第16話 スポット参戦?
王都に来てからそこそこの時が経った。
街の人々も多少はジンの姿に慣れてきたようで、人当たりの良い商店街のおっちゃんなんかは、ジンを連れ歩いていると肉やら野菜やらをジンにくれたりする。
カザネへの人当たりはやはり厳しいままではあるが、まあこればっかりはどうにもならない。
冒険者稼業も順調で、討伐系の依頼を中心にぼちぼちこなしている。
流石に個人ランクならA相当のチームランクC。ごりごりお金が貯まっていく。
王国の方からは、謁見の後から特に如何こうというのは今のところ無く。
少し騒がしくなるかな。と気構えをしていたオレとしては、拍子抜けした感がある。
……まあ、王国の方からは。なんて強調しただけあって、他方からはアクションがあったわけだが。
「……。 …本当に毎日来るのな。 本職はどうした」
朝。そろそろ『遥々亭』の部屋の更新が切れるので、住み心地も悪くないし、ジンも気に入ってるしということで、部屋の契約をとりあえず三ヶ月ほど更新した後、三人揃って食堂に行くと、ここ1週間ほどですっかり顔馴染になった人物が食堂で待っていた。
「むしろ私が聞きたいです。 一体何時になったら私はこの任務から解放されるんでしょう。――正直、このままずっとほったらかしにされそうで気が気でならないんですが」
「オレに言われてもなあ…」
魔術師然とした黒のローブに、先端に魔石の付いたワンド。黄みの強い茶色の髪をショートカットに短く纏めたその女性は、髪と同じ茶色の瞳を物憂げに伏せさせて、食堂の一角でコーヒーを啜っていた。
そう説明すると、よくある魔法使い風の姿を思い浮かべがちではあるが、彼女の特徴はむしろそこではなく、頭部に生えた、狐の耳に酷似した狐耳と、ローブに隠されて見えないが、尻から伸びている尻尾の方だろう。
彼女の名前はマリス・アルバと言い、先日会ったフィオリ・グリムと同じ王国の宮廷魔術師――の見習いみたいなものらしい。
人族ではあるが、先祖に狐族の血が入っているらしく、狐族の血が色濃く出た彼女は、人の姿に狐耳、狐の尻尾といった姿をしている。
学園都市ディングルの魔法学院を優秀な成績で卒業し、その実績を持ってエリート揃いと言われる宮廷魔術師団へ入り、見習いとしてフィオリに師事している―――らしいのだけれど。
一週間ほど前、そんな彼女が『遥々亭』へと尋ねてきて、暫くオレ達と行動を共にさせて欲しいと言ってきた。
話を聞くと、フィオリと第二王女様に、オレが本当にヨーゼフ・アルベルトの息子であるか確かめてこい。と言われたらしい。
――確かめるってどうやってさ。
そう聞いたら、目尻に涙を浮かべて私だって知りません!と怒られた。
最初は2、3日くらいで適当に判定し終わるかな。と思っていたが。 どうやらガチらしく。ちゃんと証拠を持ってくるまでは、城に戻っても今までマリスがやっていた仕事は全て奪われ、フィオリもこの任務をこなすまでマリスに教えを授けるつもりはないらしい。
――悪魔の証明というか。確かめようが無い気がすんだけどなあ、こんなもん。
ギルドマスターに王女様って優秀って聞いてたけど、実は阿呆だったりするんだろうか。
「ぶっちゃけ、王女様かグリムさんにお願いして、さっさと任務を解いてもらった方がいい気がするけどな。 オレに同行したってじーさんの息子である証拠なんて掴めないぞ?」
血筋的にも義理の息子だから血が繋がってるわけでもなし
まあ、証明する方法が無いわけではないが、そこまでする気にもならない。
「既に言いました。 ――王女様は戻ってきても構わないようなのですが、フィオリ様には何かしらの考えがあるらしく。城に戻ることは許されませんでした」
「考えなあ……」
何考えてんだかなー。
マーカスが運んでくれた朝食を胃に納めながら、王城で会った魔法使いの姿を思い出す。
人の良さそうな、温和そうな人に見えたが。 一癖ある人だったんだろうか。
「というわけで、本日も貴方方に同行させていただきます。」
「まあ、報酬もいらないってことだし、構わないけどさ」
不満たらたら。といった風な憮然とした表情でそう告げてくるマリスに、肩を竦めながら答える。
これが男だったら、何コイツうざってぇ。と感じるところだけれど、幸い彼女は女性であり、容姿も悪くない。寧ろ良い。
目の保養にもなるので、今のところ同行を承諾している。
大体ここまでがここ一週間のオレとマリスの挨拶代わりみたいな会話。
一週間前から依頼のあるなし関係無しにオレ達についてくる。 冒険者として依頼を受ける際は、依頼を手伝ってもくれており、純粋に人手が増えるので楽になってる部分もあるのだけれど―――。
「ふむ。アベルが構わないというのなら、構わないけどね」
「貴女には聞いていません」
「やれやれ」
最近、髪が伸びてきたのか黒髪をポニーテールにして纏めていることが多くなったカザネが、チームメンバーとしての意見を述べて。
それをマリスがざっくり両断する。
このマリス。 カザネとはやたらと仲が悪い。
仲が悪いというよりは、一方的にマリスが鬼族であるカザネを毛嫌いしている。という感じで、カザネの方は特にこれといった感情は無いようだけども。
ちょっとの会話でもご覧の有り様なので、正直このことについては多少辟易していた。
「最初にも言ったけど、カザネはオレのチームのメンバーなんだから、同行するなら仲良くしてもらわないと困るぞ」
「それは分かっています。――分かっていますが、納得していません」
「それじゃ意味無いだろ」
「大体、どうして鬼族などと行動を共にしているのですか!あまつさえ同居までしている――だ、男女の仲であるなどと! 英雄の息子として如何かと思います!」
「そんなこと言われてもなあ…… カザネはオレのモンだしな」
「ふふ。 そうだな。一生アベルから離れられなくされてしまったな」
「なんて、不潔―――!」
主に金銭的な意味でのオレ達の関係を表す会話を聞いて、顔を真っ赤にしながらこちらを睨んでくるマリス。
あえて誤解されるように言ったオレ達もオレ達だが、マリスも大概ピュアだよなあ。
――まあ、一概に誤解ってわけでも無いんだけれど。
「ともあれ。 そんなわけだから、一緒に居てギスギスされんのも面倒だからお互い上手くやってくれよな。 上手くやれなくても同行する以上は上手くやってるフリをしてくれ。 一応そっちは仕事で来てんだし、ここは譲歩してもらうぞ」
「……ッ。 …分かりました」
「分かった」
「よし」
とりあえず肯定の返事を返してくる二人に満足して、朝食を再開する。
ジンがそんなオレ達の様子を、くっだらなそうに顔を洗いながら眺めているのが視界の端に見える。
「今日の予定だけれども。とりあえず今日もギルドに向かって、適当な依頼を見繕って仕事をこなそうと思うんだけど、どうよ」
「問題無い」
「了解です」
「がう」
そんな感じで、今日も一日が始まる。
◇ ◇ ◇
魔法というのは。凄まじく乱暴に、かつおざなりに言ってしまえば、人が持つ魔力という酒を世界に呑ませ、口八丁手八丁で世界を騙す作業である。
つまりは、体内の魔力を世界と繋げることにより―――ああ、やっぱ面倒臭いな。
じーさんとマリスに教わったことをオレなりに解釈すると。
人が持っている魔力を、上手に世界に呑ませて酔っ払わせ、へべれけになってる世界をうまーく騙し、世界に思った通りに動いてもらう技術である。
だからして。酒の量が少なかったり、度数が低いと世界はあまり酔っ払わないから上手く騙し辛いし。魔法の具体的なイメージ――口先が上手くないと、世界は酔っ払っても思った通りに動いてはくれないわけだ。
更には、世界に動いてもらう技法だからして、相手に直接――例えば、相手の体内の血液や水分を操作して如何こう。ということは出来ない。
だから魔物や人を魔法で倒す時は、酔っ払った世界に火の玉などを生み出してもらい、現象として動いてもらって世界に相手をぶん殴ってもらう、などといった方法がメインとなる。
ちなみに上記の例でいうならば、魔石は酒の詰まった瓶であり、魔道具は美味しそうな酒に、「このようなことをしていただいたらこの酒を呑むことができますよ」と書いてある、値札付きの酒みたいなもんだ。
魔力という酒の量や、質などは生まれ持った才能に依るところが大きいのだけれど。 その酒を呑ませる方法や、酔わせた後に騙す方法は人様々である。
――が、過去から連綿と続く経験則的に、上手な酒の呑ませ方。上手な騙し方。というのがある事が発見されており、勤勉な人はそれらの体系を纏めて、より上手に世界を騙そうとする。
魔法を人に教えるということは、つまりそういう騙し方の方法を教えることであり。魔力の量については今のところ才能に頼る以外はどうにもならないらしい。
そんな魔法ではあるけれど。世知辛いことに、魔法を使う際に大事なのは、学ぶことの可能な世界の騙し方。ではなく。
先天的なものに左右される魔力―― 酒の方であり。
ぶっちゃけ騙し方がへたくそだとしても、がぶがぶ世界に無理矢理酒を呑ませて酔っ払わせてしまえば、魔力が少ない人が上手に騙すよかよっぽど強力な魔法を発動させることが出来るのだ。
単純な力としては、だけれども。
――――で。 何でオレが急にこんなことを言い出したか。というと。
「やっぱじーさんやオレは規格外なんだろうなあ……」
「今も魔法学院で勤勉に学んでいる者達に謝っていただきたい程度には。 そうですね、やってられません」
本日の依頼はグラスホッパーと呼ばれる、巨大なバッタの群れの討伐であり。
犬猫のサイズ程度の黒いバッタの群れが、大量発生してミズドの森の木々を食い荒らしているので、それの殲滅がお仕事だったのだけれども。
蝗の群れみたいに数の多かったそれらに対して、ジンやカザネ達接近戦タイプでは相性が悪いので、二人にはオレとマリスの護衛に専念して貰い、二人で魔法を使って殲滅することになったわけなのだけれども―――
「この差を見るとな。――魔法に疎い私でもよく分かる。アベルの桁外れっぷりというものがね」
そう言ってカザネが肩を竦める。カザネは魔法は使わないようだし、今までは実感が薄かったのか。オレとマリスの遺した結果の差を見て、フードの下の口元が苦笑を浮かべてた。
「これでも私は、宮廷魔術師団でも魔力量だけならば、有数のモノを持っていると言われていたのですが…」
そう言ってマリスが、自分が殲滅したバッタの群れを見遣る。
そこには、炎を束ねて火炎放射器のように浴びせ、焼け焦げて所々炭化したグラスホッパーどもが散乱している。
自分で言うだけあって、ワンドによるブーストがあったとはいえ、その炎の勢いは凄まじく。木々を齧り食い荒らしていたバッタ達を飲み込んだ炎は、容易く奴らを焼き尽くしていた。
「――まあ、結果は変わらないんだし。そう気にするほどでも無いんじゃねぇかなあ」
一方、オレの方は、というと。
いつもの凄いビーム――魔力砲を広めに拡散させて放ったわけだけれども。
その魔力砲を放った後には、バッタどもの影も形も無かった。 全部消し飛ばしてしまったわけだ。
何の気無しに放った魔力砲に込められた魔力にマリスが顔を引くつかせ。
カザネがオレと他の魔法使いの差というものを実感して、呆れたように腰に手を宛て。
ジンが何時も通りの光景に身体を丸めて欠伸をしている。
といった現状なわけだ。
「この力を告げれば、その王女様方もアベルのことをヨーゼフの息子だと納得するんじゃないか?」
「お? ならいいんじゃないか? これで」
「いえ。 これでは、ただの強力な魔法使いというだけであって、英雄ヨーゼフの息子。ということの証左とはなりません。 既に強力な魔法使いであることは報告してありますし」
カザネがぽん、と手を叩いて呟いて。 それならそれでいいんじゃね?とマリスに尋ねてみるとふる、と首を振って否定される。
どうやら既に報告済みらしい。
本当に、どうやって証明しろって言うんだろうなー。
「実はマリスってグリムさんに嫌われてて、左遷代わりにこんな仕事押し付けられたんじゃね?」
「がう」
「ああ、成る程な」
「――そ、そんなことありませんっ! フィオリ様は私にとても良くしてくれています!」
思わず言ってしまったオレの発言に、ジンとカザネが納得したように頷く。だよなー。そう思うよなー。
マリスは狐耳をぴんと立て、憤ったように否定するが―― オレはお前が一瞬どもったのを確かに聞いたぞ。
少し涙目だし。
「まあ、マリスが例えこのまま放ったらかしにされて、宮廷魔術師クビになったとしても、そん時はうちのチームに入れてやるから安心しろって」
「…そしてゆくゆくは私もそこの鬼族のように貴方の女に――とでも?」
「よくわかったな」
「ここ数日のあなたの言動を見ていれば大体分かります」
いやまあ、まだそこまで具体的には考えて無かったけれども。
そんな分かりやすい生活してたかなあ……。
「まあ、してたな」
してたらしい。
表情に出ていたらしいオレの疑問に、カザネが答えてくれる。
「ま、まあ、可愛い子とはとりあえず仲良くなっておこう。と考えるのは普通だろ、ふつー。 依頼も終わったし、とりあえず帰ろうぜ」
マリスの半目が心に痛かったので、一先ず話題をずらしてジンの元へと向かう。
「全く。 他の女性に目が移るのは良いが、私のことも構うのを忘れないでくれよ?」
「既に充分構ってると思うんだけど」
「だから忘れないで――と言ったんだ」
ジンの上に跨ったオレの後ろにカザネが乗り、オレの腰に手を廻して抱きついてくる。いつもより少し力が強い。
夜ん時はもう無理だ!とか言ってくるから多少自重してんのに。よくわからん。
「さも私があなたの女になるのが確定したように言わないで下さい。 第一クビになどなりません」
マリスもジンの上に跨り、オレの前に乗る。 カザネと密着するのは嫌だそうで、女性二人に挟まれるこんな形になっていた。
――ジンは別に重いとか感じてるわけじゃなさそうだけれど、そろそろ多少窮屈になってきたな。 ジン以外の移動の手段とか考えた方がいいかもしれん。
「マリスは嫌かい?」
「嫌だとかそういう問題では無いでしょう。 会って一週間も経たない男性に対して、そのようなことを考えるわけがありません」
「なら、これから仲良くなってけばいいわけだな」
よしよし。ならば問題無い。
「今のところ、ただの軽い男としか見えませんが…」
「決して悪くない相手だとは思うぞ? 今はまだ無名だが、これからどんどん有名になっていくだろうしな」
「だからと言って――!」
オレを挟んで喋り続ける二人の会話を耳に入れつつ。ジンに声をかけて出発することにする。
特に思いを寄せてる相手とかはいないようだし。少しずつこれから仲良くなっていけば、色々と機会もあることだろう。
◇ ◇ ◇
そんなこんなでうだうだやりながら王都へと戻り。ギルドへ依頼の報告をして報酬を貰う。
今回の報酬は金貨1枚となった。
ある程度以上の魔法で一掃でもしない限り厄介な相手であった為か、かなり割が良い。
一先ず本日の予定も終わった為、マリスとはギルドの前でまた明日。とお別れすることになる。
オレ達も後は帰るだけであったのだが、カザネは念の為武器を鍛冶屋に見て貰いに行くそうで。
オレも付いていこうか。と聞くとこれくらい一人で大丈夫だ。と笑われた為にジンと二人で『遥々亭』に先に帰ることにする。
最近一人で街を歩くことなどとんと無かったので何だか感慨深い気持ちになってしまう。 ジンは別として。
「まだ夕飯には時間あるしなあ―― 何か買ってく?」
時刻は夕暮れ時。空が赤くなってきて、もう少ししたら日が沈むのだろうけれど、夕食にはまだちょっと早い。
真っ直ぐ帰ってもすることがあるわけでも無いし、ジンと一緒に少し寄り道して帰ることにする。
「………」
尻尾をゆらゆら揺らして歩くジンの姿を横目に見ながら、露店などを冷やかし歩く。
魔力を流すと冷たくなる石や、魔力で文字が書けるペン型魔道具(ただし魔力が尽きると文字が消える)などといった、この世界独自のアイテムを見て楽しみ。ジンが興味を示した焼き鳥っぽい串刺し肉を買ってやったりする。
ちなみに魔力で文字が書けるペンは買った。なんか面白くて思わず。 銀貨10枚だった。
「さってと。そろそろ帰る――― んん?」
買い物もし終わって、さて帰るか――と考えたところで、視界の中になにやら見覚えのある人の姿が目に映る。
どうやらあちらもこちら――というよりも、オレの隣のジンを見ていたようで、オレが見たことに気付いて互いの視線が交差する。
「ん、んん――?」
「……? あら、もしかして何時ぞやの少年じゃないかしら?」
どっかで見たよなあー― と記憶を頭の中から掘り起こしていたら、どうやらあちらの方が先に気付いたようで、目を丸くして声をかけてくる。
「―――……? あ。 ああ」
思い出した思い出した。
こっちに来てから少なくない出来事があったために、すっかり忘れていた。
まさか再び会うとは思っていなかったが、一応同じ都市に住んでいる者同士、会うこともそりゃああるだろう。
――あれからもう一ヶ月ほどになるだろうか。
オレは、何時ぞや花街でお世話になった、ダークエルフのお姉さんとばったり、街中で再会した。
毎度本作品を読んでいただきありがとうございます。
ストックが自転車操業になってまいりました。
投稿を開始して一週間ともなりましたので、そろそろスタートダッシュも終えてゆったりとした更新速度に移行しようと思います。
今後は大体週一を目安に、ストックが溜まって来ましたら時折一気に解放したり。といった感じでいこうと思います。
今後とも拙作をよろしくお願いします。
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