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ずれた毎日
作:泰兎



九話目


「はいはい、それじゃあ今助けますからね。」
軽く呆れ気味な僕。この人らしいといえばらしいけどね。
頭の花瓶を外し、足に絡まった紐を取る。
「う〜、いたいー。」
頭を擦る葉月さん。たんこぶぐらいは出来てるのかも。
でも、大き目の花瓶だったから良かったけど、頭に入らないサイズの花瓶だったなら直撃して危なかっただろう。むしろ、被害がこれだけということの方が奇跡に近い。
危うく僕は事故現場の第一発見者になるところだった訳だ。
あ、そう考えたら怖くなってきた。
「泰斗くん、どーしたの?」
「あ、いえ、何でもないで…すよ…。」
「ね、大丈夫?さっきからボーっとして。」
「あ、いえ、何でもないです、何でも!」
急に声を上げて背を向けた僕に対し、驚き訝しげにする葉月さん。
「と、とりあえず、服を替えてきたらどうですか?花瓶の水で濡れちゃってますし。そのままじゃ風邪引いちゃいますよ。
そう言って、不自然じゃ無いように着替えを促す。そう、不自然じゃないようにっと。
「あら、本当だわ。びしょびしょねぇ。ん?あー、わかったぁー。ねえ?たぁいっとくん♪」
げ…嫌な予感。
「どーして急に後ろ向いたのかなぁ?」
「あ、ああああ、それは…その…。」
「ねーえ。どーしてー?」
ばれてぇーら。しかも完全に遊ばれてるっ。
「そそそっ、そんなことより、早く着替えないと本当に風邪引いちゃいますよっ!」
「仕方ないなー。それじゃあ、泰斗くんのご要望にお答えしてお着替えしてきまーす。」
「ここは僕が片付けておきますから、ゆっくりでいいですよ。」
「いーえ、わたしもやります。だから、全部片付けてたら怒るからね。」
なにも怒らなくてもいいんじゃ…
「わかりましたかー?」
今だ背を向けて話す僕を、自分の方へ向かそう顔を両手で挟んで捻ろうとする。もちろん僕はそれに抵抗して前を向こうと踏ん張りながら答えた。
「わがりまじたがら、顔を離じてくだざい、ぞして早ぐ着替えて来てくだざい。」
「はーい。」
ふぅ。顔に力が入って声が振るえちゃったよ。
自分もやると言う辺りは流石奇麗好きといったところだ。
葉月さんが居なくなったことを確認してから振り返り、落ちている花を拾おうとしたところに、またしても声が聞こえてきたのでそっちを見て返事をする。
「なんですか、葉月さん。」
奥のドアから顔だけだして、こちらを覗いている。
なんだか、さっきこんな光景を見たな…。やっぱり親子だね。
「着替え、覗いちゃやーよ♪」
「覗きませんよ!」
たくっ、この人は!

なぜ、僕が葉月さんを見て焦ったか。それは、それは…ぬ、濡れた服が、体にはり、張り付い…だああぁぁぁぁ、これ以上は言えないぃぃぃ!
後は状況から察して下さい。僕にはもう…。
「お待たせー。泰斗くん、色々大丈夫?」
僕が一人で身悶えていたところに、葉月さんが再登場した。
「ええ、何とか…。」
半分はあなたのせいですけどね。それに、色々は余計です。
「じゃあ、片付けを――…って泰斗くん?」
「はい、なんですか?」
「わたしも片付けやるって言いましたよね?」
あ…忘れてた。
「…………。」
仁王立ちで立ち構え、睨み付ける。背丈は僕と同じくらいなのに、物凄い威圧感がする。殺されるかも。
「うーそ、許して上げる。さっき助けて貰ったしね。」
「あ、ありがとうございます。」
なぜかお礼を言ってしまった。でも、そうしなきゃいけない気がしたんだよ、うん。
「どういたしまして。それと、わたしの方こそありがとーね。」
「え?」
「助けて貰った上に、片付けまでしてもらっちゃたんだから。お礼を言うのが礼儀でしょう?」
「は、はぁ。」
「そーいうわけでありがとう、泰斗くん。」
「はぁ。あ、い、いえ、これぐらいならどうってこと。」
「うん、流石男の子。それじゃあ、晩御飯の支度があるからこれでね。」
軽く焦る僕に手を振り別れの言葉を繰り出す。
「はい、すみません忙しいのに。」
「大丈夫大丈夫。それに、ここは泰斗くんの家でもあるんだから気にせず来ていいのよ。」
「そんな野暮なことしませんよ、せっかく父さんと二人なんですから。」
「言うじゃないのー。でも、嬉しいかも。」
それに、二人のバカップルを見てるのも疲れるんで。
「それじゃあ、僕はそろそろ。」
玄関に腰を下ろし、靴を履く。
「では、また今度来ますね。」
立ち上がって後ろの葉月さんに声をかける。取っ手に手を伸ばしてドアを開けようとした瞬間、今度は逆に名前を呼ばれたので振り向いて返事をした。
「はい?」
「ところでさ、何しに来たの?」
「…………忘れてました。」
きれいサッパリと、頭の中から吹っ飛んでいた。こういうのを、失念するっていうんだな。
「頭の良い子だと思ってたけど、意外と抜けてるところもあるのね。」
楽しそうにクスクス笑う葉月さん。
だから、半分はあなたのせいですから!


いかがだったでしょうか。
今回の話は前回に続いて葉月さんとの会話でした。
が、ひっぱりすぎました。もっと短めにすればよかったと少し後悔してます。
次回には父親が出…たらいいなぁ。
よろしければ、次回もご覧下さい。











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