

 ミツハがサイを完全に縛りあげ、圧迫して苦しめているのもそうだが、ハクハがサイを後ろから捕まえている。

 サイは逃げる、という選択肢を根から奪われていた。

「なに、時間はたっぷりあります。この上ない愛情をかけてじっくり可愛がってあげましょうね、サイ」

 サイにとっては絶望的とも取れる言葉を吐いたジグスエントにサイはそれでも、ひたすら首を横に振った。

 ジグスエントの、こんな変態趣味のある男の『この上ない愛情』などろくなものではない。間違いなく。

 そうした判断がサイに首を振らせたが、ジグスエントはサイの反応を見ても変わらず笑っている。

 サイの反応を微笑んで流し、美貌の男はサイのシミひとつない頬を撫でた。慈しむ手だがサイは悪寒がした。

「遠慮することはありません、サイ。ココリエ王子では与えられないような最高の快楽を与えてあげましょう。愛情と時間をたっぷりかけ、愛して差しあげます」

「んむぅ!」

「うん? ああ、大丈夫。今のままでもあなたは充分わたくしの好みで大変魅力的です。ただ、もう少し手を加えて研いてあげましょう、というだけのこと」

 ジグスエントの新しい言葉にもサイは拒否を示した。

 全力で遠慮し、首を振る。
 本来なら、罵りのひとつ吐いてやりたかったが、そんなことをすればまた万力が締めつけてくる。

 それに、そもそも音を吐くべき口を塞がれている。

「では、まずはひとつ」

 呟いたジグスエントはどこに持っていたのか、いつからそうしていたのか、硝子の広口瓶を手に握っていた。

 中には白っぽい玉のようなものがなにかねっとりとした液体に半分ほど浮かぶように詰められている。

 サイが疑問の視線を向ける。

 ジグスエントはサイの視線にすぐ気づいた。訝しむような、それでいて警戒する瞳の色にそっと微笑む。

「これですか? これは、ミツハが産んだ無精卵です」

 ジグスエントが寄越した答にサイはドン引きした。蛇の無精卵など用意してなにをする気でいるのだろうか。

 そればかりを考えた。

 サイが困惑して男を見つめていると、男はことさら美しく笑って広口瓶の蓋をまわして開けた。

 サイがなにもできずにただ見ていると、男は瓶の中に指を突っ込んで無精卵をひとつ摘まみだした。

「ミツハは、先に言った通り珍種でしてね。その卵も興味深いのですよ」

 それがどう関係があるのだろうか。

 サイの不安心、疑問を余所にジグスエントは楽しそうに微笑し、粘液を纏ったミツハの卵を自分の手のひらに乗せ、上でゆっくりところころ転がした。

 見る見るうちに卵が形状を歪めていく。溶けている、とでも言えばいいのだろうか。異様な光景に違いない。

 なにをされるのかと、サイが不安そうに瞳を揺らしているとジグスエントはにっこりと音がつきそうな笑みを見せた。それがことさらサイの不安を煽った。

「ハクハ、ミツハ、しっかり押さえていなさい」

「はいよー」

 ひとりと一匹に言いつけたジグスエントが不安でいっぱいになっているサイの腹部にかかっていたミツハの体を避けて、卵を摘まんだ手を女の腹部にそのまま侵入させた。

 先ほどは驚くあまり感じなかったが、それでも恐怖と不安に侵されたサイは鋭敏になっている。波紋を描いて腹部に入ってきた手、男の大きな手指の感触に震えた。

「ほーら、サイちゃん、落ち着いてー」

「サイ、怖いことはなにもありません。安心して、わたくしに任せておきなさい。極楽にいざないましょう」

 ジグスエントの侵入にサイが怖がり、いやがって暴れ、男性ふたりが宥めつかせようと言葉を重ねる。

 が、どう考えてもジグスエントのものは逆効果だと思われた。ジグスエントの声に、言葉にサイはさらに暴れた。布に塞がれた口からは不明瞭な叫びがあがる。

 いやと叫んでいるのだろうが叶えられることはない。

 ジグスエントの手がさらにサイの中に進もうとする。

 男の指、第一関節がサイの体内に埋まっていく。

 気持ち悪さにサイが力の限り暴れて、無意識的ではあったが自身の体内に流れている強力な法力で反抗し、男の指が侵入してくるのを阻害する。

 普通の人間ならばいざ知らずサイの強力な呪抵抗力を完全に無視できないジグスエントはサイの無意識の抵抗に遭い、侵入を食い止められ、ハクハに目で合図を送った。

 すぐに了解した男は懐からなにかを取りだし、暴れて剝きだしになったサイの首筋にしっかり押し当てた。

 カチッと音がして、サイの首筋に鋭い痛みが刺さる。瞬間、サイの意識がかすみ、一切の動きが停止した。

「とりあえず、副作用があっちゃいけないんで装填数は最低の一ポイントだけ。効果は一瞬です」

「充分です、ハクハ」

 ハクハの報告と同時にジグスエントが一気に手を抵抗が消えたサイの体内なかへ進めていき、完全に侵入はいった。

 男の手がサイの中に侵入し、中を少し探る間もサイはぼーっとしている。ハクハのナニカで抵抗を奪われた女戦士は呆けた無表情でいる。おとなしくさせられたサイを見るジグスエントは満面の笑みでサイを探る。

「ここら辺りでしょうか? ああ、ここですね」

 ぐちゅ、ぐちゃ。

 肉をこねるような不気味な音を立ててジグスエントはサイの体内を探っていく。ややあって、目的に触れたのか、嬉しそうな声をだした男は少しして手を引き抜く。

 その手に持っていた筈の卵はなぜかない。それを遠い意識で確認したのと同時にサイの意識が明瞭になる。

「時に、ハクハ、それは?」

「これっすか? 携帯用の麻酔ですよ。年に一回、故郷のエリディストから仕入れているんですが、どうです、気持ちいいくらいよく効くでしょう?」

「ええ、助かりましたよ、ハクハ」

「装填数を増やすといろいろと効果が長続きしますけど副作用もでやすくなりますんで、今時こんなもん使っているのは相当ヤクザな事情持ちだけでしょうねー。ま、サイちゃんにはこれくらい強烈なのでなきゃ効かないでしょうけど……副作用は、なしっと」

「ふふ、いいコにできてその上無表情であっても陶然とした雰囲気の顔を見られるというのがいいですね」

 便利な海外の麻酔の説明を受けたジグスエントは満足そうだ。麻酔のお陰でサイは一瞬でもいいコになった。

 麻酔の効能が完全には消えていないサイにジグスエントは丁寧に今したこととこれからを説明しはじめる。

「サイ、今あなたの胃袋に、体内にミツハの卵を仕込ませてもらいました。正確には、産みつけたでしょうか?」

「どっちでもいいんでないですか? それ。どっちにしてもサイちゃんいやがってますし、怯えてますよ」

「おや、そうなのですか。それでこんなにも震えている、というわけですね? なるほど、いことです」

 いことだと言うジグスエントはさらに詳しく説明してくる。いっそ、余計であると思えるくらい。

「たった今、あなたに産みつけた卵は内臓の心地いい温度ですぐに溶けだします。殻と、中に含まれている内溶液がサイ、あなたの中に廻って溶け込み、体中に効能をまき散らし、あなたの意識を希薄にする。そして、同時にあなたの異常な膂力を奪っていき、あなたを戦士からただの可愛い非力な乙女にします」

「ジーク様ってば容赦ないっすねー」

「ウッペの虎と毎日、加減して拳骨勝負をしているのですから、これくらいは当然の措置でしょう? 愛しくとも殴られては敵いません。それに、戦士でない方が、非力でわたくしに溺れる方がわたくしの好みですので」

 ジグスエントの言葉がサイの耳から遠のく。

 どこか遠くで男が喋っているのが聞こえてくるサイだったが、反応しなくなっていた。
 ジグスエントの手で胃袋に産みつけられた卵が溶け、体内を侵しはじめたのか、女戦士の瞳には靄がかかっていき、徐々に、しかし確実に不明瞭に曇っていく。

「本来の膂力がなく、自由を奪っておけば、あとはあなたをわたくしに従順に仕立てるようにわたくしが試行錯誤するまで。心ゆくまで楽しんでくださいな」

「……」

 サイは声を封じたられた以上になにも反応しない。

 溶けだした卵の液がサイの中に廻っていく。

 サイは頭がいつになく呆けている、というのを自覚し、抗おうとしてみるがとても抗し切れない。

 女戦士の意識が卵の液により曖昧になってきたようだ。

 サイの瞳にある意思の光が消えていくのを確認したジグスエントが嬉しそうに美貌を綻ばせる。当人が愛する蛇のような男がサイの頬を愛おしげに撫でる。

 女は抵抗しない。できない。
 体に力がまったく入らなかった。

 先のハクハの麻酔以上に卵の液がサイの思考に靄をかけ、視界はグラグラと揺れていき、もはや座っていることも困難になったサイはふらふらする。

 ふらふらするサイにジグスエントはそっと触れる。そして、自分の方にいざなってサイの体を自分の胸に抱いた。

 男に抱かれたサイは気持ち悪いと思う、考える余裕がない。そんなものはとうの昔に蒸発していた。

 サイを自分の腕の中にしまい込んだ男は満足そのものという顔で女の隻眼を覗き込んだ。

 女の口に詰められていた布を取りだしてやった男は、サイの唾液で湿った布をハクハに投げ渡した。

「ココリエには〈伝蝶ポプア〉を飛ばし、ファバルには文をしたためてあります。お迎えは来ませんよ、サイ」

「ぅ、あ……は……」

 男の言葉にサイはなにも言えない。聞く脳が反論の言を紡ごうとするのだが、それは明確な音にならない。

「誰も傭兵がひとり消えたことで生活に支障をきたしはしない。王族の者ならばなおのこと」

「ぁ、うあ、あ、あ……」

「諦めなさい。あなたはもはやかごの鳥。悪いことは言いません。わたくしに身も心も、すべてを預けない」

 甘美な響きを持ったジグスエントの声が遠のく。やがて、サイの意識は途切れ、闇の中に落ちていった。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ