ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  ずれた毎日 作者:泰兎
七十九話目
美穂ちゃんは社長令嬢。
そのことについては、これで二人ともわかってくれたかな。というか、この説明でわからないと言われても、これ以上どう説明したらいいやら。
それこそ、美穂ちゃんの生い立ちから話さなきゃいけない。
……ところで月冶、何で息が荒くなってるの?
なに、『美穂ちゃんの生い立ち』って言葉に興奮した? よし、月冶。とりあえずこの部屋から出て。それでもって、三百回ほど屋上から飛び降りて来て貰おうか。
そんなことしたら死ぬ? ふーん、それは大変だね。まあ頑張って。そしたらまたこの部屋に戻って来ていいから。それじゃあ。
――まったく。人を異常性癖者みたいに言っておいて、自分の方が変態じゃないか。
『美穂ちゃんの生い立ち』って言葉のどこに、興奮する要素があるんだ。
美穂ちゃんの生い立ち……みほちゃんのおいたち……。ダメだ、逆から読んでもアナグラムをしても、全く理解できない。もはや暗号のレベル。
――あれ、どうしたの月冶。勝手に入って来たりして。ちゃんと三百回飛び降り……え? さっきのは冗談?
何だ、自分だったんだ。
それならそうと、早く言えば良かったのに。そうしたら月冶。
痛い目に遭わず済んだのに。
殺さないようにね、二人とも。

ずれ   日
た 毎


「それじゃあ、自主退学っていうのは?」
「正確に言うならば、退学ではない」
不安気に尋ねる千秋に、同じく不安気に答える伊織。
千秋は伊織が居なくなってしまうのでは、という懸念。伊織はこの学校を去らなければならないのか、という懸念。
伊織の懸念の中には「せっかく仲良くなった友人たちとも、離れてしまうのか……」というものも含まれている。そう悲しそうに話していたのは、つい昨夜のことだ。
「もっとも。この学校から居なくなるという意味では、同じだがな」
月冶の妄言は、そういう意味で正解。
つまりは。
「まさか……転校?」
目を見開き、千秋は驚きの表情を浮かべる。月冶も驚いて声を上げようとするけれど、それはまともな声にならず、「おグエッ」と潰れたような音だけが鳴った。
千秋の出した答えに、僕らは頷き答える。千秋は驚いた顔のまま口を覆うように手をあてた。
「っていガフ」
再び月冶が何かを言おうとするも、やはりちゃんと言葉にならず変な声を口から漏らすだけ。そして代わりに口を開いたのは、当然千秋だ。
「っていうか、何で転校なの? 引っ越しは泰斗が嫌がるからありえないし……」
え、なに。伊織が嫌がるんじゃなくて、僕が嫌がるの? まるで伊織が引っ越す時は僕も一緒みたいな言い方。
端から見たら、僕って伊織にそんなベッタリしてる? むしろ逆だと思ってたんだけど……。
そう尋ねてみたところ「今の泰斗の状態を見ればねー」だとか。
顔を赤ませる千秋から、自分へと視線を動かす。
僕の状態……。締め上げられた名残で、僕は伊織の膝の上に。
うん、どう見ても伊織にベッタリだね!
「……」
べべべ、別に背中に感じる体温が心地良かったり、抱き締められて安心してたり、良い匂いがするとかそんな理由でずっと乗っかってた訳じゃないんだよ!
伊織が離してくれなかったからっていうことにしといて欲しいんだ!
「まったく、泰斗は私にぞっこんだな」
と伊織はぞっこん嬉しそうににやける。僕はぞっこん下りたいです。
「いいえいいえ、私は気にしませんから。どうぞどうぞ、そのままで話を続けてください」
なぜか敬語になられた。
そこは止めて欲しかったな、千秋。
「という訳だ、このままでいいだろう」
そこは止めて欲しかったよ、伊織。
さっきより少し強く、ぎゅう、と伊織は両腕で僕の体を強く寄せる。ふにゅん、と背中に柔らかな感触。
……。
このままでいいか。

話を戻して。
「そもそも、何で転校なんて話になったの?」
二人にとって、一番の疑問はそこだろう。月冶も首を縦に振って、同意の意を表している。
千秋の言う通り、それこそ今回の要点。
言ってしまえば、伊織が社長令嬢だとかはどうでもいい。それでも話したのは偶然月冶が言い当てたことと、伊織がそういう立場にある、ということを知っておけば、こうなった理由が言わないよりもわかり易くなると思ったからだ。
言ってしまえば、家の事情で転校その一言でも済む話。
「……突き詰めれば」
と伊織。
「――突き詰めれば、私の我が儘が原因になる」
まるで自ら罪状を述べる犯罪者のように、伊織は重苦しく、そしてとても辛そうに、ゆっくりと言葉を溢していった。

僕が思うに、そんなものワガママでも何でもない。当然の権利だ。
というかそれをワガママというのなら、今まで伊織が僕に言ってきたのは一体何だったのか。
思い起こせば突然の来訪から始まり、同居宣言。一緒に寝るぞと言われたこともあったし、バレたら拙かったにも関わらず、買い物に付き合わされたこともある。最近だと、どうしても温泉に行きたいと言うので、連休に家族みんなで温泉に出かけた。あ、あとは千葉のテーマパークにも行った。擬似耳を被ってはしゃぐ姿は、本当に同一人物か疑うほどだ。ちなみに一番はしゃいでたのはイリス。次が父さん、葉月さん、伊織、五月ちゃんの順だ。保護者が保護者の役割を果たさない……。
話がズレたけれど、結局僕が言いたいのは、さっき言った通り伊織の言うワガママなんて、ワガママの内には入らないのだ。
ただ、こう言っただけ。
「私は泰斗と同じ高校に行きたい」
って。

「……それがワガママ?」
拍子抜けした様子の千秋。その言葉には、僕と同じ意味が含まれているだろう。そんな程度が? という意味が。月冶も「ウーウー」と唸り声を上げながら、また首を縦に動かしている。千秋の言う通りだ、って言いたいみたいだ。
「ああ」
同じく首を縦に振り、伊織は答える。
「ああって、別に自分の行きたい高校を言っただけでしょ? 何でそれがワガママになるの?」
「我が家の父は、私を女子高に入れさせようとしていたらしい」
「……?」
「始めは全寮制の高校にするつもりだったが、滅多に会えなくなる、ということで止めになったらしい」
「……気のせいかな、何か私の知ってる人と同じ臭いがする」
こめかみを押さえ、更には眉間に皺を寄せた。
「ところが、私が泰斗と同じこの学校に入る、と言ったら猛烈に反対されて。そんな我が儘許さん、と」
伊織の言葉を聞き、酷い、と一言溢す千秋。
対し僕は、この話を既に知っているため特にリアクションを取るでもなく、ただ首を縦に振った。
ただ一つ言わせて貰うなら、学校を「受験する」じゃなくて「入る」って言ってる辺り。落ちる可能性をまったくもって考えない。まあ伊織は僕より断然頭良いですから。
僕だってこの学校受ける時、ちゃんと受験勉強したんだよ。一応合格圏内だったけど、絶対受かる、っていう保障は当然なかったし。……もし落ちてたらどうしてたんだ。
「ただこの学校を受けるだけだったら問題はなかったのだろうが、『泰斗と同じ』と付けたのが拙かった」
「なんで? 泰斗と同じだと、何か問題でもあるの?」
「ある。あり過ぎて鬱陶しいくらいだ」
千秋はもう一度、頭に疑問符を浮かべる。伊織は一つ溜息をつき、僕を再び強く抱き寄せてから言葉を続ける。……やばい、心地よくて寝そうだ。
「父はな、泰斗が嫌いなのだよ。なぜなら、私が泰斗を好きだから」
実に面倒な父親だよね。
僕の父さんの、次ぐらいに。


「フウェックショッファアア! とくらあ」
「なんて豪快なくしゃみ。俊彦さんっ、素敵!」
「だろう? しかしアレだ。このくしゃみの、泰斗が噂してるからだな」
「泰斗くんが?」
「ああ。きっと、『ウチの父さんはカッコ良くて頭も良くて、それでいて(以下略)』ってな感じのことを、友達に自慢してんだな」
「まあまあ。泰斗くん、家では俊彦さんのこと悪く言ってるけど、外じゃあ自慢して回ってるのねぇ」
「ツンデレってやつだな、可愛いやつめ。ハハハハハ!」
「フフフフフ」
つっこみむ人がいないっていう。葉月のキャラもちょっと変。
いかがだったでしょうか。正直自分でも微妙な中身。もうね、よくわかりません。話を終わらすのって難しい。誰か代わりに(ry
文中に出た温泉旅行はネタとしてありますが、千葉のテーマパークはやったら消されるのでやれません。ひぃ。
次回はいつになるやら。番外編ばかり思いつく。
宜しければ、次の話もご覧ください。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。