ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  ずれた毎日 作者:泰兎
四十九話
「いやー、助かったぜ泰斗」
いつもの様に、もしゃもしゃと咀嚼をしながら喋り始めた月冶。
繰り返しは笑いの基本、とどこかで聞いた気がするけど、これを笑いの一部として捉えていいのやら。
注意すべきかと思ったけれど、今の僕はそれが出来る立場でもないので、笑って応えてみせる。


家に入ることだけでなく、家族と連絡を取ることすらままならなくなった僕は、藁にもすがる思いで月冶の家を訪ねた。
部活後で時間が遅かったおかげか、月冶もちょうど店の手伝いを終えたところだったみたいだ。
家の入り口付近で出会った月冶に事の経緯を話したら、
「じゃあ今日はウチに泊まれよ」と僕がお願いする前にそう言ってくれた。
思わず抱きついてキスまでしてしまうぐらいの嬉しさだ。いや、しないけど。
その時はすでに夕方を過ぎていて、時間的にはそろそろ晩御飯といったところ。
僕はもちろんのこと、ついさっきバイトを上がったばかりの月冶も晩御飯を食べていない。
少し図々しいけれども、久しぶりに月冶のお母さんのご飯が食べれることに期待していた。
昔は互いの家を泊まり合ったりもしたけど、ここ最近では遊びに行くことすらなくなっている。
そんな訳で、懐かしさと晩御飯を作らないで良い、なんて若干の気楽さがあった。
まあ結果から言えば、結局僕が作ることになったんだけどね。
よくよく考えてみれば、店長である月冶のお母さんが営業時間中にいるはずがない。
小母さんのご飯が食べられる、という期待は打ち砕かれたけれど、それでもまだ料理を作らずに済む、というやらしい思いはまだ残っていた。
ところが、それもアウト。
小母さんが居ないならば、いったい誰が作るのか。
当然月冶は作れない。となると、自然に長女である汐さんが作ることになる。
ところがどっこい。
「私が出来るのは野菜炒めまで!」と、腰に手を当て大威張りでそう言ってくれました。
ベタにお湯しか沸かせない、と言われるよりはマシか。……マシか?
じゃあ、妹の志恵ちゃんが?
でも以前、月冶が「アイツの料理は料理じゃない。化学実験だ」とか何とか言ってたことを考えると、それは有り得なさそうだ。
推測するより直接本人たちに聞いた方が良いか、ということで聞いてみたところ、三人から「作って」と言われましたよ。
それで結局僕が作ることになった訳でと。
ちなみに晩御飯はみんな大好きハンバーグ。挽き肉からこねて作る、手作り。姉弟三人にも手伝ってもらった。
ごめん、ウソ。志恵ちゃんは配膳係。
だってこねるのをお願いした筈なのに、いつの間にか変色してるんだよ?色は……アメジストを思い浮かべて貰えれば。
何が起きたんだ、一体。腕に邪王○殺拳でも封印してんのかな、どこぞの妖怪みたいに。
ともかく。
晩御飯は一部を除いて無事作り終え、そして今に至る。

「「汚いから口に入れたまま喋るな!」」
僕が言うまでもなく、姉妹揃って長男へとダブルでツッコミを入れた。
これが噂のトリプル漫才ってやつか。
「でも本当、泰斗君のおかげで助かったわー」
と、汐さん。
「うんうん、泰斗兄が居なかったらマトモな晩御飯が作れなかったよ」
末っ子の志恵ちゃんは、僕の事を『兄』、と呼ぶ。
本当の兄は呼び捨てなのに、なぜ僕だけ『兄』なのか聞いたところ。
「あれは兄じゃない、ただの居候だよ」と真顔で言われたので、それ以来聞かないことにしている。
そんな志恵ちゃんの一言に汐さんが「お前が言うなっ」と、またしても的確にツッコむ。
もういっそ、お笑い界にデビューしたら良いんじゃない?
兄妹は姉の激烈なツッコミで未だテーブルに突っ伏したまま。
そんな二人を僕は見なかったことにして、汐さんに話し掛けた。
「コントはそのぐらいにしましょう。今日は僕が晩御飯を作ったけど、いつもはどうしてるんですか?」
さっきも言った通り、この三人は料理関係がほぼ壊滅的。唯一作れる小母さんは仕事でいないとなると、誰が作っているんだろう。
「そういうつもりじゃないんだけどな……。いつもはお母さんが作りに戻って来るの。今日みたいに、忙しくて無理な日もあるんだけどね」
そんな日はお弁当なんかで済ますんだ、と汐さんは笑いながら言葉を継いだ。
ま、それが普通か。
もしこれで「実は私が作ってる」なんて言うものなら、月冶たちは毎日野菜炒めを食べていることになる。
……それは何とも、健康的だ。

晩御飯を食べ終えると、そのまま食器をを洗い始めた。
ああ、もちろん僕がですよ。
食器で躊躇なく「フリスビー」とか言って遊ぼうとする人達に、任せるどころか手伝いだって頼めない。
何気にやり慣れてる辺りが嫌だ。
小母さんは毎日こんな思いをしてるとなると、さぞかし大変だろう。
そんなことを考えながらも、唯一まともな次女志恵ちゃんに最後の平皿を渡す。
「はい、これで終わり。志恵ちゃん、ありがとう」
僕の言葉に志恵ちゃんはお皿を拭くてを止め、こちらを見上げた。
「お礼なんていいの。自分ちのことなんだから、当然でしょ?」
何て良い子だ。それに比べて上の二人ときたら……。
小母さんは産む順番を間違えたんじゃないんだろうか。
「そもそも、あのバカ姉兄がおかしいよ。お皿を投げるだなんて、どうかしてる」
いいぞー、もっと言ってやれー。
いっそのこと本人たちの目の前で言って欲しいぐらいだ。
僕はついつい、首を大きく縦に動かし頷いてしまう。
そして、更に志恵ちゃんの一言。
「お皿は回すものだもん!」
あー……それは頷き兼ねるかな。

それから僕は月冶の部屋へと向かった。
久しぶりにゲームでもするか、とか言ってたから、二人で出来るモノを探してあることだろう。
月冶とゲームをするのは、本当に久しぶり。最後にやったのはいつだろう、なんて思い出さないといけないぐらい前だ。
僕は名を呼びつつ、親友の部屋へと入ると、
「こなくそっ。月冶アンタ、弟なんだから一位を姉に譲りなさいよ!」
「うるへー!姉貴こそ年上なんだから手加減しろよっ」
……ゲームで白熱してた。マ○オカートで。
しかもスーファミって、また懐かしい物を。せめて足すと十になるアレか、最新機種にすればいいのに。せっかく持ってるんだから。
「ああっ、たーいとくんじゃない!」
「おおっ、たーいとくんじゃん」
ほぼ同時に声を上げたから、上手いことハモった。本当にこの姉弟は似てるなあ。
「洗い物終わったのか?」
画面から視線を動かすことなく、月冶は話し掛けてきた。
「うん、志恵ちゃんも手伝ってくれたから」
「ほー、珍しいな……って姉貴、汚ねえぞ!」
「へへー、集中しない月冶が悪いのよ」
……ホント、よく似た姉弟だ。

それから僕も加わり、ローテーションでやることになった。
今はまた月冶と汐さんが対戦している。
ところでさっきから同じゲームをしているけれど、飽きないのかな。
久しぶりだからか、二人は飽きるどころかかなりのハイテンションで続けている。
僕としてはそろそろ別のをやりたいところなので、盛り上がる二人にそう提案しようと声を掛けた。
けれど。
「泰斗兄、お風呂沸いたから入らない?」
と、志恵ちゃんがそう言いながら入ってきたため、僕の声が遮られてしまった。
名指しで僕が呼ばれたからか、月冶も汐さんも振り向くことすらしない。
二人で言い争いながらゲームをしたままだから、もしかしたら気付いてすらないのかも。
「うん、じゃあ今の内に入っちゃおうかな。二人は当分こんなだろうし」
「やったー、じゃあ支度してくるね!」
僕は月冶が準備してくれていたジャージを持ち、ドアの方へ向かう。
ちなみにジャージは汐さんの中学時代の物。月冶のじゃあブカブカ過ぎて着れないため、代わりに月冶が持ってきてくれたのがこれだ。
女性が着てただのと言う以前に、僕は高校生なのに女子中学生の服がピッタリと言うのが屈辱的過ぎる。
しかも聞いたところ、このジャージは中ニになったら着れなくなったらしい。
ぼっ、僕が小さいんじゃないよっ!
……いや、小さいんだけどね。ただ、この一家が大き過ぎるんだ……。
だって、年下である志恵ちゃんの方が背が高いんだよ。
伸びるのを夢見て、毎日牛乳を飲む自分が憐れに感じてくる。
「支度出来たよー」
笑みを浮かべ、再び月冶の部屋へと戻ってきた志恵ちゃん。
僕は気を取り直し、親友の妹に返事をした。
にしても、何で志恵ちゃんがこんな嬉しそうなんだろう。
僕がお風呂に入ると、風が吹けば桶屋が儲かる的な連鎖で良い事があるのかな。
「早くー!」
焦れて促す志恵ちゃんに頷き、部屋を出ようとしたところで「ちょっと待った!」と言う高い声が響いた。
「泰斗君、アナタまさかお風呂に入ろうって言うんじゃないでしょうね?」
「そ、そうですけど……」
さっきまでのハイテンションはどこへやら、眉を寄せ怒った様に……というか、怒ってる。
片やお風呂に入ることを喜び、片や怒る。一体僕にどうしろと。
肯定したのがいけなかったのか、汐さんは持っていたスーファミのコントローラーを振りかぶり投げた。
……月冶に向けて。
ひど……。自然災害よりもタチが悪い気がする。
奇声を上げて倒れる月冶を更に踏みつけ、汐さんは口を開く。
「私が一緒に入るのよ!」
「えー!?」
そう声を上げたのは、僕より志恵ちゃんの方が先だった。
「何で汐ネエが一緒に入るの!?」
残念なことに、またしても言ったのは志恵ちゃんに先だ。けど、言いたいことは同じだから構わないか。
「泰斗兄とは私が入るだから!」
前言撤回。全然同じじゃない。むしろ悪化させてる。
「そんなの良い訳ないでしょ。それに志恵、アンタ恥ずかしくないの?」
言ってることはマトモなんだけど、全く説得力がないです。
第一、汐さん自分も入るとか言ってましたよね。
「大丈夫だよ、泰斗兄なら。だって男じゃないもん!」
あれ?それは僕を男として見てないってこと?それとも僕の性別は女だって言ってる?どっちにしても良い意味には取れないんだけど。
そもそも志恵ちゃん、僕のこと泰斗『兄』って呼んでるじゃん。それは男って意味を含んで呼んでるんだよね。……だよね?
「まあそうだけど……」
頷かないで下さい、そこは。
「なあ泰斗」
いつの間にか汐さんの足下から抜け出していた月冶。
彼の声に反応して、僕はそちらを向いた。
「銭湯にでも行くか?」
その提案に乗らない筈がない。
僕達はR指定どころか、X指定にまで届いた会話をする姉妹をよそに、銭湯へ向かった。
広い浴槽で癒されて来よう。



ちなみに。
銭湯から帰ると、玄関で待ち構えていた姉妹に怒られた。
これを察していたから月冶は
「菓子買ってくるから先行っててくれ」なんて言ったのか。
酷いぞ、月冶。


もう一つちなみに。
なぜか汐さんと一緒に寝ることになった。正直、頭がボーっとしてきてる。
寝相でも頸動脈絞めるのはヤバいですって……。



あ、もうダメかも。
いかがだった…でしょうか…?前回からかなり日が開いてしまいました。こんなヘタレ文章ですが、気に留めていて下った方がいれば、大変申し訳なく思います。更新が遅れた理由を言えば、確実に旅行が原因です。ぶらり九州一人旅をしてた訳なんですが、テンパった挙げ句テンションがた落ちという状態ですよ。何であんなことになったやら……。余談ですが、先日誕生日でした。泰斗達の誕生日などは深く決めてませんが、その辺も話にできたらなんて考えてたりします。彼らに合う誕生日っていつですかね。それでは、宜しければ、次の話もご覧下さい。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。