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腹ぺこエルフさん放浪記 作者:(=`ω´=)
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宮城県宮城利府理町。カフェレストランのシーフードサラダとカニピラフ、紅茶。

「古い店なんですが、かまわないですか?」
 最寄り駅までかなり距離がある場所柄であったので最初から自分の足でお店を探すことは諦め、たまたま捕まえることができたタクシーの運転手さんにお勧めのお店まで案内して貰うことにした。
「それと、お客さんのように若い方むけの店でもないんですが」
 そう断りをいれながらも、運転手さんは一見のお店に案内をしてくれる。

 案内されたのは、外見からしてもかなり年季が入っているように見受けられるお店だった。
 中にはいってみると、店内は外見から予想をするよりもずっと広い。
 調度品や内装なども、全体に古い物が多そうであったが掃除などが行き届いており、不潔だったりあまり陰気な印象は受けなかった。
 半端な時間帯のせいかお客さんの入りはまばらで、そのほとんどが高齢者である。
 驚いたことに、店内の片隅には、ジュークボックスまで置いてあった。
 あれは、まだ使えるんでしょうか?
 と、それを見つけたタスッタさんは疑問に思う。
 たまたま古い映画かなにかで見かけたのを憶えていたのでそれがなんであるのかひと目でわかったのだが、タスッタさんとて、実物のジュークボックスを直に見るのはこれがはじめてのことである。
 タスッタさんは店員さんに案内されてテーブル席に着く。
 そしてメニューを開くがなぜかその内容に意識を集中することができず、お冷を持ってきた店員さんに声をかけ、
「こちらのお勧めはあるか?」
 といった意味のことを訊ねてみた。
「なんでもお勧めなのですが」
 店員さんは丁寧な口調で説明してくれる。
「パスタ類は、お客様のように若い方にはあまり評判がよくないようですね。
 味はいいのですが、若い方にとってはどうも量が少ないようでして」
 それでは、ということで、タスッタさんはメニューの中からパスタ類を避けて、シーフードサラダとカニピラフ、それに紅茶を注文した。
「紅茶は食前と食後、どちらにお持ちしますか?」
 と訊ねられたので、
「すぐに持って来てください」
 と返しておく。

 店内はお客さんたちの話し声で適度に騒がしかったが、その割にはどこか静かな雰囲気にも感じた。
 ほとんどのお客さんが高齢者であり、同席者にのみ聞こえるような、あまり大きくない声で会話しているからだろうか。
 どうやらこのお店は、周辺住民のおそらくは常連のお客さんたちに支えられているようなお店であるらしい。
 ほとんど車でしか来れないような立地からいっても、そうした固定客をある程度掴んでいないと長いことお店を存続できないでしょうしね、と、タスッタさんは推測をする。
 落ち着いた雰囲気では、あるんですけれどね。
 タスッタさんはなぜか複雑な心境になる。
 なんだか、入ってはいけない場所に誤って踏み込んでしまったような気分になっていた。

 まずの紅茶が運ばれて来る。
 紅茶はティーバッグなどではなく、茶葉が入ったポットとカップという形で出て来た。
 すぐに自分でカップの中に紅茶を注いでみると、予想した以上に鮮やかな香りと味を堪能することができた。
 ちゃんとしたお店なんだな、と、タスッタさんは一人で頷く。
 紅茶がこのクオリティだと、お料理の方もかなり期待ができそうだった。
 しばらく紅茶を堪能していると、今度は注文していたシーフードサラダとカニピラフがやって来る。
 見た感じ、シーフードサラダの方は普通というか、あまり特徴がないように見えたが、カニピラフの方はピラフの上にこれでもかとほぐしたカニの身が持ってあり、タスッタさんはメニューに記載されていた値段を思い浮かべ、
「これで採算が取れるんでしょうか?」
 とか、そんなことが心配になってしまった。

 そんな心配をしていても仕方がないので、タスッタさんはフォークを手にしてまずはシーフードサラダの方から試してみる。
 材料として使われている魚介類こそ新鮮だったものの、それ以外は普通だった。
 素材のおいしさを堪能できた、といういい方もできるであるが、ドレッシングの味などにこれといった特色がない。
 丁寧な味がしたからおそらくは業務用の物をそのまま使っているのではなく、自家製のドレッシングなのだと予想をするのだが、だからといって飛び抜けておいしいわけでもなく、あくまで家庭料理レベルにとどまる。
 そんな味なのだ。
 決しておいしくないというわけではないんですけれども、と、タスッタさんは微妙な気分になった。
 期待が多き過ぎたんですかね、と気を取り直して、タスッタさんは今度はカニピラフの方にスプーンを伸ばす。
 上に山盛りになっていたカニのほぐし身ごとスプーンでピラフを掬って、口の中に入れて、咀嚼をする。
 あ、ちゃんとしたピラフだ、と、タスッタさんは思った。
 チャーハンと区別がつかないようななんちゃってピラフではなく、しっかりとピラフの味がする。
 そして、なんといっても、カニ。
 これは。
 と、タスッタさんは思う。
 なんというか、カニという食べ物は、食べているとそれだけで幸せを感じますね。
 錯覚かも知れないけど、決して高級な食材だからというだけではなく、カニという食材自体にそれだけの魅力があるんですよ、などと、タスッタさんは心の中で誰にともなくそんなことを主張する。
 つまりは、直前に食べたシーフードサラダの凡庸さがどうでもよくなるくらい、おいしかった。
 このピラフだけではなく、サラダのドレッシングなんかも味つけは全般に薄味だったが、だからこそかえって素材の持ち味が出てくるわけですか、とか、タスッタさんは思う。
 薄味である理由は、お客さんの大半が高齢者であることも関係しているのかも知れない。
 客層に合わせて薄味にしていったのか、それとも、薄味の料理を出すようになって高齢者のお客さんが増えていったのか、原因と結果の関係まではわからなかったが。

 タスッタさんは、さりげなく店内の様子を見渡してから、こんなことを考えていた。
 長い間、地元の人たちに愛され、固定客に支持されて続けている。
 そして他の土地の人たちには、ほとんどその存在は知られていないまま、ひっそりと何十年も歴史を重ねている。
 そんなお店は、この日本にまだまだいくらでもあるんでしょうね。
 それを安定と見るべきのか、閉鎖的だと見るべきなのかは、判断が難しいところであったが。
 こうした眠ったようなお店も、間違いなく現在の日本社会を代表する一側面なのではないか、と、タスッタさんはそんなことを思った。
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