うーん、やっちまった感がw 訂正加えました。無くても同じですが。
第二話:妖怪の山の鬼神
山を降りてすぐに麓の付近に村があった。
立ち入ってみれば、少々雰囲気が暗い。何か……いや、あのヴェアウルフに襲われていた、というところか。目に見える家屋は、家屋らしきもの、という表現が一番正しいだろう。
――寂れている上に人の気配が異様に少ない。ここは……滅ぶんだろうな。
しばらく歩いていれば、老婆が一人。
「もし、ご老体。すまないが、今がいつなのか教えては頂けないだろうか。」
怪しい人を見るかのような目で私を探るように見てくる老婆。己が格好の異様さで妖怪を一瞬立ち止まらせるほどに浮いている服であることに思い至る。
――しまった。この服は目立ちすぎる。
どこからか服を手に入れなくては、と内心で焦っていると一応は答えてくれる気になったようで、老婆は口を開く。
「…………寛弘7年だよ。」
寛弘7年。寛弘とは一体いつだ。私が記憶しているのは弘安までだ。まぁ、いい。少なくとも1300年よりも昔だという事は分かった。彼女が生まれる前だというのはほぼ確定したし、良しとしよう。
「そうか。感謝する。」
そのまま立ち去ろうと会話を切り上げるが、大事な事を聞き忘れていた事を思い出す。
「すまない。もう一つ教えて頂きたい。ここは何処なんだろうか。」
すると老婆は哀れんだ視線を寄越しながら再度口を開いた。
「あんた、大丈夫かい? 北に行けば京の都があるから、行ってみれば気まぐれな陰陽師様が見てくれるかもしれないよ。」
北に行けば京。
――奈良あたりか。関東は少々遠いな。仕方が無い。歩いて行くか……。
「いや、大丈夫だ。妖怪を狩って回っていたのでな。どこまで来たのか分からなくなってしまったんだ。」
――これなら妖怪退治で稼げるかもしれん。やる価値はある。
すると老婆は目を見開き、怪しげな格好をした男がやってきた方向にあるものを見て、自分なりに理解したのか。
恐る恐るではあったが聞いてきた。
「ぁ……あの、もしかして、貴方様は陰陽師様なのですか?」
「いや。ただ妖怪退治を仕事にしているだけだ。そんなに気にされなくとも大丈夫だ。」
その答えに陰陽師に、それも妖怪退治を仕事と出来るだけの有能な人、つまり高い立場にある陰陽師に失礼な事を言ってしまったのではないと安堵したのか、ため息をついた。
「くくく……。それほど心配なさらず結構。私は口調など然程気にしないので。」
今のやり取りでそれなりには心を許したのか、幾分態度を軟化させたが、神妙な表情をして話し出す。
「あ、あんたねぇ……。まぁええさ。頼みたい事もあるしのぉ?」
「……あの山の人狼の事か? それならば既に狩ってある。もう問題はないだろう。」
行き成り頼みたい事を終わらせた、という男の言葉を老婆は信じられないようで、何度も念を押して問うてきた。
「ほ、本当にあの化物をやっつけたのかぃ!? 嘘じゃないだろうね!」
「勿論だ。死体が残ってるかは知らないがね。」
男の断言に漸く信じることが出来たのか、呟くように老婆は語り出した。
「……そうかぃ。あれは退治されたんかぃ……。あれにはこの村の若い衆がたーくさん食われたんよぉ。
皆、家族を食われたァ、ゆぅてなぁ……。ほんに……悔しくて、悔しくてのぉ。」
「…………そうか。」
同情などは表にだしてはいけない。その気持ちを理解出来るのは己だけなのだから。
「あんたぁ、なんていうんだぃ? 礼くらいさせとくれよ。」
こういう神秘の溢れる時代は多くの人間が涙を呑んでいるのだろう。そして、この身もまた、神秘の側に居る。忘れてはならない。
「……コウ、という。」
「一宿一飯の恩。感謝の言葉もない。」
そう言って、深く頭を下げる。老婆は笑いながら、本当に、悔いなど知らぬと言わんばかりの澄んだ笑み
を浮かべて言った。
「気にしなさんな。どうせこの村にはもうあたしみたいなババァしか居らんさ。若いので残ってたのは皆京に行っちまったからねぇ。あたしらが死んだら廃村になるだけさね。」
短い一生を駆け抜ける。その有り方が美しいと言ったのは誰だったか。
「……そうか。達者で。」
「あいよぉ。あんたものたれ死ぬんじゃないよ!」
そんな元気のいい声が背中に掛けられる。向かうは――――東。
徒歩にて東に向かう。所々にある村で妖怪退治をしていると言い、退治や交渉等をしてそれなりに問題の無い片付け方をして生計を立てながら関東へと向かう。
10年もそんな生活を続けていれば噂の一つや二つは出てくるようだ。その全てに尾ひれが付いていたのは仕方の無い事なのだろうか。
そんな中、退治に向かった先で妖怪との交渉をした。
その妖怪が言うには、この辺りには妖怪の山という鬼神の治める山があるという。何か遭ってからでは遅い、との事。ありがたい忠告なので退治を続けながら妖怪の山の場所を退治対象、もしくは村民に聞きながら東北を目指した。
元八ヶ岳。妖怪の山。鬼神が居るという山を見つけた。
挨拶くらいは必要だろうと、山へと登る。
――これは……すごいな。これほど多くの妖怪が住み着いているとは。鬼神の名はソレほどまでに大きいということか。
「お待ちください!ここは妖怪の山。鬼神の治める山です。勝手に入山する事は許されていません!」
――射命丸 文。鴉天狗。この時はもう妖怪の山に居るのか。
「この辺りで仕事をしたい。その許可を鬼神に頂きたい。」
「む、む? ぇーと、それでしたら大天狗の方に申告されれば済むので、そちらでお願いします。」
――申告すれば良い、か。恐ろしく社会性が高いのか、それとも適当なのか。だがどちらにしろ無理だろう。
「いや、鬼の方々にこそ言うべきことでな。大天狗を通してでも構わないが、鬼神殿に逢わせてもらいたい。」
「ぇえ? えっと、その私ここに来てからまだ日が浅くて……。」
周りでそれとなくこちらを伺っていた妖怪(男)の視線が急に痛くなってきた。意外とアイドルしてるじゃないか。
「妖怪退治に関しての案件だ、と大天狗に伝えてくれ。それが仕事だ。」
「ぇ、あ、はい、分かりま……って、ええぇええ!?」
さっさと行け。
「よく来た。わらわが鬼神『鬼子母神』よ。」
鬼神との面会を許された。
額に一本角、そして側頭部に前に突き出るかのような二本の角。服装は浴衣姿だが、自己主張の激しい胸がその姿に艶やかさを感じさせる。ただし、その眼光の鋭さがただの女性では無い事を証明している。
その横に座るのは天魔。天狗の長。山伏の装束に、長い鼻。その瞳には老獪さが滲み出ている。典型的な天狗の姿だろう。
この場に居るのは鬼子母神、大天狗が二人、天狗の長『天魔』、何故か射命丸文。
そして
「お初に御目に掛かかります、コウ、と申します。」
胡坐をかき、膝の前に手をついて深いお辞儀をする。上座に座る鬼子母神、そして天魔から感じる妖気はまさしく異常。
――規格外もいいところだ……。
「良い。面を上げよ。」
「は。」
返答した瞬間に圧倒的な圧力が掛けられた。その圧は妖気を解放しただけで起きたのだろう。空気が軋み、悲鳴を上げているのが聞こえる。異常なまでの力に世界が悲鳴を上げているのとすら感じる。
――なんという妖気! ……このまま平伏させる腹か! 私は、己が生き方を変える気はないぞ? 鬼子母神!
深呼吸を一つ。それだけで、俺に掛かる圧力を”あって当然のもの”と脳に、そして体に認識させる。魔術師ならば、感覚を理解しつつも無視出来なくは話にならない。
「失礼致します。」
「……ほぅ」
何事も無かったかの様な振る舞い。感嘆の声を上げたのは鬼子母神か天魔か。しかし文はその圧力で平伏してしまっている。大量の汗を流し、身体を震わせている。まだ若いのだ。これに耐えるのは至難だろう。
「これはすまぬ事をした。許せ。」
鬼子母神の顔に浮かんでいる表情は、喜。
「……私に言うべき事ではないでしょう。彼女の退出を。」
天魔は申し訳なさそうに、鬼子母神は今気がついた、とでも言わんばかりだ。
「むぅ、可哀想な事をしてしまったのぅ……。深山の、文を休ませてやっとくれ。」
一人の大天狗が文を退出させる。その表情は少々硬い。
「ふ、ふふふ……。さて、妖怪退治を仕事としたい、との事だが?」
感情は喜、一色。よほどこの身の程知らずな話が面白いらしい。瞳の奥でこちらを探るのは天魔。
「……私が頂きたいのは、退治を依頼され、報酬が確かであり、尚且つ、その依頼が真摯なものであれば、例え鬼であろうとも容赦なく退治させて頂く事の許可。鬼という種族ではなく、その地に住む鬼個人のみに対しての行為であり敵対行動ではないので態々こちらを襲う必要は無い、という証明が欲しいのです。」
言い放つ。鬼という種族と敵対しないために。
とりあえず、ちゃんと理由はあります。喧嘩を意味もなく売っていい相手ではありません。
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