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  ずれた毎日 作者:泰兎
「……しまった」
「あ、美穂ちゃん体重量ってるの?じゃあ僕も……。あー、ちょっと太っちゃった」
「なに、それで太っただと?私よりもまだ少ないくせしてっ。泰斗なんてピザ食べてコーラ飲んでぷにぷにーってなればいいんだ!あー、しかし泰斗の太ったところなど見たくないけどやっぱり見たいような――」
「今日の晩御飯ラザニアね」
「さあ、早く作ってくれ」
五十九話目
「ああもう、泰斗君本当に可愛いっ」
「それはどうも……」
今の僕は、ここ最近の内一番疲れた顔をしてたことだろう。
「それじゃあそれじゃあ、今度はこっちの服着てこっちの!」
人が変わったように……って言うか、あからさまに変わっている千代さんは、次々と色々な衣装を持って来ては、僕に着させている。もちろん、全て女性用のだ。
なんだか、色々なものを失った気がする。

そこに至るまでの経緯を話すなら、千代さんの暴走については欠かせない。
今思えば、僕が包丁を持って台所へ行ったときにした反応は、包丁に驚いたんじゃなくて僕の格好を見てのリアクションだったんだろう。
その時何も言わず何もしなかったのは、多分料理を作らなきゃいけなかったから。それがなければ、即行で今の状態になっていたと思う。
自分の姿を思い出し、凹む僕は別室に拉致られて――ってついさっきも同じ……もう忘れよう。とにかく、気が付けば今の強制一人ファッションショー状態。
定番のメイド服や、スリットが腰まであるチャイナ服。果てはどこで入手したのか、ゴンタ君の着ぐるみまで着させられた。本当にどこで手に入れたんだ……。
「ねえねえ、今度はこれ着てこれっ。あー、でもこっちも見過ごせないしー。えーい、両方着させちゃえ!」
なぜか口調まですっかり変わって、なんだか子供っぽくなってるご様子。
これが素なんだろうか、いつもの大人な千代さんとはかけ離れている。この人もまた、仮面を被っているみたいだ。秋月さんといい千代さんといい、この夫婦は……。
おお、これぞ正しく仮面夫婦。千秋も大変だなあ。
「わぁ、泰斗君似合うー、カワイー。やっぱり若いって素敵だわ」
そして今。
「いやー、自分でもここまで似合うとは、驚きですよー」
なんかもうどうでも良くなってきた。
次は何着せてくれるんだろう、露出が高い服はやっぱり恥ずかしいんで、なるべく落ち着いたものにしてほしいな。
「それじゃあ今度は――」
と、箪笥の中から新たな服を取り出そうとしたところで。
「泰斗ー、どこにい……」
襖が横に滑り、そこから千秋が姿を現した。けれどどうしたのか、襖の木枠に手を掛けたまま、動こうとしない。まるで、おかしなものでも見たかのように。
「おい楠木、どうしたん……」
その後ろからやって来た月冶も同様に、こちらを見て固まってしまった。一体何だっていうんだろう。
「どうしたんだろうね、泰斗君」
「ええ、二人とも入り口で立ち止まったりして」
そんな会話を千代さんとしていると、月冶の後ろから更に声が聞こえてきた。
「おい二人共、そんな所に立って何をやっている。泰斗は見つかったのか?」
声からして、美穂ちゃんに違いない。襖は全て開いておらず、月冶と千秋が入り口を塞ぐようにして立っているため、向うが見えなくなっている。
そうなると、向う側にいる伊織にも、こちら側の様子は見えていないんだろう。
「おーい、美穂ちゃーん」
千秋と月冶、二人を間にして声を掛ける。
「何だ泰斗、そこにいたのか。みんなで捜していたのだぞ」
「ごめんね、ちょっと千代さんに着替えさせて貰ってたんだ」
「むぅ、だから人妻陥落は止せとあれ程――っとすまない。泰斗は着物のままだったな。よし、私もてつだ……」
と、伊織がこの部屋に顔を見せると同時。横に並ぶ二人同様動きを止め、喋っていたはずの言葉まで中断してしまった。だからみんなして何?
「……何やってんの?」
一番に動きだしたのは千秋だ。
「何って、千代さんに着替えを手伝って貰ってるんだけど」
僕がそう答え終えたところで「……何やってんだ?」と月冶が動く。
「千代さんに着替えを手伝って貰ってるんだってば」
そして最後に、
「たたた、泰斗。い、一体何をしているんだ?」
伊織がかなり動揺した様子で声を上げた。どうしたの?
「だから、千代さんに着替えを手伝って貰ってるんだって」
三人揃って同じことを聞かないで欲しい。以下略、とか言って済ませたくなるよ。
「そ、そうじゃなくってだな、何でそんな格好をしているんだ?」
「そんな格好って……何か変ですかね、千代さん?」
僕は首を動かし、自分の姿を見やる。
まだ新しいのか、硬めのローファー。太ももまである、水色と白のしましまの靴下。チェック模様の入ったプリーツスカート。右が前にきたブレザー。そして赤く、細いリボン。
これのどこがおかしいのだろう。
まあ強いて言えば、エクステと言うかかつらを被っているぐらいかな。ちょっとごわごわしてて、襟足部分がくすぐったい。
「変だなんて、むしろ可愛くて良いじゃない!」
「ですよねー」
「ねー」
千代さんと顔を見合わせ、互いに笑顔を向け合う。
「どっ、どうしたの泰斗!?」「私たちがあんなことしなければ」「ついに目覚めちゃったのか……」
皆口々に声を上げるも、いまいち意味が分からない。あと月冶、ぼくはさっきからずっと起きてるよ。しつれいな。
「め、を、さ、ま、せ、た、い、と!」
きゅうに近づいて来た伊織に肩をつかまれ、強く前後にゆすられる。
「だから僕は…ぼ、ぼく?わー、わたし?あれ?」
いつも自分のこと何てよんでたっけ?
「ヤバイ、泰斗が本格的に危なくなってきた!」
あぶなくないって、わたし?はだいじょーぶだよ、つーきやー。
「すまない、泰斗」
いーよいーよ、よくわからないけどきにしないでいおり。ところで、なんでぼくとうもってるの?こんなところでふりまわしたら、あぶなひぶひゅ――。

目を覚まして最初に見えたのは、知らない天井だった。
なんて、人生でまず言わないだろうベストファイブにランクインする台詞を言ってみたり。
「起きたみたいだな、泰斗」
ああ、月冶か。と声から判断し、首を少し横に向ける。思った通り、そこにはあぐらを掻いて座る月冶がいた。
起きたはいいけれど、聞きたいことがあり過ぎて頭の中が整理しきれていない。何から言うべきか、なんて考えていると、僕より先に月冶が声を掛けてきた。
「えっとだな、泰斗。あー、その……」
何か言いたいことがあるらいしけれど、何があったのかかなり言い淀んでいる。中々言いそうにないし、僕が先に話してしまおう。
「あのさ、月冶」
「んん、何だ?」
首を九十度になるまで捻っていた月冶は、その格好のまま相槌を返す。普通に聞きなよ。
「僕さ、何で寝てたの?」
色々あるけれど、これがまず一番聞きたいことだ。僕は布団で横になったまま、月冶の顔を下から見る。あ、鼻毛。
「今何て言った?」
「だから、僕何で寝てたの?」
今聞こえてたよね、絶対。この距離だし、聞き直させる程噛んでもないし声小さくも「泰斗が目を覚ました!」……はい?
突然立ち上がり叫ぶ月冶に着いていけず、僕はただ呆然とそれを眺める。目を覚ましたって、さっき起きたじゃないか。
って今度はマジ泣きし始めたんだけど。何してるんですか月冶さん。何か鬱陶しいから、上半身を起こして枕を投げつけてやった。
「痛てて……」
身を起こした時もそうだったけど、枕を投げた拍子にも頭が強く痛んだ。予想外の痛みに、思わずそのまま布団に顔を伏せる。
「お、おい大丈夫か!?」
「うん、何とか……。それで、さっきの質問の答えが欲しいんだけど」
体をまた起こし、再び月冶に問う。
「あ、ああ。そうだったな。えーっと、会長と楠木が出てってたんだけど、あまりに暇過ぎて寝ちまったんだ。それで急遽、布団に寝かせることにしたんだ」
「ふーん、そうだったんだ」
喋り方が棒読みっていうか、決められた文章を読むみたいな感じなのは何でだろう。それに何か、台詞の内容に違和感がある。文をところどころ読み飛ばしたような。
けど、月冶がそう言うならそうなんだろう。言われてみれば、月冶にスライディングをかまして、それから随分と二人を待った記憶がある。それでその後に、その後に二人が着物で現れて……着物?
「着物…着物…。ねえ月冶、着物「あーっとそう言えば、晩ご飯出来てるから早く行こうぜ!」」
僕の声を遮り、妙に大声を張り上げる。
「う、うん、じゃあ行こうか」
よいしょ、と掛け声と共に立ち上がろうとするも、また頭が強く痛んだせいで上手く立ち上がれなかった。布団の上に膝を付き、俯く。
「頭痛い……。なんでだろ」
「か、風邪じゃないのか?最近流行ってるって言うしよ」
「違うんだ、何て言うかこう……外側から強く叩かれたような?」
硬い棒みたいな物で、強く。
「そそそ、そんな訳ないだろ、誰が泰斗を木刀で殴るって言うんだ」
「別に木刀とは限らないでしょ。バットとか、もしくは竹刀――って何そのしまった!?って感じの顔して」
「なっ、何でもない何でもない!ほら、早く行こうぜっ」
やけに強引な気もするけれど、僕は深く考えずその言葉に従い月冶の後を追った。
頭の痛みとは別に、何か引っ掛かるのは気のせいだろうか。



「あれ、上着が後ろ前だ。ねえ月冶、僕――」
「知らない、俺は知らないぞっ」
「そんなムキになると、逆に怪しいんだけど」
いかがだったでしょうか。ちなみにラザニアのカロリーは800〜900ぐらいあります。
すいません、今回は読み辛かったかもしれないです。書いてる本人は頭で理解しているので問題ないのですが、別の人が読むとなると、読み辛いということがあります。
そうならないよう気をつけてはいるつもりですが、今回、主に後半部がもしかしたら読み辛いかもしれません。
そんなもん載せんじゃねーよ、って怒られるかもしれませんが、ぶっちゃけここで躊躇うと次がいつになるか分からなくなるので、気にせずいきました。ごめんなさい。
今回に限らず、読み辛いないしはここが矛盾している、なんてことがありました、お教え頂けると助かります。
千秋宅編をそろそろ終わらせたい……。
宜しければ、次の話もご覧下さい。


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