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「む、泰斗。何をしているんだ?」
「あ、美穂ちゃん。これね、ブログを書いてるんだ興味あるならやってみる?」
「ぜひやりたい」
「じゃあ、ここに登録して…」
「わかった、後は一人で大丈夫だ」

「どう、出来た?」
「あぁ、傑作だぞ」
「どれどれ…って何この『私と泰斗の愛の巣日記』って!しかも内容なんて完全に18禁入ってるじゃないか!」
「ハハハ」
「ハハハじゃないよ、なんで顔逸らすのさ!今すぐ消してっ」
「むぅー、仕方が無い」

そんな毎日。

ずれた毎日
作:泰兎



二十八話目


「ねぇたっくん」
「なぁに、みーちゃん」
「わたしのこと好き?」
「うん、すきだよ」
「ほんとうに?」
「うん、ほんと」
「それじゃあ、ちゅーして」
「えぇっ、やだよぉ」
「やっぱり好きじゃないんだ…」
「そんなことないよ、ほら。ちゅっ」
「…えへへ」
………。
幼いとはいえ、何をしてるんだ僕は。
なんて夢だ…
「たっくん♪」
「わぁっ」
「んしょ…と」
「みーちゃん、おもたいょお、おなかの上のらないで」
「いいの。ねぇたっくん」
「なに、みーちゃん?」
「わたしもね」
「うん」
「わたしもたっくんのことだいすきっ。ちゅぅぅぅ」
「わむっ」
(く、苦しい!みーちゃん、離れて)
「ちゅぅぅー」
(ヤバい、息がっ、出来なっ…)
「ん、ん〜んん」
夢のはずが、あまりの息苦しさに眠りから覚め目を見開いた。
………。
ぼくはまだ、ゆめをみてるのでしょうか。
目を開けて、まず最初に入ったのが、黒い瞳。
そして、これも夢…じゃない。確実に、口にも何か感触がある。
その何か、を追求したくない。したくないけど…
「…ぷはぁ。お早う泰斗。漸く起きたか」
「…伊織さん」
「なんだ泰斗、寝ぼけているのか。名前で呼ぶよう決めただろう。あぁ、何なら『みーちゃん』でも良いぞ」
「『美穂ちゃん』の方向で…」
あんな夢見た後じゃあ、言いづらことこの上ない。
「む、みーちゃんじゃないのか。まぁいい、それで何だ?」
『みーちゃん』の方が良かったんだ。
「えっと…とりあえず、お腹の上で何やってるの?」
さっきの夢同様、僕のお腹の上に馬乗り状態で跨る伊織。
ちょっと苦し。
「泰斗を起こしに来た。いくら今日が土曜で休みだかといって、遅くまで寝てるのも良くないからな。妻として起こしに来たのだ」
説明的な台詞を有難う。
妻の部分は敢えて流すとして、問題は次だ。
「それで…、寝てた僕に何してたの?」
「お早うのキスだ」
真顔で言わないでよ…。
「やはり眠ったお姫様を目覚めさせるには、王子様のキスでないとな」
そんなしたり顔で言われても。
「それはお伽話でしょ。第一、僕は男で美穂ちゃんは女の子なんだから逆さまに――」
アッ、しまった!こう場合伊織だったら「男や女など気にする必要はない」とか言って…
「性別など気にするな。こういうのはしたい時にすれば良い。こういう風にな」
やっぱり…なんて考える僕の頬に、両手を添え顔を近づける伊織。
あまりにそれが自然過ぎて、拒絶するどころか反応すら出来なかった。
徐々に近づく伊織の顔。
香る伊織の匂いに惑わされたのか、それとも僕の心底で望むからか。
避けることなく、ゆっくりと伊織の唇が僕のそれに重なる。
――瞬間。
「にっいさーん、おっはよー!いつまで寝てるのか……な…」
前置きなくドアが開き、そこから五月ちゃんが現れた。
なんてタイミングで入って来たのやら。
入口を向いたまま固まる僕に、そちらを一瞥して再び何事もなかった様に口を寄せる伊織、そして立ち尽くす五月ちゃん。
この三竦みとも三つ巴とも言い難く、まともに説明すら出来ない状況。
どう打破すべきか、寝起きの頭をフル回転。けれども、妙案が頭を過ぎるその前に。
「…さんの…」
俯きわなわなと震え何かを呟く。
そんな五月ちゃんに声を掛けようと口を開けたのだけど…
「兄さんのエロバカー!」
その叫び声を聞いた後、直前で見たのは、迫るテニスラケットと、ちゃっかり離れる伊織の姿。
山ほどツッコミを入れたい中、鼻から赤いものを飛び散らせ、僕は顔の痛みと共に意識が途切れたのだった。
行って来ます、夢の世界…

「ごめんなさい…」
以前ドライヤーを投げられた時と同様、横たわる僕の隣に泣きそうな顔つきで座る五月ちゃん。
「ラケットを投げるなんて、非常識でした…」
まぁ流石にテニスラケットはね。リアルに死にますよ、場合によっては。
「そうだな、仮にもスポーツをする者なのだから、自分の使う用具を人に投げるのは良くない」
「はい…」
伊織の言葉で、より肩を縮こませる。
「テニスプレイヤーとして、ラケットを人に投げるなんて最低でした」
テニスプレイヤーじゃなくても最低ですよ。
っていうか、物を投げる事はアリ、みたいなニュアンスで話してるように聞こえるんだけど。
ツッコんだ方がいいのかな。
「次からは物を選ぶべきだ」
「そうします」
あぁ、ツッコむべきだね、これは。
「そもそも、人に物を投げること事態良くないんだけど」
痛む鼻を押さえてるせいで、鼻声みたいだ。
「…それはさて置き、こんな朝早くにどうしたんだ」
うわっ、見事に流したよ。年長者…それ以前に、人として止めないとダメでしょ。
「どうしたも何も、忘れたの?私もここに住むって言ったじゃない」
「「………?」」
座り直した僕と、五月ちゃんの横に立つ伊織。僕ら互いに顔を合わせ疑問符を浮かべる。
「いつそんな事言ったの?全然記憶にないんだけど」
「私もだ」
「二人して…」
青筋をうっすらと浮かべ睨まれた。
「この前話したでしょっ。正確に言えば一昨日、お母さんと一緒に!」
…あー、そう言えば確か言ってたかも。
葉月さんも住むとか言ってたっけ。今はもういないから関係ないけど。
「………?」
伊織はまだ首を傾げてる。
「もー!忘れたなら忘れたでいいっ。あたしもここに住むからね!」
それだけ言うと、体を翻し外へ出て行った。
恐らく、まだ自分の所にある荷物を取りに行ったのだろう。
伊織を見ると、未だに思い出せないようで少し唸り始めている。
「美穂ちゃん」
「な、なんだ。忘れてないぞ、ちゃんと覚えている。確かに五月は言っていたな」
……そう思うなら僕の目を見て話してよ。
「それはもういいから。五月ちゃんも一緒に住むことになったけど、いいかな?」
「構わんぞ。泰斗がそう決めたのなら私はそれに従う」
従うは大袈裟だって。
でも…
「ありがとう、みーちゃん」
そんな彼女に、僕は笑顔で応えた。
『美穂ちゃん』ではなく、『みーちゃん』と呼んで。
「…………」
伊織はその方が嬉しいみたいだから、そうしたのだけど…なぜか反応がない。
あ…、この展開はもしかして…。
「たっくん!」
まぁ、予想通りでした。
抱きつかれてますよ、僕は。
先読みして横に避けたつもりが、伊織は更に先を読んでいたらしく敢え無くホールディング状態。
しかも今日は、腕ごと絞められてる。
正直言うと痛いけど、好意でしてくれてるから無下に返せない。
…五月ちゃんに見られたら、また大変なことに――
「さぁ兄さん、今度こそ手伝って…」
なった。
両手で持つ本の束を床に落とす。
一冊を除いて。
「人が居なくなった途端にぃぃぃ!」
階下へと確実に響いてるだろう程の足音を起てて近寄って来た。
今度こそ、僕は死ぬかもしれない。
母さん、今そっちに逝きますよ。
…シャレにならない。
「五月ちゃんストップストップ!ドライヤーもラケットもヤバかったけど、その広辞苑は流石に危ないって!」
「大丈夫、殴るなって注意書きはなかったから」
「あ、当たり前です!」
どこの世界に『殴るな危険』なんて書く辞書があるの!
伊織は伊織でまたしても横に逃げてるし。
酷くない?
「さ、頭と顔どっちがいい?」
何そのある意味究極の二択は。
「あのー、五月さん?僕の意見もき「五月蝿い」
…聞く耳なしですか。
依然分厚い凶器片手に――って片手!?握力凄っ。
それどころじゃなかった。なんとかして五月ちゃんを落ち着かせないと。
でも…
考える最中、インターホンが鳴り響いた。
あぁ、これは天使が鳴らした救いの鐘か。神様、ありがとうございます。
「僕が出て来る――」
と五月ちゃんの脇を抜き去ろうとしたのだけど…
「兄さんは動くな」
足下に本が落とされ思わず足を止め、五月ちゃんの横で立ち止まった。
「伊織さん、出てきて」
「あぁ、分かった」
一言だけ返すと、心なしか足早に部屋を出て行く伊織。
あっさり見捨てられたー!
部屋には残った僕と五月ちゃん二人。ドアは閉められ密室、そして足下には分厚い凶器…。何この状況。 神様、酷くありません?
っていうか、なんで僕が怒られた上に殴られかけてるのさ。そもそも伊織が急に…
急に…
………。
一つ思いついたけど、これはこれで勇気がいるなぁ。
でもやらないと、撲殺への道が。
「さぁ兄さん、覚悟はいい?」
拳を作り僕を見る。怖い。
覚悟を決めるか。
よしっ!
「五月ちゃん」
「何よ」
ものっ凄く冷たい目で見てくるよぅ。うぅっ…
僕は決心して行動に移した。
五月ちゃんのすぐ近くにいたのは幸いだろう。
足を一歩進め、両腕を開く。
そして、広げた腕で五月ちゃんを抱き寄せた。
ついさっき、伊織が僕にしたように。
「ちょっ、ちょっと兄さん、何してるのっ」
突然抱き締められ離れようとする五月ちゃんを、強引に寄せる。
「えっと…愛情表現かな?」
「愛情…表現」
僕の言葉を聞いて、暴れるのを止めた。
それを察し、僕も腕に込めた力を弱める
「うん。昔ね、母さんがよくしてくれたんだ」
「おばさんが?」
「そう。怪我して泣いて時や、喧嘩して怒って帰って来た時。落ち込んだ時もこうやってくれた」
背中を優しく叩く。
「………」
「落ち着いた?」
「…うん」
よかった。
回していた腕を解き、そのまま五月ちゃんの頬に手を当てる。
目を見て、再び話しを始めた。
「ごめんね、五月ちゃん。ここに動く事も忘れてた上に、手伝いもしないで伊織とあんなことしてれば怒って当然だよね」
「う、ううん、あたしもムキになりすぎてた。ごめんなさい」
「それじゃあ、仲直りってことで」
手を離し、微笑む。
五月ちゃんも、笑顔で応えてくれた。
「おーい、二人共来てくれ!」
見計らったようなタイミングで掛けられた声。
にしても、伊織が大声を出すのは珍しい。
「伊織さん呼んでるよ、行こっ」
「うん」
そう言って、部屋を出ようとドアに手を掛けた時――
「ねぇ、兄さん」
「何、五月ちゃん?」
呼ばれて振り返る。
いつもの勝ち気な様子ではなく、しおらしい感じだ。
「もし、あたしが泣いたり落ち込んだ時は…また今みたいにしてくれる?」
その言葉に、僕が返せる台詞は一つしかない。
「もちろん」
僕なんかでよければ、いつでも頼って来て欲しい。
血の繋がりはなくとも、僕は五月ちゃんの兄なのだから。
微笑みそう返事をすると、なぜか動こうとしない五月ちゃんの手を引っ張り伊織の元へと歩いた。
「それで、どうしたの?珍しく大声出して」
「これを見れば、泰斗も大声を出すぞ」
椅子に座る伊織がそう言って指差したのは、何が入ってるのか、と言いたくなる程大きいダンボール箱。
大人一人は確実に入れる。
「まぁ、確かに大きいけど、そんな声を上げるほどでもないんじゃない?」
と五月ちゃん。
僕も同意見だ。
「大きさなどどうでも良い。それよりも、伝票を見てみろ」
言われて箱の上部を、二人で覗き込む。
「「あぁぁぁぁ!」」
「ほらみたことか」
勝ち誇った様に脚を組む。
驚くのも当然。
伝票には『堅城俊彦』の名が書かれているからだ。
「何、なんで父さんから!?」
「さぁ、分からんが兎に角開けて見た方が早いのではないか?」
「う、うん…そうだね」
百聞は一見にしかず、か。
棚からカッターを取り、封をしてあるガムテープを切り取る。
「開けるよ…」
「ああ」
「うん」
二人に返事を貰うと、ダンボール箱の蓋に手を掛けた。
すると――
「あっつーーい!」
声と同時に何かが飛び出て来た。
それは、鮮やかな金の髪に、黒い目をした女の子。
このなんとも非常識な闖入をした女の子に、僕らただただ、呆然としていた。


但し、伊織は除く。


いかがだったでしょうか。
相変わらず伊織は自由人。
以前後書きで書いた通り、新キャラを出してみました。次回に引っ張ろうかと思ったのですが、結局今回にしました。おかげで文字数が増え…。
次回以降は本格的に登場しますので、気にしてやって下さい。
よろしければ次回もご覧下さい。











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