十九話目
「なんて言うか…相変わらずな人だな…」
「うん…」
月冶に簡単な経緯を説明した。昨日学校で伊織に呼び出されてから、今までのことを。伊織と住むことは当然、父さんとが居なくなったことも伝えた。
よく考えてみれば…、これって蒸発なのかな?
でも居場所が解らないとはいえ、一応連絡はしてくれるみたいだし。
微妙だなぁ。
「それにしてもなぁ…」
じっ、と僕を見下ろす月冶。
それに対し首を軽く右に傾け、疑問の意を示して返す僕。
そのまま次の言葉を待ってみるも、なかなか次が来ない。
なんだ…?
仕方ないので、首を垂直に戻し下から覗き込む様に見る。
僕よりも断然背の高い月冶。何度羨ましと思ったことか…。
「何、どしたの?それにしても、何?」
「い、いや、なんでもない…」
答えると月冶は手で口を覆い、斜め上の方を見て顔を背けた。
……?
その方向に何かあるのかと思い、月冶の目線を追って首を後ろに曲げる。
けど、月冶の見ている所は白い壁だけ。
顔を前に戻し、再び首を傾げ問掛けてみた。
「何見ているの?」
と聞いたのだけれど、返事は後ろから返って来た。
「くくっ、ちがっ…、たっく…可愛い」
「ぷぷぷ…ホント、堅城君…かわい…」
なんで僕が笑われるの?
それに可愛いって。
男に向かって可愛いはないでしょう。
僕は『かっこいい』よりも『かわいい』の方でよく形容される。
嫌ではないけど、あまり嬉しくない。
そりゃ当然でしょう。繰り返すけど、僕も男だ。子供の頃ならまだしも、高校生にもなって『かわいい』はないでしょう。
以前葉月さんこう言い返したら、
「そういう所が可愛いのよ」って余計に言われてしまった。だから伊織達に言い返す気はないけど…
夢先生に言われるのは、釈然としないものがある。
僕より小さいくせに。
「くっくっ、斎藤月冶よ、お前も難儀な奴だな」
「ムフフフ、斎藤君、大変だねー?」
また振り返って二人を見ると、こちらも口に手をあてている。
月冶のは解らないけど、この二人は笑いを隠してるだけだろう。っていうか目が笑ってるし。
「ほっといて下さいっ、会長も夢ちゃんも!」
二人が笑う理由と、月冶が怒る意味が解らず、三度首を傾げる。頭の中は疑問符でいっぱいだ。
「まあいいや。ところで、ちゃんと聞いてなかったよね。月冶はどうしてウチに来たの?」
解決しそうにないし、荒げる月冶を鎮める事を含めて声をかけた。
「ん、あ、あぁ。だから、泰斗が心配でだな…」
「それは理由でしょ。そうじゃなくて、ウチに来た…原因?違うな…えっと、ともかく、どこで僕の状況を知ったのかってこと。」
上手く単語が出てこなかった。語彙力がないな、僕。
「そういうことか。それなら夢ちゃんが俺の所に来「私が堅城君のおうちが分からなかったからね、斎藤君に案内してもらったの」
月冶の台詞を乗っとって話し出す夢先生。
乗っとられた側は口を開けたまま固まってる。ちょっと惨めだ。
話しかけると、話が進まないから見なかったことにして、そのまま聞き手に没頭することにした。
「それでね、住所を教えて貰うだけのつもりだったんだけどね、堅城君ちに行く訳を話したら斎藤君が俺も行く、って言い出しちゃって。一応止めたんだよ?」
「一緒に行くって…別に月冶、ウチには何度か来てるでしょ。わざわざ夢先生に便乗しなくても」
首を曲げて月冶の方へ向く。
位置的に月冶が玄関側、夢先生と伊織がリビング側、そして僕がその間にいる訳で…。
話しをしたり聞いたりする度に顔の角度を変えなきゃならない。
ちょっと疲れきたよ。
「まぁな。だけど、泰斗と会長が同棲するって聞いたなら、行かない訳にはいかないだろう」
おーっと爆弾投下。
出ましたよ驚きの発言。
なーんで月冶君はここに来る前から僕と伊織がどうせ…違う、一緒に住むことを知ってるのかな?
「つつつ、月冶君?」
「なんだ?声が震えてるけど」
「ど、どーしてあなたは僕と伊織が一緒に住むことを知ってたの?」
「どーしてって、夢ちゃんから普通に聞いたけど」
おっと、もう一つ爆弾が投下されましたよ。
「夢先生?」
「なぁに、堅城君?」
「なんで先生は、僕と伊織が一緒に住むことを知ってるんですか?」
「えー、なんでって、電話した時に美穂ちゃんが教えてくれたけど。それを斎藤君に話しただけだよー」
……。
ちょっとマテ。
「なんで話しちゃうかなぁっ!」
「ひゃいっ、ごめんなさい」
「先生じゃないですよっ」夢先生が謝ってきた。
でも僕が文句を言ったのは、先生にじゃない。
「みみみ、みーちゃんっ」
「む、なんだ?」
「なんだ?じゃないでしょう!どうして先生に話しちゃうったのさ!」
まさか怒られるとは思っていなかったのか、目を大きく見開いて驚いた反応をした。
「どうして、と…」
いつもなら言い終える待つのだけど、今回は興奮してる僕。
伊織の言葉を無視して、責め立てた。
「誰にも言わないように、って約束したじゃんっ、なのに…っ、言うにしても、せめて僕に一言言ってよ!」
別に内緒の約束とは言え、誰にも言うなとは言わない。今回の僕みたいに、大切な誰かに話さなきゃいけない場合が来るだろう。
その時は話してもいい。けどせめて、せめてその事を僕に言って欲しい。
二人の事なのだから。
今回の伊織は、らしからぬ不注意さ。相手が夢先生と月冶だったからいいものの、これが別の誰かだったりしたら大変なことになっていたかもしれない。
「す…すまない。嬉しくてな、嬉しくて…」
小さくうつ向く。
「昨日はあまり実感がなかったのだが、今朝たっくんが隣で起こしてくれた時改めて感じたのだ、一緒に居れる事を。それを思うと耐えらなくて、つい夢さんに…。本当に…すまない」
しゅん…、という具合に肩を落とし、その場にしゃがみ落ち込む伊織。
少し強く言い過ぎちゃったな…。
でも、このまま普通に許したら僕だけでなく、伊織も危ない。
お固い学校だ、このことが知れたら退学――良くて停学、謹慎処分だろう。
その上、伊織は生徒会長だ。確実に降ろされる。
それに、周囲の反応が凄いことになるな。
パッと思い着く限りではこれぐらいだけど、まだ何かあるかもしれない。注意するに越したことはない。
それをわかって貰えたなら十分。
それに――
「みーちゃん、ごめん。強く言い過ぎたよ、だから顔上げて、ね?」
伊織のあの言葉、それを聞いた僕だって嬉しくないはずがない。
「怒ってないか?」
チラッとこっちを見て様子を伺ってくる。
そんな姿が、普段の伊織と違い過ぎて思わずクスッと笑ってしまう。
「もう怒ってないよ、だからほら」
立ち上がらせようと手を伸ばす。
その手を伊織も掴み、立ち上がる――と思いきや。
「たっくん!」という声と同時に逆に引っ張られて、そのまま伊織に倒れ込んでしまった。
「うわっ」
声を上げた直後、伊織にぶつかると思っていたのだけど、伊織がそんなヘマをするはずもない。
いつのまにか両足を前に伸ばして座り、倒れ来る僕にそのまま抱きついた。
当然倒れた勢いは止まず、伊織も上半身を後ろに倒す。
仰向けの伊織に、僕がうつ伏せで覆い被さるような形になってしまった。この際もう、抱きつかれたことは気にしないでおこう。
ついでに、僕を引っ張ったことも。
だけど、だけどさ。
倒れた後、どうなるかを考えて欲しかったな。
倒れる時、伊織は床に頭をぶつけそうだった。
けれど、受け身を取るように首を曲げ、そうなることを防いだ。
こういうことが出来るのは、伊織だから。僕には絶対できないこと。
というか、それ以前に前方に倒れる上に、体を腕ごと抱えられてるんだから受け身すら出来ない。
だから、僕が床に顔面をぶつけることは必至な訳で…
「は、鼻がぁっ」
顔の出っ張った部分を床に直撃。
「ん〜っ!」
そんな僕にはお構いなし、伊織は歓喜の唸り声を上げてただひたすらに抱きついてくる。
それも、猛烈に。
「痛い痛い痛い!みーちゃ、痛いよっ!」
「そんなの気のせいだ。私はとても嬉しいぞ」
気のせいってそんな!
「は、鼻血が…」
せ、せめて血止めだけでもさせて…
「なんだ、そんなに興奮したのかたっくん」
「堅城君やらし〜」
夢先生…っ
「羨ましい…」
月冶まで!
「月冶もひどっ、ねぇっ、助けてよ!」
「いやぁ、俺もそんなヤボなことは。ねぇ、夢ちゃん?」
「ねー」
こんなところで息を合わせなくてもっ
「み、みーちゃん!わかったから離して、ねっ?」
なんとかして離して貰わないと、真面目に死ぬっ。
「むぅ」
不満そうながらも、なんとか離してくれた。
ぷーと頬を膨らまして抗議をしてる。
あ…可愛い。
「あらー、美穂ちゃんもそんなことするのねぇー」
なんかオバサン臭い喋りかただよ、先生。
学校じゃあまず見せない伊織の表情に、月冶が騒ぐと思ったけどそんなことはなかった。
なんでだ?
「仕方がない。また後でな、たっくん」
後でですか…
「ま、とりあえずこれで一件落着ってことだな」
「そだねー」
一件落着だけど、こういう締め方は止めて欲しいんだけど。
「それじゃあ、私はまだ学校に仕事残してるから。先に帰るね」
「あ、はい。今日はわざわざすいませんでした」
「申し訳ない、手間を取らせてしまいました」
「いいのいいのー、先生が生徒を思うのは当然なんだからー」
えへんっ、と胸を張る先生。
いいことを言ったと思うし、先生としても立派だと思う。
でも…
「なんかこう、小さいせいか尊敬出来ないんだよなぁ。」
「小さいってひどーいっ、先生皆のために頑張ってるのにぃっ。いいもん、斎藤君の内申書に変なこと書いてやるぅ」
月冶、思ってても口に出しちゃいけないでしょ、それは。
「せ、先生っ、それはっ、それだけは勘弁をっ!」
「ふーんだっ。それじゃあまた明日ね、堅城君、美穂ちゃん。ついでに斎藤君も」
「ついでって先生ひどっ!」
月冶の言葉が言い終わる前に、夢先生は出て行ってしまった。
「あぁ…終わった…」
ガックシと床に倒れ、嘆く。大袈裟だなぁ。
「夢先生も本気じゃないでしょ、きっと」
「ああ、冗談で済ませるだろう、たぶん」
「ちょっ、きっととかたぶんってそんなっ」
ま、実際そんなことしないでしょ。
「さぁて、夕飯の支度でもしようかなー」
「そうだな、私も手伝おう」
「うん、ありがとう。それじゃあ…」
「ねえっ、ちょっと、なんでそんな普通にスルーしてるの!ねぇっ」
うるさいなぁ、もう。
「ところでだな、たっくん」
「うん、何?」
月冶に声を掛けようとしたけど、それより早く伊織が話し掛けてきた。
「ふと思ったんだが…夢さんは何しに来たんだ?」
「…そう言えば」
ウチに来て、泣いて、怒って帰ちゃったな。ホント、何しに来たんだろう。
「まぁいっか。明日聞けばいいよね」
「そうだな、明日聞くか」答えは出ないものの、特に気にする事でもないし。
それにしても…。
「ひど…皆して…俺のこと…」
部屋の隅っこにしゃがみこみ、指で床をグリグリと押してる。
仕方ない…
「月冶、ウチで夕飯食べていく?」
「おぉ、いいのかっ!?」
「いいよ、久しぶりにさ」引っ越す前はよく一緒に食べてたけど、ここに来てからはそれがなくなってしまった。
だから、実は僕としても嬉しかったりもする。
「みーちゃんも、いい?」
「ああ、構わんぞ」
「それじゃ、月冶も手伝って」
「オーケー、任せとけー」
そうして、僕ら三人で夕飯を作り始めたのだ。
その数分後、夢先生が戻って来た。
僕が今日学校をサボった事を、注意し忘れていたらしい。
空腹な僕らが素直に応じるはずがなく、夕飯に誘って誤魔化したら、あっさりと忘れてくれた。
この時は僕と月冶だけでなく、伊織でさえも、先生って子供だなぁ、と思っていただろう。
いかがだったでしょうか。
今回はいつもより文が長めなので、グダグダ加減3割増です。見限るなら今の内かもしれませんよ。
ごめんなさい、嘘です、見限んないで下さい。
さて、人物の名の由来ですが…思った以上にテキトーでした。名字は全員思い付きです。まずは泰斗ですが…これも思い付きです。
『たいと』というのは考えていたんですが、字は変換したら良い具合に出たので『泰斗』になりました。ちなみに、『泰斗』とは権威者や尊敬される人、という意味らしいですが…こっち泰斗は全くそんなことないですね。
よろしければ、次の話もご覧下さい。
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