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悪魔の恋は『なにいろ』ですか? 作者:柳シンム

オルボウル

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拒否よって調教


「さあ、サイ? 決まり切っていることですが、一応あなたの口から答を頂戴しましょう。ウッペとの雇用契約を破棄し、わたくしに忠誠を誓ってくださいますね?」

 ジグスエントは笑顔でサイに決断を迫った。しかし、かなり重要なことであるのにサイは一瞬も迷わず拒否した。

「私が世話になったのはウッペ。そこに恩義を返しても仇を返すことはありえぬ。それに、お前に仕えることに今ひとつ魅力らしいものを見いだせないしな」

「ほう?」

 サイがこの世界に来てからというもの、サイがずっと世話になっているのはウッペだけ。
 ウッペに、多少の恩に仇で返すことはできかねる。それに、ジグスエントにサイは魅力を感じなかった。

 よく知りもしない相手というのもあるが、誘拐を企てて実行させているのはどう考えてもよろしい人物ではない。

 勝手な理由でひとを誘拐し、自由を奪い、自らの我儘を押しつける、そんな男を主になどしたくない。

 サイが寄越した答にジグスエントは目を細めて笑みを深めた。だが、瞳には深い興味と共にゾッとする色がある。

 笑っているのに笑っていない男は続けて口を利く。

「不服な点はおっしゃってくださって結構ですよ、サイ。あなたの為でしたら善処し、改善しましょう」

「今すぐ、私をウッペに帰せ」

「それはできかねます」

何故なにゆえ

「せっかくこうして、手中に落としたのです。それをむざむざと逃せるとお思いですか? あまり」

「では、改善のしようがない」

 男の言葉を遮ってされたサイの発言に、拒否の言葉にジグスエントは残念そうに眉尻をさげた。

 サイは意外そうにする。
 もっとしつこく粘るかと思っていた。

 だから、油断してしまった。

「では、これから調教といきましょう」

 ジグスエントの言葉を合図にして大蛇がとぐろをとく。

 そのままサイの方に滑ってきたのを視覚情報として処理する前にサイは立ちあがって当初の予定通り、気持ち悪いくらい巨大な蛇を踏み殺そうとした。

 しかし、叶わなかった。腰を浮かせて大蛇を踏み殺そうとしていたサイの肩をハクハが押さえてきたからだ。

 逃げるタイミングを逸してしまったサイに大蛇が巨大さに不釣りあいな速度で絡みついた。サイの全身に絡んだ大蛇は続けてサイをきつく締めあげはじめた。

「ぅあ……ぐっ」

 ミシリ、とサイの体が大蛇の締めつけに悲鳴をあげて音を立てた。肉が締められ、骨が軋み、内臓が絞られる。

 肺を圧迫され、呼吸することすら苦しいサイはくぐもった悲鳴で苦しみ、大蛇の重さにふらついた。

 サイが思わず悲鳴をあげて苦しむのを見てジグスエントは微笑み、心から喜んだ。男はゆったりとした動作で優雅に立ちあがり、サイのもとに歩み寄る。

 サイの目の前にしゃがんだジグスエントは大蛇に縛られているサイの体を、顔を舐めるように見つめ、感嘆のため息を漏らす。男はサイを愛おしむように眺めまわす。

 しばらく、蛇に縛られて苦しむ女を楽しそうに観賞していたジグスエントだったが、ふとしてサイの肩を押さえて待機している隠者いんじゃに目でなにかを合図した。

「へーい、了解でーす」

 理解し、軽く返事したハクハがサイの戒められている両手を大蛇の太い体から引っ張りだし、後ろ手にして押さえつけた。立ちあがりかけていたサイの腰を締めている帯を押して、畳に膝立ちさせ、口に布を一枚押し込む。

 布切れからは変なにおいがした。

「よい格好です、サイ」

 布から香る独特の臭気にサイは気分が悪くなった。

 心なしか頭がぼんやりし、意識が不明瞭になっていく。意識が判然としない。そこに響くジグスエントの声は弾むような調子でよい格好だと言った。

 大蛇に縛られ、自由を奪われ、ジグスエントに跪くような格好を取らされたサイにそんなことを言う彼の感覚はよく、というか全然これっぽっちもわからない。

 いや、彼の立場からしたらサイが服従しているように見えて見栄えよいのかもしれない。

 ――……歪んでいる。

 サイが歪んだ男を睨もうとしたが、蛇がさらに万力で締めあげてきた。あまりの圧迫に、蛇の怪力で肺が締められて息が苦しくなり、苦しむサイが逃れようともがく。

 だが、無駄だった。大蛇の拘束は強固で頑丈そのもの。

 蛇に捕らわれたサイは徐々に、強弱をつけて締められ、気が遠くなりそうになるのを目を瞑ってひたすら耐えた。そうしていると、くすり、と声が笑った。

「苦悶の表情すら美しいとは、やはりこの目に狂いなし。あなたこそ、極上の小鳥。わたくしの理想の乙女。……ふふふ、ねえ、サイ、苦しいでしょう?」

「ん、んぅ……っ」

 甘やかなジグスエントの声にサイは抗議しようとしたが言葉は布切れで封じられている。不明瞭な呻きに終わる。

「わたくしへの反抗心は消しておきなさい。でないと、ことさらに苦しむことになりますよ?」

 いまいち意味がわからないことを言うジグスエント。男に、男への反抗心を抱くなと言われたサイだったが、その命令にこそ反抗心を一層燃やした。

 敵意を持ってジグスエントを睨む女戦士はそれでもすぐに苦悶の表情となった。サイの反抗を感じ取りでもしているのか、蛇がさらに異常な力でサイを締めあげてきた。

 蛇に体を締められて苦しむサイを見てジグスエントは微笑み、片手をあげて女の胸にそっと触れる。

 慈しむように着物の表面をすりすりと撫でている手に気づき、サイがジグスエントの手を見下ろした瞬間、男の手がサイの胸に埋没した。

 着物の袷を割って肌に触れてきたのではない。その手はサイの胸に奇妙な波紋を描いて沈み込んだのだ。

 気味の悪い光景だった。

 自分に他人の体の一部が埋まっている、というのはホラー映画の演出であり、現実に起こってはいけないことだと実に正しく認識しているサイは身震いした。

 サイが暴れる。驚き、混乱して暴れたが、蛇とハクハが主人の為にサイの細い体を押さえつけてきた。

 気持ちの悪い光景から逃れようと、男から離れようとして暴れるサイにジグスエントは妖艶に笑って囁く。

「大丈夫ですよ」

「?」

「わたくしは異能者でしてね。体を他者に融合させ、同化できるのです。そして、そうしようと思えば、相手の体に入り込み、内側から人体を破壊できる」

「ん、んんぅっ」

「今、わたくしがしているのは単純にあなたの肉にわたくしを融合させているだけのこと。要は、あなたの呪抵抗力を無視してあなたの中に侵入しているだけ。痛みはありません。ただ、気味悪さに気分が優れなくなるようなら目を瞑っていなさい。すぐ、済ませますから。……ね?」

 恐ろしいことを平然と言いつつ、ジグスエントはサイの体内を検分するように手を動かしはじめた。

 サイは男の言葉に、この戦国の世に来てはじめて恐怖した。センジュでユイトキに迫られた時、未知のことに怯えたが、ジグスエントに抱いたのは純粋な恐怖。

 ジグスエントがその気になれば、体内からサイの臓器に損傷を与えれば、そんなことをされたら一瞬もなく殺されてしまう。死んでしまう。

 恐怖心で硬直し、おとなしくなったサイにジグスエントは満足そうに微笑み、サイの体をじっくりと調べていく。

 そして、四刻半ばかりがすぎた頃。ようやく、ジグスエントはサイの体に埋めていた手を引き抜いた。

 またサイの体、表面に謎深い波紋が広がり、男の手がサイの体外へと静かに抜けでていく。

「これといって問題ありません。健康そのものです」

 唐突で恐ろしいジグスエントの健康診断にサイは我知らず震えていた。それを見咎めた男は優しく笑う。

 サイの耳に唇を寄せ、大丈夫、と再び囁いた。

「可愛い小鳥を死なせたりはしません。サイ、あなたはもうわたくしのモノです。大事に可愛がりましょう」

 ジグスエントの勝手な発言にサイは瞳に怒りを燃やし、変態だと罵ってやりたかったが、それは叶わなかった。

 口に布がねじ込まれていて声は不明瞭だし、なによりまたサイを縛っている蛇がサイの心の内側にある反抗心を察して締めてきた。ジグスエントが笑う。

「いけないコです。また反抗心を燃やしたのですか?」

 いけないコ、などと言いつつ、ジグスエントはサイを愛おしむように見つめた。そして、同じだけ愛おしむように大蛇に綺麗な指を這わせて撫でた。

 サイへの圧迫が続き、サイの意識が飛びそうになる。なんとか耐えているサイは気力だけで意識を保っている。

「ん? ああ、これは失礼」

 大蛇の締めつけにサイが耐えているとジグスエントはふと、思いだしたように声をあげ、サイに詫びた。

 だが、それはサイを締めあげて苦しめていることに対する謝罪ではない。なぜならば、男はサイを締めている蛇にサイを解放するように言わないから。

 圧迫で肺から空気が絞りだされ、酸素が足りないせいか、サイの頭にますます濃い霧がかかる。

 もはやジグスエントがなにに対して謝ったのか、むしろ謝ったことすらサイは認識できない。

「紹介が遅れましたね、サイ。そのコはミツハ。わたくしの愛玩蛇です。そのコはひとの心に敏感でしてね。感情に反応し、様々な動きで以て感情表現する愛らしい蛇」

「う、ぅんう……っ」

「ミツハは特にわたくしへの敵意に敏感でしてね。反抗する者には容赦なく襲いかかり、仕置きします。時に、わたくしの命がある場合はその愚か者を喰らってさえきましたのであまり反抗して刺激しないようになさい」

「ん、ぐぅ……んっ」

「可愛くて凶暴な海外出身、メスの毒蛇です。その牙が持つ毒には麻痺と意識を混濁させる効果があるというのも今までに捕虜と、ある女で図らずも試して知っています」

 なんでもないように語るジグスエントはサイの現状、蛇に締められて苦しむ女を目で愛でながらさらに続きを、昔を語って聞かせてくれた。美貌の男は緩く笑う。

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