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ずれた毎日
作:泰兎



三十六話目


家から学校までの距離が短いからって、その間を全力疾走なんてさすがにキツいものがある。
ましてや体力のない僕がするとなると、もっと無理だ。
息も切れ切れで、走るのが辛い。
走ったところでどうせ遅刻は決まってるんだし、それなら優雅にのんびり歩いて行こう。
なんて思ったんだけど、どうにも中途半端に真面目な性格のせいか、結局また走ってる僕がいるわけで。
走るのは嫌いじゃないけれど、制服にローファーとなると走り辛くて仕方ない。
それでも走った甲斐があってか、漸く学校に着いた。
ギリギリ二時間目に間に合ったみたいで、廊下から覗くと先生がプリントを配っているところ。
解説の途中に入室するのは気まず過ぎるし、入るなら今のうちでしょう。
「すいません、遅くなりました」
ドアをスライドさせ、中へと入る。
喧騒としていたおかげで、あまり注目を浴びずに済んだ。
「ああ、堅城か。生徒会長から生徒会の仕事で遅くなると、連絡が入ってあるぞ」
「はい?」
遅れて来た僕に、先生は何と言ったか。
かいちょうかられんらくがはいっている?
「聞いてないのか?まあいい、それじゃあ始めるから静かにしろー。ほら、堅城も早く席に着いてくれ」
促され席へと着くと、月冶に声を掛けられた。
僕はそれを無視して、今の事を思う。
遅刻こそせずに済んだものの、どこか腑に落ちない。
伊織に直線聞きに行ったほうが良いかもしれないな。
そう決めると僕は、ノートへ板書を写すことに専念した。
「おいっ、泰斗!なんで無視すんだよっ。おいって!」
「斉藤煩いぞ、静かに聞いてろ!」
「す、すんません…」
昼休みに入るとすぐに、僕は生徒会室向かった。
言うまでもなく、今朝と遅刻を免れた件について聞くためだ。
すでに生徒会の一員となっているので、わざわざ許可を得る必要もなくすんなりと生徒会室へと入って――と思ったら、最初の扉を入ったところで止められてしまった。
相手はもちろん、眼鏡さんこと斉藤結さんである。
…この言い回し、前にも使った気がするな。
それはさて置き。
生徒会員であれど、入室には結さんを通して伊織――会長の許可がいるんだとか。めんどくさ。
それで結さん先導の下、生徒会室に入り結さん退室後に話を切り出した。
「美穂ちゃん、どういうことなのさ」
伊織を見れば、彼女は机に向かい書類に目を走らせている。
時折右手を動かしていところを見ると、何か書き込んでいるようだ。
扉の前に立つ僕の声に反応し、スッと顔を上げこちらを見た。
「おお、泰斗。態々会いに来てくれたのか」
「うん、聞きだいことが――」
「スマンがもう少しだけ待ってくれ。あとちょっとでこの案件が片付く」
それだけ言うと、再び顔を伏せてしまった。
仕事なら仕方ないか。生徒会に力がある分、仕事も多い。一応とはいえ、生徒会員の僕が会長の仕事を邪魔する訳にはいかないもんね。
やることがなく、ボーっと伊織を見る。
そういえば、僕も生徒会の仕事ってしないでいいのかな。
仮にも生徒会役員なんだから、何かしら仕事をしないといけないと思うんだけど。
っていうか、そもそも僕って何の役職に就いてるんだろ?
それすら聞いてないや。結さんの役職も気になるかなぁ。なんか秘書っぽいけ【た、泰斗」
「ん、何?」
取り留めのない思考を、伊織の声が遮る。
「わ、悪いが余り見ないでくれるか」
見られた恥ずかしさからか、伊織は顔を赤く染める。
僕も無意識の内に見ていたみたいだ。慌てて謝り、視線を外へと向けた。
この位置からだと、窓の外は空しか見えない。薄い青色と、そこに重なる白。
蒼天、という言葉がよく合う日だ。
今度は空と、左に流れるを雲をボーっと眺める。
すると、不意に背後の扉に二度、軽い何かが当たる様な音がした。
何だろう、と振り向いたら――
ガンッ!
「いでっ!」
突如開いた扉が、顔面直撃。しかも扉に押されてそのまま倒れる始末。
「会長、そろそろお時間…何してるんですか、泰斗さん」
「…気にしないで下さい」
そうですか、と言うと本当に気にせず伊織と話しを始めた。
せめて手ぐらい貸してくれても…。
「もうそんな時間か。分かりました、この辺にしておきます」
「はい、お疲れ様です」
そんなやり取りを余所に、やっとのことで起き上がる…とすぐに、伊織に腕を引っ張られて、また倒れてしまった。
「よし、泰斗も一緒に食べるぞ!結先輩、いいでしょう?」
「構いません」
その答えを聞くと、伊織は嬉々として僕を引き摺り歩く。
結さんは少しでいいから、僕の状態に構って下さい。

「いただきます」
両掌を合わせ、お決まりの言葉。
応接用の椅子に座り、目の前のテーブルへとお弁当を並べていく。
弁当を忘れた僕は、伊織に分けて貰うことになった。
僕のお弁当は、今頃葉月さんのお腹へと消えてることだろう。
「…結さんのお弁当、大きいですね」
「そんなことありませんよ」
大きな包みから現れたのは、三段積みのお重。
文様も華やかで、昼食というより御節を食べる気分だ。
重箱を広げると、中は案外普通のお弁当と変わらなかった。
寧ろ、お弁当の定番といった物が多い。
ただ…。
「昼食ですよね?」
「昼食ですよ」
よし、とりあえず重箱というのは置いておこうじゃないか。
それよりも、だ。
「それ、一人で食べるんですか?」
三段積みのお重の内、上二段はおかずでいっぱい。一番下は炊き込みご飯がたんまりと入ってある。
…量多すぎじゃない?
「そうですが、何かおかしな事でも?」
「いえ…特に問題ないかと」
おかしい…と言いたいところだけど、結さんの顔が本当に不思議そうだから言えない。
見かけによらず、沢山食べるんですね。
「宜しければ、泰斗さんと召し上がって下さい。会長も、いつも通りどうぞ」
「良いんですか?」
そう聞くと結さんは、ええ、と首を縦に動かしお重と箸を僕の方へと寄せた。
伊織はいつも貰ってるんだ。
それじゃあお言葉に甘えて、っと。
まずはお決まりの玉子焼きに狙いを定め、箸を伸ばす。
掴もうとしたその瞬間。
「どれ、では私も頂こう。…うむ、相変わらず結先輩の玉子焼きは美味しい」
…伊織に取られた。
仕方ない、それじゃあこっちのを。
これまたお弁当のおかずとして定番、唐揚げに箸を伸ばす。
「では、今度はこちらのを。…おお、やはりおいひい」
…また取られた。
「ねぇ、美穂ちゃん」
「んん?なんら、たいほ」
「…何でもない。口に入っている時は、喋らないようにね」
「ふぉふぉ、ふまん」
態とやってるんじゃないかと思ったけど、なんか違いそうだな。
「泰斗さん、召し上がらないんですか?」
「あ、頂きます」
気を取り直して。
今度こそは…これを食べよう。
よっと。
ガチッ、と箸同士がぶつかり合う音。
「美穂ちゃん、これは僕が取ったんだけど」
「うぃや、なにほ言う。わらひのほうが先らったぞ」
おかず一つに箸が二つ、掴み合っている。
ほっぺたを膨らまし、口をモゴモゴと動かしながら喋る伊織は、宛らリスのようだ。
レディファーストなんて言葉があるけど、今の僕には通用しない。
今やジェンダーフリーで「いまらっ!」…す……よ…。
「んぐんぐ、うむ、美味い。油断したな泰斗。世は弱肉強食だぞ」
人が語りに入っている時の隙を突くとは。
伊織、卑怯なりっ。
「何をしているんですか、お二人共。泰斗さんも食べるなら食べて下さい」
「そうだぞ泰斗。せっかく結先輩がご馳走してくれているんだ、失礼だぞ」
あなたがそれを言いますか。僕が食べれてない原因は、あなたですよ。
という言葉を込めて伊織をジト目で見返す。
ところが何を勘違いしたのか、まったく予想外の行動に出た。
「なんだ泰斗は。もしや私に食べさせて欲しいのか、仕方のない奴だ。ほら、アーン」
伊織さん、何をなさっているんでしょう?
仕方ないとか言いつつ、若干嬉しそうなのは何でですか。
「ほら、どうした。口を開けろ。アーンだ、アーン」
そう言いながら、僕の口元へと箸を寄せる。
そこには最初に食べ損ねた玉子焼きが。
いや、まぁ、正直言えば喜ぶところなのかもしれない。
閨秀に加えて美少女、そんな彼女から食べさせて貰うなんて、普通は有り得ないことだ。
けれど、僕にしてみれば身近な幼なじみであり、恥ずかしさの方が勝って出来ない。
「い、いいよ美穂ちゃん。自分で食べれられるか――んぐっ!」
断ろうと喋っている最中、強引に口内へと詰め込まれた。
口の中がいっぱいになっているせいで、文句も言えない。
「どうだ、美味しいだろう?」
確かに美味しいけど、作ったのは結さんでしょ。
そう思い、結さんの方へと顔を向け首を縦に動かす。
喋るに喋れないので、頷いて【美味しい」の意思表示をしてみせたのだ。
それが通じたようで、有難う御座います、という返事が来た。
咀嚼し、飲み込む。まずは文句を言おうと、再び伊織へ方に向き口を開く。
「いきなり人の口に…って、何してんの?」
伊織は自分の箸をジッと見つめ、何やらニヤニヤと笑っている。
あ、なんか伊織の考えることが分かったかもしれない。
でも、まさかね?いくらなんでも、そんなことしないよね?ね?
「いただきます」
の声と同時に、伊織はその箸先を口へと入れた。
箸としての機能を、使うことなく。
「…しあわせ」
恍惚とした表情で箸を銜える伊織。
…なんだか穢された気分だよ。
「…泰斗さん、こちらもいかがですか?」
声の方を見ると、僕にご飯を差し出す結さん。
…お重ではなく、箸に乗せて。
伊織はともかく、結さんがそんなことするとは思わなかったから、軽くテンパってしまう。
「いえ、自分で取れま――あぐっ!」
またしても、台詞の途中で無理矢理口へと入れられた。
結さんはこんなことする人じゃないと、思っていたのに。
「味の方はどうでしょう?」
さっきしたように、首肯して答える。
「………」
結さんは伊織同様、箸先を見つめる。
そんなまさか、結さんに限って。
っていうか僕の銜えた箸なんて、汚いだけでしょう。
と、見つめていた箸をご飯へ向け、掴み口へと運んだ。
何か納得したように、コクコクと小さく首を上下すると、微かに笑ってみせた。
ホッ…、単に味を見ただけか。
「…ふぅ。二人共何するんで――ぐむっ!」
漸く飲み込み、話し始めた途端。再び口に何かが入ってくる。
味からして、食べ損ねた唐揚げだ。
「今度は家の唐揚げだぞ」
嚥下し、喋ろうと口を開くとすぐ、食べ物が入ってくる。
「サラダです。マヨネーズも私が作りました」
うぅっ…二人してなんなのさ。美味しいけど、もっと落ち着いて食べたいよ。
なんだか、雛鳥のような気持ちになってきた。
口を開けると、親鳥が餌を入れてさ。

…僕って何しに来たんだっけ?


「揚げ物だ」
「煮物です」

もうお腹いっぱいだよ…。


いかがだったでしょうか。以前買った『世界樹の迷宮』、早くも挫折しそうです。 今回は久しぶ月冶が出ました。しかし、書いた私が言うのも難ですが、扱いがヒドい。流石にアレは余りじゃないかと思いましたが、このテの話にはああいう人物が付き物なので。ガンバレ月冶! 先日、『ずれた毎日』を軽く読み返してみました。コメディとしてジャンル登録している割には笑いが少なく感じ、解消しきれてない行もいくつか見つけました。以後、意識して書きたいと思います。何かありましたら、お教え頂けると助かります。 宜しければ、次の話もご覧下さい。











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