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ずれた毎日
作:泰兎



四十二話目


逢魔が時。
なんて格好付けて言ってみるものの、正直今の僕にはそんな余裕はない。
「泰斗、悪い。急いで大根一箱出してくれ!」
叫ぶ様にして話す月冶に返事をして、僕は店の奥へと駆け足で戻る。
これで何度目になるやら、売り場と裏側の往復を繰り返す。
慣れていないせいか、足も痛い。
積み上げられたダンボールの中から大根を一ケース取り出し、急いで店内へと走る。
混み合う人の間を抜け、箱に入った大根を売り場へと出す。
「サンキュー泰斗。こっちは大丈夫だから、水産の手伝い頼む」
僕は片手を上げて答え、魚売り場へと急いだ。

と、まあ。なんで僕が野菜やら魚やらと戯れているのか。
もちろん遊んでいる訳じゃあない。真面目に働いているんだ。スーパー店員。
このスーパーは『超』のスーパーじゃなくて、スーパーマーケットのスーパー。
もしかしたら、スーパーマーケットのスーパーは、『超』の意味のスーパーかもしれないけれど。
今だけでスーパーと何回言っただろうか。
とにかく。今僕は、スーパーで働いている。
親友、斉藤月冶の家が営む『スタースーパー』で。
色々つっこみ所のある店名だけど、地元では人気を博しているお店。
これが僕の思い当たった、最も信頼出来ることだ。

月冶にお願いしたのは、手紙が来た翌日。
頼むと月冶は「バイト?いいぞ、ちょうど募集中だからな」と簡単に許可をくれた。
あっさり過ぎて驚いたけれど、僕にしてみればありがたい。
諸手を上げるどころか、嬉しくて思わずハグったら、やりすぎたらしく顔を背けられてしまった。
ごめん、調子に乗りすぎたよ。
そんなところに。
「なーに男同士で抱き合ってんの」
「あ、千秋。ちょっと感情を体で表現してみたんだ」
やって来たのは、同級生の楠木千秋だ。
「ふーん…」
僕が離れると、千秋は目を細め月冶を凝視し始める。
千秋がこうする時は、機嫌が良くない証拠。
何があったのかは分からないけれど、触らぬ神に祟りなし。僕は月冶に話し掛けた。
「そ、それじゃあ月冶、バイトの件お願いね」
「おう、任せておけ」
そう言って切り上げようとしたのだけれど、上手くはいかず…。
「何、泰斗。バイト始めるの?」
「う、うん。月冶の店でやろうと思って」
機嫌が悪かったはずが、やんわりとした口調の千秋。
そのギャップは何?
「なんでまたバイトを?何か欲しい物でもあるの?」
急にバイトを始めるとなると、大抵の理由はそれだろう。
けど僕の場合はそうじゃなくて、家計のため。
…なんて言えるはずもなく、頷き答える僕。
「バイトかぁ…。私も一緒にやろうかな、なんて」
冗談めかして言うけれど、それはそれで楽しいと思う。
そう言おうとしたら。
「悪いな楠木。ウチの店、動物は出入り禁止なんじょああっ!」
あーあ、また余計なことを。
案の定、千秋に速攻ではり倒される月冶。
おまけに腹這い状態で背中まで踏まれてるよ。
「気が向いたら始めるかもしれないから、その時はよろしく」
「うん、楽しみにしてるよ」
さっきの不機嫌さから一変、千秋は楽しそうに話している。
足下さえ見なければ、普通の女の子なんだけど。
「…く、楠木ぃ」
と、俯せの月冶がくぐもった声を上げる。
呼ばれた千秋は踏んだまま脚を曲げ月冶に顔を寄せて――頭を踏みつけた。…連続で。
何か小声で会話していたので、僕には聞こえていない。
「お前ってヤツは!このっ、このっ!」
「おまっ、がふっ、ぞれば、ぐばっ、しぬっ」
顔を赤く染める千秋に、床を赤く染める月冶。
月冶が何を言ったか知らないけれど、僕のやることは一つ。
二人を残し、そっと僕はその場を離れた。
二次災害は御免だ。
――本日も、当店にお越し頂き有難う御座いました。当店は只今の時間を持ちまして、閉店とさせて頂きます。またのご来店をお待ちしております。

閉店の放送が流れ、今日の仕事も一通り終了。
思っていた以上にハードで、弱体な僕には少ししんどい。
クタクタで、漸く帰れると思っていた僕の下に、更なる追い討ちを掛けに月冶がやって来た。
「おっし、それじゃあ片付け始めっぞ。泰斗、とりあえずお前は俺の手伝いだ…って大丈夫かよ。まだ初日だろ?」
「初日だからだよ…」
ずっと動いていたせいで、足が痛い。ローファーじゃなくて、スニーカーみたいな柔らかい靴にしておけば良かった。
「よいしょっと。さ、片付け片付け。月冶、まずは何をすればいい?」
爺臭くも掛け声と共に立ち上がり、月冶を見上げる。
心配そうな表情だったけれど、笑って見せると安心したようで、素早く指示を指示をしていった。
さ、もう一踏ん張りだ。

こんどこそ全ての仕事を終えて、更衣室へと重たい足を動かし移動。
「お疲れ様でーす」
「お疲れー」
中に入ると、そこには既に着替えを終えた月冶がいた。
携帯電話片手に、壁へ寄りかかっている。特に話そうとする様子はないので、僕も気にせず着替えることにした。
着替えと言っても、エプロンをはずすだけ。後はハンガーに掛ければ終わり。
そこまですると月冶は携帯電話をポケットに入れ、「出ようぜ」と促してきた。
頷き外に出ると、「おお、ピッタリだな、泰斗」と嬉しそうに笑う伊織の姿。
「あ、美穂ちゃん。お疲れ様」
「会長、お疲れー」
「ああ、お疲れ様」
バイトを始めたのは僕だけじゃなく、伊織も一緒に始めることになった。
因みにレジ担当。
本当は僕一人のつもりだったのだけど、「夫婦二人三脚、こういう時こそ私が手伝わないでどうする!」と言うので、結局二人でやることに。
台詞はともかく、手伝うと言ってくれた伊織を頼ることにして、二人でバイトを始めたのだ。
「そんじゃ、俺はお袋に用事があるから先に帰っててくれ」
「分かった。お疲れ様、月冶」
「明日も宜しく頼む」
僕は小さく手を振り、伊織は軽く頭を下げる。
僕らの言葉に片手で応えると、月冶は店の事務所へと走って行った。
「じゃ、僕らも帰ろうか」
「そうだな」

「どうだ泰斗。初めてのアルバイトは?」
帰り道、隣を歩く伊織が微笑みそう話し掛けてくる。
「やっぱ大変だったかな。思ったより重労働でさ、その上動きっぱなし」
明日は筋肉痛になってそう。
「美穂ちゃんはどうだった?何だか手馴れた感じだったけど」接客はまあ生徒会長だから、色々な人の相手をして慣れているんだろう。たぶん。
けど、レジ打ちまで難なくこなしていたのだから驚きだ。
正に閨秀とでも言うべきか。ちょっと違うかな?
「そ、そうか?……いや、実は少し経験があってな…」
「へー、そうだったんだ。それならそうと言ってくれればいいのに。凄い上手だったからビックリしたよ」
経験があるというのは意外だけれど、最初からレジ打ちをマスターしていたのも納得。
実際レジスターに触れたことがないから分からないけれど、僕の中では難しそうなイメージがある。
「…ああ、そう…だな…」
珍しく照れているのか、伊織は僕から視線を大きく逸らし、宙へと移す。
宙と言うよりも、空か。
「さ、早く帰ろう。イリスに遅いぞー、って怒られちゃうよ。…美穂ちゃん?」
話し掛けても、伊織の反応はない。
どうしたんだろう。
顔を覗き込んで、もう一度言おうとすると。
「よし、行こう泰斗。私はお腹が空いた。走るぞ!」
そう言って僕の手を掴み、駆け出した。
慌て僕も走り、伊織に付いて行く。
一瞬、伊織が泣いている様に見えたのだけど、それは気のせいだったみたいだ。
彼女の笑顔を見て、僕はそう判断した。
「はふぃ?」
昼休み。食事中にも関わらず、そんな情けない声を上げたのは月冶の問いでだ。
食べようとしていたおかずも、箸に乗ったまま口元で止まっている。
バイトを始めてから一週間。
仕事内容も覚え、簡単なことなら指示なしでも自分の判断で出来るようになった。
月冶からもドンドン違う作業を教えて貰い、最近はバイトが楽しく感じる。
それに加えて、今日は初めての給料日。嬉しさも一押しだ。
給料は経営者である月冶のお母さんにお願いして、週給制にして貰った。
前々からではあるけれど、僕はおばさんには頭が上がらない。感謝しても足りないぐらいだ。
おかげで、家計の方に問題無し。以前と変わらない生活を送れる。
それで、だ。
給料が入るとなると、重要なのはその使い道。
欲しい物があってか、遊ぶためか、後々のため、か。
もちろん僕は…。
「生活費ぃ?」
「うん、そうなんだ。仕送りが止まっちゃってさ。また届くまで自分たちで稼ぐ事にしたんだ」
いかにも「はぁ?」って顔をしていた月冶だけど、手紙の件を一通りはなすと「あぁ」と納得したような顔になった。っていうか頷いてたし。苦笑いで。
月冶や千秋には、言うべきかだったのかも。
だけど「困ってるんです、助けて下さい」って言うみたいで嫌だったんだよね
「そういうことは先に言えよな。お前のことだ、変な意地張って言わずにいたんだろう?」
…その通りで。さすがは月冶、大親友だ。
「うん、ごめん。次からはお願いするよ」
「あぁ、そうしろ。ま、こういうことの次は無い方が良いんだけどな」
「そうだね――」
笑って頷き、次を言いかけたところで、別の音がそれを遮った。
『泰斗さん、今すぐ――失礼しました。一年C組の堅城泰斗君、至急生徒会室まで来て下さい』
ブツッ、という音の後、放送は止んだ。
「なんか変わった呼び出し方だな」
「うん…」
今の放送は、結さんの声だった。
落ち着いた、そこらの大人よりも大人っぽいあの人が、あんなにも焦り、上擦った声になるなんて。
それに、呼び出しは二度と繰り返して言うのが基本だ。
それすらも行わなえない程非常事態なのかな?
「とりあえず行って来いよ、只事じゃ――」
再び言葉を遮る音。今度は、僕の携帯電話だ。
ごめん、と手早く謝り電話を取り出す。
液晶画面には、今し方声を聞いた結さんの名前がある。
訝しく思うも、電話に出た。
「もしもし。結さん、どうし「泰斗さん、放送は聞きましたね?今すぐ生徒会室へ来て下さい」
さっきの放送よりは落ち着いているものの、やはり強い焦燥を感じる。
「一体何があったんですか?結さんがそんなに慌てるなんて」
その問いの返事を聞いて、一瞬意識が遠退いた。
箸は手から落ち、地面を転がる。
気がつくと直ぐに、生徒会室目掛け駆け出していた僕。
手に持った携帯電話からは、未だに結さんの声が聞こえる。
しかし、僕の耳に届くことはなく、そして、頭に響くのは別の声。


「会長が…倒れました」


いかがだったでしょうか。結局先週の内には間に合いませんでした。…ダメ人間と罵って下さいませ。さて、今回伊織が倒れ、次話に引いた訳ですが。先に言っておきます。重病→死亡という結果には、絶対にしません。いくら私がベタ好きでも、そんな酷い終わり方なんて。というか、ハッピーエンドじゃなくなりますし。この文章は、ケータイから打ってます。PCの使える環境になり次第、前書きに小ネタを書き足す予定ですので、良ければ見て下さい。また、誤字脱字等ありましたら、御一報頂けると有り難いです。それでは、宜しければ次回もご覧下さい。











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