四話目
「堅城泰斗君、呼ばれた理由はもちろん分かっているだろうな。」
「あー…えっと、まぁ…それなりに…。」
「なら話しは早い。」
伊織は結さんの方を見ると、席を外すよう頼んだ。
「わかりました、外でお待ちしてます。御用が済みましたらお呼び下さい。」
伊織はうん、と頷いて返事をした。
「すみません、結さん。」
「いえ、構いません。」
そう言うと、扉の向こうへと去っていった。
「それじゃあ、いお―…会長が僕を呼んだ件についてお話しましょうか。」
閉まった扉から、伊織の方へと顔を向け直す。
『伊織』ではなく『会長』と呼んだのは、場を弁えてだ。決して、久しぶりすぎて名前で呼ぶのを躊躇った訳じゃあない。…本当に。
「…会長?」
声を掛けたとたん、伊織は俯いてしまった。いったいどうしたのか。
「ど、どうしたんですか?どこか気分でも悪いんですか?」
と言って少しずつ近づいてみる。今まで普通に話をしていたのに、急に俯いたんだ。不安にもなる。
「だいじょ――うわっ!」
言い切る前に、声をあげて驚いた。
当然だ。なんていったって、ついさっきありえないと思った事が起きているのだから。
今僕は、会長に…伊織に抱きつかれているのだ。
「えええええええっとととと、いいいいおり―じゃなくて、かか、会長。どうしたんですかかか。きゅ急に。たいいいちょう悪いんですか。」
やばい、声がもの凄く震えてる。何言ってるか伝わってないかも。
「…………ない。」
「ああああ、あぁ、それなら外に結さんがいるはずですから、よよよ呼んで来ますよ。」
「………じゃない。」
「ちょっと待っててくだ―…え?何ですか?」
「会長じゃない!私は伊織美穂だ!昔みたいに名前で呼べ、堅城!いや、たっくん!」
なんだって?どういうことだ?突然抱きついたと思ったら、今度は名前で呼べと?それに『たっくん』って、その呼び方は小学生に上がる時に止めたじゃないか!
あぁ、もう頭の中が混乱してる。
この状況、どうしたらいいんだ。胸が顔に…
全然頭が働かない。
誰か、助けて。
こんなところをファンクラブの連中に見られたら確実に殺されるな、うん。
伊織に抱きつかれること約5分。時間の経過と共に少しずつ落ち着いてきたし、まずはこの抱きつかれているのをどうにかしよう。
となると、まずは…
「かい―じゃなかった、伊織、わかったからまずは離して貰える?さっきから…あー、その…胸が顔に当たって苦しくって。」
「だめだ。昔みたいに呼ぶまで離さない。」
「伊織。」
「違う。苗字じゃなくて、もっと昔みたいに名前でだ。」
もっと昔みたいにってことは…
「…み…みーちゃん…。」
「よし、それでいい。」
そう言うと両腕をどけて、僕から離れた―…と思ったら、また抱きついてきた。
「いいいいいいおり、今度はななななに!?」
「ただ抱きたかっただけだ、気にするな。」
「気にするって!とりあえず離れて!」
「…仕方ないな。」
ぷーっとほっぺたを膨らましながら離れた。あ、やば。可愛い。
おおっと、見蕩れてる場合じゃない。話を進めないと。
「それで、いお――み、みーちゃんが僕を呼び出した理由は、あの噂についてでしょ?」
伊織って呼ぼうとしたらもの凄く睨まれた。
「あぁ、それか。そんなことはどうでもいい。」
「なんでどーでもいいのさ。迷惑でしょ、そんな噂。僕と…その…付き合ってるだなんて…。」
「迷惑?たっくんは迷惑なのか?私と付き合っているという噂が。」
「いやいや、迷惑だなんてそんな!僕はみーちゃ「それにな。」
言い切る前にみーちゃんが上から声をかぶせてきたので、僕は喋るのを止めた。
「それにな、あの噂。流したのは私だからな。」
……はい?
なんですと?
「……みーちゃん、ごめん。よく聞き取れなかったから、もう一度言って貰える?」
「む、そうか、もう一度言うぞ。私とたっくんが付き合ってる、という噂を流したのは私だ。」
「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!」
今までの人生の中で、一番大きな声を出しただろう。伊織も流石に驚いてる。
「何をそんなに大声を出しているのだ、驚くではないか。」
「何をって!なんでみーちゃん、そんなことしたの!?」
「そうすれば、たっくんをここに呼ぶ口実が出来るじゃないか。」
どうだと言わんばかりに胸を張っている。
僕をここに呼ぶためだけに、あんな危険極まりない噂を流したの…?
幼馴染で彼氏疑惑、そして生徒会室に個別で呼び出し。前の2つだけでも危ないのに、さらに危険なことに…。
平和な学校生活が…。
「迷惑だったか?」
「え?」
伊織に背を向け、頭を抱えてしゃがみこんでいた僕に、心配そうな声で伊織が話し掛けてきた。
立ち上がって振り替えり伊織を見ると、泣きそうな顔で俯いていた。
「私のしたことは良くなかったか?たっくんに迷惑をかけたか?それなら、私は…わたし
は…」
「わあああああ、大丈夫大丈夫、迷惑なんかじゃないよ。気にしないでいいから、ね?」
「…本当か?本当に迷惑かけてないか?」
「ホントホント、全然迷惑じゃないから!」
「なら、良かった。」
そう言うと、伊織は顔を上げて笑った。
僕はその笑顔に、また見蕩れてしまった。
いかがだったでしょうか。
才色兼備生徒会長な伊織美穂との絡みが始まりました。
ちなみに、伊織の口調を男性的な感じにしたのは、私個人の趣味だったりします。
よろしければ、次の話もご覧下さい。
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