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もう自分でも何がなんだか。
ずれた毎日
作:泰兎



二十五話目


目元をハンカチで拭いて、溜まっていた涙も拭き取った。
今は伊織を応接用の椅子に座らせて、僕はその正面にある低めのテーブルに腰を置き向き合った状態でいる。
行儀が悪いけれども、伊織と顔の位置を合わせるためだから仕方がない。
「もう大丈夫?」
「ああ、すまなかった。突然泣いたりして。」
「ううん、構わないよ。」
首を振って答える。
膝に置いている伊織の手を包む様に重ね、まだ涙の跡が残る顔を見た。
伊織の涙を見るのはいつぶりだろうか。
何かあるとすぐに泣いていた僕に比べ、伊織は昔から滅多な事がない限り泣かなかった。
小さい頃二人でイタズラして叱られた時も、鼻水を出し泣いてる横で、伊織は泣かずに俯くだけ。
その時繋いでいた伊織の手は、僕の手をギュッと強く握り締めていた。
涙を堪えるためにしていたのだろうけど、その痛みで余計に泣き叫んだのを覚えている。
と、こんな昔話はともかく、記憶の中に伊織が泣く姿はほとんどない。
だから、涙を流し抱き付く伊織を抱き返したのは、伊織の慰め方を知らなかったからだ。
「しかし、泰斗が抱きしめてくれるとは思わなかったな」
そう言って小さく笑う。
「いくらなんでも、泣いてる人に離れろなんて言わないよ」
「そうか、泰斗は優しいからな。…む、良いことを聞いたぞ。今度から抱きしめる時は、泣くことにしよう」
「ちょ、ちょっと何言ってるのさ!」
「冗談だ、冗談」
「まったくもう」
僕らお互いに顔を見合わせ、クスクスと笑い合う。
暖かい雰囲気。
けれど、伊織も分かっているはずだ。
何を話すべきかを。
共に笑いが治まる。
今までの暖かい空気が、徐々に静かなものに変わっていく。
頃合い…かな。
「ねぇ、美穂ちゃん」
「…なんだ」
少しずつ空気が重みを増す。
そう感じるのは、僕の気のせいだろうか。
「あのさ、なんで…急に泣いたりしたの?」
正面から聞き難いことだけど、だからこそ逆に正面から聞かないといけないと思う。
僕が伊織に見せる、信頼の一つ。
「正直…少し恥ずかしくもあるのだがな」
「そんなことないよ。仕方ないことなんだから」
泣かずに生きられる人なんて、この世にいるはずがない。
それが、どんなに強い人でも。
「そうか?ならば良いが。だが、このことは他言しないで欲しい」
「もちろん!僕と美穂ちゃん、二人の秘密だよ」
「二人の秘密…」
恍惚とした顔になる伊織。
この言い回しはよくなかったかも。
「そ、それで、どうしてだか聞いていい?」
話の軌道修正をしないと。
「あ、あぁ、そうだったな。実はだな…」
ゴクリと喉を鳴らし、唾を飲み込む。
ここに来るまでは、こんな状況になるとは思いもしなかった。
きっと、少し騒ぎながらも、生徒会の件について聞くんだろうなー、なんて。
躊躇い顔を少し紅潮させる。
なんてレアな!
おっと、こんな考えは不謹慎か。
照れながらも、決心した伊織が言った言葉は
「コンタクトがズレてしまってな」
だった。
………。
……。
…。
は?
「痛かったのだが、泰斗が来てくれてたのだから、我慢して近くに寄ろうとしたら躓いてしまったのだ」
「…………」
「な、なんだその顔はっ。私だって恥ずかしいのだぞ!」
「…………」
「こ、こら、何か言ってくれないと本当に恥ずかしいではないかっ」
「…な」
「な?」
「なんじゃそりゃぁぁぁぁ!」
今この場にちゃぶ台があれば、間違いなくひっくり返している。
それはもう、星○徹が如く。
「なな、何がだ?今の説明の何が不満なんだ?」
「何がも何もないでしょう!何だよ『コンタクトがズレた』って!そんな良すぎるタイミングでコンタクトをズラすんじゃないよ!しかも!躓いただって!何もないところで!?いつから君はそんなドジキャラになったの。っていうか何、そのマンガみたいな状況は!」
…と心の中でぶちまける。
直接言う勇気はありませんです、はい。
僕に言えるのは…
「…いつのまにコンタクトしてたの?」
これくらい。
「おや、言ってなかったか?確か中学の終わり頃からだ。急に目が悪くなりだしてな、その時は眼鏡だったのだが、高校に上がる時コンタクト変えたのだ」
「…そうだったんだ」
なんか意味もなく疲れた気がする。
「まぁしなくても差程問題はないのだが、ないと不都合が生じる事もあるからな。泰斗が望むなら、いつでも眼鏡にするぞ」
「…まかせるよ」
真剣になった僕の方が恥ずかしい。
重たい空気なんていうのも、全て気のせいか…ハハハ。
「む、なんだか投げやりな感じだな」
あー、なんかもう何もかもがどーでもよく感じるー。
「どうした泰斗、その気の抜けた顔は。そんなことでは――」
伊織が何か言いかけた途中、部屋に扉をノックをする音が聞こえた。
こんなに大きくて豪華な扉なのだから、ノッカーぐらい付ければいいのに。
手じゃ大変でしょ。
「ふむ…今度ノッカーでも取り付けるか」
僕の思考をあっさり読み取る伊織。
「なんで僕の考えてたことがわかるの?」
昨日からこう何度も読まれては、流石にツッコまずにいられない。
「何、泰斗も同じことを考えていたのか。なんて偶然だ。やはり私と泰斗はうんめ「ほら、人が来てるんでしょ。入れてあげないと」
また話が違う所にいきそうだったので、無理矢理元に戻す。
それが伊織は不満だったようだ。
「むー、仕方ない。家に帰ったら色々してやる」
なんとも危ないことを言ってくれた。
お願いだからそういうのは止めて…。
愚痴りながら扉に近づいて行く。あと数歩という辺りで、扉が自然と開いた。
「今日はなんだか賑やかだね」
普通に考えて、自然に開く訳がない。
自動ドアじゃあるまいし。
外から誰か入って来ただけ。
落ち着いた声を響かせながら部屋へ入って来たその人は、僕もよく知る人物だった。

「周先輩!」
扉を開け入ってきた人は、 蒼穹周そうきゅう あまね先輩。
僕より一つ年上の二年生だ。
成績優秀でスポーツ万能、何をやっても上手にこなせる凄い人。それでいて、そのことを驕らない人格者。
もちろん見た目も良い。
ちょっと童顔…って僕が言えたことじゃないけど、それでも十分に格好いい人。
伊織が男になったら、きっとこんな感じになるんだと思う。
そんな凄い人なのに、何故か不思議なことにこの人についての噂が何一つ流れないという、謎な人でもあったりするのだ。なんでこんな人と、僕なんかが知り合いなのかと言うと…
「あれ、泰斗。こんな所で何やってるの?部長がまた発狂するよ」
部活の先輩だったりする。
「いやぁ、ちょっと伊織に話がありまして。というか周先輩こそどうしたんですか、生徒会室に来て」
何気なく質問したつもりが、なぜか答え倦ねている。
先輩は困ったように伊織を見て、「えーっと…」と小さく頬を掻いた。
「?」
首を傾げ、僕も伊織を見る。
視線の意味を察してか、伊織は首を縦に振った。
「でも、いいの?」
「構いませんよ。泰斗も先輩と同じですから」
「「え?」」
二人のやり取りが分からず見ている中、自分の名前が出て来たことに驚く。
偶然にも、周先輩と同時に声を上げた。
その先輩は驚きというよりは、憐れみの表情を僕に向けている。
「な、なんですか先輩」
「会長、本当に?」
「もちろんです。そんな冗談言えませんよ」
「…泰斗」
「はい?」
「頑張れ、負けるな」
「だから何がですか!」
内容を言わないぶん、余計に恐怖心が煽られる。
伊織の方を見ても意地悪そうに、それでいて楽しそうに笑うだけ。
先輩も恐らく、僕の反応を楽しんでいるんだと思う。
もーっ!どっちでもいいから教えてよー!

「う〜〜〜」
何も言わない二人に対し僕が唸り始めた頃、 漸く先輩が口を開いた。
「あー、ゴホンッ。とりあえず落ち着こうか、泰斗君」
宥めるため肩を、置いていた手でそのままポンポンと叩いてくる。
落ち着かせようとする先輩と、その後ろで少し焦りだした伊織。
僕は目を細くし「いい加減にしろ」という意味を込めて、順に睨みつけてやった。
その意図を汲み取ってくれたかどうかはともかく、もう一度話してくれるよう促す。
「あ、あぁ。えっと、一言で言えば、俺も生徒会メンバーなんだ。正確にはこれからだけど」
「はぁ」
「あれ、驚かないんだ?」
内心メチャクチャ驚いてますよ。
だけどここでいつものようなリアクションをすると、先輩達の思惑に引っ掛かったきがしたので、努めて冷静でいるように見せた。
「驚いてますよ。それで、同じってことは僕も噂通り生徒会に入るってことですか?」
「違うよ、もう入ってるんだ」
そういえばそうでしたね。月冶と同じように言い直してくれまして。
「で、そこんとこどうなの、伊織?」
「どうと言われても、その通りなのだが」
寧ろ、それに何の問題が?と言わんばかりの応え。
「先輩はどーでもいいとして、僕は部活を続けたいんだ」
「泰斗フツーにひどっ」
人をおちょくって楽しむ人のことなんか知りませんよ。
「けど、生徒会に入るってことは部活を止めなきゃならないんでしょ?もう一度言うけど、僕は剣道を続けたい」
千秋とも、部活は止めないと約束したばかりだ。
「その点については心配ない」
僕と先輩を見る。そして言葉を続けた。
「もう顧問と部長には許可を得てある」
「許可って…何の?」
言おうと思っていたことを先輩が先に言う。
「蒼穹先輩と泰斗が生徒会に入ることだ」
それは、『僕と先輩が剣道部を止めて生徒会に入る』という意味だろうか。
「部活を続けたい」という僕の意思を知っておきながらその言葉を言ったのであれば…
「もちろん!二人には部活を止めても――「伊織」
「なんだ泰斗。まだ私が話している途中だぞ」
話の途中に口を挟まれ、明ら様ではないが眉を寄せてみせる。
無論、今の僕はその程度のことは気にしない。
「三度目。僕は、絶対に剣道部を止めないよ」
再三言ったことだけど、部活を止めてまで生徒会に入ることはない、ということを明確にしておく。
それでも尚伊織が強制するようなら、僕もそれなりの対応をするつもりだ。
「…早とちりするな。二人に剣道部を止めてもらうつもりはない」
クククと笑い、ヤレヤレといったように肩を竦めた。
「だって今…」
「だから人の話は最後まで聞けと言っただろう?」
「…はい」
「今言った通り、二人に部活を止めて貰う気はない」
返事を聞くと、何事もなかったように話し始めた。
そうして貰えると助かる。
掘り下げられると、突っかかったことが恥ずかしくて仕方ない。

伊織の話しを余所に思う。
この短時間でこうも一人カラ回って、勝手に恥をかいてるんだろう、と。

恥ずかしいな…僕。


いかがだったでしょうか。
私自身色々ツッコミたいぐらい強引且つグダグダな内容になってしまいました。
色々想定外の事態になって収拾がつかなくなっていて…
伊織涕泣と周出現。
特に伊織が泣くのは私も予想外で、どうしたら良いやら。
何方か代わりに書いていただ…嘘、嘘です。
最後まで書きます。

由来ですが、今回は夢先生です。
夢先生は本を参考に決めました。
…漫画ですが。
近くにあった『クッキングパパ』を参考に…
よろしければ、次の話もご覧下さい。











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