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ずれた毎日
作:泰兎



十一話目


「ここが私の部屋。」
そう言って葉月さんは右手で扉を指差した。
「さっき通ったので知ってます。というか、この家の構造は全部把握してますよ。」
一人で暮らす前は僕もここに住んでいたんだから当然のことだ。むしろ、僕の方が詳しい。
「すぐそーやって…。そこは素直に、へぇーとかなんとか言って感心するところでしょう。」
「いや、別に感心することでも―イタイイタイ!葉月さん、手痛いですよ!僕の右手、強く握りすぎですって!」
言い返そうとしたら、繋いでいた左手に思い切り力を込めて僕の右手を強く圧迫し始めた。しかもゴリゴリという風に揉まれてるので、凄く痛い。
「空気を読まないからよ。」
「空気とかじゃないでしょう、今のは…」
離した右手を自分で優しく揉み解す。
そういえば、ここに来るまでずっと手を握られていた。いつもだったら騒いでいたけど、父さんと会うことに気がいったのでそっちまで気が回らなかったな。
「それじゃあ、ドア開けるわよ。」
僕の言葉をわざと無視し部屋のドアの方へと向き直る。
「おーぷんざどあー♪」
などと言ってドアを開け、そしてそのまま中へと入って行く。
おじゃましまーす、と一声出してから僕も中へと入る。
中は…なんというか…水色だった。葉月さんの部屋には始めて入るのだけど、こんなことになっていたとは…。
カーテンや壁紙、絨毯・シーツはもちろんのこと、家具や飾りまで水色で、部屋のありとあらゆるものが水色だった。
「……葉月さん。」
「なにー?ちゃんと綺麗にしてあるでしょう。」
「なんですか、これは。」
「あぁ、これね。家具の配置変わってるでしょう。実はね、風水の先生に頼んで良い配置を教えて貰ってね、その通りに置いたんだ。だからご利益バッチシなんだよ。」
「いや、そんなことじゃなくてですね…。」
「そんなことって何よう、動かすの大変だったんだから。」
だから、そんなこともどうでもいいんですけど…。家具の配置とかも別に変じゃないし。
「確かに大変だったでしょうけど、僕がツッコミたいのはそこじゃないんですけど。」
「え?どこかおかしな所ある?」
「ありまくりですよ。なんですか?この水色は。部屋中水色って普通に考えておかしいじゃないですか。」
「あ、これのこと。私ね、今年は水色がラッキーカラーなんだって。だから手始めに部屋を水色にしてみたんだ。」
「そーなんですか…。」
ツッコむところが色々ありすぎる。もう放っておこう。
「それで、父さんはどこです?」
「いないわよ。」
「は?」
「だから、い・な・い。」
「えーっと…すみません、意味が分からないんですが…。」
葉月さんの発した言葉がうまく理解できない。耳に入って受け取ってはいるのだけれど、頭がその内容を認識してくれない。
「もう、壊れちゃったの?俊彦さんはここには居ないのよ。」
本来なら叫んいたのだけど、期待値と結果値の差異が大きすぎて軽い放心状態な僕。口も鯉の様にパクパクと開閉するだけ。
「仕方ないわねー。とりゃっ!」
パンッと音と共に頭に衝撃がきた。衝撃は次第に痛みとなって、後頭部に広がる。
「痛っ!」
「復活した?」
「あ、あぁ、はい。」
「じゃあ、はいこれ。」
真っ白い封筒を手渡してきた。さっきの言葉のショックと頭への衝撃に加え、渡された封筒への疑問で僕の頭は、より混乱した。

「な、なんですか、これ?」
「手紙よ。ま、いいから開けてみなさいって。」
そう言われ封筒を破いて開ける。中からは、パソコンで書かれた手紙が数枚出てきた。その手紙は未だに混乱する頭に追い討ちを掛けるかのように、文の冒頭に父さんの名前、俊彦と書かれていた。
「こ、これ、父さんからじゃないですか!何で葉月さんが持ってるんですか!?」
「泰斗くんに渡すよう預かったからよ。ほら、読んでみなよ。」
促されて、一枚目の便箋を読む。
………。
……………。
…………………。
「っのクソ親父、人を散々弄んだ挙句に自分勝手すぎる!何考えてるんだよ!」
「な、なんて書いてあった?」
たじろぎながらも気になって聞いてきた葉月さんへと、無言で手紙を差し出す。
「なによこれ!俊彦さん、何考えてるのよ!」
こう反応するのが当然だよね。
書かれた文を要約すると、こうなる。
『出掛けてくる、後は頼んだ。』ということ。そして、『伊織と暮らさないと、もっと色々ばらすぞ。』というもの。
言い訳っぽいものがグダグダと書き連ねられていて、全部言うのは面倒。
数枚ある手紙の内一枚は僕で、二枚は五月ちゃん、三枚は葉月さん宛てで計六枚入っていた。実の息子への数が一番少ないっていうのはどうなんだろうか。いいけどさ。
「葉月さんは父さんから何も聞かされてないんですか?」
手紙を預かっていたというのなら、最初から父さんが家にいないのを知っている。それにも関わらず僕をイジり回してくれたことは目を瞑るとして、家を出る前に手紙の内容のことを聞かされててもいいはず。
「聞かされてたらこんなに怒らないし、止めてたわよ!」
あ、大分ご立腹なご様子。でも、もっともだ。結婚して一年も経っていない内に居なくなれば怒るだろうし、その予兆を見せれば止める。この人ならなお更。
「そうですか…。あ、五月ちゃんはどうでしょう。もしかしたら何か聞いてるかも知れませんよ、僕聞いてきますね。」
こうは言ったものの、正直なとこその可能性はほとんどないだろうな。葉月さんに何も言わなくて五月ちゃんに言うということはない。五月ちゃんに言ったなら確実に葉月さんにも同じことを伝えている。父さんはそれだけ葉月さんのことが好きなんだ。
分かってて五月ちゃんの所へ行こうとしてるのは、葉月さんの怒りの矛先がこっちに向く前に逃走したいから。
ドアを開け廊下に出ようとした瞬間、肩を掴まれて部屋の中へと引き戻された。
「逃がさないわよ〜。」
葉月さんはもの凄い形相で僕を睨みつけてきた。ウェーブのかかった髪が、メデューサの頭に生えた蛇に見える。ヤバイ、目を合わせたら刹られる。石にされる前に逃げよう!
肩に掴まれた手を振り解き、部屋を出て玄関へと走った。
逃げる途中後ろから飛んできた何かが頭を掠めたけど、気にする余裕がない。壁に当たった時物凄い音がしてたけど。
靴を履き玄関を出て、そのままの勢いで隣の五月の家へと駆け込む。ドアを閉めて、背中越しに鍵を閉めた。
「ふー、助かったぁー。」
さすがにここまで乗り込んでは来ないはず。…たぶん。
一息ついて顔を上げると、そこにはバスタオルを体に巻きつけこっちを向いたまま固まる
五月ちゃんの姿があった。
「や…やあ、さ…つきちゃん。えーっと…お風呂に入ってたんだ…。」
無理やり笑顔を作ってみたけど、確実に引きつってるだろうな。
「兄さん。」
「は、はひ!」
声が裏返った。やっと助かったと思ったのに、ここに来てまでもこんな目に遭うのか。
「少しそこで待ってて。」
「はひ!…ってあれ?」
再び洗面所へと入って行く五月ちゃん。てっきり殺られるかと思ったけど、声のトーンも普通だったな。大丈夫…かな。
「兄さん、目、瞑ってて。」
「わかった。」
着替えでも取りに行くのかな、何度も見られるの嫌だろうし。
なんて頭の中で考えてた矢先。
「っこの…えっち!」
「へ?」
声に驚いて目を開けると、正面から――ガゴンッ!
飛んできたドライヤーは見事の顔面に直撃し、僕を気絶させるには十分なダメージだった。痛さと薄れ行く意識の中、改めて思う。
あぁ、やっぱり葉月さんと五月ちゃんは親子なんだなぁ、と。


いかがだったでしょうか。
一先ず葉月さんから離れますが、正直葉月さんのキャラ付けが出来てません。イメージは出来てるんですが、その通りに動いてくれなくて。むつかしいですね、はい。
いい加減泰斗を自宅に戻したいんですが、まだ時間がかかりそうです。早くみーちゃんを出したい。
よろしければ、次の話もご覧下さい。











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