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腹ぺこエルフさん放浪記 作者:(=`ω´=)
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20/97

東京都台東区。とんかつ屋のロースカツ定食。

 暑いな、と、タスッタさんは思う。
 噂に聞く梅雨入りにはまだ早いと思うのだが、ここのところ、数日ごとに雨が降ったり風が強かったり、今日のような快晴になったりと、不安定な天候が続いている。
 特に雨の前後の湿気の強い日には、タスッタさんも体調を崩しがちであった。
 タスッタさんの故国は一年を通してカラッとしていて湿気が少ない土地であったので、いきなり空気がじめつくとどうしても気が滅入ってしまいがちになる。
 その点今日は、暑いけども湿気はほとんど感じない、さらりとしたいい空気だった。
 すでに昼はかなり過ぎていたが、日はまだ高い。
 さて、今日はどこでお食事をしましょうかね、と、タスッタさんは周囲を見渡す。
 JR上野駅と御徒町の間にあるガードした。
 何ブロックか距離を置いたところに、あのアメ横商店街が存在する、そんな場所であった。
 場所柄か、平日の昼間だというのに、周囲には人通りも多いし、飲食店も多い。
 今回の場合、選択肢が多過ぎるのが悩みの種であった。

 さて、どこに入りましょうか、とか思いながら、タスッタさんは周辺をぶらついてみる。
 飲食店、特に飲み屋の看板が多いような気がする。
 この時間ではまだ開店していない店も多かったが、ランチタイムサービスとかで開けている店もあった。
 こうした場所のランチタイムとは、果たして何時から何時頃までが多いのでしょうかね、と、タスッタさんは思う。
 こういう寒暖の差が激しい暑い日には、なんかこう元気が出るものがいいですかね。
 寿司屋の看板を横目に、タスッタさんはそんなことを思う。
 そうですね、ひさしぶりにお肉をがっつりいただきましょうか。
 場所柄か、焼肉店や洋食屋なども多かったような気がする。
 しばらく歩いた結果、
「あ」
 と思う看板に行き会うことができた。
 そこには、
「ロースカツ」
 と書かれていた。

 幸い、そのお店にはすんなりと入ることができた。
 入ることはできたが、ほぼ満席。
 カウンターだけの小さなお店で、空いている席にタスッタさんは座る。
 そして、カウンターの上に置いてあったメニューを手にした。
 ここはとんかつの専門店ではあるが、とんかつ以外にエビフライやアジフライも注文できるらしい。
 ですが、まずはとんかつですね。
 と、タスッタさんは心のなかで決める。
 タスッタさんは弁当や定食のについてくるとんかつを食したことはあったが、こすいた専門店のとんかつはまだ未経験である。
 そのはじめての経験を大切にしたかった。
 いや、それ以上に、揚げ物は腹にたまる。
 あまり大量に食べられないだろう。
 となると、やはり的はとんかつ一本に絞るべきであろう。
 とんかつ定食とはいっても、いくつも種類があった。
 まずロースとヒレがあって、同じロースの中でも並と上で値段が違う。
 さて、このうちのどれを選ぶべきか。
 あまり真剣に考え込んだわけでもないのだが、しばらくしてタスッタさんはロースカツ定食の並を注文した。
 様子を見てみたところ、他のお客さんもヒレよりもロースの方を注文することが多かったようだし、それに、量的なことを考えてみても、うかつに上を注文して食べ残すようなことを避けたからだ。
 ロースカツ定食七百五十円。
 この値段が高いのか安いのか、相場を知らないタスッタさんには判断できなかった。

 カウンターの中はよく見えるのだが、どれがタスッタさんが注文した分なのかはよくわからない。
 意外にお客さんの回転が早く、次々に注文が入るからだ。
 次から次へと冷蔵庫から取り出したお肉に衣をつけて、フライヤーに入れていく。
 カウンターの中の店員さんは手慣れた様子で、どのタイミングでお肉を返し、引きあげるべきか完全に把握しているようだった。
 動きに遅滞というものがまるでない。
 中の様子をしばらく眺めているうちに、すぐにタスッタさんの前にお皿が差し出される。
 とんかつと、それに山盛りの千切りキャベツ。
 続けてすぐに、ご飯とお味噌汁も伝票とともに差し出された。
 タスッタさんはそれ受け取り、カウンターの自分の前に置き直す。
 うん、これがロースカツ定食か。
 と、心の中でそう思う。
 外見的には、これまでタスッタさんが食してきたことがある専門店外のとんかつと大差がない。
 タスッタさんはカウンターに出ていた調味料の中からソースに手を伸ばし、その中身をいい色にあがったロースカツの上にだばーっとかける。
 もともとあまり上品な食べ物ではないわけだかから、ソースも潤沢にかけるべきだとタスッタさんは思う。
 気持ち、多すぎるぐらい。
 ダボダボ気味に。
 それから、辛子が入った小瓶を手に取り、黄色い中身を皿の隅に置いた。
 それから割り箸に手を伸ばして、割ってからまずはお味噌汁に口をつける。
 あ、しじみだ。
 と、すぐにわかった。
 独特の風味を味わいながら、今度はこの定食のメインであるロースカツに箸を伸ばす。
 カラッと揚がっていいて、それでいてまるで油っこくない、薄い衣と、その中でちょうといい感じに火が通っているロース。
 その衣にかかっているソースの濃い目の味。
 一口歯を通すたびにじわりと中から滲んでくるお肉の脂。
 その脂も、まるでしつこくないし重くもない。
 うん。
 と、タスッタさんは思う。
 これは、文句のつけようがない。
 正直、揚げたてのロースカツがここまでおいしいものとは思わなかった。
 日本中、どこにいってもとんかつ屋があるのも納得ができる。
 これは、かなり立派なお料理なのではないか。
 そんなことを思いつつ、タスッタさんはご飯を一口いただく。
 この手のお店でありがちなように、このお店でもご飯の盛りはかなりよかったわけだが、だからといって質を落としているわけでもない。
 いや、むしろ。
 おいしい。
 と、タスッタさんは思う。
 この頃になると、タスッタさんも褒めのめしの良し悪しにかなり敏感になっていた。
 別に高級な銘柄を使わなければならないというわけでもないのだが、適切な炊き方をしたお米とそうではないお米とでは歴然とした差がある。
 この味は、おそらくは炊きあげてからさほど時間が経っていない味だった。
 それはともかく、たまたま入ったお店のご飯が思いもがけずおいしいと、タスッタさんはなんだか得をしたような気分になる。
 続けてタスッタさんはしじみのお味噌汁に口をつける。
 口の中にあった油脂分を洗い流してくれるようで、かなりいい塩梅だった。
 ああ、これは。
 と、タスッタさんは思う。
 箸が止まらないかもしれない。
 今度は、ソースまみれのロースカツに少し辛子を乗せてみた。
 つんとくる刺激は、すぐにソースの濃い味に洗い流されていく。
 これはこれで、目先が変わっていいのかも。
 などと思いながら、タスッタさんはつけ合せの千切りキャベツに箸を伸ばす。
 シャキシャキ。
 サラダ単品で来たとはともかく、この定食の中ではキャベツにはなにもかけない方がいいかな、と、そんなことを思った。
 濃い味のドレッシングなんかいらない。
 せいぜい、塩をふるくらいでいい。
 ロースカツが重いから、こっちのキャベツの方には余計な味をつけず、そのまま口直しとして役割をしっかりと果たしてもらいたかった。
 ロースカツ、キャベツ、しじみの味噌汁、ご飯。
 タスッタさんはそれらの料理に順番に箸をつけて、自分でも驚くほどのペースで完食してしまう。
 かなり重たい料理であったはずなのに、箸が止まることはなかった。

 最後にお茶をいただきながら、これなら、アジフライかエビフライを一品追加してもよかったかな、などと、そんなことを思っている。
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