第22話 襲撃
網膜を焼きそうなほどの、光の奔流が周囲を包み込む。
避けようの無いタイミングで迫るそれに、咄嗟に腕で顔を覆い――
――直後、凄まじい突風が吹き荒れる。
踏ん張っていても吹き飛ばされてしまいそうな程の衝撃波じみた風を、遅れて発動させた障壁で堪えきり、光と風が止んだ頃に顔を上げ――何が起こったのかと。周囲を見渡すと。
オレ達が拠点とし、木々を切り開き開拓した山頂の広場。 その一帯が。
ハリケーンにでも見舞われたかのように、根こそぎになっていた。
「――な、なん……!?」
唐突に起きた事態に脳の理解が追いつかない。
大量の積荷を積み込んでいた馬車は、横倒しになって中の積荷をぶちまけており。
馬車を牽いていた馬も、馬車の付近で倒れ伏していた。 内の一頭は下敷きにでもなったのか、ビクビクと震えながら、馬車の下でもがいている。
その付近で、休息をとっていた者達が寝ている筈のテントも、ぐちゃぐちゃと、テントを支えていたポールは周囲に四散し。シートは潰れていて中で寝ていた人々の安否は全く分からない。
更に辺りを見回すと、オレとジンの後方で不寝番をやっていたケイムスさん、ミーアさん、ランスロットの三人が、先ほどの突風に耐え切れなかったのか。呻き声をあげながら倒れ伏しているのが見える。
――最後に、オレの傍で咆哮を上げていたジンは、光がオレたちを包む前と同様、低く唸り声をあげながら、じっと前を睨みつけていた。
「―――あ」
…いや、違った。
ジンが睨みつけていた方向をよく見てみると、その少し先の空間に、風が渦巻いており。
その空間を境目として、オレ達の側と、森の側の世界が、隔絶した異世界のように変貌していた。
風を境目にしてこちら側は、様々な物が散乱し、惨憺たる有り様ではあるけれど。
風を境目にしてあちら側は、地面を舐めるように焼いたかのような、一面の焦土が広がっていた。
嵐を纏うと言われる、王天虎の風を操る力。
その力を用いて、ジンはあの光の直撃からオレたちを護っていたのだと、そう理解する。
オレの魔法に勝るとも劣らない、この威力だ。余波だけでこちら側もこれだけなのだから、正直ジンが護ってくれなかったら、オレもどうなっていたかわからない。
「―――ありがと。 助かった。ジン」
展開していた烈風陣を解きながらも、ジンは未だに前を見たまま警戒を解いていない。
――当たり前か。 まだ攻撃を凌いだだけで、この砲撃を行った相手の姿すら見えていない。
「何が起きてんだよ一体―― つか、他の皆は」
無事なのか。 前方から視線を外せないままに、後方の状況が気になる。
未だに後方からは何の音沙汰も無い為、皆無事なのか無事じゃないのか、予想すらつかない。
死んではいないと思うけれど――
――そうして、後ろへと意識が向きがちになっていたオレに向け、前方から巨大な影が飛来する。
「ッ!?」
反射的に放った魔力砲を、身を捩りながら避ける影。 そのままこちらへ飛び掛ってくるそれに向け、杖から障壁を展開し。
「――― こいつは……!」
障壁に牙を突き立てる――影の正体を見る。
体長はジンと同じくらいだろうか。 金色の体毛に、黒いたてがみ。
鋭く長く発達した二本の牙が、オレが展開した障壁に突き刺さり、障壁を喰い破らんと力を込めている。
金色の、巨大な牙を持った獅子。 そいつがオレを襲ってきた敵の正体だった。
障壁を展開しながら、相手の姿を観察していると。
それに噛み付いている獅子の口内から、バチバチと弾けるような音と共に、白い光がちらついた。
「?」
なんだ。と思いながらそれを見ると―――
「―――ッガァァアアアア!!」
「――――っうおおおおお!?」
――獅子の口内から放たれる、凄まじい熱量を持った光のブレス。
先ほど見た光と全く同じ閃光が、零距離で障壁にぶち当てられて、ミシミシと展開した障壁が悲鳴をあげる。
慌てて障壁に魔力を注いで強化するものの、熱量までは遮りきれず。急速に熱せられた周囲の温度にじわじわと汗が滲み出る。
くっそ。破られる気はしないけど、いつまで続くんだこれ――!
下手にここから飛び退けば、背後にいる皆にこの砲撃が当たってしまうかもしれないだけに、迂闊に動くこともできない。
止む気配の無い光の放射に、歯噛みしながら対応策を練り――
「グルァアアアアアッッ!!」
「――――ガアッ!?」
横合いから突っ込んできたジンの突撃により、獅子が吹き飛び、オレはヤツの攻撃から解放されることができた。
「ガルルルルル……」
「グルルルルル……」
一定の間合いをとって、唸り、威嚇し、牽制し合うジンと獅子。
こいつがさっきの奇襲の犯人か。
後ろの皆のことは気になるけども、今はジンと協力してさっさとこいつを倒すべきだろう。
「―――――ッ!!?」
不意に横合いから迫る殺気に、思考を中断してその場を飛び退く。
直後。 寸前までオレが立っていた場所が、ズガン、と激しい音を立てて爆砕する。
襲ってきたのは、一匹だけじゃないのか―――!?
粉塵を巻き上げそこに現れたのは、恐ろしく太い腕を地面に突き立てる、巨大な猿。
――いや、猿というかゴリラというべきか。
猿と言うには似つかわしくない分厚い筋肉と、黒い体毛に覆われたそいつの姿は、寧ろゴリラに似通ったものではあるけれど。
顔立ちはゴリラ、というよりは猿に近いものだった。
猿というには凶悪過ぎる面構えでもあるけども。
新手の出現に、獅子の対応はジンに任せ、眼の前の巨大猿の相手に専念しようとしたところで―――
―――ぞろぞろと、広場を取り囲むように、魔物の群れが現れた。
「な、ん……!?」
前後左右四方八方と、あらゆる方向から、広場の中へと魔物の群れが姿を現す。
まだ距離はあるものの、ゴブリンやオークといった、今までと同様の低ランクの魔物を中心にしつつも。
群れの中には幾つか、眼の前の巨大猿や、ジンと相対している獅子ほどでは無いにしろ。それなりに強力そうな魔物の姿も散見される。
オレには、魔物のランクというのは未だにほとんど判別つかないが。
それでも今までの依頼で討伐した魔物の中で、単体でCランクチームクラスであるとされて倒したことのある、巨大な犬の魔物のガルムや。ゴブリンを二回りほど大きくさせたような緑色の体色の巨人、トロールの姿があるのは確認できた。
オレとジンが生き延びるだけならばまだしも、この状況でこれは拙過ぎる。
「―――ケイムスさん! ミーアさん! オリガさん! 聞こえますか!? 緊急事態です!」
のそり、と振り下ろした拳を持ち上げて、こちらへと向き直る巨大猿と睨みあいながら、背後で倒れている筈の三人に声をかける。
ちょっと無理してでも動いてもらわなきゃ、詰んじまうぞ。コレ。
「………っ。 っつ……何が、起きた」
後方からランスロットの声が聞こえる。 他の二人の声は返ってこなかったが、一人でも反応が返ってきただけありがたい。
「魔物の襲撃です。 今までとは規模が違うようで。早急に皆を起こして対処しないと」
「ッ。 ガガールンだと…!? それに、あの獅子は―― グサルガレオか…ッ
――わかった。すぐに対処する」
「―――っと! お願い、…しますっ!」
ランスロットが、恐らく眼の前の巨大猿と、獅子の魔物の名前を呟いた後に了承の返事を返してくる。
それに振り向くことなく答え。殴りかかって来た巨大猿の拳を避け、魔法を込めた拳をカウンターとして顔面に叩きこむオレ。
直撃の瞬間に炸裂する、爆薬程度の威力が込められた拳を受けて、何度かバウンドしながら吹き飛ぶ巨大猿。
――が。顔に痣を作りながらもすぐに立ち上がって、怒りの形相を浮かべてこちらを睨みつけてきた。
「――ったく。 お前だけ相手にしてるわけにもいかないんだ。っつーの!!」
巨大猿と距離を取った隙に、適当な方向に向けて魔力砲を放つ。
どこに向けても当たるような状況なので、一々そちらを確認することもない。
動き出そうとしていた魔物達に向けて、牽制の意味をこめて放ったその魔法は。 思惑通りに包囲を狭めていた魔物の足を一瞬とはいえ止めることに成功したものの。
この程度の牽制じゃあ、魔物達はすぐにでも突っ込んでくるだろう。
せめてジンがフリーで動けるなら、色々なんとかしようがあるのだけれども。
そのジンはと言うと、獅子型の魔物と未だ睨み合ったままであり、早々決着が着きそうな気配はない。
…ジンが即行で仕留められないってことは、それなりに強力な魔物なのかあの獅子。
流石に負けるとは思っちゃいないが、先の強力な砲撃のこともある。
あいつとの決着が着くまで、ジンのフォローは無いものと考えた方がいいだろう。
「――――――!!」
「よ、っと――― させるかぁッ!!」
再び飛び掛ってくる巨大猿の一撃を避けながら、後方のテントへ迫ろうとしていた魔物の群れへと、魔力砲を放つ。
続けて振るわれる、周囲の地面や岩を砕きつつ、つんざくような風切り音と共に振るわれる豪腕の連撃を避けつつ、視線は周囲を囲む魔物の群れへと向けて連中を威嚇する。
巨大猿にも反撃したいのだけれど、こいつに目を向けた瞬間に他の魔物がテントの方に突っ込む動きを見せているので、迂闊に攻撃できない。
さっきの一撃で決まらないあたり、タフさもそこそこなのだろうし。
くっそ。面倒くせえなあ!
心中で、この追い込まれつつある状況に舌打ちした、その時。
巨大猿に背を向けたままその攻撃をあしらい続け、目線と魔法で魔物の群れを威圧し続けている、オレの背後で。
爆風が吹き荒れた。
「今度は何――!?」
またも発生した突風によろめきながら、すぐにでも障壁を張れるよう警戒しつつ背後に向き直ると。
――そこには、愛用の大槌を振り下ろした体勢の、“爆心地”の姿。
「目覚ましにしちゃァ―― ちとドカンドカンうるさせえぞ、クソガキ」
鎧を纏い、完全に武装した姿で、槌を振り下ろした先を見下ろしながらゲオルグさんは呟く。
口振りとは反対に、急いで駆けつけてきてくれたのだろう。 普段ツンツン逆立っている金髪は、ぼさぼさと乱れており。なんだか普段より年嵩が増して見える。
「ゲオルグのおっさん!!」
渋いタイミングでの参戦に、思わずおっさん呼ばわりしてしまう。
「ブチ殺すぞクソガキ。 ――テメエはあっちの魔物の対処に向かえ。こいつはオレが相手をする」
そう言いながら、顎で崩壊したテントが散らばっている方角を指し示すゲオルグのおっさん。
視線は振り下ろした槌の下へと向けられたままで。 気になったオレも、砂塵が舞うそこへと視線を向けてみる。
すると、吹き荒れていた砂埃が収まってくるにつれ、振り下ろした槌の下に、小さなクレーターの中に身を沈めながらも両腕を交差させ――槌の一撃を受け止めている巨大猿の姿がある。
あの一撃を防いだのか。こいつ。
「ガアアアアアア―――ッッ!!」
「グルァアアアア―――ッッ!!」
ジンの方も、どうやら本格的に交戦を開始したようで。
虎と獅子が、残像が見えるような速度で周囲の魔物を巻き込みながら、爪と牙を交わらせていた。
「――ガガールン相手に一人ってのは、流石にオレもそう長くは相手したくねえ。 さっさと他の連中起こして援護に連れて来い」
「ギ、ギ、ギ……ッ!」
ゲオルグのおっさんに押し潰されるな体勢だった巨大猿が、徐々に槌を押し返している。
おっさんも人とは思えないような力を持っているとは言え。 単純な膂力では猿の方が上なのだろう。
その様子にも驚いた風もなく、淡々とこちらに声をかけると、数歩分飛び退いて、巨大猿から距離を取り槌を構えるゲオルグのおっさん。
「―――ッ。 了解です。 応援来るまでくらいは、もたせてくださいよ」
テントの防衛をしながら皆を起こして回るには、遠距離攻撃も出来るオレのほうが適任で。
ゲオルグさんもそれが分かっているから、急いでこちらに駆けつけて、巨大猿の相手を引き受けたのだろう。
一刻も早く皆を起こすべき、と判断したオレは、おっさんの返事を聞くこともなくテントの方へと駆け出した。
「ハッ。 誰に物言ってやがんだテメエ。――ガキが人の心配するなんざ、十年早ェッ!!」
「―――グギャァアアアッッ!!」
超重量の物体と物体がぶつかり合う音を背に、オレはテントの方へと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
テントの方に向かっていると、幌馬車の幌の近くでランスロットの姿を見かける。
パーティの皆を集めていたらしく。 そこにはケイムスさんとミーアさん以外にも、クラウスさんやローザさんの姿があった。
「―――皆の具合は!?」
「…お前か。 女二人の方は、意識を失っているようだな。無理矢理叩き起こすのも危険だからここに集めておいた。 男の方は、一応すぐに目覚めたんだが――」
ランスロットがオレの姿に気付き、現状を報告する。
――あれ。オレの女っつーか。 カザネとマリスはどうした。
ランスロットが続けてなにやら説明しているが。 それが右から左に通り抜ける。
意識はあるものの、右目が血で真っ赤に充血しているケイムスさん。 あちこちからぼたぼた血は流しているものの、全体的に擦過傷が殆どっぽいクラウスさん。
意識は失っているものの。 ぱっと見た感じ目立った外傷のないミーアさんとローザさん。
その場にいる全員の状態を確認し。
「あっちでゲオルグさんがでかい猿とやりあってるんで、応援行けるようなら行ってやって下さい。 オレはカザネとマリス探してきます。 ついでにドルトムントさんも探してみますが。場所わかるようならそっちで向かってもらえると助かります」
「―――あ! おい!」
手持ちの情報を伝えるだけ伝えて、オレが使っていたテントの下へと走り出す。
話聞く時間も言葉を返す時間も勿体無い。 その間にオレの女に万が一のことがあったらどうすんだちくしょう。
――テントに辿り着く頃には、魔物の包囲もかなり狭まっていて。
下手したら既にテントのあたりまで蹂躙されていたかもしれない距離だった。
近寄ってくる魔物を殴り飛ばし、近寄ろうとする魔物を魔法で消し飛ばし。 周囲の魔物を殲滅したところで、支えを失って潰れているテントの中を確認する。
中にはカザネとマリスが、毛布に包まりつつも抱き合うようにして眠っており。
「――おい!カザネ!マリス! 起きろ! おい!」
「……っ。 …なんだこの惨状は」
大声にうっすらと目を開いたカザネが、周囲を見回してそう呟く。
まだ完全に目が覚めていないのか。普段より声音が低い。
「オレも正直よくわからん。 ただ、碌でも無いことが起きてるのは間違い無いみたいだから。早く身支度整えてくれるとありがたい」
「――その方がよさそうだな」
カザネと話しながらも、魔力砲をぶっ放すオレの姿を見て。 起き上がり、傍に転がっていた鎧と剣を身に着けていくカザネ。
そんなオレ達に遅れて、マリスも目を覚ましたようで。
「………地獄ですかここは」
周囲に散乱する魔物の焼死体を見て、そんな感想を漏らすマリス。
寝癖を整えながら言ってるのが、なんともまあ。
「似たようなものかもしれない。 ――馬車の方に皆集まっているから、対応策練る為にも、そっちに行っとけよ」
残り行方がわからないのは、ドルトムントさんだけか。
馬車の方を顎で示しながら、あたりのテントを見回していると。
「アォオオ――――ン!!」
遠方で、遠吠えをあげながら魔物相手に切った張ったを演じている、銀色の体毛に覆われた人狼の姿を発見。
…大丈夫そうだなあ。なんか。
「了解です」
「了解だ。――アベルはどうするんだ?」
ドルトムントさんの姿を発見して、さて――と腕をぐるんぐるん振り回すオレに、カザネが声をかけてくる。
うん?とカザネに首を傾げてから、近くの木々の奥を見遣り。
「――誰かがアレ抑えておかなきゃ、作戦会議もしてらんないだろ」
両目に映るのは、森の奥から姿を現す、2体の異形。
対峙するだけでわかる、そこらの魔物では及びもつかないような格と、一方の魔物から放たれる尋常じゃない魔力に気がついたのだろう。
背後で二人の息を呑む気配が伝わる。
オレよりも一回りほど大きな赤い体躯に、詰められるだけの筋肉を詰め込んだような、どこか見慣れた形をした二本の角を生やした魔物と。
襤褸切れを纏い、フードの陰から覗く青白い瞳を幽々と光らせる、白骨の死神じみた姿をした魔物。
「……あいつ、は……ッ!!」
二体の魔物の姿を確認した瞬間、強大な魔物の気配に怯んだ様子を見せていた背後の二人の片割れ。 カザネの方から、凄まじい怒気が背中に伝わってくる。
その理由も、眼の前の魔物と、以前聞いた話を思い出せばある程度は予想がつく。
―――けれど。
「カザネ。マリス」
「――は、はいッ」
「――アベルッ。 あのオーガは私が――」
ちゃきり、と杖を構えて。臨戦態勢を整える。
マリスとカザネの、まるで異なった様子にも頓着してやる気にはなれない。
「――邪魔。 他の皆にも近付かないように伝えといて」
「アベル!!」
二人にそこにいられては、気が散って全力を出しきれない。
さっさと下がるように告げると、納得がいかないのか。カザネが強い口調で抗議の声を上げてくる。
気持ちはまあ、わからなくはないけれども、この色々切迫した状況でカザネの提案を受け入れるわけにはいかない。
「自分で言ってたろ、カザネ。 個人でC相当のカザネに、あいつ――Aランクチーム相当のオーガを相手どらせるわけにはいかないっつーの」
少なくとも魔物の一体は、Aランク相当だと確定しているんだ。
その魔物と勝るとも劣らない魔物が、眼の前にもう一体いるってのに、明らかにそれらと比べて劣っているとわかってるカザネを、戦列に並べる気にはならない。
襲ってきている魔物はここだけじゃないしな。
「まあ、任せとけって。 ちゃんとオレがぶちのめしておくから」
「だが! いくらアベルと言えども、オーガを合わせて二体同時などと……せめて、私が前衛を」
「いやいや。逆なんだって。 ――二体纏めて相手にするから、二人はちょっと邪魔」
下手にカザネやマリスを加えたところで、逆に攻撃する時に邪魔になりそうだし。二人が気になってしょうがなくなりそうなんだ。
どっちか一体ならば、カザネ達加えた方が早いかもしれないけれど。
オレの率直な物言いに、ぐ。と歯噛みをするカザネ。
いや、眼の前の魔物から目が離せないから、そんな気配を感じただけだけれど。
「私では――アベルの隣に立てないのか」
「……。 まあ、今のところ」
「………ッ」
「…マリス」
沈黙するカザネ。
溜息を一つ吐いてから、マリスにカザネを連れて行くよう頼む。
…何でオレがカザネをへこませなきゃいけないんだ。 ああ、イライラするな。
「―――本当に大丈夫なのですか?」
「大丈夫だろ。たぶん。 ――じーさん相手にするよかマシだと思う」
緊迫した口調で尋ねてくるカザネに、ひらひらと手を振り答える。
実際Aランクってのがどの程度のものかわからないけども。そうだろうと思いたい。
「……わかりました。 どうにかこの包囲を抜ける算段を立ててきますので。 この場はお願いします」
オレの気安げな口調とは別に、徐々に距離を詰めている魔物の姿にこれ以上問答をしている様子は無いと感じたのか。
渋々といった口調ではあるが、こちらの提案を受け入れてくれるマリス。
そしてカザネに声をかけ、この場を離れようとして。
二人の足音が聞こえ始めたー―と思ったら、また足音が止まる。
「アベル」
「うん?」
「死なないでくれ。 オーガは勿論、殺したいが――アベルを失ってまでのことじゃない」
「はっ。そんな心配すんなって。――オレを誰だと思ってるんだ」
「?」
にやり、と。魔物に向けてではあるが、不敵な笑みを浮かべる。
「―――オレは英雄お墨付きの男だぜ?」
◇ ◇ ◇
遠ざかる二人の足音を聞きながら、さて――と杖に魔力を込める。
…決め台詞としてはいかがなものだったのだろうかと。 今更になって先程言い放った言葉を思い出しながらも。
言っちまったもんはしょうがない。 一先ず思考を切り替える。
距離があったとはいえ。 なんだかんだで二人が離れるまで襲い掛かってこなかった二体の魔物は、その分戦闘の準備は万端なようで。
オーガと呼ばれた鬼のような姿をした魔物は、低く腰を落とし、今にもこちらに襲い掛からんと力を溜め込んでおり。
異形の片割れ。死神のような風貌の魔物の周囲には、無数の魔方陣が浮かび上がっている。
――それに併せてオレの周囲にも、幾つもの魔方陣が浮かび上がり。
「ちょっと気まずい雰囲気にしてくれやがって……この落とし前は、きっちりつけさせてもらうからな。このやろう」
―――開戦の狼煙が上がる。
白色の閃光と、紅色の球体がぶつかり合い。周囲を光が焼き尽くし。
続く爆音と、雄叫び声。
互いの存在という存在を削りあう、死闘が、幕を上げた。
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