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第31話 つづきのはじまり

オレが生きるこの大陸、クラルカ大陸の中でも有数の、四大国の一つして数えられるアセナル王国を騒がした魔物の侵攻と、それと合わせてのオレ――というか、大英雄ヨーゼフ・アルベルトの息子出現騒動から、早数ヶ月ほど経った。

侵攻の際に国内に侵入した魔物も、王国の騎士団と冒険者が協力して討伐に回り、今では侵攻前とほぼ変わり無い状態にまで落ち着いてきている。
本来ならば、小規模とはいえ「魔物の侵攻」と判断される規模の魔物たちに襲われた場合、国境線で塞き止めきれず侵入した魔物が各地で暴れ回り、国として少なくない被害に見舞われるのが常だったらしいのだけれど、今回はその被害も少なかったらしい。

―――主に、オレがナーディアさんの為やらなんやらのお金を稼ぐ為に、依頼を受けて国中を駆けずり回ったせいで。

侵攻の後の国内に入り込んだ魔物の掃討も、ギルドに登録した冒険者の義務なので、一応依頼という形を取っているものの通常の報酬より大分金額は低かったのだけれど、それでもBランクやCランクのチームが必要とされる魔物の討伐報酬はそこそこで、今後の万が一に備える為にお金を稼ぐ必要を感じていたオレは、王様とギルドマスターに自分のことをバラすと告げてから表彰を受けるその日まで、ひたすらランクの高い――というか報酬の高い魔物の討伐依頼を受けまくった。

東にBランクの魔物があれば
ジンに跨ってそいつを殴り飛ばし
西にCランクの魔物の群れがあると聞けば
行ってその群れを魔法で薙ぎ払い

帰り道に見つけた魔物もついでだからと倒していくうちに、今までは人手が足りず初動が遅れがちだった高位の魔物の被害が凄まじく少なくなっていたらしい。

国内の被害調査を終えてからそれを知った王国が、表彰を受けてからしばらくして改めて感謝状を送ってきた。
…完全に個人の事情から成したことなので、危険を顧みず王国の民の為に走り回ってくれた貴殿に云々かんぬんと大絶賛の書面を読んで、何とも気まずい思いをしたオレ。

まるで意図していなかったことではあるけれど、この行いがオレの風評を定める後押しとなったようで。

王国の人々からは概ね、オレがじーさんの息子だと好意的に受け入れられることになったのだった。
……とは言え、その受け入れ方も様々で、中には頭を抱えたくなるような受け入れ方をしてくれる人々もいたのだけれど。人の口に戸は立てられるもんじゃないので、そこは努めて気にしないことにした。


―――とまあ、そんなわけで、この国に来てから数ヶ月で、一躍王国の中じゃ知らない人の方が少ない有名人になったオレ。
その人気っぷりたるや魔物の侵攻が落ち着いた後も冷めやらず、むしろ魔物の脅威が去って遠くからもオレの元へと訪れることができる人が増えた所為か、日々オレの周囲の騒がしさは増していった

ギルドの依頼が無い日はほとんど来客の応対に潰されて、依頼受けてる時の方が気が楽な有り様で。
ほんの少し前まではじーさんとオレと二匹の、喧騒のけの字もないような環境で過ごしていたオレとしては、自分で決めたこととはいえ、この尋常じゃない忙しさはちょっと煩わしく感じてしまう。

オレが利用している宿の店主である、二足歩行する猫といった風貌の猫族であるマーカスの話によると、オレが依頼に出ている日も来客は絶えず、オレへの取次ぎを願ってくる人が日々訪ねてきているらしい。
来る人来る人がオレが留守だと知ると、いつならオレが居るのか訪ねてくるらしいので、答えられるように定休日とか作って欲しいですニャ、とお願いされた。

それは間違い無くオレにとっては定休日にならないと思ったので、考えておく、とだけ言っておいた。

今までとは比べ物にならないくらいの来客数に少し疲れてる様子だったマーカス。今度何か贈り物でもしようと思う。
猫族って言うからには、やっぱり猫同様、魚とか好きなのかな。

この人気っぷりは、オレ――というよりも、この国の大英雄であるじーさんの息子だということが主な要因みたいで、実際にオレが会った人も、マーカスからこんな人が来た、と教えられる人も基本的にじーさんの話を求めてやってくる、年配の人ばかりだった。

――なんか、自治会の長老とか、元王国騎士団の団長とかが会いに来る。
主に四十年前の大侵攻を経験した人たちにじーさんは絶大な人気を誇っているらしく、あの時のお礼をー、とじーさんの代わりにオレへと礼を述べに来る爺ちゃん婆ちゃんがかなりいた。
大侵攻当時のじーさんがいかに凄い活躍をしたか、とか。森に引き篭もってからのじーさんはどうだったかとかグルは今どうしてるのかー、などなど。会った人からはじーさんの話をされたりしたり。

オレの知らないじーさんの話を聞けたり、もうほとんど話すことが無いんだろうな、と思っていた森でのじーさんとの生活の話をすることが出来たので、最初の頃はこの忙しなさもあまり苦ではなかったんだけども―――そんな余裕があったのは精々最初の一月くらいだ。

依頼の無い日は一日中オレに会いに来た見知らぬ人と、もう何度したかもわからないじーさんの話をして。
依頼のある日も迂闊に早く帰ってきてしまうとオレを訪ねてきた人に捕まってしまう日々。

ランスロットやマリスはそんなオレの状況を慮ってか、最近はあまり顔を見せなくなり、カザネやナーディアさんも四六時中来客の相手をしているオレに気を遣ってか、オレの部屋を訪ねてくる回数がめっきり減ってきた。
ジンの方はジンの方で休みの日が来るたびに猫族の人らに囲まれてて、なんか日に日に囲む輪が大きくなっている始末だし。


この終わりの見えない忙しさは、当初人の噂も75日と言うし、落ち着いてきたらしばらく依頼を休んで、カザネやナーディアさんたちと堕落しきった生活してやる――!
…などと楽観的に考えていたオレの目論見を、粉々にぶち砕いてくれた。

徐々に徐々に忍耐よりも嫌気が上回り、特に稼ぐ必要も無いけれど、訪ねてくる人から逃れる為に依頼を無駄に受ける日々が続き――それが更にオレの名声を広げてしまい、オレを訪ねる人がより一層増えてくるという悪循環。
彼ら自体は全く悪気が無い――というか、むしろ好意を持ってオレを訪ねてくる人ばかりなので、この何とも言えない煩わしさが積み重なった鬱憤をぶつけるわけにはいかないし、下手にぶつけてこの好意的な感情が逆転されたら、とか考えるのも恐ろしい。
じーさんがグルガの森に隠遁した気持ちが少し分かった気がしたオレ。
これに加えて王国からのスカウトをごりごり寄せられた日には、オレもこんなとこで暮らしてられるか!という気持ちになるかもしれん。

「くっそ。長くても二、三ヶ月で落ち着くと思ったんだけどなあ…!」

「アベルが今日まで毎日来客の相手をしていれば……もしかしたら今頃は落ち着いていたかもしれないな」

「そんな出来もしないことを仮定してどうすんだよ」

「訪ねてくるお客さんの数を考えると――それでもどうかと思うけどね、私は。少年が出かけてる時もすごいわよ。マーちゃんお仕事どころじゃないくらい」

「宿代上乗せしといたほうがいいかなぁ」

迷惑料的な感じで。
ともあれ。危惧していた面倒な事態とは真逆ではあるが、同じくらい面倒くさいこの状況に、いい加減忍耐の限界が迫ってきたオレは。

――侵攻が収まって数ヶ月ほど経ったある日。

いい加減魔物相手に鬱憤を晴らすのにも限界が訪れ、とうとう一つの決断をしたのだった。



 ◇ ◇ ◇



「――というわけで、しばらく王都から離れることが出来そうな長期の依頼ってないですかね。 依頼を終えて戻ってきたら、オレのこともそんなヤツいたなあ、って言われそうなくらいの期間の」

「……はあ」

開口一番用件を捲くし立てるオレに、眼鏡のリムを指先で押し上げて生返事を返すマールさん。

このままじゃストレスが溜まってヤバい、と感じたオレは、オレに関する騒ぎが落ち着くまでしばらく、王都から離れることによって、騒ぎが収まるのを待とう、と画策。
しばらく王都にいないと知れば、宿に訪れる人は当然減るだろうし、戻ってきてからオレの元へ尋ねようと考える人も、多くの人はある程度の時間を置けば、やっぱりわざわざ訪ねなくてもいいかなぁ、と考えてくれるだろう。

めっちゃ欲しいと思って買おう買おうとしていた商品とか、なんだかんだで買わずに時間を置いてみると、やっぱりそこまで欲しくないかなぁって思ったりするもんな。

きっとこの法則は今のオレの状況にも適用されるはず。
そんな考えを根拠に、今や目を瞑ってても辿り着けそうなくらい通い慣れた冒険者ギルドを訪れて、出迎えてくれたマールさんにオレの目的に噛み合いそうな依頼が無いか訪ねてみた。
挨拶すらも省いて用件を告げたオレの言葉の意味を図るように一拍置いてから、一先ず、とばかりに折り目正しく頭を下げるマールさん。

「おはようございます、アベルさま。 お気持ちと意図はなんとなく察しましたが、とりあえず落ち着いて下さいませ」

「おっと。おはようございます」

マールさんに応じて同じく頭を下げる。
色々と余裕が無くなってきていることをマールさんの言葉で自覚して、気を和らげる為に何度か深呼吸を繰り返す。

…ふぃー。
少し落ち着いた。

そんなオレの様子を確認して、やんわりと目尻を下げて手でギルドの奥を指し示すマールさん。

「では、ここで話すのもなんですし、カウンターの方までどうぞ」

「はい」

そうして先導するマールさんの後を追って歩き出すオレ。
相変わらず落ち着き払った人だなあ。この人が声を荒げたところを初対面の時以来見たことがない。

常に冷静な対応をするよう教育でもされてるのか、ギルドの職員の人は大体こんな感じだけれども、その中でもマールさんは根っからという感じがする。
言うならば他の人は仕事用の性格、マールさんは元々こんな性格、といった感じだろうか。
いや、プライベートでマールさんと会ったことなんか数えるくらいしかないから、実際はどうなのかわからないけども。
これでプライベートではすごいきゃっきゃする人だったら、恐ろしいギャップだなあ。

「資料を持って参りますので、こちらにおかけになって少々お待ちください」

「あ、はい」

そんなくだらないことをあれこれと考えているうちに、いつも依頼の手続きを執り行っている受付まで辿り着いたオレ。
そこで勧められた椅子に座って、カウンターを隔てて職員側の空間の奥に資料を取りに向かうマールさんを目で追いながら大人しく待つ。
ほどなくして薄いファイルを携え戻って来たマールさんと、改めて互いに会釈して、本題に取り掛かるオレら。

「お待たせいたしました。お求めの依頼は日数のかかる、できれば国外にまで足を伸ばすことになるような、長期の依頼ということでよろしいですね?」

「はい」

オレの返事を聞いて、ファイルを開き、ぱらぱらと頁を捲っていくマールさん。
やがて一つの頁に辿り着くと、その頁をオレに向けて差し出してくる。

「こちらと、次のページまでの依頼がアベルさまの求めている条件に合致すると思われる依頼です」

「………?」

やけに準備がいいな。
そういう依頼としてまとめてたりするんだろうか。

開かれた頁を見てみると、マールさんが言う通り、そこには基本的に国外の――最低でも終わるまでに行きと帰りを併せて三ヶ月以上はかかるような依頼ばかりが羅列していた。
なになに。古の魔法大国、ゲベルのものと思われる遺跡の調査依頼に――隣国の国境防衛隊の応援要請。
グルガの森の探索に、商隊やお金持ちさんの護衛依頼と。

その他にも様々な依頼があり、大概のランクがCやBランクのチーム向けの依頼となっている。

…こういう依頼も結構あるもんなんだな。掲示板とか見てた時は主に討伐系の依頼しか探してなかったから、オレの目に映らなかっただけなんだろうかね。

「結構こういう長期の依頼ってのも多いんですね」

記載された依頼の内容に目を通しながら、どの依頼を受けるか考える。
一番に目を惹いたのが、遺跡調査依頼だった。 なんかこういう遺跡の調査って、冒険者の依頼って感じがするし。
グルガの森の探索とかは、探索も何も既にほぼオレの庭みたいなもんだしなぁ――久しぶりにグルと会うのは悪くないかもしれんけど。
そうやってファイルと睨めっこしているオレに向けて、マールさんが声をかける。

「……実はですね。 これらの依頼は恐らくこういった依頼が必要になってくるだろう、というギルドマスターの意向を受けて、一月前くらいから集めていた依頼でして」

「はい?」

顔を上げる。
ギルドマスターの爺さんの意向?

「アベルさまの近況はギルドの方でもある程度把握しておりましたので。近頃の依頼の受け方から見ても、そろそろこのような依頼を求めてくるだろうから用意しておくように、とギルドマスターが。――また、求めてこなければこちらから打診してみるように、とも」

「それは―――」

うわぁ……オレの考えてること筒抜けか。
そんなにわかりやすい行動して――してたか。

「ってことは、これ全部オレ用に集めてもらった依頼ってことなんですか?」

それはなんか、すげえ申し訳無い気がする。
だって結構依頼溜まってるし。

「いえ、他国の依頼も含めて、募集している長期の依頼をピックアップして纏めていた程度です。アベルさま以外の冒険者の方々にも募集はかけられておりますし、既に他の方が依頼を受けているものも幾つかありますね」

そういって頁の中の、ペケ印がつけられている依頼を指差すマールさん。
成る程。これは既に他の人が受けているっていうマークか。

「それにしたって、なんか色々お手数かけてすみません」

「いえ。アベルさまには今後もこの国でご活躍していただきたいので。
 …最悪、ギルドマスターはアベルさまがこの環境に嫌気がさして出奔する可能性があるとも危惧していたようですので、このような形で問題を解決しようとしていただけてむしろほっとしております」

「……。――ははは。いやだなあ。オレがマールさんもいるこの国から出てくわけないじゃないですか」

準備してただけですよ。準備してただけ。
じーさんの時のことを経験しているからか、色々用意いいなあ!

「ありがとうございます。私個人としましても、アベルさまの為ならばこの程度の協力は惜しみませんので、今後もなんなりとご要望を申しつけ下さい」

「それはマールさん個人としても、オレに好感を持っていると考えてもいいんですか」

「そうとっていただいて構いませんよ」

にっこりと、落ち着いた笑みを浮かべて肯定するマールさん。――営業スマイルというか、そういった類いの笑みだけど。
……出たよ。この金城鉄壁のポーカーフェイス。

半ばオレ専属の担当官になっているマールさんとは、これまで何度も会話を重ね、その度にちょくちょく機を見てはちょっかいを仕掛けてはいるものの、その都度オレの放つジャブはマールさんのこの笑みによって悉く弾かれている。

嫌われてるわけじゃないとは思うんだけどなぁ――言葉のうちに秘めた感情が、マールさんのこの笑みから察することが出来ない。少なくともオレには。
距離を縮めようと踏み込んでいいのか悪いのか。なんとも判断がつかないな。
返してくる言葉以上に雄弁に、今仕事中ですので。とその表情が告げているので、こっから先が中々踏み出せないでいるオレ。

ならばプライベートで仲の進展を、と思っても、侵攻終了から今まで、クソ忙しくてプライベートな時間なんてロクにとれてねぇし。
くそー。この鉄の笑顔を崩せる日は来るのか、オレ。
……少なくとも、もう暫くは無理か。これからしばらく遠出するわけだし。

以前、ギルドマスターからこのマールさんとの縁談みたいなのを持ちかけられたけれど、結局その話も有耶無耶になってるしな。
いや、そういう関係になるのはなるべく相互の意思を伴って、とは思うしいいんだけどさ。ギルドマスターに頭上がらなくなっちまいそうだし。

「――アベル様? お話を進めても?」

「おおっと。はい。どうぞ」

再び胡乱な方向に向きかけていた思考を正し、こちらの顔を覗きこんでくるマールさんに首肯する。
オレの返事を聞いてから、それでは、と眼鏡のリムをくい、指先で押し上げて。

「こうしてアベルさまの要望に叶うような依頼を纏めていたのですが――もし、アベルさまがこれらの中で特にこれといった希望が無いようでしたら、こちらから一つ、受けていただきたい依頼がございまして」

「オレに受けて欲しい依頼?」

わりと遺跡調査依頼に心惹かれてたんだけどな。
…まあ、どうしてもってわけじゃないし、とりあえず話を聞いてみることにする。

「こちらの依頼になるのですが――」

「―――ほうほう」

そう言って次の頁をめくり、一つの依頼を指差すマールさん。
記載されている概要の他に、補足されるマールさんの説明を聞いて――成る程、オレ向きっちゃオレ向きだな、と納得する。

遺跡調査――というか、宝探しも面白そうだけど、オレのチームにはそういった屋外の探索を得手とするスカウトの役割をできるやつがいないしな。
最悪追い詰められたら遺跡ごとぶっ壊すとかそういったことしてしまいそうだし――あんまりギルドに世話になるのも問題だ。これ受けて貸し借り無しってことにしとくか。

マールさんの説明を受けながらしばし黙考した後、その依頼を受けることを決める。

「わかりました。――この依頼、受けることにします」

「ありがとうございます。…では早速、詳しい説明になるのですが――――」





――――こうして始まった、オレの新たなる冒険。



この依頼を受けた時は、とりあえず伸び伸びできそうな国の外に出たい、などという軽い気持ちで端を発したこの冒険が、
まさかあそこまでの大事になるとは、オレはこれっぽちも予想してはいなかった。











 <オレが異世界で獣とランペイジ2>

 ――『ガンダス選定戦』――


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