八話目
「五月ちゃん!」
「こんにちは、泰斗兄さん。元気?」
制服を着た女の子は、僕の妹となった五月ちゃんだった。
髪はショートカットで、肌は日に焼けて少し浅黒い。外でテニスをやっているのだからそうなるのは当然だ、と以前言っていたので本人はあまり気にしていないみたいだ。
「扉の前にボーっと立って何やってるの?」
「いやぁ、ちょっと父さんに用があってね。それで精神統一を。」
「あ、兄さんはお父さん苦手だもんね。」
「苦手っていうか、出来れば関わりたくないっていうか…。」
「それを苦手って言うんでしょ。まぁ、よく分からないけど頑張ってね。」
「うん、ありがとう。」
じゃねっ、と言って俊彦宅の隣にある自分の家へ入って行った。こういうサッパリとした性格だから、僕も気兼ねなく話せるんだよね。
――と、五月ちゃんの去った方からガチャっという音がした。そっちを見てみると、ドアの隙間から五月ちゃんが顔を出してこっちを見ていた。
「あれ?どうしたの?」
「そういえば、またあたしのこと、ちゃん付けで呼んでたでしょ。」
「あ、うん、そうだね、つい。」
「ついじゃなくって、もう歴とした兄妹なんだからね?ちゃんと名前だけで呼んで。」
「この間まで五月ちゃん、って呼んでたのに、急に名前で呼ぶとなると…なんだか意識しちゃって照れ臭くさいんだよね。」
「じゃあ意識しないの!」
「うーん、やっぱりなんだか恥ずかしいなぁ。」
女の子を名前で呼び捨てにするのってなんだか、こう…ね?
「…そんなんじゃあ、いつまで経っても…。」
「え?何?ごめん、よく聞き取れなかったんだけど。」
「なんでもない!次からは名前だけで呼ぶこと!ちゃん付けで呼んだらダメだからね!」
「う、うん、気をつけるよ。」
「それじゃあね!」
バタンッと音をたててドアを閉めてしまった。
怒らせちゃったかな?難しい年頃だなぁ。って僕と一歳しか変わらないか。なんだかジジ臭いかも。
「さてと、っと。」
いっちょ攻め込みに参りますか。
ドア横にあるインターホンを押して、呼び出し音を鳴らす。それから少し間を置くと声が聞こえてきた。
「はーい、どちら様ですかー?」
ゆっくりしていて、柔らかく優しい声。
「あ、葉月さんですか、泰斗です。」
「あら、泰斗君、今そっち行くからちょっと待っててね。」
「わざわざすみません。」
ふぅ。どうも葉月さんと話すときは緊張するなぁ。なんでだろう。親しみ易くていい人なんだけど、なぜか話すといつも体が強張っちゃうんだよね。
………………。
葉月さん、遅いな。もう5分は経ってるぞ。片付けでもしてるのかな?そんな訳ないな。物凄い奇麗好きで暇さえあれば掃除してる人だし、洗剤の種類と数も半端じゃない。
そんな人が、たまたま僕が訪ねたぐらいで片付けをしなきゃいけない状態にしとくはずがない。
じゃあ、何だ?着替えてるのかな?身の回りは奇麗にするくせに、自分のことは全然気に留めない人だし。でも、もう夕方だしいつまでもだらしない格好してることもないだろう。
うーん、どうしたんだ?
なんて考えていると、
「え〜ん、たいとくーん、たすけて〜。」
という声が扉の奥から聞こえてきた。
は、葉月さん!?何だかわからないけど、急いだ方が良さそうだ!
ドアノブを捻って一気にドアを開け放った。そして、入ると同時に叫ぶ。
「葉月さん、大丈夫ですか!?いったいなに…が…。」
中の様子を見て、言葉の途中で思わず固まってしまう僕。
………。
落ち着こう、うん。
冷静に、今目の前の状況を判断するんだ堅城泰斗、クールになれクールに。
よし、まずは状況分析だ。分かり易く箇条書きにしてみよう。
・葉月さんの叫び声がしたので家の中に入った。
・玄関の前でうつ伏せに倒れている葉月さん。
・足にはビニール紐が巻き付いている。
・頭にはなぜか花瓶を被ってる。
・ついでに、体の下から花がはみ出している。
よし、これらのことから推理すると…答えは一つ、足に紐が絡まって転んだ、だ!
そしてその時に飾っていた花瓶を倒してしまい、中の水を頭から被り、おまけに花瓶も被ってしまったというところだろう。
じっちゃんの名にかけて一つの真実を解き明かしたよ!
「確かにその通りだけど、それよりはやくたすけて〜。」
ナイス僕の推理。
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