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歪みの中から視える未来

作者: RN

 さみぃー……顔を上げて視線を真上へ向けると、星一つ見えない真っ黒な空から落ちてくる雪が瞳に映った。

 かれこれ数時間くらい隣町にある初めて訪れた名前さえ知らない公園のブランコに座っている。

 今の今まで気付かなかったが体が異常なまでに冷えていた。それもそうだ。

 オレの装備品は黄色い半袖ポロシャツに黒いハーフパンツだけ。防御力はたったの5。

 これで寒さを防ぐ事なんて出来るわけがない。


「ぶえぁっっっっしょぅぅぅぉい!」


 クシャミと同時に自分で言うのも何だが恐ろしいくらい長い鼻水が垂れた。

 さみぃー……ズボンのポケットからティッシュを一枚取り出しチーンと鼻をかむ。

 さて、何でオレがこんなところに数時間も座り続けているのかと言うと。

 一言で言えば、逃げてきた。

 和歌山県歌空市、歌空第三高校。数時間前までそこの生徒だった。

 色々とトラブルを起こしてしまい退学。

 高校を卒業することも出来ず辞めさせられた。まあ、自業自得って言っちゃそうなんだけど……。

 でも、夢があった。小さい頃から目指していた物があった。

 小学校、中学校、高校と大学を卒業して、その夢を叶えたかった。

 退学という二文字が容赦なく夢を砕いた。

 友達にも親にも合わせる顔がなくて、退学が決定した瞬間、逃げた。

 走って、走って、とにかく走って……学校を出て街を出て気がつけば隣町の知らないところにいて……今に至る。


(……アホだ)


 逃げても意味が無いことくらい自分でも分かってる。頭では理解しているつもりだけど体が言うことを聞かない。

 何をどうしようと結果的にオレは夢への道を自ら閉ざし友達と家族を裏切ったんだ。

 さみぃー……あたりを見渡すと、雪が積もっているのが分かる。視界いっぱいが真っ白な雪だからけ。

 あ、そうだ。このまま目を瞑るのはどうか?

 うん、それがイイ。もう疲れた……目を開けてもそこには厳しい現実しかない。

 でも、瞼の裏には優しい理想に溢れてるじゃないか。


――おやすみなさい。


「ねえ、きみ死ぬよ」

「へっ……!」


 突然声をかけられて目を開けると、目の前に少女がオレを見下ろしながら立っていた。

 正直、人に見られるとは思わなかったから心臓が驚きのあまりバクバク鳴ってる。

 そんなオロオロしているオレに少女は言った、


「勘違いしないでね? きみが死ぬのはもっと先だよ」

「……え?」


そ、それは今は深夜近くだと思うし、遺体発見は朝辺りに……。


「きみが現在進行中の行なっていることは無意味。仮に私が来なくても、もうすぐこの公園に来るカップルさんがきみを見つけてたたき起こそうとする。その後、呼ばれた救急車で運ばれて家族と対面。せっかく逃げ出してきたのに、そんな未来は嫌よね?」


 何を言っているんだ、この子は……誰かがオレを助けて、家族と会うとか……。

 というかオレが家族と会いたくないのを知っている?

 いやいや、たぶん偶然だ。この子は占い師オタク又は見習いかなんかだろ。

 で、占い練習相手がいないから、たまたま見かけたオレを……、


「……ってマジかよ」


 公園の出入口から二人の男女が腕を組みながら入ってくる。

 そのままオレ達の隣を通りすがり別の出入口から公園を後にした。


「ね?」

「アンタ、何者だよ……」

「ダブルのラビット好きの、ただの女子高生さ」


少女は言う、


「私は伊藤伊歩、時空を統べる王となる女よ。面白そうだし、きみを家来にしてあげる」


――これがオレこと桜野(さくらの)春来(はるく)と、紅色の長髪と瞳を持つ少女こと伊藤(いとう)伊歩(いぶ)の出逢いだった。


「わたくしは月の使い魔で御座います。今後ともよろしくお願い申し上げます」

「自己紹介も済んだところだし、バトらない?」


 出会って間もないオレ達の前に現れた執事服を来た自称紳士の怪しい人物、月の使い魔。

 互いに取り出した切符から超能力を使用した非現実的な戦い。


「……何でアンタら戦ってんだよ」

「それは私が」

「彼女が」


 敵同士であるはずの二人は異口同音に告げる、


「「世界滅ぼす力を持っているから」」


――不条理な理由で宿る力と一緒に自分の存在を一方的に拒絶される伊歩。


「神は彼女へ授ける力の配分を誤った。伊藤伊歩の魂には人の器では納めることが出来ない神にもっとも近い存在の力が宿っている」

「そう。そしていずれは力が私を飲み込み壊し、世界を破壊するってわけ。つまり私は消されるべき存在ってこと。わかった?」

「……じゃあ、何で抗ってんだよ」

「え?」

「生きたいから抗ってんだろ!」

「……っ!」


 拳を強く握る。

 何がどうとかこうとか詳しいことは分からない。

 誤った配分とか、神に近い力とか言われてもバカなオレにはピンともスンともこない。

 だが、たった一つだけなら分かったことがある。

 女の子が一人で戦っている。傷つきながら泣くのも我慢して。

 男ならやることは一つだろ?


「守ってやんよ」


 叫ぶ。

 町中が、世界中のみんなに届くように。

 オレの心の叫びを神ってやつに届くように、だ!


「オレがアンタを守ってやんよ!」



 これは神や天使や悪魔などの神話級レベルで繰り広げられる紛争の中。

 普通の少年が拳一つで、歪みという天使の力を持つ少女を守る物語。


 だが、少年は知らない。彼女の力には未来を視る能力があることを。

 少年は知らない。彼女は10年先までの未来を視る事ができることを。

 少年は知らない。彼女が視た10年の中で最初に死ぬ人間が少年だと言うことを。

 少年は……桜野春来はもうすぐ死ぬ。


 そう、この物語は死へと向かう少年のおはなしである。

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