挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
魔王密室殺人事件 ― Satan Cross ― 作者:飼育係

捜査編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

10/21

わかれた道

登場人物紹介⑦
芭蕉ばしょうさちえ 人間。口の悪い魔法少女。普段はネコを被っている
桜桃おうとうひより 人間。伝説の魔法少女。進一郎の幼なじみ
イチゾウ 天使。さちえの相棒。地上では犬型魔法生物として生活している
ゼロム 天使。ひよりの相棒。常にクールな兎型魔法生物
 群羊県。
 人口約二百万人。県のシンボルはクロマツとヤマドリ。県庁所在地は前坂市。本州内陸部に位置しており大規模な山岳地帯がある。
 観光は花見と温泉。そして、国内屈指の天使管轄区域――だった場所である。
 天使と彼らが使役する魔法少女が大手を振って歩いていたのも今や昔、すでに県内の八割以上を悪の組織ブラックシネマ団に征服されていた。
 現在、進一郎が居る群馬県立前坂高等学校も、ブラックシネマ団に征服された数多くある物件のひとつだ。

「てめえらさ、ひよりがいなくなった途端やりたい放題だよな」
「まあそういうな。こっちにも色々と事情がある」

 放課後の閑散とした教室で机を挟み、進一郎は知り合いの魔法少女と談話していた。

「ひよりのいない群羊県を他の悪の組織から守るためには、ここが我らの縄張りであることを世間に知らしめないといけないからな」
「だからって前坂の市長選にてめえらの息のかかった奴を擁立するかね。真面目に政治活動する悪の組織とかダッサ。ちょっと引くわあ」

 悪態をつくショートカットの少女の名前は芭蕉ばしょうさちえ。天使が使役する魔法少女チーム『フルーティアーズ』の現リーダーである。
 進一郎とは敵対関係であると同時に、対決を通じて競演することの多いビジネスパートナーでもある。

「向こうから話を持ってきたんだよ。当選した暁にはある程度こっちに都合のいい要求を呑むから選挙資金を出してくれってさ。だいたい現職の市長が不甲斐ないのが悪い。悪の組織に支援された無所属に負けるかねフツー」
「その結果、この学校の校長になりましたってか。アホじゃねえの?」
「正確には名誉統括校長だ。ここの生徒なら、校長には歳を食ってて頭の禿げた奴がちゃんといるのを知ってるだろ」
「そーいう話をしてんじゃねえよ。てめえはあたしと同い年だろ。なに教育側の立場になってんだ。ガクセーなら勉強しろよベンキョーを」
「言われなくとも勉強の毎日だよ。組織の運営はアホにはできんからな。たぶんおまえよりははるかに賢い」
「お、言ったな? 言っちゃったな? それはあたしに喧嘩売ってるんだよな」

 今にも殴りかかってきそうなさちえに進一郎は肩をすくめるも、特に臨戦体勢には入らない。
 さちえは勉強はできないが馬鹿ではない。ここで進一郎をぶん殴って得るものより、失うものがはるかに多いことをきちんと理解している。
 もっとも、そういった打算的なところが、彼女の魔法少女としてのレベルの低さに繋がっているのだが。

「ホントおめえは口が悪ぃよな」

 自分のことを棚に上げ、椅子の上であぐらをかきながらさちえが言う。
 短いスカートを穿いているため、よく引き締まった美しい生足と白いパンツが丸見えなのだが、本人はまるで気にも留めていない。

「普段はもうちょっと紳士的な態度なのにな」
「それはカメラが回っているときだけだ。羽虫のいぬに払う敬意はねえよ」
「狗だあ? どう見たって犬は天使むこうのほうだろうが!」

 さちえが指差す先――彼女の足元には、一匹のチワワが行儀よくお座りをしていた。

 否――それはチワワに在らず。
 彼女の名はイチゾウ。現世に受肉した天使の仮初めの姿である。
 多くの天使が動物の形をとっているため、世間一般では『魔法生物』と呼ばれていた。

「ああ、イチゾウも居たのか。まったくしゃべらんから、本物の小型犬を代役として連れてきたのかと思ったわ」
「薄汚い下々の者とはしゃべりたくねえんだとよ。こいつを見てると、おまえらが天使をディスってる理由がちょっとだけわかるから困る」
「なんなら悪の組織に来るか? 真面目に働く気があるなら多少は優遇してやるぞ」
「断る。悪の組織じゃ魔法少女はやれないし、何よりあたしが好きな男性は天使なんだよ」

 ――それは初耳。
 この鼻持ちならない女をからかういいネタになる。進一郎は口元によこしまな笑みを浮かべた。

「いったい誰だよ?」
「てめえに教える義理はねえ」
「おまえの交友関係なんてタカが知れてるからな。ザクロかマルタかシーギアか……いや、もっとおまえに近いところに居た奴だな。わかった、ひよりの相棒のゼロムだろ? よく考えたらあいつしかいねえわ」
「うるせーよ。おまえこそひよりとはどうなったんだ?」
「どうなったも何も……あいつは今、音信不通だろ。今日はあいつの所在を聞きにわざわざ学校ここに来たんだよ」

 二人の話題の中心人物である「ひより」とは、かつてこの前坂市に在住していた伝説の魔法少女の名前である。

 桜桃おうとうひより。
 年齢は十七歳。パーソナルカラーはレッド
 容姿端麗スタイル抜群の華の女子高生(中退)。

 世界に十人しかいない最強の魔法少女 <ジャンヌ・ダルクの剣> の一振りであり、フルーティアーズの元リーダーだ。彼女は群羊県を根城とする最悪の魔人ブラックシネマに対抗すべく天界から差し向けられた刺客だった。
 彼女の現役時代は相棒の兎型天使ゼロムとコンビを組んで世界屈指の悪の組織であるブラックシネマ団に真っ向から対抗していたのだが、とある冤罪事件を契機に天界から離反。現在はフリーの魔法少女として世界各国を渡り歩いている。
 そして、二神進一郎の幼なじみでもある。

「ひよりの居場所を知りたがるってことは脈ありって考えていいんだな?」
「うるせえ、いいから教えろよ。おまえらのことだから定期的に連絡を取り合ってるんだろ?」

 本当は左反殺害の容疑者としてその動向を探っているのだが、そんな事実はおくびにも出さずに、進一郎はあくまで幼なじみを心配しているという風を装いながら訊いた。

「三ヶ月ぐらい前に中東に石油を掘りに行くっていったきり連絡がねえよ。こっちからも電話が繋がらねえしあれはマジで海外に行ってるな」

 ブラックシネマ団の調査でもひよりが群羊県に戻ってきたという形跡はない。
 もともとたいして疑ってもいないが、やはりまったくのシロなのだろう。

「あいつの実力なら団内への潜入も容易だろうからな」
「なんの話だ?」
「気にするな、独り言だ。それより他に何か気になることを言ってなかったか?」
「言ってたよ。知りたいか?」
「是非とも」
「『進ちゃん元気にしてる?』って連絡が来るたびに訊いてくるよ」

 ヒューヒューッ! お熱いことですねえ。
 いやらしい笑みを浮かべながらさちえが進一郎を冷やかす。

「……あいつは未だに俺を弟扱いしてやがるからな」
「いや、マジで進ちゃんはひよりのことどう思ってるのさ。なっ、なっ! 教えてくれよなっ、なっ!」

 ――マジで立場の違いってやつを教えてやろうか。
 一瞬、腰のオートマチックを引き抜きたくなる衝動に駆られたが、進一郎は「淑女レディには優しく」という頭領の助言を思い出しながらぐっとこらえた。
 もっとも、このあばずれが淑女だとはまるで思えないが。

「特にないならもういい。帰ってよし」
「言われなくてもそろそろ行くわ。今日は野球部の助っ人を頼まれてるからな」

 スポーツ万能のさちえは運動系の部活から引っ張りダコだ。魔法少女など辞めてアスリートにでも転向すればいいのにと進一郎は常々思うが口には出さない。
 進一郎自身、悪の組織の構成員に向いているとはお世辞にも言えないからだ。
 本人の適性とやりたいことが必ずしも一致するとは限らない。だが、どちらを優先するかなど考えるまでもない。
 才能がないのなら努力で補えばいいだけ。実に単純で簡単な話だ。

「まっ……せいぜい頑張れよ、さちえ」
「てめえもな、進一郎――いや、フィルム伯爵さまとお呼びすべきかな?」
「誰もそんな名前で呼んじゃいないが、好きにしろ」
「冗談だよ。またな進一郎」

 最後にまたひとつ悪態をついてからさちえは席を立ち、廊下で待っていた野球部員たちと合流した。
 廊下から「ごむぇ~ん、さっちんみんなのこと待たせちゃったネ☆」というやけに媚びた声が聞こえてきたような気がしたが、進一郎はあえて聞かなかったことにした。身内相手にキャラを作っているのはお互い様なのだから。
 悪友が去ったあと進一郎は、教室にとり残されたイチゾウに視線を移す。

「置いていかれたが、いいのか?」
「……」
「おまえはさちえの <変換器パートナー> だろ。常に一緒にいるのが義務なんじゃないのか?」

 イチゾウは進一郎の問いに答えない。あまりの無愛想に進一郎は嘆息する。
 魔法少女と魔法生物の関係は、人間と魔人の関係とまったくの逆である。
 魔人が人間を <変換器コンバーター> として使役し魔術を操るのに対して、魔法生物は才能ある魔法少女を見出して <変換器パートナー> として力を貸す。進一郎は天使の事情に詳しくないが、左反のような純天使とは違い「混ざりもの」の多い現在の天使は魔法適性が低くてこうするしかないそうだ。
 その有様は、聖天界の腐敗ぶりを如実に示しているといっていい。

「知ってるかイチゾウ。天使っていうのはな、下界しなくたって堕天するんだ」
「……」
「貴様らは我々のことを下等生物と見下しているのかもしれんが、俺から言わせればまったくの逆。濁流に揉まれてこそ石は磨かれ珠となる」
「……」
「魔王ルシフェルと貴様ら天使――本当に地に堕ちたのは果たしてどちらかな?」

 これだけ挑発しても、なおイチゾウは言葉を発さなかった。下賎な者とはどうしても口もききたくないらしい。
 進一郎が諦めかけたそのとき、

「……我々が堕ちたのは、人間と関わったせいだ」

 イチゾウが、そこで初めて口を開いた。
 天使とは思えぬほどしわがれた聞き心地の悪い声だった。

「人と交わることで天使は穢れ、次第にその大いなる力を失っていった。神はそれを懸念し、我々が地上に降りることを禁じたのだ」
「だがおまえたちは地上に降りた。地上にある豊富な魔力の誘惑に負けてな」
「神がおられれば、このようなことにはならなかった!」

 激しい怒りを露にするイチゾウに、進一郎は心底呆れたように肩をすくめる。

「おいおい神のせいにすんなよ。ついでに人間のせいにもな。邪神がいなくたって地獄は魔王を中心につつがなく回っているし。地上にあがっても悪魔は魔術適性を失ってはいない」

 進一郎は立ち上がってイチゾウを見下ろすと、その鼻先にまるで拳銃のようにひとさし指を突きつけた。

「ハッキリ言おう。誰のせいでもない、貴様らが堕落したのは貴様ら自身の責任だ」

 イチゾウのつぶらな眼がギラリと怪しく光った。
 どうやら図星をつかれて殺意を抱いたらしい。だからといって矮小な犬の姿では天罰のひとつも与えられないだろうが。
 とはいえ、進一郎は今さら天使の在り方を諭しにきたわけではない。口論するのはここまでにしておこう。

「発言を撤回する。おまえがあんまりしゃべらんものだから頭にきてつい……な。おまえらとフレンドリーにやりたいわけでは断じてないが、表立って対立する気も今のところはない」
「何が目的だ。卑しいブラックシネマの走狗め」
「ザファエルに伝言を頼みたい。ルシフェルからだといえば察してくれる」

 ザファエルとは聖天界の評議会の議長であり、イチゾウの上司にあたる古参の天使だ。
 ブラックシネマ曰く「羽虫の中ではマシなほう」とのことなので、進一郎も多少は敬意を払っている。
 できれば直接面会したいが、現在ザファエルは聖天界にいて進一郎には直接コンタクトを取る方法がない。故に今はこの畜生を利用するしかないのだ。

「『いつの日か、かならず聖天界に戻る』。おまえならこの意味がわかるよな?」

 それは、左反との最後の晩餐の時に頼まれた伝言だった。
 伝言はすでに遺言となっているのだが、今はその事実を天使に悟られてはならない。

「あの御方は堕天などしていないということだ。どこまでいっても純粋な天使だよ。良かれ悪しかれな」

 これで最低限の義理は果たした。羽虫相手にこれ以上の会話は不要。
 もはや決して叶わぬ左反の夢をイチゾウに伝えると、進一郎は杖を取って教室を出た。

                 ※

「進ちゃんとひよりさんは、いったいどんな関係なんですか?」

 廊下に出ると、身辺警護のために待機していた真理恵が開口一番に訊いてきた。
 目立たないようわざわざセーラー服を着てきたらしいが、その美貌を隠さないことにはあまり効果がない。

「俺が孤児院にいたときの友人だ。幼なじみと言い換えてもいい」
「そんなことは知ってますよ! 私が聞いてるのは、その、もっとこう……男女の仲的な話です」
「俺は今の両親に引き取られてすぐ他県に引越ししたし、再会したのもつい最近で、今またこうして音信不通だ。何かあるわけがない」

 さちえといい真理恵といい、ちょっと考えればすぐにわかる話なのに、どうしてわざわざ直接訊いて来るのだろうか。
 いい加減うんざりしてきた進一郎だが、真理恵は納得していない様子だった。

「俺の返答がそんなに不満か?」
「別に不満があるわけではありませんよう。ただ、これだけはハッキリ言っておきますから」

 真理恵はセーラー服の布地を持ち上げるほどに大きな胸をドンと叩く。

「私は、ひよりさんより強いですよ!」

 ――は?
 いきなり突拍子もないことを言われて進一郎は目が点になる。

「ひよりさんよりかわいいし、ひよりさんよりスタイルがいいし、ひよりさんより料理が上手いし、ひよりさんより進ちゃんの気持ちがわかるし、ひよりさんよりずっとずっとずぅ~っと、あなたの傍に居てあげられます」
「回りくどいな。いったいおまえは何が言いたいんだ?」
「だから、その! あれですよ、あれ!」

 もじもじと身を捩じらせながら真理恵は、いかにも恥ずかしそうにその言葉を口にした。

「……ひよりさんのところに、行かないでくださいね」

 それを聞いた進一郎は、すぐに大声で笑い出した。

「頼まれたって行ってやらん。ブラックシネマ団以外に俺の居場所はない」

 桜桃ひよりは進一郎の幼なじみだ。
 子供の頃は、人見知りの激しい進一郎の面倒をよく見てくれた。
 特別な感情がないわけではない。
 だが、すでに二人は道を違えたのだ。

 桜桃ひよりは正義の道を。
 二神進一郎は悪の道を。

 違えた道が再び一つに繋がることはない。
 未練や後悔などあるはずもない。
 互いに自ら選んだ道なのだから。
 ただ誇り高く往けばいい。

 ――ひよりもきっと、そう思っているはずだ。

「往くぞ真理恵」
「仰せのままに!」

 真理恵が嬉しそうに敬礼するのを微笑ましく思いながら、進一郎は力強く一歩、前へと踏み出した。

 二神進一郎は自ら選んだ道を誇りを持って進んでいる。
 だから校内を場違いなタキシード姿で歩いてもあまり恥ずかしくはないのだ。
 これが進一郎の仕事着なのだから仕方ないのだ。
天使と魔法少女の詳細は魔法少女連続殺人事件をご覧ください
http://ncode.syosetu.com/n1871de/
cont_access.php?citi_cont_id=331065783&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ