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ずれた毎日
作:泰兎



十四話目


僕と伊織と五月ちゃんは三人でずっと話をしていたのだけど、葉月さんは加わって来なかったからどうしてたのかが謎だった。
べっ、別に忘れてたわけじゃないんだからねっ!
なんてツンデレっぽく言って誤魔化してみたり。ごめんなさい、忘れてました。
その葉月さんはというと、僕らがもめていることに対してついに堪忍袋の緒が切れたようで――
「あんた達はさっきから煩いわねー!せっかく人が気持ちよく寝ていたのを邪魔して!」
もなかった。寝ていたんですか、あの状況で。
「別にケンカするのは構わないけど、するなら人の迷惑にならない所でしなさい!」
「あの…葉月さん?」
「なによ、文句あるの!?」
こわっ。状況的に怒ってもいいタイミングなんだけど、怒る部分を完全に間違えてるって。
「いや、文句って言うか…場を収めてくれたことは嬉しいんですけど、なんで寝てたんですか?」
「俊彦さんの話をするからって集まったのに、なんだか違う話を始めっちゃた上に私のこと無視してどんどん話を進めるんだもん。それなら寝るしかないじゃない。」
じゃないって、寝なくてもいいじゃない。起きててくれればこんなもめ事にならずに済んだかもしれないのにさ。自分だけ呑気に睡眠なんてとってズルいよ。
と、直接口に出しては言えないヘタレな僕。
「で、何が原因でケンカしてるの?悪いのは誰、泰斗くん?」
「なんで僕なんですか!?」
「なんとなく?」
「なんとなくで言わないで下さいよっ!しかも疑問形だし!」
「まあそれはさて置き。」
急に真面目な顔つきになる葉月さん。自分から言い出したくせにさて置くのはどうかと思いますよ。
「真面目な話、誰が原因でこんな大騒ぎをしているの?」
ようやく椅子から降り、そして腕を組みだした。
「この人よ!」
と叫び伊織を指差す五月ちゃん。指を指された伊織はというと、いつのまにか復活していて何事もなかったかのように…というより、他人事のように見向きもせずお茶お啜っている。
伊織さん、あなたも関係者ですよ。
「この人が兄さんの婚約者でたっくんって!」
「メイちゃん、少し落ち着いて、ね?」
日本語になってないよー。
「落ち着いてるよ!だから、兄さんがたっくんでこの人が伊織でたっくんだって!」
悪化してるってば。
「…泰斗くん、悪いんだけど説明してもらえる?」
喜んで。

「ふーん、そう。じゃあ、メイちゃんは泰斗くんがたっくんって呼ばれているのが気に入らないのね?」
経緯を説明すると葉月さんは、納得したように何度か頷いた。そして、子供に優しく諭すように五月ちゃんへ問いかけた。
「気に入らないっていうか…なんかズルイ。」
「ズルイって言われても…昔からそう呼ばれてただけで、特に深い意味はないんだけど。」
僕にしてみればあだ名みたいなものだし、伊織に会うまでその呼び方すら忘れてたぐらいだ。
「それだけじゃなくてっ、兄さんとこの人が婚約者だって!」
「そうなの?」
「いや…それは…。」
と目線を伊織に向ける。まだお茶を飲んでいた伊織だが、視線が自分に集まったことを察して湯のみを置いた。
「そうだ、私とたっくんは婚約者だ。」
「で、でも、それはみーちゃんが勝手に言って――「勝手じゃないぞ。」るだけで――は?」
「私が勝手に言っているわけではない、許可も貰ってある。」
「許可ってまさか…。」
「俊彦おじさんからだ。」
またやってくれたよ、クソ親父め。

「俊彦おじさんと話をした時にな、私の心中についても相談したんだ。おじさんなら味方になってくれると思ってな。そうしたら、私が思っていた以上の答えをくれたわけだ。」
「それが、婚約者ってわけ?」
葉月さんの言葉に、首を縦に動かし肯定の意を示した。
「そんな大事なこと兄さんに言わないで、お父さん何考えてるの!?それにあたしの…知ってるくせに。」
最後の方はなんて言ってるか聞こえなかったけど、やっぱり五月ちゃんも父さんに文句があるんだ。兄想いの良い妹だなぁ、うんうん。
「そういうわけだから、私はたっくんの婚約者なのだ。」
「はぁ…、結局全ての原因は父さんじゃないか。騒ぐのがバカらしく思えてきた。」
なんであんな身勝手な親父のために僕が一喜一憂しなきゃならないんだ。考えるのが面倒になってきちゃったよ。
「婚約者のことについては父さんが帰ってくるまで保留ってことで。どうせみーちゃんは僕のところに住むんだし、婚約しててもしてなくても変わりないでしょ。」
「だいぶ投げやりな言い方が気になるが、たっくんがそういうなら私はそれに従おう。ただ、私は今後何があろうとたっくんの傍にいるからな、それだけは言わせ「ちょっと待ったぁぁぁ!」
伊織の言葉を遮って入り込んできた五月ちゃんの言葉、君は悉く人の台詞を止めるんだね。
「どうした、急に叫んで。私が何か変なことでも言ったか?」
「言いましたとも!聞き捨てならない言葉をあっさりと言ってくれましたよ!」
「「「?」」」
五月ちゃん以外皆揃って首を傾げる。
伊織は意味が分からず、葉月さんは聞きとれず、僕に至っては聞く気がないといった状況なので、誰も伊織の台詞にツッコむ五月ちゃんの意図が分からなかった。
「兄さん!」
「僕?みーちゃんじゃないの?」
急に呼ばれるたので、焦り気味で返事をする。
「確かにこの人もそうだけど、問題発言をしたのは兄さんの方!」
僕は喋った内容を思い出してみるも、特におかしなところはない。
「別におかしなことは言ってないと思うんだけど?」
「言ったよ!兄さんがこの人と一緒に住むって!」
「ああ、そのことか。うん、言ったよ…って知らなかったの?五月ちゃん。」
その言葉で一瞬表情が固まった五月ちゃん。すると怒り気味だった顔が次第にとけて、微笑みだした。
「知らなかったの?って今初めて聞いた話なんだけど。なんでそんなことになってるの?」
口調も穏やかになり、さっきまで大声を出していたとは思えない。その様子が凄く怖い。
「ええっと…それも父さんが仕組んだことで…ね、葉月さん?」
「えええぇと、そそうね、私も聞いてないし、俊彦さんの独断よ。そうよね、美穂ちゃん。」
「う、うむ、私はおじさんから許可を頂いたからな。」
五月ちゃんの睨みに耐えられず、僕は葉月さんへ、葉月さんは伊織へと回していった。さすがの伊織も少しどもった。
「ふーん、そうなんだ。それじゃああたしも兄さんの所に住みたいから、お父さんの許可を貰わないとね。あ、でもお父さんいないから無理か。なら好きに動いても大丈夫よね、ね、兄さん?」
「え、ちょ、ちょっとそれは…。」
「大丈夫よね!」
「はい…どうぞ、お住みください。」
断ったら酷い目に遭うに違いない。身の安全を守るためにはこうするしかないよ…。
「よしっ、決まりね!じゃあ、週末には移動するからよろしくね♪」
「わかりました…。」
「メイちゃんずるーい!それなら私も泰斗くんの所に動く〜!」
ぶっっ、また突拍子のないことを!
「何言ってるんですか!いくらなんでも葉月さんまで一緒だなんて無理ですよ!」
「だいじょーぶだいじょーぶ、もう一人増えたぐらいじゃなんてことないって。部屋も沢山あるんだしさ。」
「広さの問題じゃなくってですね…「それとも。」」
軽く前屈みになり、下から僕の顔を見上げてきた。いわゆる、上目使いで。
「メイちゃんは良くて私はダメだなんて、そんなヒドいこと言わないわよね?」
「ご一緒にどうぞ…。」
この言動はズルい。

結局まともに話し合うなんてことはなく、時間が遅くなってきたということでお開きとなった。
父さんのことについてもグダグダとなって終わったので、僕としては今度ちゃんと話をしようと思っている。…出来れば。
自宅に戻り、少し落ち着くためにお茶を淹れた。
僕はミルクティーで、伊織はホットミルク。
「ふー、なんか今日は疲れたなー。」
「そうだな、色々と想定外のことが多かったからな。」
僕は想定外どころか範囲外のことだらけでしたよ。
「みーちゃん、今頃なんだけどさ、いいかな?」
「なにがだ?」
「葉月さんと五月ちゃんのこと。勝手に住むよう決めちゃったけど、みーちゃんに何も聞かなかったからさ。」
ズズッと小さく飲む音をたてる。
「ああ、そのことか。いいぞ。あの時も言ったが、私はたっくんと居られればそれでいい。」
よかった、ここで嫌だと言われたらどうしようかと思ったよ。
「ありがとう、みーちゃん。」
「お礼を言われることではない、ここは元々たっくんの家だからな。」
「まぁ、それでもさ。みーちゃんが一緒に暮らすのは前に決まってたわけだし、なのに聞かずに決めた僕を許してくれたから、ね?」
「そうか…しかし、私こそ許して貰わなければ…。」
「えっ、何?」
「い、いや、なんでもない。そろそろ寝ようか、明日も学校だ。生徒会長が寝坊だなんて、いい笑いものだ。」
いえいえ、遅刻する会長というレアな姿を見れて、皆さん大喜びですよ。
「カップは僕が洗っておくから、先に寝てなよ。」
「すまないな、ではお願いしよう。」
そう言いリビングを出て行く伊織。僕はカップを二つ持ち、流しへ移動した。飲み終えたばかりなので、カップはまだほんのりと暖かい。
水で軽く濯いでから、スポンジを使い洗っていると、
「たっくん。」
伊織が声を掛けてきた。もう寝に入ったとばかり思っていたけど、まだそうではなかったらしい。
顔を動かさず、洗いながら返事を返す。
「どうしたの、なんか忘れもの?」
「あぁ、忘れ物だ。」
――と、頬っぺたに柔らかい感触。
「おやすみのキスだ。それじゃあ、おやすみ。」
そして、再び部屋へと戻って行った。
カップとスポンジを手に持ち固まる僕。蛇口からは水が出たままだ。もったいないなーなんて思いつつも、今の出来事が衝撃的すぎて動けない。
リビングにある掛け時計の針がてっぺんで重なり、ピピッピピッと音を立てる。時刻は十二時ちょうど。
僕のずれた毎日が、幕を開けた。


いかがだったでしょうか。
泰斗の長い一日がやっと終わりました。ホント、長かった…。
次回からは学校をメインにもっていくつもりです。そうすれば、色々な人物(主に女性)が出てくるはず。

ニ・三話で一区切りさせていくようにするので、今までみたいにダラダラと引っ張るようなことは致しません。…きっと。

よろしければ、次の話もご覧下さい。












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