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誠に勝手ですが、都合によりペンネームを『有兎』から『泰兎』に変更致します。
改めてよろしくお願いします。
ずれた毎日
作:泰兎



十八話目


「結局、父さんを追うことも出来ず仕舞いか」
目も覚めたので、僕達は自宅へ戻った。
家主の居ない家に、いつまでも居座るわけにもいかないし。
ついでに、管理人室――つまりは父さん達の家――の前にある掲示板に、住民への緊急案内の紙を貼っておいた。
正規の管理人が居ない今、代わりに僕が勤めるのでその旨と連絡先を記したのだ。
「まあ、そのうち連絡があるだろう」
気絶している間に、葉月さんは行ってしまったみたいだ。
せめて、どこに行くのかぐらいは聞いておきたかった。
「そうだね」
…ってサラリと言ったけど、聞けなかったのは伊織が蹴飛ばしたからでしょう。それに、なんで一日に二度も意識が飛ばなきゃならないんだろう。
神様、僕が何をしたというのですか。
「何を祈っているんだ」
「あ、いや、別に…」
片膝をついてお祈りのポーズをしてみたんだけど、ツッコまれちゃった。
立てた方の膝に手を置き立ち上がる。
「そういえばだな」
「ん、なに?」
不意に思い出したように、話し始めた。「先程たっくんの携帯電話が鳴ってだな」
「そうなの?でも僕は出れない状態だったからなぁ」
後で確認しないと、なんて考えてると
「そう思って、代わりに私が出ておいたぞ」
「あぁ、ありがとう。それで相手は…ってぇぇぇぇ!ちょちょちょ、ちょっと待っちゃぁっ!」
噛んだ。
「ちゃあ、って可愛いなたっくん」
気に入ったなら後でハーイとバブーも言ってあげるんで、とりあえず今は流しといて下さい。
「なな、なんで僕の携帯に出たの!?」
「妻は夫の事を管理したいものなのだ」
なのだ、じゃないでしょう。
それに自分の台詞に自分で照れてどうするの。
「ゆゆゆ、夢さんてまさか僕の担任で生徒会顧問の夢先生じゃないよね?」
「その通りだが、やけに説明的だな」
伊織が夢先生を『先生の尊称』ではなく『さん』付けで呼ぶのは、生徒会で親しいから。
ちゃんと説明したいところだけど、生憎今は余裕がないから端折る形で。
「それで、夢先生はなんて――いや、先生にはなんて言った…聞かれた、違う、用件は何で――」
もう自分でも何が言いたいのか分からない。
「おちつけ、たっくん。夢さんは私が出た事には、大して疑問は持たなかった。だから私も普通に会話をしただけだ」
「よかったぁ…」
はぁー、と大きく息を吐いてそのまま床にへたりこむ。
「…それでさ、普通の会話って?」
「そうだな、確か――」
肝心な部分を言う前に、室内にインターホンの呼び出し音が鳴り響いた。
「おぉ、良いタイミングだ」
「えっ?」
「電話の内容はだな」
と喋りながら、玄関の方へと歩みを進める伊織。
またしても嫌な考えが脳裏を過ぎる。
そんなまさか…ね。いくら何でも…そんなことは…。
浮かんだ考えを拒みながら、伊織の後を追う。
玄関で伊織は、ドアの覗き穴から向こう側を見ていた。
「あぁ、やはりそうだ」
「な…何が?」
「だからだな、電話の内容はこういうことだ」
ガチャッとドアノブを捻り、ゆっくりと玄関の扉が開かれる。
そこには、目尻に涙を浮かべた夢先生が立っていた。
僕が頑に拒んだ考えは、見事に実現してしまったのだ。
「うわぁ〜ん、美穂ちゃあ〜ん」扉を開くなり唐突に、伊織へと抱きつく夢先生。
先生の背は小さく、小学校の中学年程しかない。もちろん僕よりも小さい。
だから、実際抱きつくというよりは、しがみつくといった感じ。
「はいはい、今度はどうしたんだ夢さん」
そんな夢先生に、伊織も慣れている様子で難無く対応している。
「あのね、マンションの入口でお婆さんに飴を貰ったの」
「ほう、今時珍しいな。良かったではないですか、親切な方で」
確かに、昨今の時勢から考えると珍しい。
でも、ウチのマンションにはそういうお婆さんがいるんだよね。
いい人だけど。
「そうですよ、飴を頂けたんですから喜ぶべきですよ」
「そうなのー、イチゴ味でおいしかったのー」
ほにゃあ、といった感じに嬉しそうな笑顔になる。
口の中にはまだ飴が入っているのだろう、ほっぺたの端がぷくっと膨らんでいる。
「って違うよ、そうじゃないのっ!」
軽く前屈みになって、勢いよく叫んだ。
本人は必死なんだろうけど、何分見た目が小さいせいで迫力が全くない。
でもそれは、言うと余計に怒るから言わないでおく。
「だったら何だと言うのです?普段なら飴を舐めてる間は、大人しくしてくれてるじゃないですか」
さりげに酷いこと言ってるけど、飴で大人しくなる先生もヒドいな。
「それがねっ――」
と意気込んで話そうとする夢先生だけど、闖入者の登場で注目はそちらに逸れた。

「それは僕からお話ししま――べぶひょっ!」
不意に飛んできた携帯電話が見事に命中し、後ろに倒れた。倒れた後も、閉めたドアに頭をぶつけて二次災害を受けている。
投げたのは、僕だ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
肩を大きく揺らして呼吸を繰り返した。
普通なら、携帯程度の物を投げただけじゃ息を切らさない。
僕だってそこまでひ弱じゃないよ。最近は鍛えてるしね。
って、そんな事はともかく…
「なっ、なんでこいつが…月冶がここにいるの!?」
「けっ、堅城君、いくら何でもケータイを投げるのは良くないよぉ」
「そうだぞ、流石に携帯電話はな」
怒られてしまった。
それにしても二人とも、携帯じゃなければいい様な言い方だなぁ。
「おぉっ、サスガ夢ちゃん、サスガ会長!」
そんなことには気付きもせず、ぶつけた箇所を摩りながら立ち上がる月冶。
携帯、顔に直撃したよね?なんでそっちは痛がらないの?
なんて軽い疑問も浮かんだのだけど、月冶だし、という結論で考えるのは止めた。
「そうだぞ、ケータイを人に投げつけるなんて言語道断だぞ」
月冶が四文字熟語を使うと、物凄く違和感があるな。
しかしまぁ、自分でも携帯は良くなかったと思ってるよ。
「ごめん、ちょっと驚いちゃって」
「ちょっと驚いた、でケータイは投げないだろう!」
普通なら投げないかな。でも――
「なんだ、驚いたならしょうがないよね」
「うむ、驚いたならば携帯電話を投げてしまっても仕方がない」
いろんな意味で普通じゃない人達は、こう言うんだよ。
「えぇっ、そんなっ!」
まさか自分の方が否定されるとは、思ってもみなかったんだろう。
「夢ちゃんも会長も、いくら何でも驚いたからってケータイは投げないでしょ!?」
「驚いたら投げちゃうよー。ねぇ、美穂ちゃん?」
「ええ、投げてしまいますね」
「そんなぁ」
ガーン、と擬音が入りそうなくらいのリアクション。
「二人ともどっちの味方なんですか!」
味方って…なんじゃそりゃ。
「私は教師だから、差別はしないのだ」
「どちらと言われれば、当然たっくんだな」
「うっっ…。そ、そんなことより、俺の方こそ色々と聞きたい事があるぞ、泰斗!」
そんなことって…自分から言い出したくせに。
「はいはい、それで何?聞きたいことって」
「はいはい、じゃない!なんで、泰斗が、会長と、一緒に、いるんだ!」
一歩一歩にじり寄って来る。なんだか、軽い八つ当たりにも感じるんだけど。
「なんでって言われても…」
チラリ、と伊織の方を見る。
一緒に住む事は内緒だと約束したばかりなのに、早速こんなピンチ展開。
ここは誤魔化すべきかな。
…あれ?
秘密がバレそうなのに、あまり切迫してないや。なんでだろう。「泰斗っ、どうなんだ!?」
もう一歩近付いて来た。近付き過ぎで、鼻息が聞こえる。
「たっくん…」
伊織の心配そうな声。だけど、これが逆にまずかった。
「そう、それに!」
またまた一歩近付く。
そろそろ危ない距離なんだけどな。
月冶はそんなことはお構い無しに、声を張り上げてきた。
「たっくん、って何だ!」
天下の生徒会長が、一生徒を親しげに呼べば当然か。
「さあ泰斗、どうなんだ!?」
昨日と同じように、問掛けてくる月冶。
けど、その時とは似て異なる状況。ここはさっき思った通り誤魔化すところなんだけど、それとは別に素直に話したい気持ちもある。
月冶は僕の持つカテゴリーの、親友に位置する。
そのカテゴリーを除いても月冶は信用…いや、信頼できる大切な人だ。やっぱり…話すべきかな。
でも…
「ったく、わぁーったよ。話したくないならそれでいいよ」
「えっ?」
今までの口調と打って変わって、急に落ち着いた様子で喋り出した。
「ゴシップ的なところもあったけどよ、夢ちゃんに聞いて少し心配になってな」
「月冶…」
「どうせアレだろ?何か自分から言い出したせいで、話すに話せないんだろ?」
その通りだ。
「それに流され易いからな、泰斗は」
あぁ、僕はまだ月冶のことを分かってなかった。付き合いが長いだとか、親友だとか言っておいて。
月冶の方が全然僕の事を分かってるじゃないか。
「ごめん、月冶…」
「気にするなって」
「みーちゃん」
伊織の方へ向き、僕は決心を告げる。
「月冶に全部話すけど…いいかな?」
「構わんぞ。たっくんがそう決めたならな」
「…ありがとう」
「うむ」
返事と共に薄く微笑む。
そんな伊織に感謝の念を思い、再び月冶に向き直った。
真面目に話そうとする僕だけど――
「ぜいじゅんだねぇー、グジュッ」
涙鼻水垂れ流し状態でえっぐえっぐと泣く夢先生が、このシリアス展開を見事にぶった切ってくれた。
…こういうのをKYって言うのかなぁ、なんて思う。
そんな微妙な空気の中、僕は月冶へと話し始めた。


いかがだったでしょうか。
もうグダグダなのは言うまでもありませんが、月冶の立ち位置が変わってしまいました。
このテの話でよくいる、おとぼけ+やられキャラなんですが…
ちょっとカッコよくなりました。しかし、そのうち月冶がメインの話も書きたいと思っていたので丁度良いかもしれません。
今度の後書きで、キャラ名の由来を書こうかと。
…それより本文が先ですね、はい。
…すいません。
よろしければ、次の話もご覧下さい。











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