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SNSの死神たち~特定厨の頭脳戦~

作者:あれくす
『貴方がSNSを覗くとき 、SNSもまた貴方を覗いているのだ 』


 僕は、人には言えないようなちょっと変わった趣味を持っている。

 SNS。

 ソーシャルネットワーキングサービス(Social Networking Service、略称SNS)とは、その名のとおり社会的なつながりをインターネット上に作り出せるサービスのことである。日記やメッセージをインターネット上にアップし、友人や知人・共通の趣味を持つ人達と共有しあうことが出来る。

 近年、このSNSというサービスは大きな広がりを見せている。

 自分の日記に何かしらの反応があったり、自分の呟きが不特定多数の人間の心に響いたり。そういったことに喜びを見出す人々が増え、その手軽さも相まってSNSは一般市民の間で広く普及し始めた。日本国内におけるSNSの普及率は70%を超え、昨今では市民の日々の生活に欠かせないものとなり始めている。

 しかし、僕の趣味はSNSそれ自体ではない。
 そこに付随するのは確かであるが、僕の趣味はもっと悪質でスリリングなものだ。

 SNSのアカウント特定。

 それが僕の、誰にも言えない秘めやかな趣味であった。



 TwitterやFacebook、mixiなどに代表されるSNSを利用するためには、アカウントの作成が必須となる。利用者はこのアカウントをある種の身分証がわりに使うことでSNSを利用することが出来る。アカウントとはいわば、ネット上での仮の姿のようなものだ。作成したアカウントのもとで、個人や団体はインターネット上の不特定多数に情報を発信する。

 そんなネット上のアカウントと、そのアカウントを動かしている現実世界での個人。
 この二つを結びつける作業を「特定」と呼ぶ。

金枝かなえだくん、頼みがあるんだ」

 放課後。
 誰もいない社会科資料室に呼び出された僕は、メガネの痩せこけた男子生徒から依頼いらいを受けていた。

「対象は?」
「……二年五組、出席番号30番。みなと有希ゆき

 二年五組と言われれば隣のクラスだ。
 僕はなんとなくその女生徒の姿を思い浮かべる。
 長い黒髪に小柄な体躯。あまり積極的な性格ではなく、いつもオドオドしている。
 小動物然とした可愛らしい女の子だった。

「隣のクラスならやりやすいな」
「それで……いくらくらいかかる?」

 メガネくんがごくり、と生唾を飲み込む。
 僕は言った。

「そうだな……二万でどうだ?」
「二万!?」

 僕の言葉に、メガネくんは驚きの声を上げた。

「いくらなんでも高すぎるよ」
「嫌ならいいんだ。この話はなかったことに―――」
「い、いや! 待ってくれ!」

 部屋を出ようとした僕の服を、メガネくんが掴む。

「分かった! 二万払う! だから―――」

 彼の懇願を見て、僕は口元ににやりと底意地の悪い笑みを浮かべる。
 これだから―――この副業はやめられない。

「窪塚くん」

 僕はメガネの少年―――窪塚くんに向き直る。

「その依頼、たしかに承った。一週間以内に必ず、湊有希のSNSアカウントを特定しよう」

 そう言って彼の手を取る。彼は呆けたように僕を見上げた後、ほっとしたような笑みを浮かべた。




 自宅に戻った僕は、さっそく自分のPCを立ち上げる。

「さぁて。それじゃ、始めようかな」

 そして椅子に座るとすこしだけ背伸びをして、キーボードに指を走らせた。
 グーグルの検索欄に「湊有希」の名前を打ち込み、画面をスクロールして情報を集めていく。

「FacebookやTwitterに実名登録はしてないみたいだな……」

 僕がこうして知り合いから「指定された人物のアカウント特定」の依頼を受けるようになったのは、高校に入学してすぐのことだった。

 僕は昔から推理小説を読むのが好きだった。
 小説の中の探偵たちがその頭脳と観察力をもって次々と難事件を解決していく。その道筋は見ていてとても痛快で、酷くワクワクさせられた。僕が彼らに憧れたのは、今を思えば当然だったのだろう。

 それから僕は「探偵の真似」を始めた。
 人を観察し、情報を集める。かの有名なシャーロックホームズは、握手をしただけで相手の職種や経歴をずばりと当ててみせたという。もちろんフィクションであることは分かってはいるが、それはきちんとした理論の上に成り立っており、現実で模倣するのにも十分役に立った。

 そして僕が最終的にたどり着いたのが、SNSのアカウント特定だった。
 ネット上には様々な情報が転がっている。中にはデマ、出鱈目も多い。
 その中から必要な情報を抜き出し、現実世界と結びつける。

 限られた情報から個人を探り出す。その行為はまるで小説の中の探偵のようで。僕が夢中になるのに時間はかからなかった。

 これはいわば、「探偵ごっこ」のようなものだった。
 日々の退屈を嫌って、ミステリー小説を読むように。サスペンスドラマを見るように。
 一種の『娯楽』として、僕はこの趣味を楽しんでいた。

 もちろん、この行為が人のプライバシーを侵害する、ともすれば法に触れかねない所業だとは理解している。
 だから、この趣味を表に出すことはしない。
 下手したらストーカーと罵られてもおかしくないことは自覚していたし、ネットのことをわざわざリアルに持ち出すことも良いことだとは思わない。
 あくまでも調べるだけ。
 ネット上で得た情報は心の中にしまい込み、決して悪用しないというのが僕の信条だった。

 しかし、僕はこうも感じていた。
 不特定多数の目に晒されると分かっていながら、個人の情報を安易に公開してしまう利用者側にも問題があるのではないか、と。

 SNSは便利かつ楽しいものであると同時に、さまざまな危険性をはらんでいる。
 たとえば、僕のような性格の悪いクズに趣味でアカウントを特定されてしまう危険。
 問題発言などを投稿して炎上などしようものなら、正義感に燃えた僕の仲間たちによって特定され、個人情報がネット上に流出してしまう可能性がある。ひとたび個人情報が公開されてしまえば、その人に対する『制裁』はインターネット上にとどまらず現実にまで及び、不特定多数の『正義の人』に懲らしめられ続けることだろう。

 SNSを利用していたせいで、犯罪に巻き込まれる可能性もある。
 例えば、ストーカーの皆さんからすれば、今の世の中はまさに黄金時代だ。
 危ない橋を渡らずとも、SNSに載っている情報を吟味すればある程度の情報ならば簡単に入手できてしまう。

 特定を趣味にする者たちの中には、「ニュースでモザイクがかかっていたにも関わらず木々の並びだけで場所特定した」「鉄棒の長さと高さだけから学校名を特定した」「作業を始めて70分後にはもう住所特定していた」など、プロの探偵も裸足で逃げ出すほどの能力を持った猛者たちもいる。こういう人たちはもうCIAとかにエージェントとして就職すればいいのではなかろうか。宝の持ち腐れもいいところである。

 もしも今、この世にシャーロックホームズが再び生まれ落ちたなら、彼は諸手を上げて喜ぶと同時に酷く恐怖することだろう。
 彼ほどの名探偵にかかれば、インターネット上の情報から個人のすべてを知ることすら容易い。まるでアカシックレコードを読み解いているかのように、すべての犯罪を知り、すべての謎を解くことすらやってのけるはずだ。
 しかしそれは同時に彼自身がインターネットという名のアカシックレコードにその詳細を記されることに他ならない。赤の他人に自分のすべてが観察され、推理され、暴かれてしまう。彼はきっとそのことを恐怖するに違いない。

 今の時代。
 SNSが普及して誰もが「探偵ごっこ」を楽しめる時代になってしまった。

 それはおそらく恐怖されるべきことなのだろうが、現実を生きる人々は今日ものんきに平和で安寧とした毎日を送っている。

「おっ」

 そんなことを考えている間にも、湊有希についての情報収集は進んでいた。
 見ているのは、昨年おこなわれた弓道の大会の出場者名簿。

「ふーん……去年、弓道の大会に出場してるのか……ってことは弓道部に所属してるんだな。大会があった1月の時点で15歳ってことは、早生まれか?」

 誕生日は1月から3月の間。
 ならば、星座はやぎ座、水がめ座、うお座、牡羊座のいずれか。
 弓道部に所属。
 現在16歳。
 高校は……そうやって徐々に調べる範囲を狭めていく。

 依頼主の窪塚くんによると、湊有希は少なくともTwitterは利用しているらしい。本人が話しているのを盗み聞きしたと言っていたから、この情報に間違いはないだろう。

「じゃあTwitterに絞って特定していこう」

 検索欄に情報を打ち込み、候補を探し始める。
 湊有希は高校生でかつ部活をやっているから、日中にツイートすることは稀だろう。一年生で弓道の大会に出場しているくらいだから、部活には熱心に取り組んでいると考えられる。

「高校生でかつ、弓道用語を発信しているアカウントは……」

 と、ここまで考えて、僕は単純なことに思い至る。

「……ミスった。湊有希は同じ学校じゃねえか」

 つまり湊有希が体験したであろう学校行事はすべて僕自身が体験しているということである。
ならばそちらから探していった方が早い。

「えっと、7月3日が創立記念日で休みになってたよな……」

 調べてみるが、めぼしいアカウントは見つからない。
 5、6人そのような旨のツイートをしているアカウントを見つけたが、各アカウントのツイートをさかのぼってみると、どれも男のようだった。

「ならこの前の定期試験の日に、『試験 終わった』とかツイートしてるアカウントは……」

 これに関しては結構な数が見つかった。
 いろいろな高校がこの日に定期試験を実施していたようで、ちらほら別の学校と思われるようなアカウントも混じっている。
 ぼんやりと画面を眺めながらスクロールしていく。

「……みっけ」

 10分後。ついにそれっぽいアカウントを見つけた。
 ユーザ名『ゆきりん』。
 これは一般的な話だが、こういったアカウント名を付けるとき、女性は自身の実名にちなんだ名前を、男性は逆に自身の実名となんの関係もない名前を付けることが多い。『ゆきりん』というユーザ名ならば、湊有希のアカウントである可能性は高い。

 だが、まだ確証は持てなかった。
 アイコンはよくわからないアニメのイラストだったし、プロフィールの欄にも大したことは書かれていない。

そのアカウントのホームを開き、過去のツイートを確かめていく。

「弓道用語は……ないな。ほかに判断材料になりそうなものもない――――ん?」

 目に留まったのは、何の変哲もない写真。
 『今日のおひる!』とメッセージがつけられて投稿されたそれには、投稿者のピースサインとおしゃれなフレンチが写っている。

 僕が注目したのはピースサインを作っている手。
 左手の親指と人差し指の間の水かきがすこしだけ黒く変色し、皮が厚くなっているように見える。

 湊有希は弓道をやっている。
 そして、この写真に写っている手の特徴は、弓道をやっている人間特有のものであった、

 弓道では左手に和弓を持って、右手で矢をつがえ、引き絞って射る。
 その際、弓を引き絞った反動で、弓を支えている左手には相当の圧力がかかる。したがって弓道をやっている人間はみな、左手の親指と人差し指の間の水かきが厚く、強靭なものになる傾向にあるのだ。

「おっし。ほぼこのアカウントで確定だな……」

 手近なメモ帳にアカウント名とIDをメモし、俺は席を立つ。
 結構な時間を作業にあてていたせいか、首を回すとぽきぽきと骨が鳴る音が響く。

 あとは簡単な確認作業をしたら終わりだ。



 数日後。確認作業は無事終わった。
 何日かくだんのアカウントに張り付いていたのだが、先日、僕の目に決定的な証拠となるあるツイートが飛び込んできた。

『マジおもしろい~(^^♪ #△△』

 △△とは、最近テレビで人気のバラエティ番組だ。
 この番組は地方によって放送時間が異なっている。
 僕の住む地域、つまり湊有希が住む地域では毎週水曜日午後11時から12時の間に民放で放送されていた。

 このツイートが投稿されたのは水曜日の午後11時半。
 つまりもしこのアカウントの主がリアルタイムでこの番組を見ているのなら、彼女(あるいは彼)がこの地域に住んでいる可能性は極めて高かった。

 というわけで、この『ゆきりん』というアカウントの主は……

・高校生、かつ湊有希の通う高校と同じ日に定期試験がおこなわれている。
・湊有希と同様に弓道をやっている。
・高い確率で湊有希と同じ地域に暮らしている。
・『ゆきりん』というアカウント名から、実名に高い確率で「ゆき」という言葉が入っている。

 ここまでくれば、9割9分確定だった。

「ふぅ……一仕事終わったな……」

 パソコンの画面を眺めながら、淹れたてのコーヒーをすする。
 特定を終えたこの瞬間こそ、僕が精神的に満たされる唯一の瞬間であった。


時間が出来たら、主人公と女の子の、特定厨同士の頭脳戦を書こうと思っています。
相手のアカウントを特定するために観察し、推理する。
法的にはグレーですけど、なんだかワクワクするものがありますよね。

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