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わたしが生まれる前のお話

作者:水月 尚花
  
  わたしは、この世界に生まれてくるずっと前、お空のもっともっと向こうにいた。そこで、白くて長いおひげのおじいさんから、たくさんのことを教えてもらったことを覚えている。おじいさんは頭があって、しわしわのお顔があって、手も足もあって、ちゃんと体があった。


  だけど、わたしも隣にいた子も、みんなみんな白くてまあるい形をしてた。


  わたしがいたところには、毎日毎日、まあるいわたしみたいな子が、たくさんやって来た。だけど反対に、たくさんの子がどこかへ呼ばれては、そのまま帰ってこなくて、いなくなっていった。わたしは、それが不思議不思議で仕方なかった。


  だからわたしは、おじいさんに、

 「いなくなった子たちは、どこへ行ってしまったのですか?」

  と、こっそり尋ねてみた。そしたら、おじいさんは、

 「お前さんにも、そのうち分かるときが来るだろう。今、分からないからと言って、不安がることはない。それは、とてもいいことなんだよ。だから、それまで待っていなさい」

  そう言って、まあるいわたしをやさしく撫でた。


  とてもいいことってなんだろう? そのうちって、いつだろう?


  いつかいつかと、待ち焦がれながら、わたしはおじいさんに言われたとおり、待ち続けた。たくさんたくさん、待ち続けた。



  そんなある日、おじいさんは、

 「お前さんにも、答えが分かる日が来たぞ」

  と、わたしに告げた。


  その日、わたしたちは今までここにいて、一回も見たことのない、むすっとした顔をしているおじさんに呼ばれた。そして、わたしとたくさんのまあるい仲間は、違うお部屋に連れていかれた。



  連れていかれたそのお部屋には、キンピカの杖を持った男の人がいて、その人の周りには、たくさんのお付きの人たちがいた。


  お付きの人たちは、一列に並んだわたしたちの周りを、見張るように並んでいる。



 「君たちは今日、肉体を持つことが出来る者たちだ。つまり、人間になれるのだ。すべて希望どおりというわけではないが、今から君たちに、父と母となる人間を選ばせてあげよう」



  そう言って男の人が、キンピカの杖を振り上げると、地面に同じ形をした家がたくさん映った。暗闇の中で、光を灯すお家は、とてもきれいだ。



  わたしは、今から人間になれるんだ! そう思うとうれしくて仕方なかった。おじいさんが言っていたとてもいいことって、このことだったんだと、今やっと分かった。



  わたしの順番はまだまだ先。だから、ひとつひとつのお家をゆっくり見てみようと思った。でも、すぐにやめた。わたしには一つだけ、ほかのお家よりも、強く光ってみえるお家があったから。




  そのお家を見てみると、男の人と女の人、それから小さな男の子が一人いるのが見えた。とても穏やかで幸せそう。わたしもあの中にいられたら、どんなに幸せだろう。


  わたしは、すぐにあのお家がいいと思った。



  わたしは、その家の男の人にお父さんになってほしくて、女の人にはわたしを生んで、わたしのお母さんになってほしいと思った。わたしはあそこに生まれて、二人の子供になりたい。そして、あの男の子の妹になりたい。強くそう願った。



  だから、ほかのまあるい仲間たちに先に選ばれないかとっても心配で、耳を凝らして、前のほうにいる子たちの行き先を聞いていた。



 「ぼくは、あのお家がいいな」
 「分かった。あの家で幸せに暮らしなさい」

 「わたしは、あっちのお家がいいなぁ」
 「君にはあっちより、こっちのほうがいい」
 「そっか、分かった。じゃあ、わたしはこっちにする!」

 「えーっと……まだ迷ってて……」
 「君には……あそこの家はどうかな?」
 「んー……えーっと……」
 「困ったねぇ。まだ迷っているみたいだから、君は一番最後にするかい?」
 「え!? それはいやだから、さっきのお家にしますっ!」



  お家が決まった子は、男の人の後ろにいる大きな団扇を持った天女みたいな人のところへ行き、その大きな団扇に吹かれ、ふわふわと光るお家の中に消えていった。それと同時に、そのお家の光も消えた。



  よかった、まだわたしが行きたいところは誰も選んでいない。


  どんどん列は進み、もうすぐわたしの番。早く順番が来てほしい。自分の順番が来るのが、待ち遠しい。


  まだかまだか、と待っていると、心の中に、なぜかあのおじいさんが浮かんできた。今までたくさんのことを教えてくれたおじいさん。最後に会いたいと思って、ふと周りを見回しても、おじいさんの姿は見えない。


 だから少し怖かったけど、私の隣に、お付きの人がいたから、


 「すいません。あの……おじいさんは、ここにはいないんですか?」


  と、尋ねてみた。すると、


 「あの方はここには、来ないぞ」


  と、言われた。


  わたしは、とても悲しくなった。おじいさんに、最後にお礼が言いたかったのに……



 「そうですか……では、せめておじいさんに、“ありがとうございました”と伝えてもらえないですか?」


 「ああ。わかった。伝えておいてやる」



  わたしのお願いを聞いてくれたお付きの人は、わたしに微笑んでくれた。



  それでも、もうおじいさんに会えないなんて、やっぱり悲しい。わたしは、しょんぼりした気分で順番を待った。



  浮かない気持ちで待っていると、あとふたりで私の番になっていた。まだ悲しい気持ちもあるけど、とてもうれしい気持ちも湧き上がってきた。


  ふたつ前にいた子が大きな団扇に吹かれ、いよいよ次がわたしの番。わくわくしながら待っていると、


 「わたし、あそこがいいわ!」


  と、わたしの前の子が選んだのは、わたしが行きたかったお家。



  ああ、最後の最後で取られてしまったと、わたしはさらに悲しい気持ちになった。わたしが悲しい気持ちでいたのがいけなかったのかな?



  本当は今すぐ、「わたしも、あそこがいい!」と言ってしまいたかったけど、言わなかった。だっておじいさんが、「順番は抜かしちゃいけないよ」って言っていたから。だから、我慢した。



  でも、わたしはあそこに行けないなら、どこに行けばいいんだろう? そう思い、もう一度たくさんの光るお家を眺めていると、男の人は「うーん」と考えてから、



 「君はダメだよ。あの家の人たちとは合っていないから」


  と、答えた。そしたら、わたしの前の子は、


 「どうして!? わたしはあそこがいいのに!」

  と、怒り出した。

 「ダメなものはダメだ」

 「わたしはあそこがいいって言ったら、あそこがいいの!」

 「そういうところがダメなんだ」

 「じゃあ、どういう子ならいいの!?」

 「……君の後ろにいる子」


  男の人がそう言うと、わたしの前にいた子は、


 「あなたは、あそこには行きたくないでしょ!? だったら譲ってよ!」


  と、いきなりわたしに、怒鳴りつけてきた。わたしは、行きたくないなんて思っていない。勝手に決めつけないで。


  もちろん、譲るのなんて絶対にいやだ。だけど、前の子は怖いし、どうしていいか分からない。


 「ほーら! 黙っているのは、行きたくないからでしょう?」

  わたしの前の子は、いじわるな声でそう言った。

 「ち、違うもんっ! わたしは、あそこに行きたいっ!」

  思わず大きな声で言い返してしまったけど、前の子は、

 「で、でも、順番はわたしのほうが早いんだから、譲ってよ!」

  と、まだ引き下がってはくれなかった。


  やっぱり、わたしがあきらめなきゃいけないのかな? そう思い始めたとき、


 「いい加減にしなさいっ!」


  と、怒っている男の人の声が響いた。男の人は、


 「君はもう行きなさい。君の幸運を祈っているよ」

  と、前の子よりも先に、わたしを通してくれた。そのときは、優しい顔をしていた。


  前の子はまだ何か言っていたけど、わたしはすぐに大きな団扇で飛ばされたから、そのあとのことは分からない。




  
  これは、わたしがこの世界に生まれる前の出来事。わたしはとっても会いたかった、お父さんとお母さん、そしてお兄ちゃんに会えたこと、それがとってもうれしくて、生まれてすぐに泣いた。

  この記憶は、きっともうすぐ消えてしまう。そんな予感がしている。


  だけど、わたしは自分で選んでここに来たのだから、きっとこの先だってずっと幸せだ。





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