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腹ぺこエルフさん放浪記 作者:(=`ω´=)
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茨城県笠間市。真夏の貴婦人とエスプレッソ。

 じんわりと周囲の空気が湿気を含んで重くなっているこの日、タスッタさんはJR笠間駅の駅前ロータリーにいた。
 この日は、というよりここ数日ははるか南方の洋上で迷走している台風の影響か暑さはさほどでもなく、そのかわり天気が不安定で不意に雨が降ったりする。
 つまり梅雨が開けた途端に梅雨っぽい空模様となったわけだが、そうした日本の天候にもタスッタさんはぼちぼち馴染みつつあった。
 だからといって、この湿気が好きになることもないですけどね、とか、タスッタさん自身は思っているのだが。
 時刻は午後三時前、この日、移動の都合で昼食を早めにいただいていたタスッタさんは、ぼちぼちお腹が空いてきている。
 かといって、この半端な時間に本格的な食事を摂ることも考えておらず、なにか適当な軽食をいただけるお店はないかと周囲を見渡しはじめた。
 本音をいえば、空腹よりもこの夏特有の空気から逃れ、冷房が効いた場所へと一時的に退避したかっただけなのだが。
 するとすぐに、三角屋根のお洒落な外観の建物が目に入る。
 どうやら西洋風の建物をイメージしたらしい外観だったが、周囲にそんな建物は他になかったので、ひどく目立っている気がした。
 あれはどうやら、喫茶店か洋菓子屋さんでしょうか。
 そう見当をつけて、タスッタさんはそのお店へとむかう。

 店内に入るとすぐにショーケースを挟んで対峙しているお客さんと店員さんの姿が確認できた。
 ではこここは、持ち帰り専用の洋菓子屋なのか。
 がっかりして目線を横に流すとそちらにはしっかりとテーブル席が設えてあって談笑しているお客さんが何組か存在する。
 さり気なく様子をうかがってみると、セルフサービス式のイートインコーナーではなく、ちゃんとした喫茶店も兼ねたお店であるらしかった。
 内心でほっとしながらタスッタさんはその喫茶コーナーに移動し、空いている席を選んでそこに座る。
 すぐに接客の店員さんがやって来てタスッタさんの前におひやをおきメニューを手渡した。
 タスッタさんはすぐにメニューを開いて中身を確認する。

 うわっ、と、タスッタさんは心の中で小さな歓声をあげた。
 一品一品、写真でケーキなどが紹介されているメニューは実に色鮮やかであり、どれも美味しそうに見える。
 どうやらここは、地元で取れた材料を使うことに拘ったお店らしく、洋菓子ひとつひとつに「どこそこで取れたどういう素材を生かして」的な説明文が付されていた。
 それでいて、値段はかなりお手頃。
 たとえば都心のお店で同じような物を出すとしたら、この値段の二倍から三倍していてもおかしくはない。
 きっと地元の人たちに愛されているお店なのだろうな、とか思いつつ、タスッタさんはメニューを睨んでなにを頼むべきか、真剣に吟味をしはじめる。
 なにしろ、そこに載っている写真のどれもがおいしそうだった。

 少しの間悩んだ結果、タスッタさんは真夏の貴婦人とエスプレッソを頼むことにする。
「真夏の貴婦人」とは、このお店でオリジナルのケーキの名前で、メニューの説明によると地元産のメロンを丸ごと生かしたものであるらしい。
 エスプレッソは、タスッタさんはこれまで飲んだことがなかったのだが、こうした甘いものには苦味が強いものが合うだろうと思って頼んでみた。
「エスプレッソはデミカップ、こんなに小さなカップで出てきますがよろしいでしょうか?
 ドッピオにするとこの二倍の容量になりますが、いかがなさいますか?」
 接客の店員さんに手真似でカップの大きさを示され、確かにそれでは足りなさそうだったので、タスッタさんはそのドッピオというものにして貰う。

 やがてやってきた「真夏の貴婦人」は、その見た目からしてかなりおいしそうだった。
 鉾田産であるというメロン半分にしてくり抜き、それを器としてそのまま使い、メロンピューレを使ったババロアやミントゼリーが盛られて、さらにその上にメロンの果肉がそのまま被せられている。
 鉾田という土地がどこにあるのかタスッタさんは知らなかったが、メニューに書いてある説明文を信用するのならば、とにかくそういうことらしかった。
 とにかくその外観からしても、生のままのメロンをそのまま使用している感を強く感じる。
 実物を目の前にすると、メロンの果肉部分が鮮やかに輝いていて、いかにもうまそうだった。
 タスッタさんはおひやを一口飲んで喉を潤してからフォークを手に取り、まずは上に被せられている果肉部分を小さく切り分けて口にして見る。
 まぎれもなく、メロンそのものだった。
 甘味も強いが、しっとりとした食感が印象的で、これだけでもかなりおしいい。
 さらにもう一切れ果肉部分を食べたあと、タスッタさんは中にある白っぽいクリーム状の物体をフォークで掬って口に入れた。
 ふんわりとして甘くて、うん、これもメロンの味と香り。
 これが「メロンピューレを使ったババロア」になるのかな。
 ただこれだけだと甘味がくど過ぎる気もするので、やはり果肉の部分といっしょに食べるのがちょうどいいのかも知れない。
 この部分だけだと、ちょっと重たい感じの甘さになる。
 ミントゼリーも、この重めの甘さを緩和するのにちょうどいい爽やかさな感じで、うん、これは、総体としてみるとかなりバランスが取れたスイーツになるのではないか。
 しばらくフォークを忙しく動かしたあと、タスッタさんは一人でそう結論する。
 素材であるメロンの味と風味をとことん生かした上で、さらに独特のケーキとしての強い甘さを加え、だけど食べたあとに重さやくどさを一切残さない。
 それどころか、ミントゼリーやメロンそのものをそのまま食べることによって、かなり爽やかな印象も残る。
 これは、このお店でしか食べられないのでしょうね。
 そう思いつつ、タスッタさんはようやくその存在を思い出したかのようにエスプレッソのカップに手を伸ばし、その中身を一口口に含んで危うく吐き出しそうになる。
 苦い。
 いや、冷静に考えればそこまで、その場で吐き出したくなるほどには苦いわけではないのだが、この味を予測していないまま口にすると、かなり苦く感じる。
 コーヒーの苦味がぎゅっと凝縮されているような気がした。
 いや、でもこれも。
 タスッタさんは、今度は冷静に、エスプレッソが入ったカップを傾ける。
 香りは、かなりいいし、それに、口の中に残った甘味を灌ぐのには、これくらい苦い方くらいで、ちょうどいいのかも知れない。

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